雨露柘榴の爆炎を受けたユーハバッハは全く別の場所に現れる。回避した未来を現実にすることでダメージを無効化したのだ。
息を吐く間もなく、今度は破道の七十三・双蓮蒼火墜が放たれる。
ユーハバッハはそれを黒い霊圧によって防ぎ、逆に右腕に霊圧を溜めて反撃した。かつて一護が切り札とした最後の月牙天衝、無月である。
黒い斬撃が無間を割った。
だが、それでも反響する声が止むことはない。
「不快だよ滅却師の始祖。それは黒崎一護が私の為に練り上げたものだ。君のような簒奪者が使うなど、甚だ不快だ」
藍染は重ねて不快であると告げる。
またその間にも痣城の攻撃は止まらない。
暗黒の奥より火花が散り、大量のミサイルが飛来する。更には弾ける轟音と共に無数の弾丸がユーハバッハへと殺到した。
これを
しかし次の瞬間、ユーハバッハは自身の首が弾け飛ぶ未来を見た。
「っ!」
「ほう。勘がいい……というよりも未来が見えているのだったね」
咄嗟に頭を下げたその場所を、藍染の手刀が通過していた。
しかし次の瞬間、この場所を爆炎が襲う未来も見る。
そこでユーハバッハは
この光に照らされ、藍染の姿が露わとなった。
「貴様……拘束はどうした?」
「私を縛るものなど初めからありはしない。ただ、私を打ち負かした死神たちに敬意を表してここに留まっているに過ぎないよ」
そこにいたのは縛り付ける拘束を全て解き、対峙する藍染であった。ユーハバッハが一度目に相対したときにはなかったものである。
「どうした? 何を驚いている? それとも、私のこの姿は君の眼にも見えなかったかな?」
「分かったぞ。貴様は鏡花水月で偽りの姿を見せているのだ。霊王の力を手に入れた私すら欺くとは侮れぬ死神よ」
「そうか。君には私が幻覚に見えるか」
ユーハバッハは見えぬ藍染を撃破するべく、全体攻撃として
これによって居場所不明な藍染を叩き潰し、崩玉を奪おうとしたのだ。
更には痣城双也を近づけさせないため、彼が苦手とする霊子吸収を実行する。ユーハバッハは完聖体の力で霊子を集め、マントのような漆黒の翼へと溜め込んだ。
「愚かな男だ。破道の九十九・五龍転滅」
二つの高等呪術がぶつかり、うねり、霊脈から空間までを嘗め尽くす。
一分の光すら通さぬ無間での振動は地上にまで伝わり、一番隊隊舎の一画が崩れた。
◆◆◆
十二番隊舎で浮竹を治療し続ける卯ノ花は大きな霊圧が霊王宮より落ちてきたことを察していた。そしてそれが一番隊隊舎の奥底に封じられている藍染と接触したことも。
「卯ノ花、隊長……あなたは藍染のところに」
「いけません浮竹隊長。今はお休みになってくださらなければ」
「俺のことは、もう……そんなことより……」
浮竹は自分の身体がもう持たないことを理解していた。
一時は霊王の代わりとして世界を支えていたが、その力も奪われた。加護を失った浮竹は病に体を蝕まれる一方であり、体力を奪われていたこともあって助かる道はない。
こんなところで卯ノ花という戦力を留める意味はないのだ。
「しかし……」
とはいえ卯ノ花は渋る。
勿論、彼女とて本当にするべきことが分からないわけではない。確かに、ここは浮竹の言った通り藍染の元に向かうべきだ。
そう決意しかけた彼女の背後から寒気のするような声が飛んできた。
「随分としおらしいじゃないか。初代剣八」
ただ声を聴くだけで全身の毛が逆立つ。
これは恐れというより、気持ち悪さによるものだと卯ノ花は気付いた。首を僅かに動かし、背後へと目を向ける。そして彼女がその存在を認識するより先に浮竹が口を開いた。
「お前は……
「クク。ザマないな浮竹。だが死ぬ前に私の役に立ってもらうぞ」
「どういう、ことだ?」
「お前の細胞を寄こせ。霊王の右腕と融合していたお前の細胞……私が利用させてもらう」
「このような時に何を。私の目が黒い内はそのようなこと、させません」
卯ノ花は厳しい口調で浮竹とその男の間に入り込み、片手を向ける。
そして瞬時に縛道を放てるように霊力を編み込み始めた。
しかしその男は笑みを浮かべるばかりである。
「私にそのような霊圧を向けるか。四大貴族が一角、この
「あなたが何者であろうと関係ありません。護廷に仇為すならば私がお相手しましょう」
「この私の名を畏れぬか。やはり大罪人よ。
「
