「凄いね。グエナエルさんを瞬殺なんて」
そう言葉を発してグレミィ・トゥミューは現われた。
最強の死神、更木剣八の前に。
「あなたは?」
「僕は
「”V”? それは先程の男の文字だと思いますが」
「僕の能力は想像を現実にする。グエナエルさんも僕の想像で生み出した存在なんだよ」
思えばそれが現実になる。
あまりにも凶悪で信じがたい能力だ。それでは完全に藍染の上位互換である。彼は鏡花水月によって五感を錯覚させることができたが、あくまでも幻影でしかなかった。藍染のイメージ通りの幻想を見せる能力だったのである。しかしグレミィはイメージを現実にしてしまう。
「なるほど」
剣八はそう告げた。
次の瞬間、グレミィの首を刎ねていた。
しかしグレミィの首と体はスッと消えてしまい、別の場所で再構築される。
「厄介な能力ですね」
「先に言っておくよ。僕はこの戦いで指の一本も使わない。頭の中だけで君を殺してみせるよ」
その言葉を証明するかのように、グレミィはポケットに両手を突っ込んだままである。剣八という最強の剣士を前にしてこの余裕。よほど自信があるのだろう。
その隙だらけな姿を逃すはずもなく、剣八はグレミィを細切れにする。
だがやはり別の場所で彼の姿が再構築された。
「何をしたのですか?」
「君に殺されなかった姿を想像した。それだけさ。こんなこともできるよ」
想像によって無数の重機関銃が周囲を取り囲む。それらは近代兵器であり、尸魂界には存在しないものだ。一斉掃射される弾丸は何も知らぬ剣八を蜂の巣にするだろうと思われた。
だが、銃の概念は先程ロバート・アキュトロンと戦ったことで理解していた。高速で質量体を射出する武器であることは知っていたので、全て霊圧で弾き返す。剣八ほどの霊圧になれば、重機関銃の掃射ですらダメージにならない。彼女の霊圧を突破することができない。
彼女は銃弾を無視してグレミィへと斬りかかる。
しかし今度は刃が体表で止まってしまった。まるで鋼鉄でも斬っているかのように。
「凄いね。銃弾の雨の中を涼しい顔で移動できるなんて。でも無駄だよ。僕は自分の身体が鋼鉄だって想像し――ぐっ!?」
得意げに説明していたグレミィはあっさりと斬られる。
これには思わず笑みを消してしまった。
「な、に……?」
「鉄くらい斬れます。初めからそれくらい硬いと分かっていれば、そのつもりで斬れば良いのです」
「……」
「何ですかその顔は? この私に、剣八に斬れないものがあると思ったのですか? 残念ですが、あなたの貧相な想像程度で私に斬れないものは創れませんよ」
「……面白い!」
傷の治っている自分を想像したグレミィは、その場から飛び下がる。そして広がるマグマ地帯を創造した。攻撃が防げないなら、こちらが攻撃し続ければいいという結論である。実に合理的で、正しい判断だ。剣八を相手に防戦など、死を待つのみである。
しかし剣八は地面を切り裂いて地割れを引き起こし、岩場の破片を作って足場とし、グレミィへと迫る。
ならばとグレミィは巨大な水球を創り出して剣八を閉じ込めた。
更には割られた地面を利用して、そのまま水球ごと剣八を沈めてしまう。その後の想像によって割れた地面は元に戻された。
「そのまま窒息して――」
「無駄です」
あっという間に地面を切り裂いて剣八は脱出した。地面から飛び出した斬撃の余波でグレミィは片腕を吹き飛ばされる。
片腕を押さえるグレミィの前に降り立った剣八は、涼しい顔で告げた。
「最強の滅却師、グレミィ・トゥミュー。私を楽しませてみなさい」
「楽、しむ?」
「私は最強の死神、剣八。そしてあなたは最強の滅却師。この世に最強は二つも要りません。この私こそが最強であることを証明しましょう。抗いなさい。全力を振るいなさい」
ここから剣八の猛攻は始まった。
剣を振るえば地面が捲れ、瞬歩はグレミィでも捉えきれず、その首を掴んで地面に投げつければ周囲の建造物は崩壊する。まさに一方的であった。
とはいえグレミィも想像を具現化する無敵性により、全ての傷も、自身の死もなかったことになる。常に万全の自分自身を創造し続けることで死すらも超越する。
(この女は……何を言っているんだ? 最強を証明する? 僕を倒して? 今までそんなことをする奴なんて一人もいなかった。僕が一番強いことなんて分かりきっていたんだから、僕にもその必要はなかった。最強は僕だって、分かりきっていた)
嵐が起き、雷が落ち、マグマが噴き出て、吹雪が舞う。
地形も天候も操って剣八を殺そうとするが、その全てを刀一本で切り伏せる。まさに圧倒的な力だ。普通なら百回は殺せる攻撃を、剣八という女は刀だけで斬っていた。寧ろその攻撃をグレミィにまで届かせていたほどだ。
(誰かを戦い潰したいなんて思ったことはない。人間が虫を潰すのに理由なんていらない。邪魔だったら潰す。それだけだった。でも……どうして僕はこんなに! こいつを! 叩き潰したいと思っているんだ!)
