剣八「たち」……これは酷い
握り潰さんと迫る巨大な腕に対し、剣八は始解すらせず対応する。
かなり厄介な能力ではあるが、ただの力押しであることに変わりはない。ならば剣八は更なる力によって叩き潰すのみ。
「隊長に匹敵する霊圧と膂力。そして自立行動する斬魄刀ですか。面白いですね」
「ありがとうございます。ですが負けません」
「喋れたのですね」
彦禰は確かに強い。
だが、その程度で怯む剣八ではない。寧ろ彦禰より、自立行動する斬魄刀の方に興味を示した。強い虚の霊圧を放つそれは、もしかすると彦禰よりも凶悪な霊圧かもしれない。巨腕だけで剣八を襲い、握り潰そうとするさまは化け物だ。
「なるほど。霊王の器と呼ばれるだけはある」
「はい! 自分は王になります。時灘様にそう言われました」
「あの男に従うのですか? それほどの力がありながら?」
「自分は時灘様の家来です」
そう言って霊圧を溜め、正面に放つ。
まるで
彦禰の胸元から赤が飛び散る。
またこの衝撃によって彦禰は体が浮き、剣八はそこを狙って刃を突きだした。だが回避不可能だったはずの攻撃を彦禰は避けてみせる。飛廉脚によって霊子の流れに乗り、無理やり回避したのだ。
しかし逃げた先に剣八は先回りし、首を掴んで叩きつける。
空中楼閣の屋根で戦っていたということもあり、そのまま地面にまで落ちていった。この凄まじい衝撃を受けた彦禰は受け身すら取れない。そのまま剣八は瞬歩で落下しつつ近づき、重力加速度を乗せた斬撃を見舞った。だがそれは巨大な腕によって防がれてしまう。
彦禰は地面に転がったまま腰を捻り、蹴りを繰り出して剣八を弾き飛ばした。
「いけませんね」
僅かに笑みを浮かべつつ、彦禰は呟く。
更木剣八は強い。
万能の存在として生み出されたその能力ですら追いつけない。
このままでは負ける。
そんな考えが浮かんでいた。
「時灘様のため、負けるわけにはいかない。自分は一番の家来なんです!」
もう自分の力を確かめている場合ではない。
次々と力を開放しなければ間に合わない。
故に彦禰は
「
唱えられる
その斬魄刀から強大な
真っ白な巨体は空中楼閣にも匹敵し、頭部に乗る彦禰が豆粒のようだ。姿は二足歩行の蛙を思わせ、胸の部分に大きな穴が開いている。その特徴は確かに虚らしい。この異形の怪物が現れた瞬間、凄まじい霊圧により大気が震えた。
大地は軋み、嵐すら呼び、ただそこに圧倒的な暴力が顕現する。
二足で立ち上がる怪物は、勢いよく剣八を踏み潰した。
だが、次の瞬間にはその足が浮かされる。バランスを崩した
「的が大きくなっただけですよ」
彼女は力づくで
しかし
確かに化け物じみた霊圧をしているが、眼帯を外した剣八はそれを上回る。並の隊長ならともかく、剣八を相手にしてはただ的を大きくしただけに過ぎない。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
唸る
それだけで大地を崩壊させる
彦禰はまだ剣八には届かないと理解したのだろう。
更なる解放を行う。
「
黒縄天譴明王すら超える巨体が縮み始める。
いや、力の圧縮が行われているのだ。見た目は攻撃的な刺々しいものへと変貌し、一般的な家屋ほどの大きさになって止まる。
だが、無駄であった。
剣八は無言で横一文字に斬撃を放つ。それだけで三段階目の解放により具現化した
「これは……驚きました。まさかここまで」
「かつて戦った
「……そうですか。このままでは時灘様の命令を果たすことができそうにありませんね」
彦禰はそう言いつつも、笑顔を崩さない。
崩れ、消滅していく
「まだ未調整ですが、仕方ありません」
黒い風が彦禰を包み込む。
強大な
それはかつてバラガン・ルイゼンバーンとも張り合った古代の
食料として魂を求め、尸魂界へと侵略したかつての
だが封じられたその力は産絹彦禰という超越者によって解放された。
本来は使用者の魂すら喰らう暴君じみた斬魄刀なのだが、彦禰の潜在能力は
「
闇が彦禰を包み込み、その身体へと侵食する。
現れたのは人型でありながら虚を宿したような姿であった。また斬魄刀は純白に黒のまだら模様という特異な見た目となり、放たれる霊圧は先程と比べ物にならない。
卍解、あるいは
あまりにも強大な霊圧であるため、並の死神では彦禰の前に立つことすらできないだろう。剣八も警戒し、野晒を構える。
「ここからは本気です」
「いいでしょう。見せてみなさい」
