綺麗な剣八   作:NANSAN

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49 滅却師、一護

 霊王宮へと昇っていくユーハバッハたちだが、彼らは残る敵が零番隊だけだと考えていた。しかしそれは誤りである。第一次侵攻において護廷十三隊に甚大な被害を与え、それによって致命傷を受けたある隊長は霊王宮へと連れていかれた。

 しかしその隊長、朽木白哉は死の淵より蘇り、千本桜景厳を取り戻して瀞霊廷に向かおうとしていたのだ。

 無数の光が舞う。

 まるで桜の花びらが散るかのように。

 

 

「どこへ行くつもりだ」

「朽木白哉か。今更、卍解如きで私を止めることはできん」

「それを決めるのは私だ」

 

 

 四方八方より無数の刃が迫る。

 だがユーハバッハは動かない。その必要がないと知っていたからだ。

 幾億の刃は黒き閃光により弾かれた。

 

 

(けい)は……黒崎一護。なぜ滅却師に与している。それにその姿は?」

「悪ぃ、白哉……」

 

 

 千本桜景厳を弾き返したのは黒崎一護。

 かつて双極の丘で戦った時の再現を思わせた。しかしあの時は漆黒の刀に黒いコートのような死覇装という姿であったのに対し、今は白いシャツの上にフード付きの黒コートを纏い、背中には漆黒の弓を背負っている。また右手には黒い霊圧を凝縮したものが握られていた。

 白哉が驚く間に、ユーハバッハは告げる。

 

 

「一護、それはお前に任せる。一度は倒した相手だ。問題あるまい」

 

 

 そう言って、彼は霊王宮の奥へと進んでいく。一護を除く親衛隊と雨竜を伴って。

 白哉は千本桜景厳で道を塞ぎ、止めようとする。だがそれは黒い霊圧により吹き飛ばされた。振り向けば弓を構えた一護がいた。先程握っていた黒い霊圧を射出したのだろう。

 

 

「……どうやら兄を倒さねばならぬようだな」

「ああ。だが、俺も負けられねぇ」

 

 

 そう告げる一護に対して白哉は眉を顰めた。

 何かが違うと感じたのだ。

 かつて双極の丘でルキアの為に勝つと宣言した彼とは、何かが違う。だが、その比較によって白哉は違和感に気づいた。

 

 

「兄は……覚悟して戦っているわけではないのだな。その目、迷いがある」

「……」

「迷いのある刃では何も成し遂げられぬ。兄は何のために戦う?」

「……」

「そうか。人質か?」

「っ!?」

 

 

 黒崎一護が死神を裏切るはずがない。

 それだけ白哉は一護を信頼していた。決して口には出さないが、感謝もしていた。何も言わず裏切るような男ではない。相応の理由でもなければ、こんなことはしないと考えていた。

 最後の質問で、予測は確信に変わったが。

 

 

「誰が人質になっている?」

「……親父と、妹が二人」

 

 

 やはり、という思いが白哉の内に広がる。同時に敵に対して反吐が出る思いである。

 しかし彼は敢えて刃を手に取った。千本桜の刃を凝縮して固めたその一つを、右手に握った。

 

 

「黒崎一護。兄に矜持があるのなら、そのために刃を振るがよい。私は護廷十三隊の六番隊隊長。尸魂界のために刃を振るう。覚悟を決めろ黒崎一護。誰のために戦うのか、それだけを考えよ。さもなくば……ここで斬る!」

 

 

 迫る白哉の攻撃を受け止め、二人は鍔ぜり合う。しかし白哉に容赦はなく、四方八方から刃の花びらが襲い来る。それだけでなく、分裂した刃を再び固めた刀も飛来した。それぞれに間合いや密度の変化があるため非常に回避しにくく、また打ち落としにくい。

 これが千本桜を極めた朽木白哉だ。

 一護は飛廉脚(ひれんきゃく)によって回避する。滅却師が得意とする移動術であり、霊子の流れを作ってその上に乗るというものだ。瞬歩より優れている点は移動精度と経路の多彩さである。霊子の流れを作るという性質上、実力があれば複雑な移動ルートを形成することも可能だ。これにより一護は千本桜景厳による猛攻を避け続ける。

 

 

