綺麗な剣八   作:NANSAN

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38 優しい剣八

 銀架城(ジルバーン)の広間に集められた騎士団(リッター)たちは、大きく減ったメンバーに戸惑いを見せていた。およそ三分の一が消えており、その中には上位の実力者だった者もいる。本当に死神に勝てるのかという不安があった。

 そして何より、皇帝ユーハバッハの側に控える見知らぬ二人に戸惑っていた。

 

 

「私がお前たちを集めたのはほかでもない。次期皇帝を指名するためだ」

 

 

 ユーハバッハの言葉に滅却師たちは動揺を露わにした。

 千年前より皇帝は変わらずユーハバッハであった。ずっと彼に付いてきた。そして今、尸魂界に対して戦争を仕掛けたのだ。しかしこのタイミングで次期皇帝を指名するという。

 まさかユーハバッハは死を覚悟しているのか。

 それともただの保険か。

 また次の皇帝は誰なのか。

 様々な思惑があった。

 

 

「私は次の皇帝に……この石田雨竜を指名する」

 

 

 そんな馬鹿な、という思いが騎士団の間にあった。

 石田雨竜は現代に残る最後の滅却師だ。それは周知の事実である。彼の祖父である石田宗弦は騎士団に所属していた時期があったものの、雨竜についてはぽっと出の部外者にも等しい。それがいきなり次期皇帝というのは納得のいかないものであった。

 更にユーハバッハは驚くべきことを口にする。

 

 

「また我らの新しき同胞、黒崎一護を親衛隊に加える」

 

 

 白に統一された星十字騎士団(シュテルンリッター)の中では異質とも言えるほど黒く染まった男、黒崎一護。彼が騎士団の中でも最上位の実力者が揃う親衛隊に加えられるという。

 納得がいかないという思いが騎士団の中で強まる。

 どうでもいいと考えている者や、ユーハバッハを盲目的に信仰する者を除いて、誰もが二人の新しい滅却師を認めていなかった。

 

 

「待ってくれ陛下!」

 

 

 中でも特にユーハバッハに対して反発的な男、バズビーが声を荒げる。

 

 

「百歩譲ってその眼鏡の野郎が次期皇帝だってのはいい。だが黒崎一護っていや、特記戦力の死神じゃなかったのかよ!」

 

 

 それは誰もが思ったことであった。

 どうして特記戦力として警戒を命じられていたはずの黒崎一護が滅却師となり、親衛隊に加えられるというのか。理解が及ばなくて当然だった。

 だがユーハバッハに詰め寄ろうとするバズビーを、ハッシュヴァルトが止める。

 

 

「やめろバズビー。陛下の決定だ」

「ユーゴー! てめぇもだ。こんなことが納得できるってのかよ!」

「言ったはずだ。陛下の決定だと」

 

 

 騎士団最高位(グランドマスター)としてハッシュヴァルトは騎士団を統制する必要がある。そのためならばかつての友たるバズビーにも容赦をするつもりがなかった。

 緊張が高まる中、ユーハバッハが告げる。

 

 

「決定に変更はない。それぞれ次の侵攻に備えよ」

 

 

 釈然としない。

 不和や疑念が渦巻く中、ユーハバッハは退場した。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 零番隊が霊王宮へと帰っていった後、更木剣八と山本元柳斎は中央四十六室へと呼び出されていた。

 その理由は簡単である。

 更木剣八の封を勝手に解いたからだ。必要なことだったとはいえ、四十六室の許可なく解いてはならないと言われた封を解き、更には始解まで認めた。それは護廷十三隊総隊長の責任として問われることになった。

 

 

「賊に好き勝手された挙句、更木剣八の封を解くとは。何か申し開きはあるのだろうな?」

 

 

 新しい四十六室はぬけぬけとそう問い詰める。

 実際の戦場を見ていないからこそ、彼らはそのようなことを言えるのだろう。護廷十三隊が受けた被害を数字で見ているからこそ、ただ不甲斐ないと考えていたのだ。

 これに対し元柳斎は心の内に怒りを覚える。

 しかしそれを表に出すことはない。余計な口を開けば彼らによる理不尽な裁定が下されるだけ。故に淡々と返答した。

 

 