次の瞬間、彦禰は剣八の背後にいた。
既に刀は振られた後。
剣八は脇腹に衝撃を感じる。
斬られてはいない。絶大な霊圧が斬撃すら防いだのだ。
「なるほど。速い」
「そちらも硬いですね!」
「面白い。あなたならば戦いを楽しめそうです」
斬り合える強敵。
その存在は剣八を興奮させる。
「やはり戦いはこうでなくては」
また彦禰の姿が掻き消える。
瞬歩、
疾風迅雷という言葉が似あう彦禰の移動を読み切り、その斬撃を受け流す。
打ち合うたびに火花が散り、大地が捲れ、空気が捩れる。
剣八が反撃の一撃を放てば
互いに霊圧が高まり続け、一撃ごとに空間が揺れる。
(愉しい)
面倒臭い能力はない。
ただ力をぶつけあうのみ。
圧倒的なパワーとスピードこそが戦いを支配する。
これこそが剣八の求めた戦い。そして更木剣八が恋焦がれるほど望んだもの。自然と笑みが溢れ、霊圧は際限なく上昇する。
もっと。
もっともっと。
もっともっともっと。
彼女の欲は止まらない。
『剣ちゃん楽しそう』
(ええ、愉しいですよ)
『もう少し待って。そうしたら
(長く
『だからもう少し待ってね』
四方八方から迫る斬撃に刃を合わせ、その全てを受け流し、あるいは弾き返す。卍解を使っていない今の剣八ではペースを考える必要があり、攻撃に転じることができない。単純に彦禰が速すぎるということもあるが、それだけ
やはり卍解を。
ただそれを待ち望む。
彦禰は徐々に学習しているのか、剣術のようなものを使い始めている。フェイントのような高度な技術も加え、剣八に一太刀当てるべく奮闘していた。しかし簡単に防御を抜かせる剣八ではない。
まだまだ危なげなく斬撃を防ぐ。
「凄いですね。まさかここまで強いなんて。でも自分に勝つのは無理ですよ」
そう言った彦禰は刃に膨大な霊圧を宿し、振り下ろす。
滅却師の霊子収束能力、虚の
地面を抉りつつ迫る斬撃に対し、剣八もまた両手で野晒を握り、掲げた。
「いいえ。勝つのは私です」
剣八はあらんかぎりの霊圧を込めて迎撃する。
二つの斬撃が衝突し、空間を揺るがすほどの大爆発が起こった。
◆◆◆
痣城双也と道羽根アウラの戦いは遠距離攻撃の撃ち合いだ。
ロカ・パラミアの能力を得た痣城は取り込んでいる霊性情報から改造
一方でアウラは霊子を使役することで自身の細胞のひと欠片、血の一滴までも自在に操り、あらゆる攻撃を透過してやり過ごす。さらには万物を使役することで周囲の物質を全て武器として操ってしまう。それは空気も例外ではない。彼女の意志一つで竜巻が生まれ、一刀火葬すら真空の壁によって防がれる。
互いに似た能力を持っているからこそ、決定打に欠けていた。
「道羽根アウラと言ったな? なぜ戦う? お前は現世の人間だ。何の目的があって死神に手を貸し、霊王を生み出そうとした?」
戦いの最中、痣城は尋ねる。
アウラの場合は思い入れのあるモノがないという事情により後者の能力を持たないが、その代わりに死神や滅却師すら超える霊子操作能力を保有している。
ただ、そんな彼女が時灘に協力する理由は不明だ。
時灘の計画は重霊地である空座町に空中楼閣を浮かべ、新たな霊王宮とし、産絹彦禰を意思ある霊王として奉り、混沌とした世界を支配するというもの。その過程で現世の人間に尸魂界や死神、虚の存在を知らしめ、三界すら統治する。
人間であるアウラには何一つメリットがないように思える計画だ。
超常の存在が明らかとなれば、現世の人間も当然ながら抵抗を試みるだろう。その際にアウラのような超能力者が尖兵として扱われることになるのは想像に難くない。
「私は虚の恐怖は知られるべきではないと考える。人知れず、我々死神が浄化するべきだと。それが現世にとっても幸福になると思っている」
「それはあなたの独りよがりではなくて?」
「そうかもしれない。かつては現世の魂魄を改造し、虚のない世界を生み出そうとした私だ。何を言おうとそう映るだろう。あるいは私にその資格などないのかもしれない。だが、私は思い出したのだ。私は虚から人々を守りたかった。その恐怖から解放したかった。はじめはそう願っていたに過ぎないのだ」
「だから何?」
「私にとってお前も守るべき対象ということだ」
「っ!?」
無駄話を興じる痣城の言葉に、アウラは心を乱す。
以前の彼からは想像もできない語りだ。
虚によって全てを失ったアウラは衝撃を受けていた。
(守る? 私を? 見知りもしない死神が?)