「そう怖い顔をするな。私は知っているぞ。お前は何も満足していない。十一番隊隊長の座から引いた後も騒乱を求めていたと知っているぞ。そしてお前は更木剣八と戦い、死ぬことを望んでいることもな。愚かなことだ。秘めた悪逆を隠し通し、四番隊の長を務める様は滑稽だったぞ」
心の内を見通すような時灘の口調に、卯ノ花は眉を顰める。
だが感情を揺らすことはない。
それを見て時灘は面白くなさそうに笑みを消した。
「やはりお前は動かないか。まぁ良い。私の目的は変わらん」
そう告げて時灘は腰に差した刀を抜く。
「お前に手加減はすまい」
今の剣八と山本元柳斎重國を除けば間違いなく最強の死神。それが卯ノ花だ。それを知る時灘は決して彼女を医療隊の長だと侮りはしなかった。
「
長い解号が唱えられる。
その間に卯ノ花は鬼道の結界、鏡門を張る。これは鬼道を跳ね返す結界であり、鬼道系の斬魄刀も例外ではない。また仮に直接攻撃系の斬魄刀ならば卯ノ花が直接相手をすればよいのだ。
そう考えた彼女は間違いではなかった。
だが始解の瞬間、深い笑みを浮かべた時灘を見て卯ノ花はそれが間違いだったのではないかと考え、新しい縛道を練り上げ始める。
「――
時灘の持つ斬魄刀が激しく輝いた。
それは純粋な輝きであり、何か影響を及ぼすものではない。この光が消えた時、卯ノ花は時灘の持つ刀から刀身が消えていることに気付いた。
武器としては失格なその姿を思わず凝視してしまう。
「見たな?」
その言葉を聞き、卯ノ花はしまったと焦る。
目視を条件に発動する能力だと考えたからだ。そこで視線を落とし、時灘の足からその動きを予測することで対応しようと考えた。
だがその瞬間、卯ノ花は両足に痛みが走り、力が抜けてしまう。踏ん張ろうとしてもそれが効かず、彼女は地に伏してしまった。
それでも時灘からは視線を外さなかったが、ここでその姿が煙のように消えていると気付く。まだ同時に彼女の背後で時灘の霊圧を感じた。
(これはどういうことですか……?)
決して意識を離さなかった。
綱彌代時灘という男の動きは完全に捉えていたはずだった。
しかし結果として卯ノ花ですら気付かぬままに背後を取られ、両足を斬られていた。また立ち上がろうとしても力が入らず、足を動かすことができない。
そんな彼女に対し、時灘は嬲るような口調で自慢げに解説する。
「
「ふっ!」
しかしその説明の途中で卯ノ花は刃を振るった。両足が使えずとも、上半身の捻りだけで充分な威力を出せる。これが剣の鬼とまで言われた彼女の実力だ。
だが残念ながら手応えはなく、再び時灘は霞のように消えてしまう。
「言ったはずだ。私はお前を侮ってはいないと」
「鏡花水月ですね」
「さて、私はこれでも暇ではないのでね。浮竹の細胞を頂いて帰るとしよう。とはいえ、このセリフをお前が聞いている頃には私はそこにいないが」
そうして卯ノ花は視界の端に血を流して倒れる浮竹の姿を見つける。そこで彼女は始解・
浮竹は腹を抉られており、もう間もなく息絶えようとしていた。
「浮竹隊長、これは……」
「卯ノ……長……俺よりも……ゴホッ、ゴフュ……」
自分の力では助けられない。
そう考えた卯ノ花は浮竹から痛みを取り除くための回道をかける。これによって多少は楽になった浮竹が最期の言葉を述べ始めた。
「早く……時灘を。あいつは、京楽も警戒する男……」
浮竹にとって綱彌代時灘という男は知り合い以上、友人未満といった存在だ。霊術院時代の同期であり、四大貴族――当時は五大貴族――ということで注目もしていた。当時は友人らしい付き合いもしていたと浮竹は考えている。疎遠になったことで関係は終わってしまったが、京楽が酷く警戒しているのが気になっていた。
だが今、久しく見たかつての友は狂気を浮かべていた。
「今は瀞霊廷にほぼ全ての隊長格がいません。それを狙って動いたとすれば、あの男は何か大きなことをしでかすのでしょう。分かりました。私に任せて、あなたはもう休んでください」
「あ、ぁ」
「今までご苦労様でした。浮竹隊長」
卯ノ花は持ちうる回道の術を用いて浮竹を眠らせる。
できるだけ安らかに。
痛みもなく、心地よく。
肺の病に侵されつつも護廷十三隊の隊長を務めあげた男に眠りを与えた。丁度、足の神経毒も抜き取ることができた。彼女は始解を戻し、立ち上がる。
