綺麗な剣八   作:NANSAN

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54 暴虐の卍解

 ユーハバッハの城が両断された。

 この光景はあらゆる場所で見ることができた。

 

 

「馬鹿な! 陛下!?」

 

 

 過剰に反応したのはリジェである。

 最も忠実な騎士団として、彼は驚愕と共に激しい怒りを覚えた。

 

 

「何という不敬! 何という……何という……っ!」

 

 

 あまりの怒りで言葉すら見つからないらしい。

 完聖体となった彼は、八枚の光翼を広げて貫通の光を放つ。

 

 

「処刑だ。陛下の栄光ある居城を破壊した不遜なる輩を排除せねばならない!」

 

 

 無尽蔵とも思える貫通攻撃が降り注ぎ、京楽たちは回避を強要される。一応は平子の逆撫がリジェの感覚を狂わせているが、これほどの全方位攻撃では意味がない。少なくとも狙いを定められずに済んでいるということだけが救いだ。

 

 

「更木隊長は流石だけど、こっちは困ったねぇ」

「呑気な事を言っている場合ですか隊長!」

「そうは言ってもね。あちらは一撃でボクたちを殺せる。そしてボクたちの攻撃はすり抜ける。これじゃどうしようもないよ」

 

 

 京楽としてはお手上げであった。

 だが、本当に手がないわけではない。それは彼の卍解である。物理的ではなく、概念的な干渉をする彼の能力ならば無敵のリジェにも通用するだろうと予想していた。

 しかし大きな問題がある。それは彼の卍解が敵であろうと味方であろうと巻き込む無差別型だからだ。

 貫通する光によって消滅していく見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の街並みを眺めつつ、京楽は思考を巡らせていた。

 

 

(ボクたちに逆転の目があるとすれば……)

 

 

 そっと背後に付き添う七緒を見た。

 彼女は京楽の副隊長という立場であるが、斬魄刀を持たない。鬼道の腕によって副隊長へと就任した文句なしの達人である。斬拳走鬼のバランスが良い人物が副隊長として選ばれやすい中、鬼道の評価だけで副隊長となったのだから腕の良さが窺える。

 しかし本当に斬魄刀を持たないわけではない。

 伊勢七緒はとある斬魄刀の所有者である。

 

 

(神剣・八鏡剣。ボクが預かっているあの剣ならば……あるいは)

 

 

 あらゆる概念を映し出し、跳ね返す神の剣。

 それは伊勢家に伝わる呪いの剣だ。

 女系貴族である伊勢家は神剣を継承しており、そのために短命を強いられる一族であった。七緒はその継承者であった。

 京楽が預かっているこの剣を使えば、リジェの貫通すら跳ね返すだろう。だが、これを七緒に還すということはそのまま呪いを返すということに他ならない。

 一通り全体攻撃したら自分たちを無視してユーハバッハの元へと向かって行くリジェを眺めつつ、京楽はそんなことに頭を悩ませていた、

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「こいつ! どうなってやがる!?」

 

 

 冬獅郎は思わずそう叫んだ。

 彼の相手するペルニダが不気味な能力を使うからであった。ペルニダの能力は強制執行(The Compulsory)は非常に厄介だ。

 マユリは分析した結果を口にする。

 

 

「ふむ。どうやら神経を伸ばして侵食し、物体を操っているようだネ。おそらくは人体にも侵入し、自在に操るのだろう。死にたくなければ攻撃に触れないことだヨ」

「解説にっ! 感謝! するぜ!」

「この程度は簡単なことだヨ。それよりも早く凍らせてはどうかネ?」

「分析するからまだ凍らせるなつったのはテメェだろうが涅!」

 

 

 二体に分裂したペルニダと戦うのは骨が折れる。地形に神経を侵食させることでフィールド全体がペルニダの武器となっており、非常に戦いにくい。

 

 

「まったく。役立たずめ……ほら、もっと攻撃するんだヨ!」

「テメェも手伝え! せめて片方を相手しやがれ!」

「私は敵の分析という重要な仕事をしているのだ。そんなことも分からんのかネ? これだから脳のない馬鹿共は困るヨ」

「こ、こんにゃろ……」

「抑えてください隊長! それより前! 前!」

「ちっ! 氷輪丸!」

 

 

 二体のペルニダは、腕のような形状をしている。その掌には巨大な目玉があり、その中に複数の瞳が存在している。実に化け物のような風貌だ。

 しかし見た目が巨大な左腕だからと侮ってはいけない。

 ペルニダはそれぞれの指で霊子を収束し、弓を形成した。そこから神経の繋がった矢を放つ。これによって軌道すら操れる矢となり、更にはこの矢が当たることで強制執行(The Compulsory)が発動し、人体すら強制的に捻じ曲げてしまう。

