それは一護の力を最大限に放つ天鎖斬月の技だ。収める鞘が存在しないほどの切れ味を誇る天鎖斬月に鞘を与え、その鞘を構築するために使われた霊圧を全て攻撃に回す。この世のありとあらゆる
抜き身となった天鎖斬月に霊圧が集まり、再び純白の鞘が構築される。
「恐ろしき卍解だ。黒崎一護」
ユーハバッハは素直に認める。
死の未来を改変した彼は無数の眼玉が蠢く黒い霊圧を纏いつつ、天を舞った。理すら切り捨てる刃を収める鞘は決して折れることがない。ユーハバッハをしても触れることすらできないほどだ。
何よりも恐ろしいのは、
一護の斬月は理を斬るまでに至った。
すなわち、ユーハバッハの視た未来すら切り捨て、改変の余地を奪い取るのだ。まさにユーハバッハを殺すための能力とすらいえる。
「決着をつけようぜ」
「私の
一護は再び腰を落とし、居合の構えをする。
だが右手は柄ではなく顔のあたりまで上げていた。その構えに見覚えのあるユーハバッハは止めるべく無数の
斬られたことで一護の未来を読めない今のユーハバッハでも、これだけは止めなければならないと考えていたのだ。
光の矢が殺到する。
「遅いぜ」
しかし一護の方が少し早かった。
その手に黒い霊圧を帯び、顔を覆う。巨大な角を持つ虚の仮面が一護の頭を覆った。かつてウルキオラ・シファーを圧倒した完全虚化の力である。
霊圧が虚のものへと変質し、同時に重く、深く、何より黒く染まる。
一瞬にして純白の鞘すら漆黒に変貌した。
変化の衝撃で黒い霊圧が全方位へと放たれ、迫る
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
重なる死神と虚の力。
それが一護をさらに強くする。
『月牙天衝オオオオオオオオッ!』
目視不可能な速度で黒い斬撃を放つ連続居合。
ユーハバッハは斬り刻まれ、それによって見える未来が一つずつ斬られていく。それはユーハバッハの手札を一つずつ潰していく行為に等しく、徐々にユーハバッハから力を削っていた。
(消える……)
まずは
(消えていく……)
(私の力が消えていく!)
(馬鹿な! ここまで!)
(ならば
そして
理すら切断する天鎖斬月がユーハバッハが
だがここで鞘に溜めた霊圧が尽き、一護の攻撃が止まる。
『すげぇな。アンタのその力だけは完全には斬れなかったぜ』
「そうとも! 私の
ユーハバッハの言葉は間違いではない。
確かに未来改変で都合のよい未来を現実化し続けることができれば、負けることはない。そして死神たちが力尽きたその瞬間に反撃すれば良いのだ。少なくとも一護の卍解が途切れるその瞬間まで生きていれば勝ちなのである。一護に斬られるよりも早く未来を改変する。それで勝ちだ。
未来を見通し、望む未来を引き寄せ、そこで観測したあらゆる力はユーハバッハを傷つけることがない。一護のように理すら切断する超越者や、破壊神となった卍解状態の剣八でもない限りはユーハバッハにダメージを与えることができない。
そのはずだった。
ユーハバッハの胸を銀の矢が貫く。
「やれ! 黒崎!」
その矢を放ったのは石田雨竜。
またこの銀の矢は九年前の
ユーハバッハ自身の持つ絶対の力なのだ。
当然ながら僅かとはいえユーハバッハにも効果を及ぼす。
「私の力が消えたからどうしたというのだ!」
静止の銀はあくまでも始祖の力を停止させるもの。ユーハバッハから霊圧が失われたわけでもなく、完聖体が解けたわけでもない。
ならば物理攻撃を使うまでのこと。
一護は雨竜の言葉に従い、
故にユーハバッハは物理で、完聖体により強化された身体能力によって一護へと襲いかかった。突き出される手刀は鋭く、鉄など容易に貫通するだろう。