「彼奴等は強大にして我らの卍解を奪う術を手に入れておりますれば、始解にして卍解にも匹敵する更木隊長の力を使うのは当然でしょう。本来であれば四十六室に奏上しなければならぬこと。しかし緊急事態と判断し、儂の判断で解くように言いました。責任は儂にこそあれ、更木隊長には寛大なご裁定を」

「それは我らが判断すること」

 

 

 まるで取り合わず、四十六室は議論を始めた。

 更木剣八を無間に封印せよ。

 禁を破ったのだからすぐに処刑せよ。

 霊圧を剥奪して現世に追放せよ。

 そんな身勝手なことばかりを言い始める。

 だからこそ、元柳斎は彼らを動揺させる一言を言い放った。

 

 

「彼奴らは儂の卍解を奪いました。それがどういうことか、分からないわけではありますまい」

 

 

 最強の死神の最強の卍解が奪われた。

 その意味が分からないはずがない。一応は尸魂界の賢者ということになっている彼らだ。権力に溺れる彼らも山本元柳斎の卍解については知っていた。かつて尸魂界を焼き尽くし、地獄へと変えた卍解が奪われたという事実が彼らを青ざめさせる。

 

 

「何ということをしてくれたのだ!」

「護廷十三隊の総隊長とあろう者が何という……」

「しかしこうなっては更木剣八なしでは」

「だが危険ではないか?」

 

 

 剣八本人を前にして酷い言いざまである。

 それだけ中央四十六室が好き勝手なことをしているということだが、聞くに堪えない醜さだ。保身と権力の独占だけを考える老害そのもの陰で言われても仕方ないほどに。

 流石に剣八も気分が良いものではなかったのか、口を出した。

 

 

「私が疎ましく、恐ろしいですか?」

 

 

 その直球じみた問いかけに四十六室は黙り込む。

 剣八は特に霊圧を発しているわけではなかったが、それでも凄みがあった。緊張のせいか唇が渇き、全身から汗が流れるほどに。

 

 

「これでも私は先の戦いで十人以上の幹部と思しき滅却師を撃破しています。充分に忠誠を示したと思っていたのですが、まだ足りないようですね」

 

 

 彼女は誰よりも戦果を挙げ、尸魂界のために戦ってきた。

 藍染の乱でも、先の戦いでも。

 称賛こそすれ、裏切りの可能性を目の前で話されるなど論外である。流石の剣八も少々怒っていた。しかし喚き散らし、罵倒を浴びせるなど美しくない。綺麗な剣八が取った手段は単純明快。

 

 

「ならば次の侵攻でも滅却師を討ち取ってみせましょう。十人でも、二十人でも、そしてユーハバッハも」

 

 

 敵を殺す。

 剣八という名の通り、その身が粉砕されようとも敵を殺し尽くす。剣に生きて、剣で殺す。それを体現するのである。

 

 

「それで問題ありませんね?」

 

 

 そこまで言われると、流石の四十六室も首を縦に振るしかなかった。

 とてもではないが『ダメ』といえる雰囲気ではなかった。

 

 

「あと一つ、お願いがあるのですが」

 

 

 日番谷冬獅郎の鍛練のため、無間の使用許可を。

 剣八の圧に押されたのか、普段ならば許可されないはずの願いに許可が下りた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 無間とは瀞霊廷における牢獄である。

 たとえばここには藍染惣右介も封じられているし、いつの間にか脱獄していた痣城双也もここに戻ってきている。無尽蔵の広さを持つ地獄のようなこの場所に、日番谷冬獅郎は初めて訪れた。

 

 

「感謝するぜ更木」

「ええ。ですがこれは遊びではありません。覚悟はできましたか?」

「そんなもん、ハナからできている」

「いい返事です」

 

 

 何もないこの空間にいるのは三人だけ。

 剣八、冬獅郎、そして卯ノ花である。卯ノ花については治療要員として連れてきた。剣八が頼んだ結果、快く引き受けたのである。

 

 

「さて、時間もありませんので少々荒っぽくいきましょうか」

「ああ、望むところだ」

 

 

 二人は剣を抜く。

 そして次の瞬間、冬獅郎は貫かれていた。

 

 

「え……?」

 

 

 唖然とする冬獅郎から刃が抜かれ、血が噴き出た。

 

 

「鍛練だからと気を抜いていると死にますよ?」

「ぐっ……」

「ほら、その程度で足を止めない」

「がああっ!?」

 

 

