崩壊する
そしてすぐに見上げる。
「剣八!」
だが返事はない。
まだ土煙が舞っており、状況も分からない。すぐに瞬歩で戻ろうとしたが、そこで背後から声をかけられた。
「黒崎君!」
「え、井上!? それにチャドに石田に夜一さん……というかグリムジョーとネルもいるのか!?」
「黒崎君、何があったの?」
「今、剣八がユーハバッハと戦っている。けど俺を庇って……」
そうして焦る一護に対し、夜一が諫める。
「落ち着け一護」
「けど」
「落ち着けと言っておろう。まずお主の家族は儂らで助けた。安心せい」
「親父たちを? そうか、ありがとう夜一さん」
「今は喜助の奴が安全を確保しておる。それよりも状況を教えよ。あの更木剣八が戦っておるのじゃ。心配することはあるまい」
そう告げて目を上げると、確かにまだ剣八の放つ霊圧が感じ取れた。しかも先程より増大しているようにすら感じ取れる。強すぎる霊圧のせいで空間そのものが歪んでいた。
「一護。まずはお主が知る限りのユーハバッハの力を教えてくれ。移動しながらの」
「ああ、分かった」
合流した一護たちは、情報共有しながらユーハバッハの元へと駆けだした。
◆◆◆
同じくユーハバッハの所へと急ぐ死神の一団だが、元柳斎は眉を顰めつつ睨みつけていた。その理由は世界を蒸発させるかにも思える熱である。
「おのれユーハバッハめ」
元柳斎は自分の卍解が利用されていることを理解していた。
寝食を共にした戦友にして魂の絆で結ばれた存在こそが斬魄刀。そして卍解とは斬魄刀の本質ともいえる状態である。怒りを露わにしないはずがない。
「けど、これじゃボクたちも近づけないね。どうにかならないかい日番谷隊長」
「……正直難しいと思うぜ。あの霊圧の中で氷輪丸が上手くやってくれるかどうかは五分五分だ」
彼らは自分たちが何もできないだろうと察していた。
そもそもあの戦いに飛び込むことすら難しい。下手をすれば剣八の卍解に巻き込まれ、存在ごと抹消されてしまうことだろう。このままでは邪魔にしかならないということだ。
「どうするんだい山爺」
「和尚を探すのじゃ。おそらくユーハバッハにやられたのじゃろう。じゃが、奴の力ならば名を呼ぶだけで復活するはず。あの者の力を借りることができれば、話は変わるじゃろう。零番隊を復活させることも叶うかもしれん」
「何だって?」
「それが兵主部一兵衛という男じゃ」
最も古い死神である山本元柳斎重國は、兵主部一兵衛という男について少しは知っていた。まだ世界が混沌であった頃より力ある存在として君臨していた土地神のような人物である。後に霊王となる青年がいなければ彼こそが神と崇められていたことだろう。
尸魂界の万物に名を与えたということに嘘偽りはない。
「遺体でも構わん。探せ!」
ユーハバッハとの戦いは剣八に任せ、零番隊の捜索を開始した。
◆◆◆
すっかり崩壊したユーハバッハの城の奥で、剣八は膝をついていた。一方でユーハバッハは全身を黒い何かが覆い、また腕には黒い霊圧がまとわりついている。特にダメージを負った様子もない。
「恐るべき死神だ。更木剣八よ」
彼はその口によって褒め称えた。
「この私にここまで対策させたのだ。お前は誇るべきだ」
完聖体、
何よりも恐ろしいのは彼の持つ
未来を観測し、自在に改変する。
これで卍解・
「問題、ありません。あなたの対策とやらも斬ればいい」
「愚かな。既に勝負は決した。私には見えるぞ。私の望む未来が! 私の願う世界が! 生も死もない、恐れのない楽園が!」
「そのような面白くもない世界を認めるわけにはいきませんね。死があるからこそ実感がある。生きているという実感が。それが斬り合いというものでしょう?」
「狂人に私の理想は理解できん。残念だ。更木剣八」
ユーハバッハは右腕に集中させた霊圧を解き放つ。一護の技、無月が世界すら断った。剣八は呑曝によって迎え撃ち、放出された霊圧を破壊して食い尽くす。そして返しの一撃を放った。
それをユーハバッハは
獣じみた勘によって察した剣八はそれらを迎撃する。
あらゆる現象を滅却する
「無駄だ!」
だが未来を改変し、死ななかった世界線を引きずり込む。
この能力がある限りユーハバッハが死ぬことはない。
「恐るべき力だ更木剣八。
「硬いなら相応の力で斬ればいいだけの話。何の問題もありません」
「くははははは……やはりお前だけはここで始末せねばならんようだな!」
「この期に及んで話し合いなどあり得ませんよ」
剣八の体に奔る紋様が一層濃くなる。
それと同時に速度と力が増し、剣を振るうだけで空間が裂けた。更には剣八の周囲が霊圧に耐え切れず蒸発していき、周囲は徐々に崩壊していく。
死神を超越し、破壊神として正しい姿になろうとしているのだ。
