ユーハバッハとの決着がつき、戦争は死神たちの勝利で終わった。
これで瀞霊廷に平和が訪れたのだと誰もが安堵した。
「――というわけにもいかないんですよ、これが」
いざ復興と意気込んでいた死神たちの元に現れたのが浦原である。本来ならば侵入不可能な無間へ簡単に入ってくるあたり、この男の技術力も変態じみている。
かくかくしかじか。
浦原は痣城双也より聞きかじり、また自分自身の予測も交えた現在の状況を説明する。綱彌代時灘という男が引き起こそうとしている惨事を語ったのだ。
「なんじゃと……」
山本元柳斎重國は目を見開き、そして厳しい視線を送る。それは本当かという意味を込めたものだ。だが意外なことに、その答えは別の場所から帰ってきた。
「事実じゃ。この兵主部一兵衛が保証しよう」
「どういうことじゃ和尚よ」
「儂がここに降りてきたのは何もユーハバッハを封じるためだけではない。ある斬魄刀を回収するためでもある」
曰く、霊王宮鳳凰殿に封じられていた斬魄刀が盗まれた。
その斬魄刀は古代の
またこの斬魄刀を盗み出した綱彌代時灘は、あろうことか意志ある霊王として生み出した人工生命体にこれを与えたというのだ。
「おんしらにこれを語るつもりはなかった。じゃが、浦原喜助の
「どういうことじゃ和尚。卯ノ花隊長と更木隊長が、そして痣城双也が抑えておるのじゃろう?」
「卯ノ花はよい。じゃが更木剣八はいかん。アレは確実に力を使い、
兵主部は普段のおちゃらけた態度を止め、心から願う。
「どうかおんしらに頼みたい。儂は今、復活の影響で本来の力を失っておる。更木剣八から
「アタシの予測でも更木サンが
一難去ってまた一難。
もはや呪われているのではないかと思うほどだ。
しかし嘆く暇も落胆する暇もない。
「俺は行くぜ。要は剣八を止めればいいんだろ?」
一護が誰よりも早く言った。
「無論、儂が出よう」
「山爺が出るんだ。ボクたちも行かないわけにはいかないね」
「俺も行くぜ。更木には修行を付けてもらった身だが、それとこれは話が別だ」
元柳斎、京楽、冬獅郎が順に名乗り上げる。
とはいえこのまま隊長格全員で向かうわけにもいかないので、元柳斎は指示を出した。
「砕蜂隊長は隠密機動を率い、事態の収束に努めよ。また鬼道衆へ要請するのだ。叫谷の固定措置を施さねばならぬかもしれん。現世にも派遣するように手配せよ」
「はっ!」
「ユーハバッハを仕留める一助を担ったとはいえ、藍染と市丸は罪人。封印措置を施す必要もあろう。涅隊長にはそちらをやってもらう必要がありそうじゃ。朽木隊長は綱彌代家と連絡を取り、事態の把握に努めよ」
「仕方ないネ」
「承知した。朽木家として務めを果たそう」
「ならば儂も伝手を頼るとしよう。これでも四楓院家の人間じゃからの。白哉坊だけでは心配じゃ」
「……貴様に心配されるほど落ちぶれてはいない」
「照れるでない」
「ならば貴族への対応は二人に任せるとしよう。副隊長以下は瀞霊廷に残り混乱の鎮圧を優先せよ。最悪の場合、更木隊長を止めねばならん」
流石に長年総隊長を務めるだけあって、判断は早い。
うっかり卍解を奪われたおじいちゃんとは思えぬ威厳である。
「あの、私も行きます。きっと役に立てるから……」
おずおずと織姫も手を上げた。
事象の拒絶という絶大な完現術を有する織姫は、治癒において大きな力を発揮する。確かに連れていけば有用だろう。事実、元柳斎も失った左腕を彼女の力で癒したところだ。
それに続いて茶渡や雨竜も参戦を表明しようとしたが、その前に元柳斎が止めた。
「いや、お主らは現世に戻るのだ。これは我々死神の問題。元よりお主らには無関係なこと。黒崎一護よ、お主もじゃ」
「けど爺さん!」
「浦原の話を聞いたじゃろう? 既に叫谷での戦闘は激しく、三界にすら影響が出ておる。なれば重霊地たる空座町にも影響が出ておるかもしれん。意図せず
「っ! それは……!」
そこまで言われて理解できない一護ではなかった。