激しい感情の発露が想像を強化する。
欲が想像を膨らませ、グレミィの攻撃は一層激しくなった。
霊圧が極端に増大し、彼の背には触手のように蠢く不定形な翼が、フードの脱げた頭部には星型の輪が浮かび上がる。
「君は全力で殺すに値する! いいだろう! 認めるよ!
「死ね!」
もっとも単純な想像をする。
それは剣八が死んでいるという想像だ。本来ならば霊圧の強い存在に対して死を押し付けることは難しい。だが完聖体を発動すれば話は別だ。これを発動すれば霊力を持たない弱い存在だけでなく、死神ですら思うだけで殺せる。
剣八はその場で蹲り、血を吐いた。
「凄いね。その程度で抑え込むなんて」
「なるほど。私に直接干渉しましたか。呑め」
剣八は対抗策として始解する。
斬魄刀は巨大化し、大太刀に変形した。彼女は力いっぱい、それをグレミィへと振るう。
「野晒!」
咄嗟にグレミィは巨大な鉄塊を想像した。それを盾にしたのだ。しかし野晒の一撃は容易く鉄塊を砕き、その破片がグレミィへと注がれた。そこでグレミィはタングステンの肉体を想像し、更に霊圧で強化して耐えてしまう。
更には想像により自分を増殖させた。
まずは二人。
続けて四人、八人、十六人、三十二人、六十四人。次々と分裂させ、合計で百二十八人のグレミィがその場に生まれた。
『分身すれば単純に想像力は倍増! 今の僕には百二十八倍の想像力がある! これで死ね!』
彼が想像したのは宇宙空間。
その中でも物理現象の限界といわれるブラックホールだ。無重力、真空、超重力という生命体の限界を超越した領域に剣八を飲み込み、空間を塞ぐことで閉じ込めた。
誰も見たことのないものを想像だけで具現化するのは相当な負担だったのだろう。
「はぁ! はぁ! これで!」
一人に戻ったグレミィは塞いだ空間を見上げる。
確実に殺した。
絶対に生還不可能な空間を創り出し、閉じ込めた。空間を飛び越える術を持たない限り、脱出することすら不可能だろう。そもそも一秒も生存していられない。
だが不安が尽きない。
「その程度ですか?」
空間が砕け散った。
そこから眼帯の外れた剣八が現れる。彼女は制限を剥ぎ取り、その霊圧を込めたただの斬撃によって空間すら引き裂いてみせた。霊子結合すら焼き切る力があってこそのごり押しである。
これには思わずグレミィも額から汗を流す。
「……化け物め」
そう言いながらもどこか嬉しそうであった。
ようやく対等に戦える。自分と同じステージに立てる奴がいる。この事実だけでグレミィは充分なほどに歓喜していた。あとは剣八を殺し、再び最強を証明すれば良い。
(落ち着け僕。よく見れば奴は消耗している。負ける姿を想像するな。僕は強い。僕は最強だ)
ブラックホールすら引き裂き空間を砕いた剣八だが、無傷というわけではない。確かに消耗し、特に体内にダメージを追っている。
グレミィの能力は最強だが、そこには欠点も存在する。それはマイナスイメージすら現実にしてしまうということだ。彼自身が負けを想像すれば、負けてしまう。取るに足らない虫にすら敗北してしまうだろう。だからこそ、想像する自分は常に最強でなければならない。
(勝つ。僕が勝つ。勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい!)
妄執、あるいは執念とも呼ぶべき感情だ。
初めて抱くこの思いを、グレミィは知らなかった。
「今度こそ死ね! 僕の使える最強の想像の一つだ!」
剣八の頭上が光った。
その瞬間、巨大な光の柱が天地を結ぶ。凄まじい熱量により周囲を蒸発させ、景色を歪めた。
「それは現世のフィクションに出てくる衛星兵器だ! 蒸発して消えろ!」
降り注ぐ光はまるで神の裁き。
その原理はグレミィも知らないが、ただそういうものがあると想像した。それだけで現実となる。知識が多いほどに、彼は強くなるのだ。荒唐無稽なサイエンスフィクションの産物であろうと、誰も直接見たことがない超自然であろうと、グレミィはイメージするだけで再現する。
だが、天地を結ぶ巨大な光の柱の中に、黒い影が顕在していた。
「……はは」
思わず笑ってしまった。
ほぼ同時に光は切断され、中から火傷した剣八が姿を現す。死覇装も所々焼け焦げ、扇情的な恰好ではあるが気にする彼女ではなかった。また彼女の放った斬撃は地を裂き、グレミィを縦に両断する。即座にグレミィは万全な自分自身を想像し、傷を治してしまった。
ここから再び剣八の反撃が始まる。
攻守を後退しつつ、二人の戦いは激化していった。
オリジナルでグレミィの完聖体を出しました。
原作で使ってたら(たぶん)ヤバかったやつ