逃げる、逃げる。
ユーハバッハは力の限りを尽くして逃げる。
六割の力を解放した更木剣八は存在するだけで世界を潰していた。
その斬魄刀を一度振るえば世界が抉れる。まだ辛うじて保たれている三界が崩れ、虚無が生まれる。ユーハバッハの持つ全知全能の眼には、『反撃したら死ぬ』という未来だけが見えていた。
◆◆◆
崩壊した
「押しているのか……? 剣八が」
「そのようじゃな。儂らも追うとしよう」
「あ、ああ」
状況はいまいち理解できないものの、放置するわけにもいかない。
一護、夜一、織姫、チャド、雨竜、グリムジョー、ネリエルも揃って追いかけることにする。だが、その途中で見知った霊圧を発見した。
ルキア、恋次、白哉のものである。
どうやら固まっているらしく、そこから動く様子もない。そこで七人はまず合流することにした。
「っ! 貴様、一護ではないか!」
「テメェ、こっちに戻ってきたのか?」
「ルキア、恋次……悪かった」
「馬鹿者。謝る必要はない。貴様のことだ。人質でも取られていたのだろう? 兄様が言っておられた。だがその様子なら……無事なのだな?」
一護は縦に首を振る。
それに対してルキアはホッとした表情を浮かべた。かつて空座町の担当死神として赴任した際、黒崎家には世話になっている。また一心は恩人である志波海燕の叔父でもあるのだ。白哉からそれらの話を聞き、心配はしていた。
また同時に安心もしていた。
やはり一護は裏切ったわけではなかったのだと。
仕方なく、従わされていたのだと。
「わりぃ……皆」
「謝る必要はないと言って居ろう。こういうときに言うべきは謝罪ではあるまい」
「……ありがとう、ルキア」
これで蟠りも消えたことだろう。
白哉が本題を語る。
「黒崎一護、
「俺を? どういうことだ?」
「そこを見よ」
そう言って白哉が指さした先には、血だまりがあった。
バラバラになった死体が転がる悲惨な光景が広がっている。織姫は思わず目を逸らしていた。だが、白哉は極めて冷静に説明する。
「この者たちは零番隊。この霊王宮を守護する死神たちだ。そしてその長こそが兵主部一兵衛。黒崎一護、その名を呼ぶのだ」
「どういう、ことだ?」
「兵主部一兵衛殿はまだ生きている。力ある者に名を呼ばせ、霊圧を分け与えれば復活する。残念ながら私やルキア、恋次では足りぬ。だが、貴様ならば問題なかろう」
「お、おう?」
一護はよく理解できないまま白哉の言に従う。
「兵主部、一兵衛」
するとバラバラになっていた彼の死体が繋がり、元の姿に戻る。
「ふぅ。助かったぞ黒崎一護や」
「いや、本当に助かるのかよ」
「うむ。霊王宮にのみ伝わる超霊術を使えばこんなものよ」
「何だその胡散臭ぇのは」
呆れた様子の一護に対し、一兵衛は
「二枚屋王悦」
するとベストを着こんだ浅黒い肌の男が甦った。
零番隊はその霊脈に彼らの霊力が溶け込んでおり、その基盤さえ破壊されなければ蘇ることができる。より正確には死ぬことが許されないと言うべきか。
ともかく、斬魄刀を生み出した刀神・二枚屋王悦が復活した。
「Oh、すまねぇ」
「よいよい。それより黒崎一護にアレを渡してやれ。ほれ、アレじゃ」
「そいつは命令か?」
「そうじゃな。儂からの命令じゃ」
「なら、仕方ねぇ」
一兵衛と王悦は他の者たちに理解できない会話をした後、互いに納得した雰囲気を出す。一護たちはついて行けぬまま行く末を見守っていた。
すると王悦がキョロキョロと周囲を見渡し、やがて瓦礫の奥へと消えていく。
そして戻ってきたとき、一本の刀を手にしていた。
「チャン一にこいつを授けるZe!」
「……お、俺のことか!?」
「そうSa。この中でチャン一といえばお前だけ! さぁ、こいつを受け取れ! 史上最強の失敗作。とても瀞霊廷にゃ回せねぇ暴れん坊。