「黒崎一護、なぜ防戦に徹する? まさかこの程度ではあるまい。あの双極の戦いはこの程度ではなかった。よもや私を斬ることを……躊躇っているのではあるまいな?」

「……」

「嘗めるな!」

「ぐっ……」

 

 

 千本桜が固められ、無数の刀が並ぶ。

 それはかつて白哉が見せた、殲景・千本桜景厳である。あの時はその千を超える刀が一斉に襲ってくることはないと語っていたが、元よりその制限はない。刃の葬列が一斉に射出され、一護を貫こうとする。

 

 

「兄の覚悟、見せてみよ!」

「お、おおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 黒い霊圧を固めた武器を振るい、迫る刃を打ち払う。

 だがそこに力が宿っていない。腑抜けた刃であることは明白だった。

 

 

「貴様の弱さが、貴様の守りたいものを壊すのだ!」

 

 

 一咬千刃花(いっかせんじんか)

 隙の無い全方位からの攻撃。回避という概念は存在せず、どう足掻いても刃に貫かれる。

 

 

「くそ……」

 

 

 仲間か、家族か。

 揺らぎは刃を鈍らせる。

 黒い霊圧を振るって全方位から迫る刃を次々と弾き落すも、幾つかは一護を掠めた。迷いながらも致命傷を避ける実力は流石だが、防戦一方を強いられる。

 その不甲斐なさを目の当たりにした白哉は、怒りを露わにした。

 

 

「まだ私を侮るか」

「俺は……」

「私は貴様の手加減を必要とするほど弱くはない! 何も選べぬというのなら、千の刃に飲まれ、ここで朽ち果てるがいい!」

 

 

 先程の刃の群れをも超える密度で射出される。全方位からの一斉攻撃こそが千本桜の強みであり、またその刃を固めたり、分裂させたりを自在に操ることで攻撃力までも調整可能だ。煌めく無数の刃が渦巻くことで白哉の居場所すら特定が困難となり、また特定したとしても反撃の余裕がないほど高密度な攻撃に晒される。

 

 

(強ぇ)

 

 

 あの時、双極の丘で勝利できたのは偶然だったのではないか。

 そう思ってしまうほど白哉は強かった。

 だが、今や朽木白哉は敵ではない。一護の中で、彼もまた仲間なのだ。あの時とは異なり、刃を向けるべき相手ではない。そういう認識だった。

 勿論、理性では分かっている。

 今は白哉を敵と認識し、倒さなければならない。そうしなければ家族が危険に晒される。本当はするべきことを分かっているのだ。ただ、決断できないだけで理解はしているのだ。

 

 

「だったら!」

 

 

 一護は勢いよく黒い霊圧を振るう。

 すると卍解時の月牙のような、黒い斬撃が飛んだ。それは迫る刃を破壊し、白哉へと迫る。しかし白哉は眉一つ動かさず、無数の刃を密集させて防いだ。

 

 

「俺はどうすりゃいいんだ! 俺はこんなことの為に力を手に入れたわけじゃねぇ! こんなことがしたかったんじゃねぇんだ!」

 

 

 その手に凝縮される黒い霊圧が振るわれる。

 黒が空間を割った。

 それは千本桜景厳を密集させた盾をも引き裂き、白哉のすぐ側を掠める。零番隊、修多羅千手丸が編んだ死覇装を焼き焦がし、遥か奥の空間までを両断してしまう。直撃していれば即死は免れなかっただろう。思わず白哉は目を見開き、そして僅かに冷や汗を滲ませる。

 

 

「俺には……分かんねぇよ」

 

 

 一護は自身の傷から血を掬い取り、それを触媒として霊圧を高める。凝縮された強大な霊圧はその手の内より白哉に向かって閃く。

 

 

    王虚の虚閃(グラン・レイ・セロ)

 

 

 破壊の閃光は千本桜の花弁を吹き飛ばし、白哉を飲み込む。

 白哉はすぐにそこから飛び出したが、ダメージは免れない。また一護の姿を見失ってしまった。すぐに霊圧知覚を使って探知しようとするも、それをすり抜けて真上に現れる。移動経路が読めず、どこに現れるのか分からないというこの移動術を白哉は知っていた。

 

 

響転(ソニード)か……」

「ああ」

 

