綺麗な剣八   作:NANSAN

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47 神の戦士

 

 冬獅郎と戦うバズビーは、突如として行われた聖別(アウスヴェーレン)により力を失った。これにより完聖体(フォルシュテンディッヒ)も不可能となり、また得意の炎も大きく弱体化する。

 

 

「なっ!?」

「そこだ!」

 

 

 膨大な熱により冬獅郎の大紅蓮氷輪丸を相手に圧倒していた彼も、こうなってしまってはどうしようもない。立場が逆転し、莫大な氷と水に襲われることになる。

 

 

「クソ! クソ! クソがあああああ!」

 

 

 何が起こったのか分からない彼ではない。

 突如として降り注いだ光はユーハバッハの聖別(アウスヴェーレン)。直接触れれば力だけでなく命すら奪い取られる。だからバズビーは咄嗟に回避した。しかし力を奪われたことに変わりはなく、今の彼はもはや負け犬。

 

 

「どういうつもりだ陛下あああああああああ!」

 

 

 そう叫ぶバズビーに異変を感じたのか、冬獅郎も攻撃を止める。

 ユーハバッハに復讐を望み、力を求めた一人の男の声は虚空へと消えていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「不味い! 避けろ!」

 

 

 真っ先に叫んだのはリルトットであった。

 彼女は聖別(アウスヴェーレン)を察知して回避を優先し、瓦礫の下へと逃げ込む。それに反応したキャンディス、ミニーニャ、ジゼルの三人も一塊になって逃げた。

 一方で京楽と浮竹は突然のことに戸惑いを隠せない。

 

 

「これは……どういうことだい?」

「あれは俺たちの霊圧とは少し違うように感じる。まさか滅却師の? 仲間割れを起こしたのか?」

「事情は分からないけど、何かが起こるようだよ。ほら」

 

 

 京楽は白くそびえる城に目を向ける。

 その直上は空間が歪んだような状態になっており、確実に異変が起こっていた。そして古い死神である二人にはそれが何なのか理解していた。

 

 

「どうやら敵さんの目的は霊王みたいだねぇ」

「まさか……霊王宮に攻め込むつもりか!?」

「そのまさかみたいだよ」

 

 

 銀架城(ジルバーン)から天に向けて光の柱が生じる。

 丁度、剣八とジェラルドが戦っているので見えにくかったが、それでもしっかりと確認できるほどに巨大な光の柱であった。

 ここから戦況が一変する。

 死神たちも知らない、滅却師の、ユーハバッハの目的が明かされることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ユーハバッハは親衛隊に囲まれたまま天を見上げた。

 霊王宮を守る結界が破壊された今、あとはその先へと攻め込むのみである。しかしその前に、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)へと塗り変えた瀞霊廷全土に向かって声を放った。ただ声を届かせるだけの、誰から奪ったかも忘れた能力だ。

 

 

「私はこれより霊王宮に攻め込む」

 

 

 宣言の理由はただ一つ。

 死神に向けた改めての宣戦布告だ。

 雀部長次郎を殺害した際にも宣戦布告は行ったが、それはあくまでも瀞霊廷を壊滅させるというもの。今回は尸魂界そのものに対する宣告である。

 

 

「この手で霊王を打ち倒し、三界を統一する。止めたくば追ってくるがよい」

 

 

 また同時に、置いていく同胞(捨て駒)へと別れを告げるために。

 

 

「残る騎士団(リッター)よ。その力だけは私が連れていこう。お前たちは……不要だ」

 

 

 そして最後に絶望と驚愕を残すために。

 

 

「我が新しき同胞。石田雨竜と黒崎一護がいれば充分だ」

 

 

 ユーハバッハはそう言い残し、ジェラルドを除く親衛隊と共に光を昇っていく。

 死神たちを震撼させる情報を残しつつ。

 そうしてユーハバッハが率いる滅却師たちが霊王宮へと消えていく寸前、黒腔(ガルガンタ)が開いた。そこから現れたのは井上織姫、茶渡泰虎、浦原喜助、グリムジョー、そしてネリエルである。彼らはユーハバッハとともに消えていく一護を見て驚愕していた。

 一護はその姿を確認し……目を逸らす。

 

 

「皆、すまねぇ」

 

 

 彼の言葉は誰にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェラルドと戦っていた剣八は、すぐに追いかけようと跳んだ。だがそうはさせんとばかりにジェラルドが腕を振るい、彼女を叩き落す。巨大化してもその速度は全く失われておらず、リーチが純粋に大きくなって戦い辛くなっていた。

 

 

「まさか黒崎さんがあちら側にいるとは……!」

「我の役目は貴様の足止め! 陛下の元へは行かせん!」

「なるほど。ではここは本気を出す必要がありそうですね」

 

 

 巨大化していくジェラルドを相手にして、このまま相手にしていては無駄な時間を過ごしてしまう。本当ならばもう少し長く楽しんでいたいところだが、綺麗な剣八は理性を以て抑えた。

 護廷十三隊の一員として、速やかに排除する。

 それだけを考える。

 

 

「卍解、呑晒(のざらし)

 

