突如として出現した光の柱を、ハッシュヴァルトは避けることすらしなかった。
力、知識、生命の全てを奪い去られることを知っていながら受け入れた。
「くっ……」
彼は呻き、剣を手放して倒れる。
こうなることは分かっていた。だからこそ、他の滅却師たちを逃そうとしていた。ユーハバッハはこの戦場で
だが、その中に彼自身の命は含まれていなかった。
「なぜ、逃げなかったのですか?」
「……石田、雨竜か」
「あなたならば滅却師を率いて逃げることもできたはず。こうなることも知っていたでしょう?」
倒れるハッシュヴァルトの側に雨竜が現れる。
また見渡せばバズビーたちも息絶えていた。
「彼らを殺してまでユーハバッハに仕えるべきだと考えたのですか?」
「……好きに考えろ」
「あなたは」
「無駄話をしている暇はあるまい。陛下は既に完全となられた。黒崎一護も、お前も、そして私たちも陛下には不要なのだ。行くがいい」
彼の本心がどこにあるのか、雨竜には最後まで分からなかった。
「お前は友を助けるべきだ」
雨竜の側には織姫やチャドもいる。
夜一、グリムジョー、ネリエルもいる。
全てに与え、全てから奪ったユーハバッハとは異なり、黒崎一護には皆が自然と力を貸す。ユーハバッハは確かに力を与え、望みを叶えてくれた。忠誠を誓う程度には恩を感じていたのだろう。だが、心から慕っていたかといわれれば首を傾げる他ない。
彼の天秤が釣り合うことはない。
だが……
「結果は変わらずとも、思うがままに選択し、思うがままに進んだ。後悔は何一つ……ない。石田雨竜、お前もそのようにするがいい」
ハッシュヴァルトの眼が元に戻り、未来予知の力の一端もユーハバッハへと帰っていく。その最後に見た景色は何だったのだろうか。
その言葉を最後に彼から力が抜けた。
最後の言葉で雨竜に何を語ろうとしていたのかも、分からないままである。
「行こう、皆」
雨竜は背を向ける。
そして誰かに言い聞かせるわけでもなく、呟いた。
「僕は僕の道を進む。あなたに言われずとも」
◆◆◆
相対する剣八とユーハバッハ。
互いに様子見するためか動きのない時間が過ぎ去っていく。この均衡を破ったのは、意外にもユーハバッハであった。彼はその剣に宿す残火の太刀より焦熱を放つ。対して剣八も
ぶつかり合う二つの霊圧により、その中心部はごっそり消滅した。
するとユーハバッハはその背から広がる光の翼を変形させた。幾重にも分裂してそれぞれに穴が開く。そしてその穴から光が放射されたのだ。
剣八は目にも留まらぬ速度で剣を振るい、全ての光を打ち落とす。
「やるではないか!」
ユーハバッハの放った光は
蒸気のような霊圧を放つ剣八がユーハバッハへと接近し、剣を振り下ろした。ユーハバッハの未来予知も彼女には通用せず、その動きを予測することすらできない。この絶大な身体能力から繰り出される一撃は回避不可能だ。
理不尽な暴虐によってユーハバッハは塵となる。
だが次の瞬間、彼は無より復活した。
「無駄だ。私を殺すことなどできん!」
「なるほど。不死を斬る。おもしろい!」
「不死? 違うな。完全となった私は未来を見通し、そして未来を自在に改変する。私はただ、私が死ななかった未来を手繰り寄せたに過ぎん!」
「ならば全ての未来であなたを破壊すれば問題ありませんね」
再び剣八が剣を振るう。
奥義・
しかしこれはあくまでも時間稼ぎに過ぎない。
コンマ一秒にも満たない僅かなものだったが、それでもユーハバッハにとっては充分であった。
だがこれも剣八は破壊する。
これによってユーハバッハは一秒の猶予を得た。この決定的な瞬間を利用し、ユーハバッハは黒の混じった光の翼を変形させ、
「邪魔」
しかし剣八はその身を回転させながら放つ斬撃でその全てを切り裂いた。刃の直線上は滅却により消滅してしまい、空間すら歪ませる。
そこでユーハバッハは
そのまま残火の太刀で剣八を両断しようとする。
攻撃が受け止められたことで剣八も一瞬は驚くが、すぐに獰猛な笑みを浮かべて力を込めた。それだけでユーハバッハの腕は
互いの霊圧が衝突し、再び周囲が抉れた。
「終わりです」
剣八は間髪入れずに奥義・
無数の斬撃がユーハバッハを存在ごと消し飛ばすかに思われた。これには彼も焦る。
「ぬぅ……」
しかしこれで狙い通りである。
振り下ろされた
「硬い……?」
「呆けている暇はないぞ更木剣八!」
放たれる鋭い突き。残火の太刀に
すぐに
だがユーハバッハの攻撃は止まらない。
「私は滅却師の始祖。私が全てを与えたのだ。故に私は全ての力を持つ。貴様の前にいるのは星十字騎士団の総力よりも上の存在! なぜなら私は彼らよりも能力を上手く扱うことができるのだからな!」
展開される無数の
これが剣八へと一斉に襲いかかる。
また
「くっ、ならば――」
「何もさせん」
奥義・
回避も防御も不能。
このまま剣八は嵐のような攻撃に晒されると思われた。
しかしここで黒い影が割り込む。
「無月」
漆黒が空間ごと引き裂き、強化された残火の太刀と
「あんたが言ったんだ。好きに邪魔しろってな。文句は言わせねぇぜ」
「見えていたとも一護! その力、頂くぞ」
「何っ!?」
だがこれはユーハバッハの思う壺。
彼はその背から伸びる光の束で一護を包み込み、力を奪う能力によって滅却師の能力を吸い取っていく。滅却師、虚、そして死神の力を持つ一護がこれで死ぬことはないが、その力の三分の一を奪われてしまった。三日月のような弓が消失し、滅却師としての能力が消え去る。
一方のユーハバッハは右手に黒い霊圧を集めた。
「これで終われ更木剣八! 無月!」
「どきなさい黒崎一護!
一護を掴んで投げ飛ばし、
「剣八!」
投げ飛ばされた一護が最後に見たのは、荒れ狂う黒い霊圧に飲み込まれた剣八の姿であった。
原作より絶対強いユーハバッハ
逆に! 逆に考えるんだ!
こうでもしなければ綺麗な剣八とは勝負にならないのだと
だって「未来改変で生き返るなら全部殺せばいいじゃない」とか言っちゃう脳筋ちゃんだぜ?