かつて眼も見えず、耳も聞こえず、身動きすらできない赤子がいた。その赤子は決して一人では生きていけなかった。しかし周りの人々はその赤子を大切にし、祀っていた。赤子には特別な力があったのだ。赤子に触れて願うだけで、誰もが満たされたのだ。
悲しみに暮れる者。
足を失った者。
力を望む者。
その誰もが願いを叶えられた。
こうして願いが叶った者たちが死んだとき、その力と知識は全て赤子へと吸収される。赤子はそれによって力と知恵を付けた。
やがて、その赤子は神の名で呼ばれるようになった。
◆◆◆
エス・ノトと戦う恋次とルキアだが、圧倒していた。
恐怖を操るこの滅却師に対して二人が取った戦術は、ルキアを前に出すというものであった。彼女の斬魄刀、袖白雪は触れた対象の温度を低下させる斬魄刀だ。最大で絶対零度にまで低下させ、体を凍結させながら戦うことができる。触れれば敵は凍り付き、刃を交えれば敵は動きを鈍くする。そしてエス・ノトの放つ恐怖攻撃の侵食を体表で凍り付かせ、止めることができるのだ。
「なゼ! 恐怖ガ効かナい!?」
そしてエス・ノト自身が恐怖する。
このままでは、
「ああああアあアああアああああアァァ!」
「これは……」
「僕ノ恐怖は視神経かラ届く!」
いかに体表で恐怖攻撃を凍結させようと、神経からの侵食は止められない。そこまで止めてしまえばルキアはあらゆる感覚を失うことになってしまう。
完聖体になったことで強化された恐怖がルキアを侵食し、彼女は幻視する。大切なものが崩れ落ち、消え去っていく光景を。リアルに感じ取れる恐怖が彼女の足を竦ませる。もしも彼女だけならば、ここで恐怖に捕らわれてしまったことだろう。
だが、今の彼女には仲間がいた。
「卍解! 双王蛇尾丸!」
完聖体に閉じ込められたルキアを助け出すため、恋次は卍解した。霊王宮での修行により会得した真の卍解だ。操るのも困難な巨大かつ蛇のような卍解は凝縮され、二つの武器になる。片方は右手に宿る刃、オロチ王。もう一つは左肩から伸びる巨腕、狒狒王。
恋次はオロチ王で幕のように包み込む結界を引き裂き、狒狒王で広げる。
「ルキア!」
そして狒狒王の腕を伸ばしてルキアを捕まえ、引きずり出した。
「大丈夫かルキア」
「あ、ああ……何とかな。気を付けろ。見ただけで奴の術中に嵌ってしまうぞ」
「ちっ……厄介だぜ」
恋次は近接戦闘に特化しており、エス・ノトを倒すには近づく必要がある。つまり、その分だけ恐怖に捕らわれる可能性が高まるのだ。
そこでルキアが深呼吸しながら立ち上がり、強く刀を握りつつ告げた。
「私が卍解する」
「だがオメーの卍解は」
「ああ。もしも失敗したら、さっきみたいに援護してくれ」
「……ちっ。どうせなら倒しちまえ!」
「ふん。当然だ!」
真っ白な刀身が舞う。
冷やすことに特化した袖白雪という斬魄刀は、ルキアの霊圧に呼応した。
「あんな恐怖野郎なんざ凍らせちまえ!」
「あのような自己保身に走る臆病者に私が負けるはずなかろう! 卍解、
世界が白に包まれる。
空気すら液体化する低温にまで引き下げられ、辺り一帯を冷やし尽くした。刀に触れた対象の温度を低下させる。それを広く拡張した能力だ。範囲内の敵は全て体温を奪われ、凍り付く。
エス・ノトは冷たさの中、恐怖していた。
ユーハバッハに捨てられることを。
地の底に引きずり込まれる冷たさを。
◆◆◆
剣八は滅却師の居城、
稀に見かける
だが、眼帯を外して絶大な霊圧を放ち続ける彼女に気付かないはずがない。剣八の前に鎧とマントを纏う筋肉質な大男が立ち塞がった。
「我は
「面白い。かかってきなさい。真っ二つにしてあげましょう。私は更木剣八。護廷十三隊十一番隊隊長です」
息が合うのか、挨拶もそこそこに二人は斬り合いを始める。
既に野晒を開放している剣八はリーチを活かしてジェラルドとの体格差を埋めた。戦いにおいて体格とは絶対的な優位を生む。身体が大きいということは間合いが広いことを指し、それだけ安全圏から一方的に攻撃できるということなのだ。勿論、体が大きいほど俊敏性が失われてしまうのが普通だ。しかしジェラルドにその常識は通用しない。
「我は最大・最強・最速の滅却師! 貴様如きでは奇跡が起きても我を倒せまい!」
「滅却師の癖に中々の剣術! しかし遅い!」
「ぬぅ!?」
「名前負けですねジェラなんとか!」