刃を下にして差し出されたその刀を、一護は恐る恐る受け取る。
そして鞘伏を握った瞬間、黒い霊圧が滲み出て刀全体を包み込んだ。それは繭のようになり、脈動し、やがて巨大な出刃包丁を思わせる斬魄刀に変化する。
「こいつは……斬月!」
「そうSa。いいかいチャン一。全ての死神は斬魄刀の元……この浅打を与えられる。そして寝食を共にし、魂を写し取ることで固有の斬魄刀になるのSa。だがチャン一はこの浅打をなしにして斬魄刀を具現化し続けていた。尸魂界が始まって以来、なかったことだ……」
「ああ、斬月のおっさんも言ってた。滅却師の力で具現化し続けていたって」
「チャン一に授けた浅打はチャンボクが作った斬魄刀の失敗作、鞘伏。刃が滑らか過ぎて、どんなものでも斬ってしまう。収める鞘がないから失敗作ってわけSa。使いこなしてくれよ。チャンボクの子供を」
新しい斬月。
それが一護の手に重くのしかかる。
最強の切れ味を備えた真・斬月となって、彼の元に戻ってきた。
◆◆◆
猛烈な速度で下へ下へと逃げ続けるユーハバッハに追いつける者は存在しえない。彼を追う『鬼』を除けば、という注釈がつくが。
(またか!)
ユーハバッハは死を予見する。
回避するべき場所を探し、左右上下前後、どこに逃れても免れないことを理解した。よって迎撃するという選択肢を取る。
(残火の太刀……食われて死ぬ。
あらゆる死を観測し、それでも一瞬の内に思考を巡らせ、回避策を練る。
今のユーハバッハにとって
未来を読んだところで、全方位から隙間なく飛んでくる銃弾を避けることができるだろうか。それと同じで、ユーハバッハは全ての未来に死が待っている。こうして検索を繰り返し、試行錯誤し、ギリギリの綱渡りで生存の未来を掴み取っているに過ぎない。
(火火十万億死大葬陣に
今度もギリギリのところで生を掴み取った。
爆発を仕込まれた死体が無数に現れ、それが迫る剣八に向けて特攻を仕掛けていく。爆発は煙幕にもなり、剣八の視線を断ち切ることもできた。
しかし次の瞬間、
空間中の万物が破壊され、飲み干され、剣八の力として還元された。
また、『鬼事』が始まる。
「ぐっ……」
斬撃が放たれ、ユーハバッハを真っ二つにしようとする。
そこでユーハバッハは影を空間に侵食させ、滅却師の影空間へと退避を試みる。しかしその影空間ごと切断される未来が見えたので、退避を断念する。
その瞬間、彼はある未来を視た。
(なるほど。そういうことか)
ユーハバッハは
「クハハハハハハハハ! 奇跡は滅びぬ!」
彼はバラバラにされて
彼はその巨体によって剣八を掴み、握り潰そうとする。しかしその手が彼女に触れた瞬間、滅却の霊圧によって消し飛んだ。
「ぬ?」
そうしてジェラルドが戸惑っている隙に剣八は一撃を放った。卍解を六割まで解放した剣八の攻撃は先程までと比べ物にならない。
差にしてたった二割などと侮ってはいけない。
歴代最強の剣八である彼女の二割なのだ。
その斬撃は空間すら滅却し、霊子結合を破壊して断界を剥き出しにする。空間ごと裂けているためにジェラルドはそこに飲み込まれそうになった。
「ふぅぅぅぅ……」
必死で断界から抜け出そうとするジェラルドに対し、卍解によって理性を食われそうになっている剣八は追加の斬撃を放つ。戦闘本能を剥き出しにした彼女はまさに鬼。
ただ呼吸するだけで世界がさざめき、食い潰される霊圧が刃へと吸い込まれていく。ジェラルドの前で剣八の姿が消失した。
その瞬間、剣八はジェラルドの背後へと駆け抜けていた。
ありとあらゆるダメージを無かったことにして、傷を自身の
真の卍解を解放した彼女に敵は存在しない。
ただ一方的に破壊し、蹂躙するのだ。
死神を超越し、破壊神と呼ばれるにまで至った更木剣八を止めることなど不可能である。
「剣ちゃん! ストップ!」
