綺麗な剣八   作:NANSAN

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53 黒き月光

 剣八が進む先では舞い散る桜のような煌めきと、鋭く激しい黒き霊圧が入り乱れていた。隊長格としては霊圧探知が苦手な剣八でも、それが朽木白哉と黒崎一護であると判断できる。

 そしてひと際巨大な黒の霊圧が、斬撃として放たれた。

 次の瞬間、桜のように舞う刃は消失してしまう。

 

 

(負けましたか、朽木隊長)

 

 

 瞬歩で移動する剣八は、すぐに現場へと到着した。

 そこには全身から血を流し、肩で息をしながら膝をつく白哉がいた。少し離れた建物の屋根に一護は立っており、何とも言えない表情を浮かべている。

 

 

「兄か、更木隊長……」

「黒崎さんが滅却師に与しているとは思いませんでした。朽木隊長は回復を。ルキアさんと恋次も向かっていますよ」

「……すまぬ」

 

 

 そして剣八は一護へと目を向けた。

 フード付きの黒コートに、三日月のような漆黒の弓。白を好む滅却師とは真逆の色合いだが、確かに今の一護は残月を持っていない。滅却師の武器を手にしている。

 彼女は剣を向け、尋ねた。

 

 

「そこを通していただきましょう。ユーハバッハを手早く倒す必要があります。折角なのであなたとも戦ってみたいのですが……悠長にしている暇はありませんので」

 

 

 今もなお、三界は崩壊しつつある。

 浮竹がその身に宿す霊王の右腕によって維持しているが、それも長くは持たない。早くユーハバッハを倒さなければならないのだ。こうして一護と戦える機会は逃したくない。しかし、護廷十三隊として責務を果たさなければならない。

 悩みつつも、ユーハバッハを優先した。

 流石は綺麗な剣八である。

 しかし、一護とて簡単に先へと通すつもりはない。

 

 

「わりぃな剣八。俺はここであんたたちを止めなきゃならねぇんだ」

「私と戦う、とうことですか?」

「ああ。そうなる」

「そうですか」

 

 

 剣八は静かに告げて、剣を下ろした。

 大義名分は得た。ならば好きなだけ一護と戦える。かつて瀞霊廷へと侵入してきた頃とは異なり、随分と強くなった。きっと戦いを楽しめるだろう。

 そう考えるだけで興奮していくのを感じる。

 自然と紅潮し、滾ってくるのを自覚した。

 

 

(……が、ここは抑えなければ)

 

 

 綺麗な剣八は暴走機関車のように暴れまわる闘争心を抑え込み、心を静めた。あふれるばかりの暴虐を長年にわたって抑え込んできた彼女だ。この程度のことは容易い。

 そして彼女は何の前触れもなく、瞬歩で消える。

 一護よりも更に奥で存在を主張する天空の城、真世界城(ヴァ―ルヴェルト)へと駆けていく。

 

 

「っ! 俺を無視するのかよ!」

 

 

 てっきり戦闘になると考えていた一護は遅れて追いかける。飛廉脚によって追跡しつつ、黒い霊圧を固めて矢につがえる。

 狙いは剣八の背中。

 一護は彼女の強さを信頼しているからか、あるいは咄嗟のことだったからか、全力でそれを放った。

 背後から迫る黒い矢には剣八も気づき、反転しつつ空中で弾く。しかし衝撃で吹き飛ばされ、近くの建物に叩きつけられた。一護はその場で停止し、再び矢を用意して構える。

 だが剣八は激突した場所で剣を振り回し、周囲の建造物を丸ごと消し飛ばす。彼女の放つ絶大な霊圧によって瓦礫は焼き切れ、蒸発するかの如く消滅していた。

 

 

「っ! すげぇ霊圧だ……」

「私を止めたいのなら、まずはその腑抜けた霊圧を叩き直しなさい」

 

 

 苛立ちを込めて剣八は刃を振るう。

 それだけで直線上が破壊され、余波で周囲の建造物が消滅した。眼帯を外した彼女は、ただ剣を振るうだけで万象を破壊する。一護は即座に回避するも、その背後に剣八は回り込んでいた。

 直前で気付いた一護は右手に黒い霊圧を固め、それによって剣八の攻撃を受け止める。しかしあまりの威力に踏ん張りが利かず、一護は地面へと叩き付けられてしまう。また剣八は追撃としてそのまま刃を振り下ろした。

