彼はそう自覚していた。
自身の行動原理は面白いかどうか。特に他者が自分の掌の上で転がり、絶望し、慟哭し、壊れる様を見るのが大好きだ。そして面白さを演出するためならば何をするにしても厭うことがない。真正のサイコパスなのだ。
「モノは準備した。さっさと始めろ。山田清之介、道羽根アウラ」
そして時灘という男は、自分の面白さの為に新しい命を創造しようとしていた。そのための協力者が山田清之介、そして道羽根アウラである。
薄暗い笑みを浮かべる清之介は元四番隊の副隊長であり、現在は貴族用医院の総代を務めている。回復の腕前は凄まじく、生きるための部品さえ揃っていればどんな状態でも生かすことができるというもの。だがそこには禁忌とされるような技術さえ厭わない狂気も含まれていた。
一方で仮面のような笑みを張り付けた道羽根アウラは死神ではない。現世の人間、
そして二人の前には幾つもの
容器に入れられた脳。
血に塗れた肉の塊。
無数の魂魄。
それらは護廷十三隊と滅却師の戦いで生じたものばかりであった。特に魂魄に至っては死神、虚、滅却師、完現術師のものなど様々である。
「急げよ。卯ノ花八千流が私を探しているだろうからな」
その言葉に清之介はピクリとも反応しない。
元上司が来ると聞けば多少は反応するかと思ったが、彼はただ目の前の術に集中していた。アウラが魂を使役することで編み込み、グレミィの脳や浮竹の細胞を核として一つの生命体を完成させていく。だがそれはとても人の形をしておらず、まさに生きた肉塊であった。
胎もなく命を生み出そうという、それも複数の魂を掛け合わせた化け物を生み出そうという試みがまともであるはずがない。このギリギリ生きている肉塊に対して清之介が回道を施し、人の形として生み出してやるのだ。
徐々に形作られていく
「良い。良いぞ。霊王が滅びた今こそ絶好の機だ。生まれろ。生まれろ。この私に従う道具として、新しい霊王として生まれろ」
綱彌代家は尸魂界の過去を司る。
その歴史を記録し、編纂し、管理する役目を持つのだ。
故に彼は知ってしまった。かつて五大貴族の祖が犯した罪と、霊王の正体に。そしてこれほど面白いものはないと考えた。
もっと世界が面白くなるように。
そう考えた彼は狂気の沙汰を思いつく。
自分に従う意思を持った霊王を生み出し、三界を好きなようにしたいと。そのため、霊王の器として相応しい存在を作り上げる必要があった。全能の存在であった霊王に倣って、あらゆる魂を詰め込んだ存在を創り出す。それこそが彼の計画の第一段階であった。
最後のパーツであったグレミィの脳を手に入れるためにユーハバッハとも契約を交わした。彼の野望に気付いたユーハバッハは何年も前から時灘に接触を図っていたのだ。その中で死神の情報を引き渡す代わりに、死んだグレミィの脳を引き渡す約束になっていた。あっさりと護廷十三隊を裏切り、瀞霊廷内の情報を売り渡した彼はやはり狂気に染まっていたのだろう。
「清之介よ。どのくらい時間がかかる?」
「あまり急かされても困ります。私の見立てでは二日、あるいは三日かと」
「構わん。
時灘はこの時のために断界に居城を用意していた。
いずれは霊王の宮となる空中楼閣を築き、断界に隠していたのだ。そして彼の望む操り人形の霊王を生み出す場として準備していた。
たとえ初代剣八が迫っていようと、この断界に逃れた時点で勝ちは決まっている。
そう、確信していた。
◆◆◆
真名呼和尚の権能により蘇った零番隊、二枚屋王悦は少々焦っていた。彼は死からの復活を経たことで力の大部分を失っている。だが生み出した斬魄刀の全てを知っているという力は健在であり、この力によりある事実を突き止めたのだ。
「Oh……こいつは不味い。
それは王悦が自身の鳳凰殿で封印していた斬魄刀であった。かつて虚圏においてバラガン・ルイゼンバーンとも並び称された
かつてはあまりに強大であるがゆえに、討伐しては魂魄バランスが崩れると判断され、封印という消極的手段を取った。これが王悦も万全な状態ならばともかく、今は間が悪かった。
「さて、どうしたものかNa……」
犯人におおよその見当は付いている。
封印を破るために付けたのであろう刀傷を見れば、どの斬魄刀の仕業か判別できるのだ。