 

 解放したと同時に刀が水平に振り抜かれた。

 霊力を全力で使った一撃により、ジェラルドの上半身が消し飛ぶ。だが、激しい光と共に巨大化して復活してみせた。その巨体故にユーハバッハが去っていた城をも破壊し、光に包まれる。背からは光の翼が生えて、顔には光る仮面のようなものまで装着されている。

 そしてどこか無機質な声に変質していた。

 

 

「我、神の権能(アシュトニグ)なり。死してなお神の為に剣を奮う神の戦士」

 

 

 全身に紋様が奔り、その剣と盾までもが巨大化する。更には意匠までもが変化していた。

 明らかに先程とは別物である。

 

 

「ぬうううううううう!」

「はああああああああ!」

 

 

 剣八とジェラルドは同時に剣を振るった。

 卍解した剣八はその一撃で再びジェラルドを吹き飛ばそうとし、一方のジェラルドは巨大化した剣の先から光を放ち、剣八ごと辺り一帯を薙ぎ払う。しかし放出される霊圧は剣八の卍解に飲み込まれ、逆に剣八の力となってジェラルドへと跳ね返った。

 吹き飛んだジェラルドはその力により再び復活する。

 

 

「ならば塵になるまで!」

 

 

 奥義・八千流(やちる)

 無数の剣戟がジェラルドへと叩き込まれ、一瞬にして細切れとなる。卍解した剣八はジェラルドの放つ絶大な霊圧を飲み干し、飽和するほどの力を得ている。それを一瞬で使い尽くすほどに攻撃へと回し、お蔭でジェラルドは散り散りに消し飛んだ。

 だがそれで死なないからこその奇跡。

 ジェラルド・ヴァルキリーは決して死なない。そう、定められている。

 

 

「ここまで巨大化したのは初めてだ! ハハハハハハハハハ! 我は奇跡そのもの! どのような死の淵からも蘇り、敵を打ち砕いてくれよう!」

「まだ大きくなるのですか」

「我を倒せると思ったか? だが奇跡には勝てぬ! それが定めだからだ! 貴様が我の前に立ちふさがる限り、我は無限に立ち上がり、貴様を倒すまで戦い続けるだろう。奇跡が起こるその時までだ!」

 

 

 今のジェラルドはその辺の山よりも大きい。立ち上がれば瀞霊廷全土からその姿を確認できるはずだ。振り上げられた剣は空を覆い隠す。放出される霊圧は感覚を狂わせるほどだ。

 それに対し、剣八は今まで通り迎撃した。

 卍解によって食い尽くした霊圧を攻撃へと割り振り、全力全開で振り抜く。

 斬れば敵は死ぬ。

 それを体現した彼女の卍解がジェラルドとまともに打ち合う。

 

 

「ぬぅぅぅぅ! 今の我すら凌駕するか!」

「体の大きさなど関係ありませんよ。力が強ければ勝つ。それだけのこと! 斬っても再生するなら、死ぬまで殺すのみ!」

 

 

 剣八の斬撃が希望の剣(ホーフヌング)を切断する。刃毀れの傷をそのまま跳ね返すという能力を持った特殊な剣であるが、特殊な干渉を呑み干して無効化する剣八には無意味だ。

 ジェラルドは霊圧を攻撃へと回し、剣の先から霊力の砲撃を放つ。それらは地形ごと剣八を消滅させるつもりで放たれたものである。しかし剣八は逆に食い尽くしてしまい、その霊力を使ってジェラルドを斬る。そしてまた巨大化したジェラルドが猛威を振るう。

 この繰り返しだった。

 

 

(なるほど)

 

 

 ただの攻撃ではジェラルドを殺せない。

 流石の剣八もそろそろ学習していた。また、この手の敵に対する手段も持ち合わせていた。

 

 

呑晒(のざらし)! 食い尽くしなさい!」

 

 

 迫る巨大な剣を弾き、飛び上がってその上に乗る。更に瞬歩で駆け、腕を伝ってジェラルドの頭部を目指した。それを大人しく許容するジェラルドではなく、腕を振り回して剣八を落とそうとする。しかし剣八はあっさりと空中へ身を投げ出し、鬼道を繰り出す。

 

 

「縛道の八十一、断空」

 

 

 発動したのは汎用性の高い壁の鬼道。剣八はこれを足場として更に跳ぶ。それを掴もうとするジェラルドの左手が迫ったが、身を捻って呑晒を振り回し指を切断する。逃れた剣八はそのままジェラルドの首へと迫る。しかしジェラルドは凄まじい反応速度で回避し、剣八はまた空中へと投げ出された。

 

 

「縛道の六十三、鎖状鎖縛」

 

 

 そこで縛道により霊力の鎖を生み出し、ジェラルドの首へと巻き付けて引っ張った。反作用により加速した剣八は一直線に首へと迫る。

 ところがまたジェラルドは体を振り回し、遠心力で剣八を吹き飛ばそうとした。

 ならばと鎖をしっかりと握りしめ、振り回されながらも落ち着いて詠唱を開始する。

 

 