(とはいえ、藍染、ユーハバッハ、綱彌代時灘……私一人では手に余りますか)
そんな時、ふと彼女は強大な霊圧が上から迫っていることに気付く。
彼女が愛して止まない、求め続けた存在が霊王宮より戻ってきたのだ。その霊圧は真っすぐ一番隊隊舎へと向かっており、そのままユーハバッハと藍染の元へと向かっている。
任せて大丈夫という確信を得たことで卯ノ花は自身のするべきことを決めた。
その瞬間、彼女のすぐ側に何者かが現れる。
先のこともあって即座に剣を抜いた彼女は、現れた人物を見て驚愕した。
「あなたは――」
◆◆◆
ユーハバッハを追う剣八は膨大な霊圧に任せて瞬神・夜一すら超える速度を実現できる。ただ、それは直線での最高速度が凄まじいというだけであって、上手さはない。速度ゼロから最高速度に至るまでの挙動、あるいは歩法を組み合わせた立ち回り、それらを含めて四楓院夜一は優れた歩法の使い手と言われるのだ。
ただ真っすぐ進むだけとはいえ、速さで上回る剣八は流石であった。
「見つけました。この霊圧は……藍染?」
「わわ! 凄い霊圧だね!」
「ええ。どうやらユーハバッハの狙いは……崩玉のようですね」
霊圧探知が比較的苦手な剣八でも、藍染とユーハバッハの戦いくらいは理解できる。地の底より響き伝わる巨大な霊圧により、瀞霊廷そのものが地盤沈下しそうである。おそらく一般隊士では霊圧を理解することができず、ただの地震に感じられているに違いない。
剣八とて
「私たちも急ぎましょう、やちる」
「うん!」
少女を背中に乗せた剣八は、勢いよく一番隊隊舎へと降り立つ。そのまま屋根を突き破り、無間まで一直線に落下しようとしたのだ。
だが、着地する直前、屋根の上に壁のような鬼道が張られる。
縛道の八十一・断空である。
これによって剣八は屋根に触れる直前で止められてしまった。
「待て。更木剣八」
断空を発動したのは剣八にとって意外な人物であった。
かつてその名をかけて戦い、いずこへか消えてしまった男。
「痣城双也。なぜ?」
「ユーハバッハはあの男に任せておけ。そのために奴を縛る拘束を全て解除しておいた。それよりも止めなければならないことがある。綱彌代時灘という男の計画だ。奴はこの混乱に乗じ……いや、おそらくはユーハバッハと共謀してこの世を我が物にしようと考えている。このままユーハバッハを倒したとして、その計画を止めねば世界は壊れる」
「……この際、あなたが再び表に出ていることは置いておきましょう。なぜ、あなたはそれを止めるのですか?」
その問いは必然であった。
また痣城も予想していたのだろう。淀みなく答える。
「私は私自身を見つめ直したいのだ。かつて自らが理想と信じ、それを実現するために切り捨ててきたものを拾い直すために。私はお前と戦い、思い出した。何のために最強を手に入れたのか。何のために力を望んだのか。そして……」
痣城は己の腰に差した斬魄刀に軽く触れる。
「この無駄口ばかり叩く斬魄刀の思いと願いを知るために」
そして彼は剣八の眼をじっと見つめる。
「私はいずれお前から剣八を取り戻す」
まるで宣戦布告であった。
だが、剣八にとっては愛の告白であった。
こんな楽しみが待っているならば、彼に協力してもいい。そして彼が本当の自分を拾い直し、強くなって戻って来るならば大歓迎だ。それが偽らざる更木剣八の本心である。
「いいでしょう。ユーハバッハは今しばらく藍染に任せましょう。私はあなたの言う敵を仕留めるべく動きます。案内なさい」
「……感謝する。卯ノ花烈にも既に協力は取り付けている。こっちだ」
痣城双也は無駄を嫌う。
最低限の労力で
しかし今、彼が無駄と断じた対話によって剣八という
初代剣八 卯ノ花八千流
八代目剣八 痣城双也
十一代目剣八 更木剣八
時灘「( ゚Д゚)」
知らない人の為に
↓
綱彌代時灘は小説版に登場するラスボスです。四大貴族、綱彌代家の当主として登場しますが、まだ時代的に当主にはなっていません。
時期的には千年血戦篇後を描いたものになり、一護たちは空座町を離れていたということで登場しません。
なろう系斬魄刀、
ちなみに私は内容は知っていますが小説を読んだわけではないので設定だけ借りパクして本作に組み込みます。