黒崎一護は死神代行。空座町を護るために活動している。そして護廷十三隊は瀞霊廷と三界のバランスを守るために活動する組織だ。これは役割分担の話なのである。
尤も、元柳斎からすれば人間に必要以上の重荷を背負わせないための方便でもあったが。
「黒崎君……」
「黒崎、ここは」
「俺たちは一刻も早く空座町に戻る必要がありそうだ。一護、俺たちは俺たちの為すべきことを為そう」
一護が思い浮かべたのは家族である。
「アタシは約束を守る男ッスよ。黒崎サンの御家族は無事に保護しています。今はテッサイさんの治療を受けているところッス」
「ありがとう浦原さん」
どうやら自分の為すべきことを決めたらしい。
一護たち現世の人間、そして浦原は空座町へ向かうことになった。
ようやく一通りの話がまとまり、一同が動き始める。
山本元柳斎。
京楽春水。
日番谷冬獅郎
兵主部一兵衛。
この四人は涅の準備を待って叫谷へ。
黒崎一護。
石田雨竜。
井上織姫。
茶渡泰虎。
浦原喜助。
彼ら現世組は穿界門を通って空座町へ。
朽木白哉。
四楓院夜一。
四大貴族の二人は貴族への説明と、綱彌代家へ状況説明を求めるため。
砕蜂。
大前田希千代。
阿散井恋次。
朽木ルキア。
伊勢七緒。
松本乱菊。
涅ネム。
隠密機動と副隊長たちは瀞霊廷の混乱を収束させるべく任務を遂行するため。
それぞれ動き出した。
◆◆◆
剣八が放つ両手の一撃は特別にあつらえられた叫谷すら裂いた。
道羽根アウラにより発見された
この衝撃は時灘を捕らえた卯ノ花のもとにまで届き、彼女は縛道の結界によってそれを防御する。
(早く脱出する必要がありそうですね)
卯ノ花はそれを理解していながら実行できない。彼女には叫谷より脱出する手段がないのだ。それを有するのはこの場において時灘だけ。しかし彼が協力するとは思えない。
どうしたものか。
そう考えていたところ、彼女のすぐ側で
「決着がついたようだな」
「痣城さんでしたか」
「人間は避難させた。次は貴様らだ。出口となる
「助かります」
非常に良いタイミングだった。
そこで厚意に甘え、縛道で時灘を厳重に縛ってからその内へと入る。だが、そこに痣城は入ろうとしなかった。卯ノ花は立ち止まって問いかける。
「あなたは来ないのですか?」
「私には為すべきことがある。現世へと赴くつもりだ。そちらは尸魂界へ繋がっている」
「罪人のあなたが何をするつもりですか?」
「知れたことを」
彼は雨露柘榴により新しい黒腔を開き、そこへ足を踏み入れた。
「道を外したとはいえ、私は死神。為すべきことは一つだ」
そう語り、奥へと消えていった。
◆◆◆
世界の狭間に生じた小世界とはいえ、それを両断した剣八は勝利を確信した。間違いなく産絹彦禰を断ち切ったと考えたからだ。
舞い上がった砂塵が晴れる。
彼女が予想した通り、亀裂が走る地面に沿って両断された彦禰が倒れていた。左肩から右脇腹にかけて真っ二つにされており、間違いなく致命傷である。
しかし彦禰を仕留めたという考えは誤りであった。
「がああああああああああ!」
彦禰は唸りながら霊圧を発散する。
身体の切断面に泡立つ黒い霊圧が生じ、それによって別たれた下半身と繋がったのだ。更には泡立つ霊圧が心臓のように脈動し、そこから虚の霊圧が漏れ出す。
ボコボコと泡立ちながら霊圧の塊が膨らんでいき、やがて彦禰の下半身を飲み込んで巨大化していく。
そうして現れたのは
「これは……」
『ギハハハハハハハハハハッ! ようやく我に主導権が回ってきたぜえええええええええええええ! イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!』
見上げるほどの巨体となった
剣八は彦禰を追い詰めすぎた。
彦禰は剣八に勝とうと、力を解放しすぎた。
それは太古の封印を破り、零番隊によって封じられた
『じゃ、あばよおおおおおおおおおお!』