アウラは戯言と断じて切り捨てる。
(死神は守ってくれなかった。父も、私も)
周囲の物質に宿る霊子を使役することで暴風を生み出す。天地を結ぶ巨大な竜巻が出現し、空気の摩擦が雷撃を生む。九十番台鬼道にも匹敵する攻撃が痣城を襲った。
そこで痣城はロカの能力、取り込んだ霊性情報を蓄積し、自在に再現する反膜の糸を行使する。再現するのはかつて支配下においた
それも一つではない。
無数に一斉に解き放たれる。
いわば
「この程度では死なぬはずだ」
「っ!」
無限の閃光が暴風諸共吹き飛ばし、アウラへと襲いかかった。
◆◆◆
綱彌代時灘を相手に戦う卯ノ花は意外にも苦戦させられていた。今は鳴りを潜めているが、初代剣八であった頃はまさしく鬼であった彼女だ。最強と謳われた初代護廷十三隊隊長の中でも筆頭に数えられる卯ノ花が攻めきれないというだけで時灘の厄介さが窺える。
正確には
「随分と温い剣じゃないか
あらゆる斬魄刀を再現する艶羅鏡典は
姿を見失えば疋殺地蔵で不意打ちを狙われ、打ち合おうものなら侘助で応じる。
離れて鬼道による攻撃を試みれば双魚理で跳ね返してくる。
無数の斬魄刀を状況に応じて切り替え、自在に扱い、卯ノ花を相手に有利な立ち回りを演じる。
そして何より、彼は戦いの合間に煽りを忘れない。
「お前を慕う四番隊の死神たちが見ればどう思うだろうなぁ? 今でもその胸の傷は疼くか? 殺戮の限りを尽くしたお前が護廷とは笑わせる。
時灘が新たに解放した
雪の結晶のような鍔をした三又の刃は彼女もよく知る斬魄刀である。四番隊副隊長、虎徹勇音の始解だ。純粋な威力ならば同じ氷雪系の氷輪丸に軍配が上がる。しかしこの凍雲は速いのだ。一瞬にして空気や地面を凍結させ、卯ノ花の動きを鈍らせる。
一方の卯ノ花は霊圧で振り切り、迫る千本桜を無敵の剣術で打ち落とし、流刃若火を断空で防ぎ、氷輪丸が生み出した氷の竜は巨大な針を投げることで相殺する。彼女は針をサブウェポンとしており、隙あらば急所を狙って投げてくる。
これがあるからこそ時灘も油断できない。
表面上は余裕を見せているが、実際はいつ殺されてもおかしくなかった。
時灘の視界から卯ノ花の姿が消える。
咄嗟に鏡花水月を発動し、認識をずらしつつ後ろに下がった。
だが卯ノ花は幻影に惑わされず、下がった時灘を的確に斬る。
「ぐっ……鏡花水月を破ったか……?」
「違いますよ。ただあなたの動きを読んだだけです」
「何?」
「あらゆる斬魄刀を扱うという能力は確かに驚異的でした。しかしその使い方が単純極まりない。おそらくは膨大な能力を組み合わせるため、あなた自身で動きをパターン化しているのでしょう。それを読み切ってしまえば何も問題はありません」
「……」
時灘は山田花太郎の斬魄刀、瓢丸を解放して自身の傷を治癒する。
また同時に卯ノ花の言葉に耳を傾け、眉をひそめた。
「……なるほど。八千流……あるいは剣八。その名に偽りなしか」
あらゆる剣の流派は我が手にあり。
剣を極め、剣の鬼になり果てた卯ノ花が自身に名付けた名こそが『
護廷十三隊最強の剣士。
その名に一切の驕りも偽りも誇張もない。
簡単に攻略されるほど彼の戦い方は単純でもなかった。それを単純と言い張る卯ノ花が異常なのだ。
故に時灘は刀身のない柄だけの斬魄刀、
「
しかしその瞬間、卯ノ花は自身の斬魄刀で自身の胸を貫いていた。
この二次のタイトルは『綺麗な剣八』
そう、誰も更木剣八のことだとは言っていないのだ。
……嘘です。ちゃんと主人公は剣ちゃんです。
最後に出てきた斬魄刀、村正はアニメオリジナルですね。斬魄刀異聞篇というシリーズの中で登場した斬魄刀になります。
時系列的には藍染様が裏切った直後くらいなのかな?
私はリアルタイムで見ていたんですが、結構好きでしたね。印象深くて今でも何となく覚えています。
斬魄刀異聞篇は面倒だったので書くの止めてましたけど、設定だけは登場させておきます。
かげろーざ?
墨月暈を剣ちゃんが真っ二つにするイメージしか湧かなかったさ