空間を引き裂くという力技によって。
これは予想外だったのか、浦原ですら目を見開いている。その間にジェラルドは更に空間を引き裂き、その全身を露わにした。光り輝く巨人が剣を振り上げる。
「希望は潰えぬ! 我こそが奇跡!」
剣八が前に出る。
振り下ろされる巨剣と衝突し、周囲に衝撃波が振りまかれた。
◆◆◆
バズビーと戦う冬獅郎だが、実にあっさりと彼を捕らえていた。やはり騎士団の強みは聖文字による加護である。それを失い、
「テメェにはあの巨人について吐いてもらうぜ」
「っくょう……動けねぇ」
「どうやら本当に力を失っているらしいな。さっきの火力が見る影もねぇ」
「くそがっ!」
アレを使うまでもなかったな、と冬獅郎は内心で安堵する。
正直に言えば危なかった。もう少し
「俺はユーハバッハの野郎に復讐しなきゃならねぇんだよ! 放しやがれ!」
「……どういうことだ? テメェは奴の部下だろう?」
「はっ! 好き好んであんな野郎の部下になるかよ! 情報でも何でも言ってやる! さっさと俺を放しやがれ! 俺はテメェなんぞに構ってる暇はねぇ!」
「……悪いがそれは聞けない。まずは総隊長のところまで来てもらうぜ」
また冬獅郎にとって幸運なことに、丁度ここで松本乱菊、以下十番隊の隊員が到着する。かなり急いでいたらしく、全員が息を切らしていた。
「松本か。遅かったな」
「こ、これでも急いだんですよ? それにしても流石ですね。更木隊長に修行を付けてもらうって聞いた時は馬鹿なんじゃないかと思いましたけど……」
「テメェ……」
額に青筋を浮かべる冬獅郎に対し、乱菊はテヘペロと可愛く返す。彼女なりの冗談らしい。それだけ余裕ができているということだろう。
事実、ここでの戦いは死神の勝利だ。
「まぁいい。松本は指揮を頼む。俺はこいつを総隊長のところに連れていく。尋問が必要だからな」
「分かりました。行くわよ皆!」
『おう!』
◆◆◆
BG9を倒した砕蜂と大前田だが、かなりの負傷で暫くは体を休めていた。しかしそこに卯ノ花が現れ、見事な治療を施す。今ではすっかり元通りになっていた。
「助かった」
「いえ、砕蜂隊長にはまだ働いていただかなくてはなりません」
「ああ、どうやら敵は霊王宮に向かったようだからな。しかしどうやって追えば良いのやら」
護廷十三隊は瀞霊廷を守る存在であり、同時に現世の魂を虚を含めて尸魂界へ送り込むバランサーだ。しかし霊王宮へと干渉する権限はなく、その道を開く王鍵の在り処も総隊長が知るのみ。滅却師が霊王宮に消えたことで、その守りは護廷十三隊ではなく零番隊へと移行している。だが、だからといって放置してよいわけではない。
「まずは総隊長のところに戻りましょう。滅却師を迎撃するというひとまずの任は終えました。続く命令を聞く必要があります。あの巨人は更木隊長にお任せしましょう」
「……だな。大前田、お前は隠密機動を動かして情報を集めつつ救援要請を聞いて回れ。それを四番隊に共有しろ。いいな! その後すぐに合流しろ」
「へ、へい!」
卯ノ花と砕蜂は一番隊隊舎……であった場所に向かって駆けだした。
◆◆◆
奇しくもほぼ同時に山本元柳斎の元へと隊長たちが集まることになった。
最も早かったのは砕蜂と卯ノ花である。
「お主らか。首尾はどうじゃ卯ノ花」
「可能な限りは治療を行っています。しかし三番隊隊長と九番隊隊長は復帰が難しいかと。今でも危険な状態です」
「そうか」
「なんや。ローズと拳西はドロップアウトかいな」
続いて到着したのは平子である。
彼は雛森を伴い、ここへやってきた。そして元
またそこに三人の隊長がやってくる。
「どうやら考えることは同じみたいだねぇ」
「ああ。しかし都合がいい」
「俺たち以外の戦況も知りたかったところだ」
京楽、浮竹、冬獅郎の三人である。そして彼らはリルトット、キャンディス、ミニーニャ、ジゼル、
すると砕蜂が都合がよいとばかりに尋問を開始した。
「おい滅却師。アレは何だ? あの巨人だ!」
「……あいつは親衛隊。ジェラルド・ヴァルキリーだ」
「おいリル!」
「黙ってろキャンディ。俺たちは捕虜だ。充分な扱いを受けたければ情報を吐くしかねぇ」
「ふん。いい心がけだ」
「だが、俺たちもただでは情報を渡さねぇよ。俺たちを戦力に加えろ。ユーハバッハの野郎をぶっ殺すのを手伝ってやる。この条件を呑むなら残りを吐いてやってもいいぜ」
「何だと?」
これは砕蜂だけでなく皆が驚きの表情を浮かべていた。
京楽と浮竹を除いて。