その速さは信じられないほどであり、死神たちですらほとんど反応できなかった。
「黒崎君! 三天結盾!」
織姫が咄嗟に拒絶の盾を張ったが、ユーハバッハとは霊圧が違いすぎた。拒絶は確かに神の理を超えるとまで藍染に言わせた優秀な能力である。しかし霊圧に差がありすぎる場合、有効な能力となり得ない。光の防壁は砕け散り、ユーハバッハの手刀は一護の心臓へと吸い込まれる。
「終わりだ! 黒崎一護!」
その左胸から血肉が飛び散った。
一護は全く反応できず、心臓が破壊された――
「そうか。黒崎一護に見えるか……」
それは錯覚。
ユーハバッハが貫いていたのは藍染だった。
鏡花水月で一護と入れ替わり、わざと攻撃を受けることで隙を作ったのである。一護を援護する攻撃はまだ止まらない。
「
未来視を失ったユーハバッハは反応することができなかった。暗闇の奥より神速で貫く刃がユーハバッハの胸から生える。市丸ギンの卍解、神殺鎗だ。彼もまた無間ではないが監獄へと収監され、斬魄刀も没収されていた。しかし痣城がしっかりと解放し、斬魄刀まで与えていたのである。
痣城の
そしてちゃっかりと潜んでいた市丸は隙を窺い、決定的な瞬間を狙っていたのである。結果として人体を溶かす即死の毒がユーハバッハの胸に穴をあけた。崩玉を取り込んだ藍染すら殺しかけた猛毒だ。ユーハバッハにも効く。霊王を取り込んだユーハバッハを殺すことはできなかったが、充分に足止めできた。
これによって一護が霊圧を溜めきる。
『月牙――』
一護は純白の鞘を具現化し、世界最強の刃を包み込む。一護の霊圧によって鞘は瞬時に黒く染まり、仮面の隙間から放たれる強い眼光がユーハバッハを射抜いた。
『――天衝!』
滅却師の始祖は
世界の王にならんとした男は潰えた。
月となりて闇夜を照らそうとした皇帝は斬られた。
「無念だ……生と死は形を失わず、命ある者たちは死に怯え続けるのだ」
急速にユーハバッハの力は失われていく。
これで確実に終わっただろう。
皆がそう考えた時、ある人物が割り込んだ。
兵主部一兵衛である。復活していた彼は封印術によって力を失っていくユーハバッハを水晶のようなもので包み込んでしまったのだ。更には霊王宮に伝わる超霊術を行使し、世界の楔として固定する。霊王の血を受け継ぎ、霊王の力を取り込んだユーハバッハだからこそ世界を繋ぎとめる核となれる。
「スマンの黒崎一護。この男は世界のために必要でな」
彼はユーハバッハを新たな霊王に仕立て上げたのだ。
崩れつつある三界はそれを辛うじて免れ、ずっと続いていた振動も消えた。
◆◆◆
ユーハバッハは確かに封じられ、新たなる霊王となった。
だが完全に力を失ったわけではない。
彼は一護に斬られた直後、未来視を取り戻したのだ。そしてある未来を観測し、力の一部を影空間へと逃していた。
力の塊となった『ユーハバッハだったもの』は次元を越え、器を探し出す。
そして断界の中に最も相応しい器を見つけ出した。
「っ! これは何ですか?」
断界内に作られた空間、
霊王の因子を宿し、あらゆる魂魄を重ねて生み出され、更には虚とも融合した最高の器、産絹彦禰へと。
「この霊圧……ユーハバッハ?」
「ぐっ、あ、自分、は……が、が、あ、がああああああああああああっ!?」
突如として空間を破り、現れた黒い霊圧が彦禰を覆う。
その霊圧には無数の眼が宿っており、実に不気味だ。有無を言わさず彦禰に馴染み、やがてその顔を包み込む。まるでユーハバッハの
「自分は! 時灘様の! 世界を……? 私の? 私が、王? 違、自分は……ぐあああああああああああああああ!」
