綺麗な剣八   作:NANSAN

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56 始祖の力

 突如として出現した光の柱を、ハッシュヴァルトは避けることすらしなかった。

 力、知識、生命の全てを奪い去られることを知っていながら受け入れた。

 

 

「くっ……」

 

 

 彼は呻き、剣を手放して倒れる。

 こうなることは分かっていた。だからこそ、他の滅却師たちを逃そうとしていた。ユーハバッハはこの戦場で聖別(アウスヴェーレン)を行っている。ここから逃れ、現世にでも脱出すれば滅却師は生き残ることができるだろう。

 だが、その中に彼自身の命は含まれていなかった。

 

 

「なぜ、逃げなかったのですか?」

「……石田、雨竜か」

「あなたならば滅却師を率いて逃げることもできたはず。こうなることも知っていたでしょう?」

 

 

 倒れるハッシュヴァルトの側に雨竜が現れる。

 また見渡せばバズビーたちも息絶えていた。

 

 

「彼らを殺してまでユーハバッハに仕えるべきだと考えたのですか?」

「……好きに考えろ」

「あなたは」

「無駄話をしている暇はあるまい。陛下は既に完全となられた。黒崎一護も、お前も、そして私たちも陛下には不要なのだ。行くがいい」

 

 

 彼の本心がどこにあるのか、雨竜には最後まで分からなかった。

 

 

「お前は友を助けるべきだ」

 

 

 雨竜の側には織姫やチャドもいる。

 夜一、グリムジョー、ネリエルもいる。

 全てに与え、全てから奪ったユーハバッハとは異なり、黒崎一護には皆が自然と力を貸す。ユーハバッハは確かに力を与え、望みを叶えてくれた。忠誠を誓う程度には恩を感じていたのだろう。だが、心から慕っていたかといわれれば首を傾げる他ない。

 彼の天秤が釣り合うことはない。

 世界調和(The Balance)を冠する彼も、友とユーハバッハを天秤にかけ、常にユーハバッハを選び続けてきた。そして今もかつての友であったバズビーにすら手をかけた。

 だが……

 

 

「結果は変わらずとも、思うがままに選択し、思うがままに進んだ。後悔は何一つ……ない。石田雨竜、お前もそのようにするがいい」

 

 

 ハッシュヴァルトの眼が元に戻り、未来予知の力の一端もユーハバッハへと帰っていく。その最後に見た景色は何だったのだろうか。

 その言葉を最後に彼から力が抜けた。

 最後の言葉で雨竜に何を語ろうとしていたのかも、分からないままである。

 

 

「行こう、皆」

 

 

 雨竜は背を向ける。

 そして誰かに言い聞かせるわけでもなく、呟いた。

 

 

「僕は僕の道を進む。あなたに言われずとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相対する剣八とユーハバッハ。

 互いに様子見するためか動きのない時間が過ぎ去っていく。この均衡を破ったのは、意外にもユーハバッハであった。彼はその剣に宿す残火の太刀より焦熱を放つ。対して剣八も呑曝(のざらし)によって破壊を解き放つ。

 ぶつかり合う二つの霊圧により、その中心部はごっそり消滅した。

 するとユーハバッハはその背から広がる光の翼を変形させた。幾重にも分裂してそれぞれに穴が開く。そしてその穴から光が放射されたのだ。

 剣八は目にも留まらぬ速度で剣を振るい、全ての光を打ち落とす。

 

 

「やるではないか!」

 

 

 ユーハバッハの放った光は万物貫通(The X-axis)の力だ。あらゆるものを貫き通す概念攻撃であるため防御などできないはずである。しかし剣八の卍解はありとあらゆる霊圧攻撃を飲み干し、物理攻撃を強要する。

 蒸気のような霊圧を放つ剣八がユーハバッハへと接近し、剣を振り下ろした。ユーハバッハの未来予知も彼女には通用せず、その動きを予測することすらできない。この絶大な身体能力から繰り出される一撃は回避不可能だ。

 理不尽な暴虐によってユーハバッハは塵となる。

 だが次の瞬間、彼は無より復活した。

 

 

「無駄だ。私を殺すことなどできん!」

「なるほど。不死を斬る。おもしろい!」

「不死? 違うな。完全となった私は未来を見通し、そして未来を自在に改変する。私はただ、私が死ななかった未来を手繰り寄せたに過ぎん!」

「ならば全ての未来であなたを破壊すれば問題ありませんね」

 

 

 再び剣八が剣を振るう。

 奥義・八千流(はかい)により万物を消滅させた。これによって空間を隔てる断界すら露わとなり、滅却させられる。ユーハバッハは残火の太刀に灼熱(The Heat)を組み合わせた攻撃によって剣八を寄せ付けないようにした。だが今の剣八に鬼道のような霊圧の放出攻撃は下策である。炎は余すところなく飲み干され、逆に剣八へと力を与えた。

 しかしこれはあくまでも時間稼ぎに過ぎない。

 コンマ一秒にも満たない僅かなものだったが、それでもユーハバッハにとっては充分であった。監獄(The Jail)の能力によって剣八を霊圧の檻で覆い尽くす。

 だがこれも剣八は破壊する。

 これによってユーハバッハは一秒の猶予を得た。この決定的な瞬間を利用し、ユーハバッハは黒の混じった光の翼を変形させ、食いしん坊(The Glutton)を発動させる。牙の並んだ巨大な口が剣八を噛み砕こうと四方八方から襲い来る。