 今度は袈裟切りにされ、冬獅郎は仰向けに倒れる。

 同じ隊長格であるはずなのに、手も足も出ない。まるで藍染と戦った時のようだった。あの戦い以降、冬獅郎はより強大な敵に立ち向かえるよう修練を積んできた。特に未熟な卍解を使いこなすために修行を続けていた。

 天才の面目躍如ということもあり、見違えるほど強くなったはずであった。

 だが、更木剣八には及ばない。

 人の天才を易々と凌駕するのが化け物なのだから。

 

 

「治します」

「はい、お願いします」

 

 

 倒れた冬獅郎は卯ノ花の回道によって治癒され始める。流石に腕が良く、致命的な傷だった冬獅郎はすぐに回復した。

 冬獅郎は自分の傷を確かめ、治ったことを確認する。

 そして甘かった自分を認識して表情を変えた。

 

 

「目つきが変わりましたね」

「ああ。真剣に稽古してもらっているのに悪かった」

「では次は腑抜けた戦いをしないことです」

「分かっている。蒼天に坐せ、氷輪丸!」

 

 

 強い冷気が発せられ、氷の竜が具現化する。

 そして大量の氷と冷水が剣八へと押し寄せた。しかし剣八はただ霊圧を込めて剣を振り下ろす。たったそれだけで氷は砕かれた。

 

 

「日番谷隊長。まずは私を始解させてみなさい」

 

 

 先の戦いで眼帯と首輪の封を焼き切ってしまったので、今の剣八は本気を出せる状態だ。その剣八は始解をなくして並の隊長を凌駕する実力を誇る。それこそ、未熟な隊長である冬獅郎などまるで及ばないほどの力だ。

 際限なく上昇していく剣八の霊圧を前にして、冬獅郎は冷や汗を流した。

 

 

「お、おおおおお!」

 

 

 勇ましく斬りかかる冬獅郎に対し、剣八はまず受けに回った。大量の氷と共に振り下ろされる斬撃に対し、彼女は軽く刀を振るう。それだけで氷は砕かれ、冬獅郎の両腕は上に持っていかれた。あまりに力の差があり過ぎて勝負になっていない。

 軽く浮いてしまった冬獅郎は踏ん張ることができず、剣八の蹴りによって吹き飛ばされてしまう。

 転がった冬獅郎はすぐに受け身を取って立ち上がるが、目を上げると刀を振り下ろそうとする剣八がいた。慌てて転がりつつ回避するも、叩きつけられた剣から生じる衝撃によってまた吹き飛ばされる。

 

 

「ぐっ……ここまで差があるのかよ」

 

 

 冬獅郎は自分が未熟者の隊長だと理解している。

 就任して二十年は経つので全くの初心者というわけではないが、新参者であることは確かだ。だが、最強と名高い十一代目剣八に対して多少は食らいつけると自負していた。

 それがこのざまだ。

 手も足も出ず、自分は無様に転がるのみ。

 

 

(くそ、卍解さえ……)

 

 

 その言葉が脳裏を過り、すぐに否定する。

 

 

(違うだろ! その卍解がなくても戦えるように俺は更木に頼んだ! ここで折れるわけにはいかねぇ。力を貸してくれ、氷輪丸)

 

 

 冬獅郎を中心に冷気が広がり、地面が凍結していく。

 氷雪系最強と言われるだけのことはあり、その影響力は計り知れない。極めれば流刃若火にも匹敵するであろう氷輪丸の影響が環境にまで滲みだしていた。

 だが、それに対して剣八はただ霊圧を高めることで対抗する。

 今の剣八は身に余るほどの霊力を宿している。故にそれを解放し、霊圧として解き放つだけで周囲の霊子結合を焼き尽くしてしまう。絶大な霊圧によって世界を滅却してしまう。

 氷輪丸が放つ冷気と氷は剣八の霊圧を前に砕かれ、冬獅郎は目を見開いて膝をついた。

 

 

「がっ……は……」

 

 

 呼吸すらできない。

 強すぎる霊圧のせいで身体が軋む。

 

 

「基本的なことから始めましょうか」

 

 

 蹲って動けない冬獅郎に対し、剣八は優しく告げた。

 

 

「まずは歩けるようになりましょう」

 

 

 更木剣八に鍛練を頼んだことを後悔した冬獅郎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さすが剣ちゃん。ちょー優しい。すぐ殺さないなんて女神かな?

剣八+卯ノ花さん。
これは最高効率の修行なのでは?
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