激しく身悶え、彦禰は苦しみの叫び声を上げる。
彦禰はユーハバッハが世界へと解き放った力に選ばれてしまった。そこに宿るのは滅却師の始祖としての力と、その意志である。まるで怨念のように世界を渡り、始祖は復活する。
「うああああああああああああああああああああっ!」
力が完全に浸透した時、彦禰の姿は変貌していた。
顔の上半分が黒い霊圧で覆われ、黒いコートのように全身にまで至る。それらには無数の眼が蠢き、何かを見通していた。更には圧縮された霊子が周囲を漂い、彦禰を守っている。肌には血管のような紋様が強く浮き出ており、剣八にはそれが
また
「どうやらユーハバッハの方で何かあったようですね」
目の前で見つめる剣八も警戒し、霊圧を高めていく。
二人が放つ霊圧は叫谷を侵食し、揺らし、崩壊へ導こうとしていた。
剣八は彦禰の背後にユーハバッハの姿を幻視する。
「自分、は、がああああああああっ! 更木剣八ィ!」
「これはっ!?」
無数に浮遊する霊子の圧縮体から一斉に光の矢が射出される。更には黒い霊圧を斬魄刀に溜め込み、圧縮して放った。
それは空間を裂き、大地を両断する。
かつて見た黒崎一護の放つ最後の月牙天衝のように。
◆◆◆
「あれは」
痣城は漆黒の斬撃と光の雨を目撃していた。彼は空中楼閣の上空で戦っており、誰よりも戦場を広く見渡せる。それでも叫谷の大部分を破壊したその攻撃の全貌を見るのは困難であった。
ただ彼の両腕の中にはアウラが眠っており、既に勝負が決したことは分かる。
「仕方あるまい。まずはこの娘を安全な場所に届けるとしよう」
虚による脅威を取り除くことを信条とする痣城にとって、人間のアウラは敵ではない。寧ろ保護するべき対象である。この戦いに巻き込み、死なせるのは忍びないと考えていた。
故に
◆◆◆
ユーハバッハの力が産絹彦禰に宿ったことを悟った綱彌代時灘は高笑いしていた。腹からは大量の血を流しつつ、また笑い声に合わせて口からも血が溢れている。だがそんなことはどうでもいいとばかりにひたすら笑っていた。
「クハハハ、クハハハハッ! 予想外だ彦禰よ。だが良い。良いぞ! そうだ。そうでなければならない。お前は三界の王になるのだからな!」
楽しくて仕方ない。
面白くて我慢できない。
時灘からはそんな感情が伝わってくる。
剣の代わりに鉄骨を握る卯ノ花は訝しげに彼を見つめつつも、油断なく構えていた。
「さぁ、私も決着をつけるとしよう」
時灘は瓢丸を解放して致命傷を治癒し、更には
「
大地を操る
「
どこからともなく巨大な刃が出現し、更には周囲へと灰が降り積もる。
卯ノ花は降ってくる灰を破道の五十八・闐嵐で吹き飛ばす。だがそこに勢いよく千本桜と餓樂廻廊、そして劈烏が襲ってきた。
時灘本人を狙おうにも泥人形と鏡花水月の組み合わせによって本物を定めることができない。
仕方なく卯ノ花は鉄骨で打ち払い、本物を見極めるべく走り回った。
『必死だな卯ノ花八千流。斬魄刀がなければどうにもなるまい』
反響する声の通り、卯ノ花が剣の代わりに使っている鉄骨は今にも折れそうだ。いや、ねじ曲がり、罅が入り、もはや役には立たない。
投げ捨てた肉雫唼を回収したとしても村正を使われたら隙を晒すだけになる。
仕方なく鉄骨は投げ捨て、再び鬼道で応戦し始めた。
彼女でなければとっくに殺されていたことだろう。それほど激しい攻撃なのである。回道の技術もあって卯ノ花はそう簡単に死なない。致命的な傷すらもあっという間に治してしまうからだ。だが防戦一方では戦いを覆すこともできない。
卯ノ花はそれを歯痒く思う。
だが今は耐えるしかないのだ。
◆◆◆
浦原は一心、夏梨、遊子を黒崎家へと届けた後、治療を行っていた。