 

 

「邪魔」

 

 

 しかし剣八はその身を回転させながら放つ斬撃でその全てを切り裂いた。刃の直線上は滅却により消滅してしまい、空間すら歪ませる。

 そこでユーハバッハは鋼鉄(The Iron)(The Power)を発動させ、夢想家(The Visonary)によって能力を強化する。また静血装(ブルート・ヴェーネ)で防御力を強化した上で剣八の剣を素手により受け止めた。

 そのまま残火の太刀で剣八を両断しようとする。

 攻撃が受け止められたことで剣八も一瞬は驚くが、すぐに獰猛な笑みを浮かべて力を込めた。それだけでユーハバッハの腕は呑曝(のざらし)から放たれる霊圧によって磨り潰され、振り下ろされる残火の太刀と打ち合う。

 互いの霊圧が衝突し、再び周囲が抉れた。

 

 

「終わりです」

 

 

 剣八は間髪入れずに奥義・八千流(はかい)を放つ。

 無数の斬撃がユーハバッハを存在ごと消し飛ばすかに思われた。これには彼も焦る。

 

 

「ぬぅ……」

 

 

 夢想家(The Visonary)により身代わりを創り、それを生存能力(The Viability)で実体化させる。これにより実体でありながら分身のユーハバッハが剣八の攻撃を喰らった。

 しかしこれで狙い通りである。

 致死量(The Deathdealing)が発動し、採取した剣八の霊圧から耐性を得たのだ。これに鋼鉄(The Iron)夢想家(The Visonary)生存能力(The Viability)、また静血装(ブルート・ヴェーネ)を組み合わせることでどうにか剣八の攻撃に耐えられる肉体を手に入れる。

 振り下ろされた呑曝(のざらし)を片手で受け止めた。

 

 

「硬い……?」

「呆けている暇はないぞ更木剣八!」

 

 

 放たれる鋭い突き。残火の太刀に灼熱(The Heat)雷霆(The Thunderbolt)を組み合わせ、動血装(ブルート・アルテリエ)によって強化した攻撃だ。これには流石の剣八も脇腹を貫かれ、致命的な傷を負う。

 すぐに呑曝(のざらし)の力で周囲の霊圧を飲み干し、それを回復力として還元する。

 だがユーハバッハの攻撃は止まらない。

 

 

「私は滅却師の始祖。私が全てを与えたのだ。故に私は全ての力を持つ。貴様の前にいるのは星十字騎士団の総力よりも上の存在! なぜなら私は彼らよりも能力を上手く扱うことができるのだからな!」

 

 

 展開される無数の神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)紆余曲折(The Wind)万物貫通(The X-axis)を込める。動血装(ブルート・アルテリエ)も使って強化したこの矢は、周囲の空間をねじ切りつつ万物を貫通する最強の矢となった。

 これが剣八へと一斉に襲いかかる。

 また灼熱(The Heat)雷霆(The Thunderbolt)を付与した残火の太刀も忘れない。剣八はどちらかに対処することを強いられる。

 

 

「くっ、ならば――」

「何もさせん」

 

 

 奥義・八千流(はかい)を発動しようとした剣八に対し、ユーハバッハは再び監獄(The Jail)を発動して彼女を一瞬だけ封じ込める。

 回避も防御も不能。

 このまま剣八は嵐のような攻撃に晒されると思われた。

 しかしここで黒い影が割り込む。

 

 

「無月」

 

 

 漆黒が空間ごと引き裂き、強化された残火の太刀と神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)を弾き返した。一護が剣八を助けたのである。

 

 

「あんたが言ったんだ。好きに邪魔しろってな。文句は言わせねぇぜ」

「見えていたとも一護! その力、頂くぞ」

「何っ!?」

 

 

 だがこれはユーハバッハの思う壺。

 彼はその背から伸びる光の束で一護を包み込み、力を奪う能力によって滅却師の能力を吸い取っていく。滅却師、虚、そして死神の力を持つ一護がこれで死ぬことはないが、その力の三分の一を奪われてしまった。三日月のような弓が消失し、滅却師としての能力が消え去る。

 一方のユーハバッハは右手に黒い霊圧を集めた。

 

 

「これで終われ更木剣八! 無月!」

「どきなさい黒崎一護! 八千流(はかい)!」

 

 

 一護を掴んで投げ飛ばし、八千流(はかい)を放つ。これによってワンテンポ遅れた剣八が不利だ。ぶつかり合う巨大な霊圧により周囲は削り取られ、破壊され、万物が滅却される。

 

 

「剣八!」

 

 

 投げ飛ばされた一護が最後に見たのは、荒れ狂う黒い霊圧に飲み込まれた剣八の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作より絶対強いユーハバッハ


逆に! 逆に考えるんだ!
こうでもしなければ綺麗な剣八とは勝負にならないのだと

だって「未来改変で生き返るなら全部殺せばいいじゃない」とか言っちゃう脳筋ちゃんだぜ?
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