「そういうわけなのさ。ボクたちもどうしようかと思ってね。けど、彼女たちの情報は有益だ。
「だが京楽……」
「砕蜂隊長、今は時間がない。なりふり構ってはいられないのさ。ねぇ、山爺?」
暴れる巨人を倒し、ユーハバッハと残る滅却師を倒す。そのためには情報が必要だ。元柳斎もそれが分からないわけではない。
「……涅隊長を呼べ」
それは枷を付けるならば許可する、という意味であった。
◆◆◆
剣八、ネリエル、グリムジョーは上半身まで這いずり出たジェラルドを相手にひたすら攻撃を叩き込んでいた。巨体から繰り出されるジェラルドの一撃は全て剣八が弾き、ネリエルとグリムジョーが再び
「ちっ! こいつ攻撃するたびにデカくなりやがる! 軋れ、
「攻撃力が足りないわね。謳え、
共に
「駄目ね。一撃で殺さないと巨大化し続けるのかしら?」
ジェラルドは止まらない。
これで剣八が抑え込んでいなければとっくの昔に這い出ていただろう。虚の霊圧に弱いハズの滅却師がここまで粘るとは思わず、浦原ですら焦りを見せる。
しかし一方で剣八は戦いながら浦原に向かって叫んだ。
「浦原喜助! この辺り一帯を隔離する結界を張りなさい! あなたならば可能でしょう?」
それができればなんだというのか。
常人ならば想像もできず、剣八に問い返すに違いない。だが、浦原喜助という男は凡夫ではなかった。天才過ぎる頭脳が、更木剣八という死神の持つ可能性から正解を導き出す。
「そういうことならお任せッス!」
彼はどこからともなく杭のようなものを取り出す。その数は四つ。彼はその四つを織姫と
「これを奴の周りに等間隔で刺してください」
「分かったよ!」
「ウム」
聞き分けの良い二人は即座に動き、配置を始める。
その間に浦原は仕込み杖を地面に突き立て、詠唱を開始する。
「
前方、右方、左方、そして上方に四種の壁を発生させ、それが結界とする。本来、この術式は浦原が扱えるようなものではない。難易度は高く、強度を維持するためには少し工夫が必要だ。
そのために織姫とチャドに依頼した。
「浦原さん! できたよ!」
「ウム! こちらもだ!」
「上々ッスよお二人とも。更木さん! 後は頼みます!
結界が完成し、内部と外部が完全に隔離された。
その瞬間、剣八は何かを口にする。それがどんな言葉であるか、浦原の位置からは聞こえない。しかし、口の動きから僅かに捉えることができた。
卍解、と。
(あれは……)
剣八の姿に変化が起こった。
全身から蒸気のように霊圧が噴き出ており、また不可思議な紋様が浮かんでいる。破れた死覇装の隙間から見えるそれに目を奪われた。
だが、その瞬間に見失う。注視していたハズなのに、彼女の動きを見逃してしまった。また浦原の張った四獣塞門に亀裂が走り、砕け散る。卍解すらも受け止める強度のある結界なのだが、見事に粉々であった。更にはジェラルドの周囲で空間が歪み軋んでおり、何が起こっているのか目で見てわからない。
ネリエルとグリムジョーも下がり、浦原の側に降り立った。
「あれ、危険ね。突っ込んじゃだめよグリムジョー」
「俺に命令するな。だが、同感だ」
「そうッスね。無防備に入るのは危険です。それにアタシの結界がなければもっと広範囲が
浦原が驚愕したのは、鬼道などを使われた形跡がなかった点だ。ただの物理攻撃によって空間が破壊され、開いていた
ただしこれは三界が入り混じろうとする不安定な状態であり、自然と修復されていく。
歪みが戻り、やがてその中央には抉られた地面だけが残る。そこに立っているのは更木剣八ただ一人であり、ジェラルドの巨体は跡形もなく消失していた。
「終わりましたよ」
剣八は卍解を解き、鞘に納める。
呆気ない決着に皆が茫然としていた。その中で浦原だけが冷静に考察する。
(おそらくは空間の破壊で小規模化した
奇跡を司る滅却師、ジェラルド・ヴァルキリーの討伐に今度こそ成功する。ユーハバッハを追いかける上で一番の障害になるであろう存在を排除できたのは大きい。
ただ剣八当人は死覇装の端を掴んで困ったように呟いた。
「次は技術開発局に頑丈な服でも作ってもらいましょうか」
彼女の隊首羽織は見る影もなく、死覇装の袖もほとんどが消失。また全体的に破れたり穴が空いたり、かなり露出が多い。胸に巻いたサラシも解けそうだった。
それだけ戦いが激しかったということの証左だが、剣八も女である以上は気を使う。
「あの、直しましょうか?」
「是非」
同じ女だからこそ、織姫はそんな提案をする。
一瞬で食いつく綺麗な剣八であった。
綺麗な剣八だから上裸とかできんよ