 すると一護は左腕を前に出し、その攻撃を受け止める。

 それは無謀にも思えた。

 刃と腕ならば、普通は前者が勝つだろう。だが、一護には防御できるという確信があった。彼の左腕表面に血管のような紋様が奔る。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 凄まじい衝撃により、一護は呻いた。

 だが腕は完全に剣を受け止めていた。これには剣八も驚かされる。

 

 

「これでは斬れませんか。凄まじい防御です」

 

 

 だが剣八も慌てはしない。

 斬れないものを斬れるようになる、ということも斬り合いの醍醐味だ。何より、彼女はまだ始解と卍解を残している。だからこそ余裕があった。

 何より、剣八には一護と戦う理由がないのだ。

 彼女は一護を地面に叩きつけたまま、刃を押し込んでいく。一護も必死に抵抗するが、剣八の凄まじい膂力によって抑え込まれる。こうして一護を縫い付け、言霊を口にする。

 

 

「縛道の六十三、鎖条鎖縛」

「なっ!? 虚閃(セロ)!」

 

 

 霊圧を編んだ太い鎖が一護へと巻き付き、それで一護は咄嗟に虚閃(セロ)を放つ。ほぼノータイムで放たれた霊圧の閃光が剣八の顔に直撃し、仰け反る。この間に一護はその場から離れ、体勢を立て直した。そればかりか弓を構え、剣八に向けて弦を引く。

 

 

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

 

 次は漆黒の閃光が発射される。

 それを見切った剣八はただの一振りによって黒虚閃(セロ・オスキュラス)を引き裂いた。彼女を中心に裂かれる黒い閃光は、周囲の建物を破壊して終わる。

 

 

「あくまでも邪魔をするというのですね? 黒崎さん」

「ああ。俺にはそうするしかねぇんだ」

「ならば斬って進むことにしましょう。ユーハバッハとの戦いを邪魔されても面倒です。野晒(のざらし)!」

 

 

 剣八の斬魄刀が大太刀に変化する。

 ありとあらゆる特殊な霊圧を飲み干し、剣八へと及ぼされる効果を無効化する彼女らしい能力がある。しかし純粋な攻撃能力に特化した一護を相手にする場合はあまり意味がない。初見殺しな能力が多かった星十字騎士団(シュテルンリッター)が相手の時は猛威を振るったが、今の野晒は扱える霊力が増大して攻撃力の増した斬魄刀に過ぎないのだ。

 

 

「本気で来なさい黒崎一護。この私を前にして余計なことが考えられると思わないことです」

「お、おおおおおおおおおお!」

 

 

 一護は奮起する。

 上昇し続ける剣八の霊圧は、かつての藍染を思わせるほどだ。それもただの藍染ではない。崩玉を取り込んだ藍染を思わせる威圧感である。あの絶望を思わせた絶対的力に対し、一護は右手へと霊圧を集中させた。これによって黒い霊圧がその右腕を包み込み、それを固めた漆黒の刃が出現する。

 

 

 

  ―――無月

 

 

 今の一護がコントロールできる霊圧の全てを一撃に込めた最強の奥義。

 かつては力を使い尽くすことで発動したそれを、剣八に向けて放った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 血に塗れた白哉のもとに、恋次とルキアも現れた。

 二人は慌てて近づき、白哉の手当てを開始する。ルキアは回道によってその傷を癒し始めた。

 

 

「兄様! 何があったのですか!?」

「……黒崎一護と更木隊長がこの先で戦っている」

「一護が滅却師に付いているということは知っています。何があったのでしょうか? 浦原は一護が人質を取られていると言っていましたが」

「隊長、俺も気になっています」

 

 

 治療が終わるまでの戯れか、純粋に情報共有のためか、白哉は知り得た情報を伝える。

 

 

「黒崎一護は人質を取られている。それは事実だ。そしてあの男は滅却師の母を持つらしい」

「何……それは真ですか?」

 

 