だが、このままユーハバッハを追撃しようとした剣八を少女が止める。卍解に理性を食われている剣八へと言葉を届かせる唯一の存在、草鹿やちるであった。
やちるは消滅したわけではない。
剣八の斬魄刀として生き続けている。
そして彼女が剣八を止めたのには理由があった。
「だめだよ剣ちゃん。このまま力を解放し続けたら……世界、壊れちゃうよ?」
やちるは剣八の意識へと語りかけ、彼女を鎮める。
すると全身に奔っていた赤黒い紋様が消失していき、蒸気のように立ち昇る霊子も鎮まった。その眼には再び理性が宿り、額から生えていた角のようなものも消え去る。そして大太刀に変形していた斬魄刀は元の姿へと戻った。
つまり始解すら解いたのである。
これによって急速に崩壊しつつあった世界がひと時の安寧を得た。
「やちる。止めてくれてありがとう」
「そうだよ! 剣ちゃんってばあたしがいないとダメなんだから!」
「ふふ。そうですね」
これが剣八も望む愉しい戦いであればやちるも止めはしなかった。彼女はやはり剣八の斬魄刀。その望みすら写し取った鏡。だが、ユーハバッハを相手に蹂躙していたに過ぎないため、彼女は止めたのだ。
「さて、追いかけましょうか」
この隙に見えなくなるまで離れていったユーハバッハを追いかけるべく、剣八は速度を上げた。
◆◆◆
特記戦力、未知数の戦闘力、更木剣八。
ユーハバッハ自身がそう定めた存在だったが、これに嘘偽りはなかった。霊王を手に入れ、全ての騎士団の力を手に入れても届かぬ死神。そう判断せざるを得ない。
瀞霊廷へと逃げるユーハバッハの目的はただ一つ。
更なる自身の強化である。
「藍染……惣右介……」
「どうしたのかね? 滅却師の始祖。随分と焦っているようだが」
ユーハバッハは暗闇の奥へと呼びかける。
彼は最も重い罪を犯した者が収監される最奥の監獄、無間にまでやってきた。その目的はただ一つ。この中で封じられている藍染である。
「この光すら通さぬ監獄まで二度もご苦労なことだ。次こそは一度目のような妄言でないことを祈ろう。さぁ、戯れに何か言ってみるがいい」
「どこまでも不快な男だ藍染惣右介。その崩玉を渡せ」
「……どうやら期待外れだったらしい。残念だ」
「渡さぬというのであれば奪い取るまで」
今のユーハバッハには時間がない。
一刻も早く崩玉を奪い取り、吸収し、その力を得なければならないのだ。全てを理解した藍染は暗闇の奥から見下すような口調で告げる。
「愚かなことだ」
この声はユーハバッハのすぐ背後から聞こえた。
慌てて振り返るも、そこに藍染の姿はない。
「どうした滅却師の始祖。何を恐れている?」
声が反響する。
どこから藍染の声が聞こえているのか把握することは難しい。そしてこの暗闇だ。ユーハバッハの
藍染という相手に対し、ユーハバッハが見通す未来は無限に等しい。
何故なら藍染の能力、鏡花水月は五感を欺く完全催眠なのだから。
「君の能力は未来を見通すのだろう? 恐れることはないはずだ」
「なぜ閉じ込められていた貴様が私の能力を知っている」
「簡単なことだ。外の様子を探ることができる戦友がいてね」
戦友。
そのような言葉が藍染の口から飛び出すとは思いもよらなかった。
だが次の瞬間、未来を見通すユーハバッハの眼は自身が消し飛ばされるのを観測する。また、それを為す者の正体も。
「卍解・
「きさっ……!?」
鏡花水月により隠されていた存在が露わとなる。
処刑具、双極を具現化した
一護に鞘伏はあかんて
チートや! チーターや!
それとお久しぶりです藍染様
今作の欠点は千年血戦篇における藍染様の不要説ですね。いや、ほんまに不要ですもん。剣ちゃん一人で終わっちゃうもん。
このために色々ストーリー改変していますのでお楽しみに。
……しれっと霊王の心臓を滅ぼす剣ちゃんヤバくね?