「こいつは
ともかく、すぐに取り戻す準備をしなければ。
彼は弱体化を承知で瀞霊廷へと降りることにした。
◆◆◆
真の斬月を手に入れた一護だが、すぐにユーハバッハを追いかけるというわけにはいかなかった。その理由は霊王宮と瀞霊廷の距離である。
馬鹿げた速度でもない限り、瞬歩ですら一週間ほどかかる。だからこそ、来る際には空間を飛び越えるという形で移動した。しかしその門も既にない。
「さて、どうしたものかの」
夜一は思案する。
こういう時に浦原喜助がいれば、と思わざるを得ない。
だが、解決策は意外なところから出てきた。
「夜一さん、俺に任せてくれ」
一護はそう言って斬月を構える。
そして十字に刃を振るった。すると空間が裂け、その奥に見慣れた世界が広がる。一歩踏み込めばそこは瀞霊廷であった。
「ここを通ればすぐだぜ」
「……全く。頼もしくなったの一護」
「凄い」
「ああ。流石は一護だ」
夜一、織姫、チャドは素直に感心する。
一方でグリムジョーは忌々しく舌打ちし、ネリエルは微笑んでいた。
「その通路。儂らも通らせてはくれんか? 黒崎一護」
更にはそこに山本元柳斎の率いる隊長格が訪れる。
彼らもまた、ユーハバッハを追うためだ。
「山本の爺さん……俺は……」
「言うまでもない。元はといえば儂らの不手際。お主が気に病む必要もない」
「爺さん……」
「じゃがどうしても気に病むということならば」
協力してはくれまいか。
この言葉が元柳斎の口から飛び出たことに、京楽を始めとした皆が驚いた。規律を重んじ、死の世界を守護する鬼であった彼は、初めて人間に協力を望んだ。
◆◆◆
光を通さぬ無間の闇の中、禁呪と禁呪が衝突する。
藍染とユーハバッハは超越者に相応しい戦いを繰り広げていた。全てではないとはいえ、霊王の身体を取り込み、更には全ての騎士団から力を奪い去ったユーハバッハに敵はない。未来を見通し、自在に改変する無敵の存在と戦える存在は希少だろう。ただし剣八は例外とする。
しかし崩玉と融合した藍染もその希少な存在であった。
「滅却師の始祖。君には何が見えている? 君のくだらない理想は叶ったかな?」
崩玉を取り込み、斬魄刀と融合した藍染はかつてより力を増している。無間への収監は彼に馴染むための時間を与えることになったのだ。
「破道の九十・黒棺」
その力により詠唱破棄で九十番台の鬼道すら十全に扱ってみせる。かつては本来の三分の一にも満たない威力でしか実現できなかったが、今やその制限もない。藍染惣右介という男は全ての鬼道を自由自在に操ることができる。
更には鏡花水月と融合したことで、その能力すら彼の権能となった。
黒棺を破ったユーハバッハは何もないところを
「なるほど。流石は滅却師の王を名乗るだけはある。私の鏡花水月に抗うか」
とはいえ藍染も無敵ではない。
鏡花水月により催眠を仕掛け、その感覚をずらすことには成功している。しかし全く異なる幻影を見せるのは難しい。それだけユーハバッハの霊圧が強いのだ。
完全催眠という能力を有する鏡花水月が脅威たりえたのは、藍染が使い手だったからである。隊長格すら超える霊圧によって全てを催眠にかけ、自在に騙すことができた。しかし逆に言えば霊圧の差がほとんどなければ鏡花水月は意味をなさない。
仮に藍染が崩玉と融合していなければ、ユーハバッハにも通用しなかっただろう。
そして何よりも脅威なのは未来視である。
藍染は余裕を見せていたが、その態度通りというわけではなかった。
「見えるぞ藍染惣右介。そこか」
黒い霊圧が凝縮し、斬撃として放たれる。
かつて藍染にとどめを刺した一撃は未来視に導かれ、直撃する。ユーハバッハは未来を自在に改変する。幻影を攻撃した未来が含まれているために困難だったが、それでも正しく攻撃を当てた未来へと移動した。
ただ藍染も無防備に無月を食らったわけではない。
ぎりぎりのところで空間転移を使い、そこに鏡花水月の幻影を置くことで精巧に騙したのだ。ユーハバッハは藍染が無月により両断された未来が見えている。
その隙に再び空間転移を使い、手刀により心臓を貫こうとした。だが自身が貫かれる未来を観測したユーハバッハは残火の太刀によって藍染の攻撃を受け止め、更には旭日刃によって反撃する。切っ先の延長線上が蒸発し、斬撃の跡が深く刻み込まれた。