強い霊力を持つ一心や夏梨はともかく、遊子は普通の人間の域を出ない。うっすらと幽霊を観測できる程度の霊力は保持しているが、元の魂魄強度はそこまで強くないのだ。故に長く強い霊圧に晒された彼女を治療する必要があった。
「ふぅ。これでひと段落ッス」
勿論、天才浦原はあっさりと完了してしまったが。
しかしその直後、背後に
これでも不意打ちを防ぐため、自分の近くでは勝手に空間を開くことができないよう対策していたつもりだ。それすら突破している。油断できる相手ではない。
だが浦原は
「貴方は……痣城サン」
「警戒する必要はない、浦原喜助。私はこの娘を預かって欲しいだけだ」
現れたのは八代目剣八として名を馳せ、危険な思想から罪人として囚われ、更には藍染に協力していた痣城双也である。藍染と同じく処刑不可能であり、更には自ら無間に戻ったことから四十六室も特に沙汰を下さなかった。
まさか抜け出しているとは思わず、警戒するなと言われてもそれを隠せない。
だが痣城は仕方ないとばかりに抱えていた娘、道羽根アウラを置いた。
「この娘は
「……このお嬢さんが本当に霊王の鎖結を持っているとして、確かに尸魂界に放置するわけにはいきませんね。貴族たちにどんな利用をされるか……いえ、既に綱彌代家に利用された後ですか」
「綱彌代時灘という男が新たな霊王を手中に収めれば碌なことにならん。お前も噂くらいは聞いたことがあるはずだ」
「ええ。確かに黒い噂は聞いていますね。まぁ、痣城サンの言葉が正しいなら碌でもないことをしでかそうとしているのでしょう。しかし無間に収監されているはずの貴方がなぜここに?」
「私だけではない。藍染も市丸もユーハバッハを倒すため、協力している。尤も、私はもう一つの謀略を防ぐために戦っているわけだが」
浦原は痣城が告げたヒントから全てを理解する。
綱彌代家の役割、霊王を創り出すという野望、そしてユーハバッハ。これだけ情報があれば充分に予測が立つ。
「なるほど。つまり綱彌代時灘サンはユーハバッハと共謀していたんスね?」
「話が早くて助かる。どうやらユーハバッハは討伐できたらしい。だがその力の一部が綱彌代時灘の作り出した霊王の器に宿った。今は更木剣八と卯ノ花烈が対処している。私も援護に向かうつもりだ」
「……信用していいんスね?」
「お前は私の言葉で信用するのか?」
「それもそうッスね」
開き直ったような笑みを浮かべた浦原は紅姫の切先を下ろす。
そもそも敵対するとしても浦原では痣城にとても敵わない。仮にも剣八と恐れられ、凶悪な斬魄刀を保有する死神なのだから。
そこで浦原は痣城を信用し、アウラを預かることにする。
「分かりました。ですがこのことを瀞霊廷にも伝えさせていただきます。よろしいですね?」
「好きにしろ。あの
そう言い残し、痣城は再び
浦原は痣城の警告を尤もなものと思いつつ、為すべきことを始めた。痣城が開いた
「もしもしテッサイさんですか? ええ、アタシです。今すぐ浦原商店から穿界門を持ってきていただけますか? それと叫谷用の調整機も。人手が足りなければ
滅却師の始祖を倒すだけでは終わらない。
計測器に映る叫谷の異常な数値がそれを示していた。
ちゃっかり参戦する市丸。
そしてただでは死なないユーハバッハ。
BLEACH最終話でなぜかユーハバッハの霊圧が出てきましたよね。あれ結構謎だったんですが、知ってる人います? 一護の息子にワンパンされてよく分からないまま消えてましたよね。
次からようやく真ラスボス戦~エンディングです。
一旦、ここで更新は止まります。中々納得のいくものが書けないので、しばらくお待ちください。