野晒の切先がジェラルドの右手首から肘にかけてを切り裂く。それでジェラルドが剣を落とすことはなかったが、攻勢を止めることはできた。そのまま滑らせるように首へと刃を突き付けるが、これは盾で防がれてしまう。仕方なく剣八も一歩下がった。
そして今度は盾ごと引き裂くつもりで振り下ろす。
しかしその瞬間、ジェラルドの身体が一回り大きくなった。これによって間合いが変化し、剣八の刃が届く前に盾で殴られる。
「くっ!」
吹き飛ばされた剣八は瓦礫に激突し、すぐに体勢を立て直して野晒を振り回した。それによって周囲の瓦礫が消し飛ばされ、更地となる。
ジッとジェラルドを見つめると、確かに初めより巨大化していた。
更には右腕の深い傷までが完全に治癒している。
「治癒? いえ、違いますね?」
「これこそ我が奇跡! 『傷を負ったもの』を神の
「ああ……また一撃で殺せ、系のやつですか。面白い」
剣八は激しく霊圧を増大させ、瞬歩で正面から斬りかかる。圧倒的な速度と力によりジェラルドは真っ二つになってしまった。しかしその瞬間、倍ほどに巨大化して反撃を仕掛けた。ジェラルドの剣が迫り、剣八は返す刀で弾き返す。
あまりの勢いだったのでジェラルドの剣が欠けてしまった。
「フハハハハハ! 我が剣の名は
「ふむ。一人で騒いでいるようですが、どうやら能力が不発に終わったようですね。私が野晒を開放している限り、無粋な能力など無意味。全て呑み干します。あなたの語る希望とやらも私の剣で呑み干してあげましょう」
剣八が三度、剣を振るう。
それだけでジェラルドは右手と右足が斬り落とされ、
「ぬぅぅああああああああああ!」
しかしジェラルドの能力が発動する。
傷を大きさへと変換する能力により、更に巨体となった。また彼の能力は彼自身に留まらない。彼の持つ剣が破壊されても、それを尺度へと変換できる。
「まだ大きくなりますか!
「希望は折れぬ! 貴様を砕くまでなぁ!」
巨人となったジェラルドは剣を叩き付け、地形ごと剣八を破壊しようとする。しかしそれを圧倒的な霊圧で迎え討ち、逆にジェラルドを真っ二つにしてしまう。眼帯を外した剣八の霊圧は底なしで、近づけば霊子単位で磨り潰されるほどだ。
「まだまだ楽しめそうですね!」
巨大化していくジェラルドと戦闘しつつ、剣八は笑みを深めていった。
◆◆◆
「グレミィでも足止めできなかったか」
おそらくユーハバッハを除いてグレミィに勝つことができる騎士団員は存在しないだろう。
だが、そのグレミィに勝利したというのだ。単純に考えれば、誰一人として更木剣八を足止めできないということになる。
「おそれながら陛下。もう死神の掃討は切り上げるべきかと」
「ハッシュヴァルトの意見は尤もだ。死神共には充分な損害を与えた。あとは零番隊を落とし、霊王宮に攻め入るのみ」
ユーハバッハは親衛隊の中でも、浅黒い肌をした男へと視線を向ける。
「ジェラルドに足止めさせているが、そろそろ次の段階に進むべきだな。リジェ・バロ」
「はっ! ここに」
「これより貴様に力を与える。その力を以て霊王宮を守る結界を撃ち抜け」
「陛下のお心のままに」
跪くリジェを前にして、ユーハバッハは右手を掲げた。
それを見ていた一護は隣に立つ雨竜へと小声で問いかける。
「何をするつもりなんだ?」
「……
「そんなことができるのかよ」
「覚えておけ黒崎。陛下にあの力がある限り、滅却師は決して逆らうことができない。陛下は力だけでなく、僕たちの命すら奪い取ることができる」
「なん……だと……!?」
「静かに」
雨竜は唇に指を当て、宥めた。
「
その言葉に一護は目を見開き、そして体から力を抜いた。
人質を取られている以上、今の一護にできることはない。今は大人しく見守ることにする。
この瞬間、各地に光の柱が立った。
そしてユーハバッハが不要と判断した滅却師は全て、力を失った。
「リジェ・バロ。撃ち抜け」
「はっ!」
リジェは言われた通り、彼の武装を天に向ける。狙撃銃を思わせる巨大な兵器が彼の武器であり、彼は自身の能力に沿った力を解き放つ。
彼は巨大狙撃銃ディアグラムの直線上全てを等しく貫通させる。そこに防ぐといった概念は存在せず、直線上を消し飛ばす能力だ。
これにより霊王宮と尸魂界を隔てる七十二層の結界を撃ち抜き、道を作ろうというのだ。
「ああ、力が溢れる。ボクの前に結界など無力だと教えよう」
引き金を引く。
その瞬間、霊王宮を守る結界へと巨大な穴が空けられた。
ゆるるん罪深バードさんがいれば結界なんてどうとでもなるやろ
これ皆思いましたよね?