 冬獅郎は氷輪丸によって氷壁を生み出し、更には氷水を放つことで動きを鈍らせた。しかしペルニダの矢は氷にも侵食し、氷輪丸から制御を奪い取ろうとする。

 

 

「くそ! 氷輪丸の能力にも干渉するのか! 松本!」

「はい!」

 

 

 乱菊は斬魄刀、灰猫を操る。彼女の斬魄刀には刀身がない。刃は灰となって散り、それが降りかかった場所を斬るのが彼女の能力だ。

 これによって氷へと侵食するペルニダの神経に灰が降りかかり、乱菊はその状態で柄を振るう。すると斬撃が奔った。

 

 

「ギィィィッ!?」

 

 

 途端にペルニダが酷く苦しみ、悶える。

 するとマユリは興味深げに分析を続ける。

 

 

「やはり神経が剥き出しになっている分、少しの刺激を強く感じるようだネ。よく見ると氷を侵食する速度は極めて遅い。低温によって感覚が鈍っている、といったところカ」

「マユリ様! 後ろです!」

 

 

 不意に背後で地面が割れ、そこから神経の束が現れる。狙いはマユリだ。慌ててネムが警告し、盾になろうとする。

 しかしマユリは疋殺地蔵によりネムごと打ち払う。

 よくみるとその柄には見慣れない器具が取り付けられていた。

 

 

「ふむ。自動迎撃センサーを取り付けてみたが、反応は上々。しかし剣以外の特殊な攻撃に対しては些か精度が低いようだネ。何を転がっているんだ。邪魔だヨ、ネム」

「も、申し訳ございません……」

「さっさと立てこのウスノロ!」

 

 

 相変わらず理不尽だが、ネムは大人しく従う。

 その間にペルニダは苦しみ悶えていた。疋殺地蔵の能力で麻痺毒が撃ち込まれ、神経を動かせないのだ。またついでとばかりに打ち込まれた激痛薬がペルニダの片割れを苦しめる。

 またここで冬獅郎も卍解を切った。

 

 

「卍解、大紅蓮氷輪丸!」

 

 

 氷の竜が彼に憑依し、より膨大な氷が出現する。

 

 

「行くぜ」

 

 

 莫大な氷が渦を巻き、ペルニダを両方同時に閉じ込める。

 先程、これによって神経の動きを鈍くできることは証明済みだった。だがここで異変が起こる。ペルニダは激しく神経を侵食させ、あっというまに冬獅郎の氷を乗っ取ったのである。そして氷の腕へと変形させ、冬獅郎へと襲いかかった。

 これには驚かされ、慌てて更なる氷を放って相殺する。

 またこの様子をマユリは興味深げに観察していた。

 

 

「ほう、どうやら環境を理解し、適応する能力があるようだネ。いや、周囲の情報を取り込んで進化すると言った方が正しいかもしれないヨ。実に! 実に興味深いヨ!」

「さっさと手伝え! どうすればいい!」

「煩いヨ! 私が何もしていないとでも思ったのかネ?」

 

 

 氷に包まれたペルニダ本体の片方がブクブクと膨らみ、破裂する。同時にそれを包み込んでいた氷も弾け飛び、また神経が飛び散った。

 

 

「さっき補肉剤の応用品を投与しておいたのだヨ。アレは肉体の再生能力を増幅させ、過剰再生により破壊す――」

 

 

 しかし肉片となったペルニダは各々が再生し、それぞれがペルニダとなった。丁度、初めに剣八が切断したことで二つに増えたように。

 

 

「――どうやら簡単じゃあないようだネ」

 

 

 神経より取り込んだ情報を分析して適合させ、更には破壊されても肉片から再生して分裂までする。実に面倒な相手であるということが分かった。

 だが、冬獅郎もマユリも慌てはしない。

 無数に分裂したペルニダが神経接続した矢を構え、一斉に狙いを定めていても特に動きは見せなかった。

 その理由は背後から感じる莫大な熱。

 

 

「万象一切、灰燼と為せ」

 

 

 藍染との戦いで失われた左腕を治し、復活した護廷の統率者。

 

 

「流刃若火」

 

 

 山本元柳斎重國が最強最古の斬魄刀を解放する。

 放射された地獄の如き炎は一瞬にして周囲を嘗め尽くし、卍解した冬獅郎の氷すら蒸発させてペルニダを灰へと変えてしまう。

 

 

「往くぞ涅隊長、日番谷隊長。ユーハバッハを討つためにのぉ」

 

 

