白い門を潜って霊王宮へと辿り着いた死神と滅却師たちだが、まずはその光景に驚かされた。瀞霊廷より剥がされた
そして霊王宮大内裏があった場所は、
「陛下の城へ土足で踏み入ろうとする罪人を裁くことがボクの役目だ。一度目は見逃そうとは言うまい。知らなかったとしても、その無知すら大罪なのだから」
「……」
出迎えたのは二人の滅却師。
リジェとペルニダであった。
だが次の瞬間、二人は周囲の街並みごと両断する斬撃に見舞われる。リジェは思わず
その間に斬撃の下手人、剣八はさっさと奥へと進んでいってしまった。更にはそれに続いて恋次とルキア、また滅却師たちも先へと行ってしまう。
「くっ! 逃すものか!」
まともに斬撃を食らったはずのリジェは、五体満足で背を向ける剣八たちに
「邪魔はさせないよ、
「雀蜂!」
花天狂骨を解放した京楽はリジェの頭上から攻撃を仕掛け、また砕蜂は雀蜂を解放して背後から攻撃する。リジェは攻撃を中断し、
彼の背に蜂の翅を模った紋様、蜂紋華が現れた。
また砕蜂はこれで攻撃を終わらせない。
「弐撃決殺! これで終わりだ!」
「いいや、終わらない」
「何!?」
続く砕蜂の攻撃はどういうわけか、リジェをすり抜けた。振り返った彼は両目を開いており、その眼光が彼女に突き刺さる。嫌な予感を覚えた砕蜂はすぐに跳び下がった。
そこでリジェは銃口を砕蜂に向け、引き金を引いた。
空中に逃げた砕蜂は射線上から逃げ切れない。
だが、ここで大きな影が砕蜂の前に現れる。
「隊長おおおおお!」
斬魄刀、
五形頭は容易く貫かれ、更には大前田の身体をも貫通して背後の砕蜂までも貫き通した――
「ボクの聖文字はX。その能力は
――かのように見えた。
「なーんや。外しとるで?」
砕蜂と大前田は何事もなかったかのように着地する。
リジェが咄嗟に振り返ると、そこには奇妙な斬魄刀を手にした平子真子がいた。彼の斬魄刀、
精密な狙撃を必要とするリジェにとって最悪の能力である。
更には空から無数の火球が降り注ぎ、リジェのいた場所で大爆発が連鎖する。雛森桃の飛梅だ。
まだ追撃は終わらない。
「破道の九十三、
詠唱を完了させた伊勢七緒が九十番台の鬼道を披露する。
これによって爆撃跡を中心に渦が生じる。光を歪めるほどの渦により広域を圧殺するのがこの鬼道だ。拡散するハズだった飛梅が圧縮され、内部で炸裂を繰り返す。
流石にこれで終わっただろう。
京楽以外はそう考えていた。
「無駄だ」
光が捻じ曲がるほど収束して渦巻く風と爆炎が消失した時、その内側より穏やかな声が聞こえた。
やがて土煙が晴れ、そこから五体満足で傷一つないリジェが現れる。
アルファベットのXを模る刺青が彫られた左目は完全に開かれており、鋭い眼光が死神たちを貫く。
「ボクの能力は
「なんやそれ。反則やんけ」
「その通り。如何に罪人たちへの裁きといえど、あまりにも理不尽。故に陛下はボクに左目の使用を非常時を除いて禁じられた。しかしその制限にも条件がある」
「よければ、その条件を教えて欲しいね」
「いいだろう。罪深い君たちにも後悔の時間くらいは必要だろうからね。同じ戦闘において左目を三度開いた場合に限り、その後の戦いで常に左目を開いたまま戦うことが許可されている。そしてこれが三度目だ」
話は終わった、問答無用、とばかりにリジェは銃口を向ける。狙うは平子。感覚を狂わせる能力を厄介と判断したからであった。
しかしそこから放たれる貫通攻撃は平子に当たることはなく、すり抜けて全く別の場所に見える構造物を破壊する。見えている場所や向きが狂わされているというのは彼にとって厄介であった。
単発攻撃を当てることは難しい。
ならば発想を変えれば良いのだ。
リジェの身体が発光し、両腕があった場所から四対八枚の翼が生える。また翼には三つずつ孔が空いているが宙を浮くことに支障はないらしい。
「ボクは陛下が最初に力をお与えになった滅却師。陛下の最高傑作。そして最も神に近い男。故に死神を相手に何度も左目を開かされるなど……あってはならない!」
光り輝き、浮遊するリジェはその翼を大きく開く。
そして二十四の翼の孔から、全方向に、一斉に、万物を貫通させる光線が放たれた。
