綺麗な剣八   作:NANSAN

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37 修行

 虚圏に残された浦原、織姫、チャドは一護が行方不明になったことを知ってすぐに捜索し始めた。だが調べれば調べるほどに状況の悪さが浮き出てくる。珍しく浦原は歯切れが悪かった。

 

 

「すみません。完全に見失ってしまって」

 

 

 浦原は通信機を片手に、もう片方の手でパソコンのような機器を動かす。それによって一護が消えた黒腔(ガルガンダ)の中を解析していた。

 何としてでも見つけ出す。

 その想いを胸に必死で手を動かしていた。

 

 

「ボクは何とか黒崎さんを探してみます。だから夜一さんはボクが解析した卍解を奪う敵の能力についてのデータを涅さんに届けてください」

 

 

 一護が虚圏で戦った滅却師、キルゲ・オピーはメダルのようなもので一護の卍解を奪おうとしていた。失敗していたようだが、尸魂界の戦いでは山本元柳斎を含む五名が卍解を奪われている。それを取り戻す方法は絶対に必要だ。

 しかし浦原は行方不明となった一護を最優先で探す必要がある。

 

 

「え? 一心サンですか? まだ伝えて……一心サンが消えた!? 夏梨サンと遊子サンもですか!? 分かりました。すぐに捜索します。状況からして滅却師に誘拐されたってトコでしょう。そうなると黒崎サンは人質で従わされる可能性も」

 

 

 天才浦原は電話先から寄せられた夜一の報告を正確に分析し、正しい答えを導き出す。またそれが可能なのは黒崎一護の出生の秘密について知っていたからだ。滅却師の力を宿すことから、接触される可能性は予測していた。

 

 

「ボクたちで黒崎サンの居場所を突き止めて救出します。夜一サンは例のものを持って尸魂界へ向かってください」

 

 

 そう語る浦原の背後に二つの影が現れる。

 一つは浅黒い巨漢、茶渡泰虎。

 もう一人は特徴的なヘアピンを付けた少女、井上織姫。

 

 

「行きましょう、チャドさん、井上さん」

「うむ」

「浦原さん、黒崎君の居場所が分かったんですか?」

「大丈夫ですよ。アタシに任せてください」

 

 

 パタン、と二つ折りの機器を閉じる。

 

 

「それにアタシたちには協力者もできました。最高のね」

 

 

 そして浦原が目を向けた先には二体の破面(アランカル)がいた。

 顔の大きな仮面紋(エスティグマ)と肉感的な身体が特徴的なネリエル・トゥ・オーデルシュヴァング。そして鋭い目と牙のような仮面のグリムジョー・ジャガージャック。

 ネリエルは一護への恩を含め特別な感情から。

 グリムジョーは宿敵である一護を自分以外が倒すことを面白くないと感じたから。

 五人は一護のため、動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)は白に統一された世界である。

 滅却師たちが暮らすこの世界の中心には巨大な城があった。銀架城(ジルバーン)と呼ばれる皇帝ユーハバッハの居城にして、星十字騎士団(シュテルンリッター)の本拠地である。

 その一室にて、五人の少女が姦しく騒いでいた。

 

 

「ぎゃああああああああ!?」

 

 

 真っ二つに切り裂かれた男の悲鳴をBGMにしながら。

 そしてこれを実行した下手人、バンビエッタ・バスターバインは小さく溜息を吐く。

 

 

「あらら。バンビちゃんご機嫌斜めだね~」

「ったく……汚してんじゃねぇよクソビッチ」

 

 

 アホ毛が特徴的なジゼル・ジュエル、そして小柄な少女リルトット・ランパードが血塗れの部屋に辟易する。またあざとく唇に指を当てつつ、ミニーニャ・マカロンが諫めた。

 

 

「やっぱり真っ二つはいけないと思うの。部屋のお掃除が大変だから」

「そうじゃねぇだろ! ムカつくとイケメン殺す癖をどうにかしろ! お蔭であたしの目に適うイケメンがいなくなっちまうじゃねぇか」

「こっちもビッチかよ」

「キャンディちゃんおこだね~」

「うるせぇ!」

 

 

 残る一人キャンディス・キャットニップは怒りを露わにする。

 男漁りが趣味の彼女にとって、冗談で流されてよい話ではない。

 バンビエッタはストレスが溜まると男を残酷に殺す趣味があり、その度に滅却師の男が犠牲となっている。普通なら咎められるべきことだが、騎士団(リッター)はそれが許されるだけの権力を保持している。どれだけ横暴に振る舞っても、知らぬふりをしてもらえる。

 

 

「つかよぉ。陛下が改めて騎士団呼び集めてんだろ? 今さら何すんだよ」

「やっぱり次の侵攻の話だと思うの」

「今更そんなことする?」

「やっぱりアレじゃねぇか? 更木剣八が騎士団(リッター)の三分の一をぶち殺したってアレだ」

「バケモンかよ!?」

「マスキュリンやニャンゾルのヤローも殺られたって話だぜ」

 

 

 その情報を出したのはリルトットだ。

 彼女は五人の中で一番慎重な性格をしており、生き残るために必要な情報はしっかり集めている。また情報(ダーテン)も読み込んでいる方だ。

 リルトットが提供した情報に驚いたのはキャンディスである。

 

 

「はぁ!? あの殺しきれねぇ奴らをぶっ殺したのかよ!? 更木剣八って物理攻撃しかしねぇ脳筋野郎じゃねぇのか?」

「奴の情報(ダーテン)を読んでねぇのかよ。更木剣八は特殊能力を全部封じるらしいぜ。この中じゃ俺とミニーの能力しか通用しねぇ。奴が物理攻撃しか使わない代わりに、俺たちも物理攻撃しかできねぇんだよ。それに奴が鬼道を使った例もある。物理攻撃しかできないってわけじゃねェ」