「これは……貴様!」
ユーハバッハは
また卍解・残火の太刀に
万物を焼滅させる爆炎と、万物を貫通して恐怖に陥れる矢が殺到する。
「邪魔」
しかし剣八は剣の一振りでそれらを食い尽くした。
更には返しの太刀で霊圧を込めた斬撃を放ち、ユーハバッハごと周囲を両断する。だがそのユーハバッハは揺らいで消失し、別の場所に新しいユーハバッハが現れた。
いや、一つだけではない。
剣八を挟んで反対側にもう一人のユーハバッハが現れる。
「更木剣八よ」
「この私をここまで追い詰めたことは驚異的だ」
「だがここまでにしよう」
「お前は自身の力によって敗れるのだ」
二人のユーハバッハが変形し、細身の美女となる。全身から蒸気のような霊圧を放ち、また赤黒い紋様を奔らせた更木剣八そのものであった。
『
三人の剣八は同時に奥義を放ち、周囲一帯が消滅する。
自分自身の滅却攻撃を受けたからか、剣八は全身から血を流しつつ落下した。
「くっ……」
かなり深い傷も負ってしまった。
しかし慌てることなく
一方でユーハバッハは無傷で宙に浮き、剣八を見下ろしていた。
そして振り上げていた残火の太刀を振り下ろす。天地灰尽が放たれ、灼熱が降り注ぐ。
瞬歩によってユーハバッハの懐へと飛び込み、そのまま斬った。
「ぬぅぅぅっ!」
「吹き飛びなさい!」
自身が真っ二つになる未来を見たユーハバッハは剣を挟み込んで防ぐも、その衝撃までは逃がせない。空高く打ち上げられてしまう。
その瞬間、ユーハバッハは真っ二つになった。
(馬鹿な。その未来は回避したはず……)
だが再び
しかし再び死が見えた。
下半身が消滅する。
首が斬られる。
心臓が吹き飛ばされる。
頭部を握りつぶされる。
四肢切断後に鬼道で磨り潰される。
滅却の霊圧で全身が砕け散る。
ありとあらゆる死を見通し、ユーハバッハは全力で生き残る未来を検索する。
(三秒後に
しかしその未来では容易く
(ならば一秒後に
その未来では一撃目こそユーハバッハの片腕を消し飛ばすだけにとどまったが、続く二撃目で上半身が消し飛んだ。
(
その未来では辛うじて生き残れる。
即座にユーハバッハは実行した。囮として生み出されたユーハバッハは剣八によって切断され、
また
剣八はそれに飲み込まれ、次の瞬間には逆に飲み干してユーハバッハへと襲いかかった。
だが、このわずかな瞬間こそユーハバッハの望んだもの。
「無月!」
右手に溜めた黒い霊圧が放たれ、迫る剣八に至近距離で放たれる。
直撃した。
ユーハバッハは確かな手応えから確信する。
「温い」
「っ!?」
だがユーハバッハは忘れていた。
斬っても死なない。
それが剣八の名であるということを。
「き、貴様ああああああっ!」
「良い斬撃ですが、油断なくもっと力を籠めるべきでした。このように」
剣八は振り切ったユーハバッハの右腕を掴み、
しかしユーハバッハは無月により追撃しなかった未来へと逃れ、死を無かったことにする。
「はぁっ! はぁっ! 貴様……不死身か……?」
「そのようなわけがありましょうか。死ぬからこそ斬り合いを実感できる。死ぬからこそ生を感じられる。不死ほど愚かしいものはありませんよ」
「化け物め」
その罵倒すら艶めかしい笑みで受け止め、剣八は自身の身体についた傷をなぞる。黒崎一護の持つ本当の力を奪い、それによって放った一撃は確かに効いた。剣八の垂れ流す絶大な破滅の霊圧すら突破して致命傷に近い傷を与えたのだから。
しかし周囲の霊圧を食い尽くし、彼女へと還元する
あっという間に塞がった。
ユーハバッハは自分の中に焦りのようなものが生まれたことを実感する。
「なぜだ。なぜ、強くなっている。時間が経つと共に私の死の未来が増えていく。貴様は卍解を使った。底を見せたではないか!」
「ふふ」
「何がおかしい!」
叫ぶユーハバッハに対し、剣八は
「一体いつから、私が全力だと錯覚していましたか?」
「なん……だと……?」
「四」
「何?」
「四割です」
馬鹿な、と言葉が漏れそうになる。
そして
同時に押し寄せる死。
死
死
死、死、死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死……
「私が理性を保ったまま扱えるのは四割までです。この意味が分かりますか?」
押し寄せる死の未来。
告げられる絶望の言葉。
ユーハバッハはその中で一筋の光明を見つける。
「お、おおおおおおおおっ!」
この
それこそが唯一の勝機だと判断して。
「まずは六割」
背後でそんな声がする。
そしてはっきりと、霊圧の上昇を感じ取った。
恐怖しつつも思わず振り返ってしまう。
――そこには『鬼』がいた。
剣ちゃんはラスボスだった……?(錯覚)