◆◆◆
剣八によって二つに切り裂かれたペルニダだが、死んだわけではなかった。全身を覆い隠していたフード付きの衣装が解かれ、中身が露わとなる。
「ホウ。興味深いネ」
上下で断たれたペルニダは、それぞれが二本の腕となった。人間サイズほどもある不気味な腕であり、その両方が左腕である。更に掌には巨大な単眼が埋まっていた。
マユリが笑みを浮かべる一方、冬獅郎と乱菊は気味が悪いとばかりに感想を漏らした。
「またおかしな奴が出てきたな。二体か。更木に斬られて死なねぇってことは分裂能力か?」
「うはぁ~。気持ち悪! あたし近づきたくないですよぉ」
「文句をいうな……それより涅。何か知っているなら説明しやがれ」
「フン。私の貴重な時間を奪ってまで説明しろと? これだから価値の分からないサルは困るヨ。しかし今の私は非常に気分が良い。特別に知恵を得る機会を与えようじゃないカ」
いちいち腹立たしい物言いだが、マユリの知識や知恵は確かだ。
また珍しく説明をしてくれるというのだからグッと堪えて耳を傾ける。
「アレは霊王の体の一部だヨ。まさか左腕単体で意思を持ち、動くことが可能だとは。非常に興味深いと言わざるを得ないネ」
「霊王の左腕だと? なんでそれが滅却師になってやがる」
「フン。少しは自分の頭で考えたまえヨ。可能性は幾つか考えられる。しかしまだ確証があるわけではないからネ」
マユリは腰の斬魄刀を抜き、解号もなく
「動かないようにしてじっくり、ドロドロになるまで実験しようじゃないカ」
「ちっ……まぁいい。とにかく片方は俺たちでやるぞ。援護しろ松本」
「ああもう! 分かりましたよ!」
冬獅郎は氷輪丸を、乱菊は灰猫を解放して二体に分裂したペルニダの片方と対峙する。またネムを伴うマユリも一方のペルニダと戦闘を開始した。
◆◆◆
リジェとペルニダのそばを通り抜けた剣八、恋次、ルキア、バズビー、リルトット、キャンディス、ミニーニャ、ジゼル、バンビエッタの九人だが、またすぐに二人の滅却師によって道を塞がれた。
一人は
しかしその二人は剣八を素通りさせ、他の者たちの前で立ち塞がった。
「ユーゴー! そこをどけろ!」
「ここから先は通せない。引き返せバズビー」
「はっ! やなこった!」
バズビーは弱体化してしまった炎で攻撃を仕掛ける。しかし
しかしバズビーは果敢に攻めて――
「遅い」
「がっ……てめ……」
ハッシュヴァルトはただの一撃でバズビーの腹を貫き、剣を引き抜く。彼が血払いをして、ようやくバズビーは血を噴き出し、倒れた。
あまりにも速度が違いすぎた。
力を奪われた滅却師と、最高位の滅却師では勝負にもならなかった。
更にハッシュヴァルトは残る滅却師へと目を向ける。
「悪いことは言わない。今から引き返せ。ここから先は陛下の世界だ。既に生き残りの滅却師は撤退を始めている」
「何のつもりだ。悪いが俺たちもただでは引けねぇ。ユーハバッハの野郎に一発入れるまではな」
「リルトット。お前は賢い女だと思っていたが、勘違いだったようだ」
「はっ! 馬鹿だろうがどうでもいい! 筋ってもんがあるんだよ!」
リルトットたちバンビーズは一斉に矢を放ち、ハッシュヴァルトを数で仕留めようとする。だが、やはり無意味だ。
気付いたときには彼女たちの背後にいた。
刃に付着した血を振り払って。
『がはっ……!?』
斬られたことにも気づかなかった。
倒れた滅却師に向けてハッシュヴァルトは諭しつつ告げる。
「今は夜……陛下は全ての滅却師の父へと戻られ、全能者としての力は私へと与えられている。陛下が眠っておられる間、私は代理として陛下の意志を執行する」
ハッシュヴァルトはその目に複数の瞳を有していた。
ユーハバッハの聖文字、
「陛下がこの先へ通してよいと言われたのは死神のみ。お前たちは好きにするがいい。どうせ無駄だが」
「……行こうぜルキア」
「ああ」
恋次とルキアは一瞬だけ雨竜へと目を向ける。だが雨竜は何も言わず、表情一つ動かさない。ハッシュヴァルトが通すと言った以上、邪魔するつもりもないようだ。
二人は通り抜け、霊王宮の奥へと進む。
無数の桜が舞う、その場所へ向かって。