「滲みだす混濁の紋章、不遜なる狂気の器。沸き上がり、否定し、痺れ、瞬き、眠りを妨げる。爬行する鉄の王女。絶えず自壊する泥の人形。結合せよ、反発せよ、地に満ち、己の無力を知れ! 破道の九十、黒棺!」

 

 

 黒棺で狙ったのは当然ながらジェラルドの顔である。山のように巨大化したジェラルドの顔を覆いつくすことですら大量の霊力を求められる。しかし今の剣八からすれば問題ない。寧ろこれによって動き止めたことが最も重要だ。

 そのまま巻きつけた鎖状鎖縛を引き寄せ、勢いよく接近する。剣八は勢いのままに突撃し、ジェラルドの首に向かって呑晒を突き立てた。対象を分解して食い尽くす呑晒の能力により、ジェラルドに蓄えられた霊力が急激に減少していく。

 また剣八は呑晒を通して過剰供給される霊力を抑え込んでいた。

 

 

「ぐ、ぅぅく……」

 

 

 皮膚が内側から裂け、肉が弾け、その度に呑晒の力を回復へと割り振って再生させる。食らった霊力を剣八の力として還元できるのもこの卍解の良いところだ。これがなければ今頃は剣八も内側から霊圧で焼き尽くされていたことだろう。

 

 

「お、おおおおおおおおお! 我は! 滅びぬゥ!」

「いい加減、滅びなさい!」

 

 

 あらゆる存在を滅却し、呑み干す剣八の卍解がジェラルドを削っていく。見上げるほどに巨大化した滅却師と戦えるのは、いまや彼女だけだろう。

 だがジェラルドはあまりにも巨大であり、このままでは二人の戦いで瀞霊廷が消滅する。

 それを危惧したある男が仕掛けた。

 特記戦力、未知数の手段と評された浦原喜助である。

 突如としてジェラルドの足元に穴が空く。それも物理的なものではない。黒腔(ガルガンタ)だ。巨大なそれはジェラルドを腰元まで飲み込む。

 

 

「更木さん! そのまま押し込んでください! ネリエルさんとグリムジョーさんもお願いします!」

「いいわ。任せて」

「ちっ……俺に命令するんじゃねぇ!」

 

 

 直前にやってきたネリエルとグリムジョーも参戦し、それぞれ指先を噛み千切った。そこから滴る血を触媒として、十刃(エスパーダ)にのみ許された虚閃(セロ)を発射する。

 巨大な霊圧の閃光、二つの王虚の虚閃(グラン・レイ・セロ)がジェラルドを上から押し込んだ。

 また浦原自身も鬼道を発動した。

 

 

「千手の()て、届かざる闇の御手、移らざる天の射手、光を落とす道、火種を煽る風、集いて惑うな我が指を見よ。光弾、八身(はっしん)、九条、天経、疾宝(しっぽう)、大輪、灰色の砲塔、弓引く彼方、皎皎(こうこう)として消ゆ。破道の九十一、千手皎天汰砲(せんじゅこうてんたいほう)

 

 

 千の光が天より降り注ぎ、ジェラルドを撃ち抜く。その巨体は普段こそ脅威となるが、逆に言えば広範囲攻撃の的になりやすい。通常ならばその多くが外れて無駄となる鬼道も全て着弾した。

 滅却師が特に苦手とする虚の極大攻撃、そして最大規模の鬼道、更には剣八による物理攻撃。これらがジェラルド・ヴァルキリーを黒腔(ガルガンタ)へと押し込む。

 

 

「ぬ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオ! オオオオオ……」

 

 

 地面を掴んで耐えていたジェラルドも、流石にこれではどうしようもない。

 実にあっさりと黒腔(ガルガンタ)に飲み込まれていった。また浦原はそれを見届けて即座に黒腔(ガルガンタ)を閉じ、ジェラルドを世界の狭間へと封じ込める。

 激しい戦闘音を塗り替えられた瀞霊廷中へと届かせていたにもかかわらず、一瞬で凪となった。

 ひと段落したところで、浦原は剣八の方を向く。

 そして軽く頭を下げた。

 

 

「戦いに横やりを入れてスミマセン。でも、急を要したもので」

「……まぁ、いいでしょう。急ぎ霊王宮に昇った滅却師を追う必要もあります」

 

 

 剣八はぐっと抑えて本来の目的に意識を向ける。ジェラルドとの戦いは非常に愉しめた。しかし護廷の者として、滅却師を倒すという目的を優先する必要がある。

 また彼女は浦原と共に現れた四人、井上織姫、茶渡泰虎、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァング、グリムジョー・ジャガージャックへと目を向けた。

 

 

「ところで人間はともかく、破面(アランカル)までとは……節操がありませんね浦原喜助」

「そりゃドーモ。アタシは必要のためでしたらどんな手も使う(たち)でして」

「色々と説明していただきま――」

 

 

 その瞬間、強大な霊圧が周囲を劈く。

 

 

「我を! 神の権能(アシュトニグ)をこの程度で封じたつもりかァ!」

 

 

 巨大な手が空間を引き裂き、現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 




インチキ滅却師その1 ジェラルド
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