 

 頭上に現れた一護は漆黒の弓を構え、矢もなく弦を引いていた。

 

 

「月牙……天衝」

 

 

 一護の霊圧を食った弓が、衝撃波と共に漆黒の刃を放つ。

 至近距離で放たれたそれを受け止めるので精一杯な白哉は、反撃に転ずることができない。また一護の攻撃は終わっておらず、連続して弦を引いては放つ。その度に黒い月牙が発射された。

 

 

「連装・月牙天衝」

 

 

 無数に降り注ぐ月牙は千本桜景厳の生み出す防壁を削り取り、白哉を追い詰めていく。しかし彼もこのままでは終わらない。四大貴族当主として、六番隊隊長として、人間の死神代行如きに劣っているということは認められないのだ。

 千本桜を固めた刃を射出することで黒い月牙と相殺させ、白哉は瞬歩で迫る。

 一護はそれに狙いを定めるが、白哉はその全てを回避した。ならばと再び指で血を掬い取り、それを触媒として霊圧を高める。しかし今度はそれを弦に乗せた。それによって霊圧は黒く染まり、またより強大に圧縮されていく。

 

 

王虚の黒虚閃(グラン・レイ・セロ・オスキュラス)

 

 

 その()も込みで放たれた一撃は、白哉の視界をも黒く埋め尽くした。そこで無数の刃を自身の周囲へと集め、凝縮した奥義、終景・白帝剣により突破を試みる。

 圧倒的な霊圧密度から放たれる王虚の黒虚閃(グラン・レイ・セロ・オスキュラス)と僅かな間だけ釣り合うも、すぐに不可能と理解する。先程の光線のような王虚の虚閃(グラン・レイ・セロ)とは異なり、今回は月牙天衝のように凝縮して放たれたものだったからだ。

 密度は段違い。

 更には言霊として名を呼ぶことで技そのものも強くなっている。

 

 

「くっ……」

 

 

 更に刃を集めて突破力を高めようともう遅い。

 押し負けた白哉は宙に浮く地面ごと撃ち抜かれ、そのまま瀞霊廷に向けて落下していく。しかし黒い霊圧に飲まれつつも、彼の眼は死んでいなかった。

 不意に白哉の姿が一護の視界より消える。

 

 

「隠密歩法、四楓の参」

「っ!?」

空蝉(うつせみ)

 

 

 黒き閃光に飲み込まれたのは残像。

 白哉は一護の背後へと回り込んでいた。一護はその声に気付いて振り返るも、既に斬撃は放たれている。千本桜景厳を固めて作った一振りが一護の胸を切り裂こうとして……表面で止まった。

 

 

「これは……」

 

 

 斬れぬと悟った次の瞬間には白哉も引いていた。

 刃は一護の纏うコートやシャツすらも斬ることができていない。そしてよく見れば、服の表面にはどこかで見た紋様が奔っていた。

 目を細めた白哉は問いかける。

 

 

「その防御。滅却師が使っていたものと同じだな」

「ああ、静血装(ブルート・ヴェーネ)ってんだ」

「なるほど。兄のそれは他の滅却師とは一線を画すらしい」

 

 

 滅却師による第一次侵攻の際、白哉はエス・ノトと戦い、その静血装(ブルート・ヴェーネ)を容易く破ってみせた。だが一護のそれは千本桜を固めて攻撃力を高めた状態ですら破れない。しかも体表だけでなく衣服にまでそれを侵食させている。

 これは静血装(ブルート・ヴェーネ)を体外にまで表出させる外殻静脈血装(ブルート・ヴェーネ・アンハーベン)の一種なのだが、一護自身はそこまで理解して使ってはいなかった。

 

 

「兄はなぜ滅却師の力を使える?」

「……俺のお袋が滅却師らしいぜ」

「その様子を見る限り、兄も今まで知らなかったようだな」

「ああ」

 

 

 白哉は周囲に花弁のような刃を漂わせ、一護は右手に黒い霊圧を凝縮して刃の代わりとする。

 霊王宮の一角で、かつての戦いが再現された。

 究極の一と、無限の戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 




原作の一護はどんな力を持っているのかよく分からないまま終わりましたよね。そこだけ不完全燃焼でした。

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