これによって藍染は右腕を消し飛ばされ、さらにユーハバッハは手を伸ばして崩玉を奪おうとする。しかし藍染の正面に複数の霊圧が凝縮し、
「破道の七十八・
藍染は右腕を再生し、手刀により描いた円を霊圧の刃として飛ばす。
ユーハバッハはそれを敢えて受け止め、その刃で身を切らせる。
すると
崩玉によりもたらされる再生力もあって藍染もすぐに傷を治すが、ワンテンポ遅い。ユーハバッハは
ユーハバッハが藍染に対してここまで隠していた切り札である。
逃げる場所もなく、逃げる力も奪われた藍染は熱に焦がされ、
藍染は霊子中毒に侵されながらも六重の断空で天地灰尽を防ぎ、
バキバキと嫌な音が鳴り、藍染は矢で貫かれた端から潰されていた。
「くっ……この私が―――」
「貴様の持つ崩玉、頂くぞ」
肉塊となり、潰れた藍染から崩玉を抜き取る。
そしてユーハバッハは躊躇いなく取り込み、自らの力にしようとした。だがその瞬間、
しかしまた死が見える。
回避する。
死が見える。
回避する。
死が見える。
回避する。
死が見える。
回避する。
死が見える。
回避する。
死が見える。
回避する。
死が見える。
回避する。
死が見える。
回避する。
死が見える。
終わらない。
いつまでも死が見え続け、未来を変えても新しい死が見える。
(馬鹿な……)
どこからやってくる死なのか見えない。
だが、その未来で自分が殺されることだけは分かる。何かが起こり、死が訪れるのだ。未来を変えてもそれが終わらない。延々と改変を続け、それでも死の未来が止まらない。
「死が恐ろしいかね?」
殺したはずの男の声が聞こえる。
「不思議そうな顔をしているな。しかし君は知っているはずだ。私にも卍解が存在することを。更木剣八に破られはしたが、君は私の卍解の正体を知らない」
未来を、並行世界を、あり得た現実を見通す。
ユーハバッハの混乱は計り知れない。
「私の卍解、明鏡止水鏡花水月は対象の感覚を呼び起こすことで幻想を具現化する。君はシュレディンガーの猫というものを知っているかな?」
藍染はありとあらゆる未来からユーハバッハへと語りかける。
シュレディンガーの猫。
それは現世において有名な思考実験の一つだ。箱に閉じ込めた猫が半分の確率で死ぬとき、箱を開けてみるまで生きているか死んでいるのか分からない。つまり箱が閉じられている間は生きている状態と死んでいる状態が重なっており、観測によって確率が収束するというものだ。
だが、仮にどちらの世界線も観測できる
「君は君自身の感覚により私を生み出した。私の死、君の死、私の生、君の生……それらが全て混在しているのだよ。故に君は君自身の能力によって私を殺すことができない」
「馬鹿な! ならばなぜ私の死が止まらない! 私が死を回避した先で更なる死が待っているのはなぜだ! 私の眼にそのような未来は映っていない!」
「愚かなことだ。君の未来視は所詮、子供騙し。幼子を助ける補助輪に過ぎない」
確率が収束し、ユーハバッハの目の前に無傷の藍染が現れる。
自然と浮遊する彼は滅却師の王を見下していた。
「君の未来視にはもう慣れたよ。私の予測はもはや君の未来視を上回っている。君が覗いた深淵は既に私が通り過ぎた浅瀬に過ぎないのだ」
禁術・時間停止。
時が止まり、
そこで藍染はユーハバッハの首を刎ねる。
時は動きだす。
「何を恐れる必要がある?」
再び尊大に問いかける。
「私の中で君はもはや死んでいるというのに」
禁術・時間停止。
一秒と止めることはできないが、藍染にはそれで充分である。卍解の話などハッタリに過ぎない。ユーハバッハに時間停止を気付かれないようにするための詭弁である。
だがユーハバッハを殺せずとも、藍染の策は実に巧妙で効果的。
藍染は再び手刀で首を刎ねた。
空間転移も使えるし、時間停止もいけるやろ
だって藍染様やもん
未来視だって超えられるさ(震え声)
剣八「未来予知? 関係ありません。物理で殺ります」
藍染「君の矮小な未来視など容易く凌駕してみせよう」
陛下「」
あとシレっと強化されてる一護。
鞘伏斬月を手に入れて空間を切り裂けるようになったよ