綺麗な剣八   作:NANSAN

6 / 68
6 剣八、動く

「逃しましたか」

 

 

 屋根の上に現れた剣八は呟く。

 四楓院夜一は凄まじい瞬歩の使い手だ。一護という足手纏いを抱えていても、剣八から逃げおおせてみせた。

 仕方なく、剣八は始解を解く。

 すると剣は具象化し、やちるとなった。

 

 

「もう! 剣ちゃんが遅いから逃しちゃったじゃない!」

「ごめんなさい。でもあれは追いつけないわ。速度なら負けないけど、逃げ方が上手いもの」

 

 

 そこに音もなく裏廷隊が現れ、膝をつく。

 彼は汗を流して激しく呼吸しており、落ち着くのに時間がかかった。

 

 

「で、伝令でございます。山本元柳斎総隊長および日番谷冬獅郎隊長の連名によるものです。藍染隊長が逝去されました」

「藍染隊長が? 犯人は分かっているのですか? もしや旅禍ですか?」

「いえ、犯人は依然不明となっております」

「そうですか。連絡ありがとうございます。遺体は四番隊の隊舎に?」

「はっ! そのように伺っております」

「分かりました」

 

 

 それだけ伝えて男は去っていく。

 残された剣八に、やちるは問いかけた。

 

 

「剣ちゃんどうするの? イッチーを探すの?」

「それもいいですが、ひとまずは十一番隊に戻りましょう。一角の怪我の具合も気になりますから」

「えー、つるりんなんて放っておいて大丈夫だよ!」

「だめですよ。これでも隊長ですから」

「ふーん。剣ちゃんがいいならあたしもいいんだけどね」

 

 

 ぴょんと跳んで剣八の背中に乗る。

 やちるが定位置に着いたのを確認し、剣八も瞬歩で移動し始めた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 石田雨竜と井上織姫は共に行動していた。

 死神の衣装を奪って変装するという織姫の案により、上手く潜入できていたハズだった。だが二人は死覇装について知識が不足していた。

 死覇装にはどの隊に属しているかを示す刺繍が施されているのだが、二人はそれを知らずに適当な隊の死神だと言ってしまったことである。十一番隊の死神、荒巻がそれを目敏く見抜いた。

 

 

「ど、どうしよう石田君!」

「くそ。こうなったら……」

 

 

 雨竜は何とか全滅させようとする。

 だが、急激に状況が変化した。二人を取り囲む死神たちが自爆し始めたのだ。これには雨竜も驚き、そして荒巻という死神すら巻き込まれそうになる。織姫は旅禍だと見抜かれる原因となった彼をも能力によって守った。

 

 

「な、何で俺まで……?」

「それよりこれってどういうことなの? 仲間でしょ!」

「俺にも訳が分からねぇよ! くそ、何でこんなことに……」

 

 

 自爆していく隊士たちも好き好んで特攻しているわけではない。誰もが最後に絶望の表情と悲痛な叫びを残ししていた。

 そしてすぐにそれを成した元凶が現れる。

 

 

「ふむ。役に立たない奴らだネ」

 

 

 十二番隊隊長、涅マユリである。

 不気味な化粧と気味の悪い仮面が特徴的で、粘着質な声が耳に障る。

 そして名乗りを上げたマユリに対し雨竜は慌てた。

 

 

「くっ……隊長格だって!? 不味い!」

 

 

 全員で逃げることも不可能。

 かといって戦っても織姫を危険に晒すはめになる。

 雨竜の決断は早かった。彼女を巻き込まれた荒巻へと投げ渡し、怒鳴りつける。

 

 

「おい! ちょび髭!」

「荒巻だ!」

「どうでもいいから彼女を連れて逃げろ! 早く!」

 

 

 一人戦おうとすることに気付いたのか、織姫は必死で抵抗する。しかしやり遂げなければ殺すと言わんばかりの眼光を放つ雨竜には逆らえない。マユリに巻き込まれてはかなわないという打算もあり、織姫を連れてさっさと逃げ始めた。

 

 

(さて、ここは僕が何としてでも)

 

 

 滅却師(クインシー)、石田雨竜とマユリの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 荒巻に連れ去られた織姫だが、しばらく暴れていた。必死に雨竜と共に戦うのだと主張していた。しかし暴れまわる彼女に業を煮やし、遂に気絶させてしまう。

 そしてそのまま十一番隊隊舎まで連れて行ってしまった。

 

 

「いやーこの荒巻! 副隊長に拾っていただき感謝の極みでございます。まさかあのようなところで出会えようとは」

「うん。それはいいんだけどね」

 

 

 井上織姫は十一番隊まで連れていかれてしまった。

 しかもその隊長、更木剣八の前に。

 

 

「なるほど。それで瀞霊廷に侵入したのですね」

 

 

 意外にも剣八は織姫を牢まで連行しようとしなかった。斑目一角、綾瀬川弓親の両名を伴い、彼女の言い分を聞いていたのである。

 それは一護と戦ったからこそであった。

 

 

「あれほど必死に戦うのですからただ事ではないと思いましたが……そうですか、そのような理由で彼女を助けるために」

「はい。それで黒崎君は……」

「生きていますよ。始末するつもりでしたが、あなたの仲間に連れていかれました。ですので無事だと思いますよ。今頃、修行でもしているのではないですか」

「え、修行、ですか?」

 

 

 織姫は首を傾げる。

 ルキアの処刑まで時間もないのに修行というのが分からなかったのである。しかし剣八は彼女を諭す。

 

 

「私は彼と戦いましたが、残念ながら朽木ルキアを取り戻すには到底足りません。本気で取り戻すというのならば修行は必須。そして彼には伸びしろがあります」

「だったら黒崎君は」

「先程、連絡がありました。旅禍と思われる男三人を捕らえていると。旅禍は井上さんを含め五人ということですから、まだ捕まってはいないでしょうね」

 

 

 そんな石田君も……と悲壮な表情を浮かべる織姫に対し、剣八は彼女を慰めるようにして撫でる。

 剣八は馬鹿ではない。

 戦闘本能とも言うべきものに抗うほどの強靭な理性をそなえた綺麗な剣八である。そんな彼女は織姫の言葉を聞き、今の瀞霊廷の状況を考えさせられた。

 

 

(旅禍の実力を聞く限り、藍染隊長を殺せるとは思えませんね。だとすれば旅禍以外の勢力が何かの思惑で動いていると考えるべきでしょう。裏切り者か)

 

 

 だからこそ、剣八は一つの答えに辿り着く。

 

 

(ここはいつでも始末できる旅禍ではなく、裏切り者の炙り出しを優先するべきですね)

 

 

 裏切り者の可能性を考慮するなら、この不自然な朽木ルキア処刑すら怪しく思えてくる。

 だからこそ、更木剣八は決める。

 

 

「さて、ここからはあなたに協力してあげましょう」

 

 

 尸魂界は更なる混乱の中へと落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 朽木ルキアの処刑日、変更。

 

 

 

 

 

 

 

 ――その日程は、明日

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ざっくりダイジェスト
綺麗な剣八は正史より賢いです。綺麗なので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。