「はぁ? ばっかじゃねぇの!?」

 

 

 なんだそのインチキは。

 誰もがそう思った。

 だがリルトットは次々と証拠を並べていく。

 

 

「バズビーの全力をまともに喰らってもピンピンしていたらしいぜ。あとは陛下に化けたロイドの野郎を一方的に殺したり、マスキュリンと殴り合って勝ったり――」

 

 

 聞けば聞くほど倒すのが不可能に思えてくる。

 そもそもパワーでごり押してくる相手には搦め手や特殊能力で嵌め殺しにするのが定石だ。だが更木剣八はそれを正面から拒絶し、殴り合いを強要してくるのだ。すなわち、同じ圧倒的暴力によってでしか倒すことができない。

 

 

「勝てるとしたらグレミィか親衛隊の奴らだけだろうぜ」

 

 

 リルトットはそう、締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 瀞霊廷では次なる滅却師の侵攻に備えて、それぞれが準備に勤しんでいた。その内の一人、砕蜂は単独で寂れた場所へと赴き、その身体に霊力を纏わせる。

 風と一つになるように。

 呼吸を整え、鬼道を身体に纏わせる。

 

 

(卍解をなしに戦うためにはこれしかない)

 

 

 瞬閧。

 それは鬼道を纏い、白打によって叩き込む最高戦闘術である。練り込む鬼道によってその性質は変化するのだが、砕蜂の場合は風系統の鬼道を利用していた。

 彼女の体を中心として渦が巻き、風が集まっていく。

 

 

(短期間で極める。必ず)

 

 

 卍解を奪われたからと言って悲観する必要はない。

 そもそも砕蜂は隠密機動らしくないからという理由で自身の卍解をそこまで好んでいないのだ。寧ろ自身の強みを生かすならば始解の方が強い。

 砕蜂は鍛練を続けた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 忘れがちだが、尸魂界は霊魂の世界である。

 だが何者でも死後の世界を謳歌できるわけではない。生前に罪を犯した者は相応の償いをさせられることになる。その一つとして、畜生道へと堕とされた一族がある。

 狛村左陣もその一族の一人であった。

 故に彼は犬の姿となっているのだ。

 

 

「何用で戻ってきた……左陣や」

 

 

 深い洞窟の奥で、巨大な老犬が横たわっていた。

 その前に座し、両手をついた狛村は深く頭を下げる。

 

 

「一族の秘儀を授かりに」

 

 

 彼らの一族は罪人。

 その罪故に罰を受けている。

 異形へと身を堕とし、隠れ住む彼らの中で狛村だけが違った。彼は護廷十三隊として人前に出て、しかも隊長まで務めている。

 ある意味で裏切り者なのである。

 

 

「帰れ……」

「大爺様。確かに儂は一族を裏切りました。しかしだからこそ、儂は護廷の名に傷をつける訳にはいかぬのです!」

「我が一族と死神に何の関係がある」

「儂は隠れ住み、逃げ続けることを良しとは思いませぬ」

 

 

 復讐のために死神となった友、東仙との戦いは狛村も考えさせられた。

 戦いは一つ間違えば正義を失い暴力となる。

 そして正義とは視点によって変化し得る。

 滅却師を滅ぼそうとしたのは死神で、今は反撃を受けているに過ぎない。魂魄バランスを重要視した死神も、生きるために戦う滅却師も間違ってはいないのだろう。

 だが、それでも狛村の心は護廷十三隊に。

 山本元柳斎重國へとあった。

 

 

「儂には命を捨ててでもなさねばならぬことがあるのです! 一族の未来のために!」

「何が未来か。一族を捨てたお主が何を喚く」

「大爺様!」

 

 

 狛村は吼える。

 

 

「今ここで負ければ未来はありませぬ。ただの畜生となり果てようと儂は――」

 

 

 狛村はこの一戦のため、全てを捧げる覚悟をした。

 その覚悟が伝わったからか。

 あるいは何かの策略か。

 大爺と呼ばれた犬畜生は視線を下に落とした。

 

 

「心の臓を捧げよ。今、ここで」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 卍解を失った日番谷冬獅郎は未熟な自分を補うため、基本戦闘能力を高めることに重点を置いた。彼の斬魄刀・氷輪丸は氷を生み出して操るという単純なもの。始解と卍解では能力的な差はほとんどない。ただ威力が変化するのみである。

 だからこそ、始解でも戦えるようにと考えた。

 

 

「更木、どうか俺に剣術を教えてくれ」

「珍しい来客だと思えばあなたでしたか。して、その理由は……聞くまでもありませんね」

「ああ。護廷十三隊に更木以上の使い手はいねぇからな」

「そんなこともないのですが……」

 

 

 剣八は思案する。

 純粋な剣の腕だけを考えるなら、剣八よりも相応しい相手がいる。しかしその相手から剣を教わるということがどういうことか分からないわけではない。

 

 

(間違いなく殺し合いに発展。生き残れば御の字、という教え方になるでしょうね)

 

 

 流石に冬獅郎がそれに耐えられるとは思えない。

 あるいは天才の面目躍如で才能を開花させるかもしれないが、賭けになる。また滅却師への備えなので身体が壊れてしまっては意味がない。

 

 

「仕方ありませんね。では場所を総隊長に頼んでみましょう」

「感謝する」

 

 

 冬獅郎は後にこの時の判断を後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 




冬獅郎、おま……なんてことを……
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