 元柳斎は侵影薬を以てしても卍解を取り戻すことはできなかった。やはりユーハバッハが特別ということだろう。

 だが始解だからと侮ってはいけない。

 圧倒的な火力は健在なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 無月ごと真世界城(ヴァ―ルヴェルト)を真っ二つにした剣八だが、そのままの勢いでユーハバッハの元を目指していた。

 背後からは一護が追いすがり、黒い矢を放つ。

 しかし剣八はその全てを回避していた。

 

 

「待て! ここからは通さねェ!」

「あなたにはユーハバッハを守る義理などないはずでしょう? そこまで身を張るのはなぜですか?」

「親父と妹たちを護るためだ! 無月!」

 

 

 響転(ソニード)によって回り込んだ一護は、そのまま無月を放つ。だが卍解・呑曝(のざらし)を解放した剣八はそれすら斬った。

 今の彼女は全身に紋様が浮かびあがり、霊圧が蒸気のように立ち昇り、まるで鬼のような風貌となっている。圧倒的なパワーより放たれる攻撃はその全てが一撃必殺だ。一護の切り札、無月とも正面から撃ちあえるほどである。

 またこれが可能なのは、剣八の卍解があらゆる霊圧攻撃を喰らうからでもある。無月の絶大な霊圧を一部吸収し、残りを斬撃の威力で突破しているのだ。

 

 

「ユーハバッハは世界を壊そうとしています。そうなればあなたの家族も死にますよ? いえ、死のない混沌の世界を彷徨うことになるかもしれません。ならば」

「そんなことができるかよ! 俺は……俺は……ただ護りてぇんだ!」

「ならばその腑抜けた攻撃を何とかしなさい! 本当に信念を貫きたいのなら、この私を殺すつもりで攻撃しなさい! 殺さないようにという的外れな考えが透けて見えますよ」

「っ! それは……」

 

 

 白哉にも言われたことを剣八に改めて突き付けられる。

 そんな一護に対し、彼女は告げた。

 

 

「あなたの仲間を信じなさい。そしてあなたは自分の守りたいもののために力を振るいなさい。たとえあなたが私を殺したことで世界が滅んだとしても、それはあなたの責任ではない。この私が弱かっただけのことです。三界を維持するべき護廷十三隊が不甲斐ないだけ! 思いあがらないことです、黒崎一護!」

「俺は……」

「力を尽くしなさい。本気で私を止めるつもりなら、秘めた力を全て使いなさい」

 

 

 剣八は強く語りかけ、同時に何度も剣を振るう。

 その度に世界は壊れ、空間すら破壊され、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)は消滅していた。彼女の真の卍解はあらゆる物質を破壊して飲み干す。濃密かつ強大な霊圧はありとあらゆる霊子結合を焼き切り、崩壊させるのだ。

 一護の無月も同じく世界を両断するほどの高威力技だが、剣八ほどデタラメではない。

 激しい打ち合いは真世界城(ヴァールヴェルト)すら崩壊させ、本来あった姿は半分以上が崩れ去っていた。

 それが我慢ならなかったのだろう。

 最も忠実な原初の騎士団員が四対八枚の翼を広げて立ち塞がる。

 

 

「陛下の世界を汚す愚か者め! 罪深い! 罪深いぞおおぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 万物を貫く光が幾重にも放たれ、その全てが一護すら巻き込む勢いで剣八に殺到する。察した一護は即座に回避したが、剣八は立ち向かった。

 防御など不可能であるはずの絶対的な概念干渉に対し、剣八は呑曝(のざらし)を振るう。食い尽くした霊力を力と速度へと割り振り、純粋な全力全開の暴力によって世界を引き裂いた。

 

 

 ――奥義 八千流(はかい)

 

 

 無数の斬撃が一瞬の間に放たれた。

 もはや目視など不可能な領域であり、一撃としても認識できないだろう。それらは空間すら引き裂き、そこに存在するあらゆる事象を破壊する。万物を貫く光ですら、その例外ではなかった。

 

 

「馬鹿な……ボク、が……」

 

 

 完聖体となったリジェは本来、無敵であった。あらゆる事象を貫通し、すり抜けるという反則のような特性を得ていた。

 だが剣八の八千流(はかい)はそれらを壊す。

 彼女の卍解は三界を壊す危険性すらあるため、零番隊がわざわざ忠告したほどのものだ。

 最強の滅却師を容易く排除した剣八は、一度の跳躍で空高く飛ぶ。そしてユーハバッハの待つ、城の天辺へと上り詰めた。

 

 

 

 

 

 

 




八千流(はかい)

 綺麗な剣八の専用コマンド。真の卍解状態でのみ発動することができるため。目の当たりにすることは滅多にない。
 相手は死ぬ(無慈悲)
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