 ルキアは驚愕する。

 一護の母親についてはルキアもよく知っていた。勿論、会ったことがあるわけではない。一護の母、黒崎真咲はグランドフィッシャーという虚によって喰われたのだ。

 つまり黒崎真咲には虚へ対抗する力があった。

 だが、虚に喰われた。

 あの黒崎一護の親となる人物なのだから、大きな力を持つ滅却師であったことは間違いない。それでいてグランドフィッシャーごときに敗北したということは、何か特別な事情があったということである。そのことに思考を割かれたルキアとは裏腹に、恋次は一護の力について尋ねた。

 

 

「あいつは隊長を追い詰めるほど強かった、ということですか?」

「私が手加減すると思うか?」

「……いえ」

「気を付けろルキア、恋次。黒崎一護は死神、虚、そして滅却師の力を自在に使う。霊圧を固めて接近戦を行い、虚閃(セロ)を扱い、滅却師の防御法や歩法まで使ってみせた。これまでの黒崎一護とは一線を画すと思え」

「わかりました……とはいえ、あの戦いに踏み込むのは難しそうですが……」

 

 

 恋次が視線を向ける先では、霊圧が飛び交い、破壊が撒き散らされていた。剣八が放ったと思われる斬撃を黒い霊圧が受け止め、そうかと思えば漆黒の閃光が放射される。 

 そしてゾッとするような霊圧が一瞬だけ空間を支配した。

 

 

『っ!』

 

 

 三人は身を固めてしまう。

 霊王宮での修行では、濃い霊圧に満たされた空間で行動するという訓練もあった。だが、それが酷く温いと感じるほどの巨大な霊圧が周囲を支配したのだ。

 発信点は二つ。

 剣八と一護である。

 次の瞬間、巨大な斬撃と、漆黒の斬撃が衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の月牙天衝。

 それは一護が滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)によって発現した最終奥義だ。一護自身にそのつもりはなかったが、絶大な霊子収束より放たれる一撃は紛れもなく滅却師の力に起因している。

 だが、これは一護の力が未熟だったからこそだ。

 斬月のふりをしていた滅却師の力(斬月のおっさん)が、死神の力を抑え込んでいたからだ。

 

 

「無月」

 

 

 故に今の一護は最後の月牙天衝を通常攻撃として放つことすら可能とする。扱いきれる限界の霊圧を圧縮して放つという性質上、チャージ時間は必要だが、たった一撃で力の全てを失うということはない。

 一護は二度目の無月を放った。

 

 

「くっ! あの時の力ですか!」

 

 

 一方で剣八は打ち消すだけで精一杯だ。全開の霊圧を込めて野晒を振り下ろし、無月を相殺する。しかしその威力を抑え込むことはできず、余波により傷を負っていた。

 圧倒的な霊圧を放つ剣八に、余波だけで傷を与える。

 これはすなわち、彼女でも直撃は避けなければならないということである。

 斬るか、斬られるか。

 この綱渡りのような戦いに、剣八は興奮し始める。

 

 

「何という力。これほどの……」

「剣八。俺はあんたを斬りたくねぇ。引いてくれ」

「いいえ退くものですか。これほどの戦いから背を向けるならば死んだ方がマシ! いえ、死ぬよりも辛いことでしょう!」

「剣八!」

「ですが私も護廷十三隊の隊長。ここであなたと戦うのも良いですが、目的を果たしてしまいましょう。ユーハバッハの居城がアレならば」

 

 

 剣八は霊圧を限りなく高め、同時に剣を両手で握って掲げる。

 彼女を中心として爆発的に上昇する霊圧を見て、一護も三発目の無月をチャージした。徐々に剣八の体へと紋様が広がっていき、その身体から漏れ出す莫大な霊圧が蒸気のようになって消えていく。

 

 

「卍解」

 

 

 本能的に危機を感じた一護は、右腕へと圧縮した黒い霊圧を解き放つ。

 三度目の無月が世界を裂き、剣八へと迫った。

 これには一護自身も慌てる。

 

 

(不味い! 加減が!)

 

 

 崩玉を取り込んだ藍染へと放った無月をも超える威力であった。

 確実に殺してしまう。

 そう考えたからこそ一護は焦ったのである。

 だが、この考えが杞憂であった。

 

 

呑曝(のざらし)

 

 

 剣八は真の卍解を解き放つ。

 振り下ろされた一撃は無月を飲み込み、遥か先でそびえる真世界城(ヴァ―ルヴェルト)すら切断した。左右に、真っ二つに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




真・卍解

呑曝(のざらし)
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