崩壊しつつある叫谷の破壊を加速させるほどの攻撃で、一撃ですら隊長格の死神を戦闘不能に追い込むほどの威力を秘めていた。
『溢れるうううう! 力が溢れるぜえええええええ! ギャハハハハハ!』
楽しくて楽しくて仕方ない。
そんな笑い声が木霊する。
とどめとばかりに霊圧を圧縮し、
『あぁぁぁぁああああああ! スッキリし――』
「卍解」
『――あ”?』
「
攻撃を受けたということを理解するのに、少しの時間を必要とした。
『ギエエエエエエエエエエアアアアアアアア! ぎざま”あああああああああああ!』
「煩いですよ」
剣八は生きていた。
全身より血を流し、死覇装は無残なほどボロボロになっていた。しかし死んだわけではない。そればかりか卍解の力すら解放した。
蒸気のように余剰霊圧が立ち昇り、彼女の全身に黒い紋様が広がっていく。額には鬼のような角が現れ、それが人外を示す証のようであった。
「ここからが本番です。死に晒せ
奥義・
一瞬にして無数の斬撃が放たれ、その一つ一つが世界すら焼き切る。ただの霊圧で世界を圧し潰す化け物の必殺技が、覚醒した
だが、それは幻覚。
いや
『貴様ああああ!』
死神ごときに回避してしまった屈辱からか、
だがそれらの閃光は呑曝によって食い尽くされ、剣八の力となる。返しの斬撃は虚閃の霊圧すら乗せられた巨大なものとなっていた。
『クソ死神があああああ! 舐めんなああああああああ!』
絶叫と共に力を高め、
霊圧密度は桁外れで、
変身した
更には巨大な霊圧を発し、分身体まで生み出し始めた。それらは外見こそ
「はあああああああああっ!」
剣八は振り切れそうな理性を押しとどめ、迫りくる無数の分身体を散らす。ただの一撃で消えていく程度の分身だが、増殖速度が恐ろしい。剣八が消し飛ばす以上に増えており、四方八方から淀みなく襲ってくるのだ。
怒りを露わにする
分身体を巻き込む勢いで巨大な腕を振り下ろす。
それを剣八が
「これは! これは良い闘争です! もっと! もっと! もっと寄こせ!」
押し寄せる津波のような分身体を切り刻み、殴り、踏みつけ、無双の限りを尽くす。分身体ですら並の
本来ならば生み出した分身体全てに
そしてその目的は今も変わらない。
『邪魔をするな死神いいぃぃ……我こそが! 我こそが虚圏の王なのだああああああ!』
また崩れる叫谷で
『クソ共に封印される時代は終わった! 我は虚圏へ帰還し、バラガンと決着をつける。貴様のような存在に構っている暇はない!』
「そう言わずに私と戦いなさい! この私の全力を受け止めなさい!」
『あぁん? なら死ね!』
「死ぬのはそちらです。やちる」
剣八は自身の斬魄刀へと呼びかける。
『はいはーい。やるんだね剣ちゃん!』
「ええ。ここなら誰も見ていません。本能の赴くままに。私の望みのままに戦えます。相手は充分。何の不足もありません」
『あはははははは! 剣ちゃん楽しそう! あたしも力を貸してあげる! 八割だよ!』
その瞬間、
爆発的に霊圧の増大した剣八を目の当たりにして、一瞬だが確かに恐怖を覚えたのだ。剣八の周囲は存在に耐え切れず蒸発しており、世界すら許容しきれない。
「ァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
それは美しい姿に見合わない、獣のような咆哮であった。
鬼神と化した剣八は理性を失い、本能の赴くままに戦いを楽しむ。強靭な理性によって押しとどめられていた本能が解放され、卍解という制御不能な力に支配されて暴れだす。
まず振るわれた一撃は
『がっ……!?』
「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
『舐め、るなああああああ!』
そこからは斬り合い、殴り合いである。
互いに暴力の権化となり、斬る、殴る、蹴るを繰り返す。無秩序に理不尽に暴れまわる剣八は一撃で世界すら削り、広大な叫谷を吹き飛ばし、分身体を消滅させる。更には
しかし
物理、霊圧による殴り合いは一撃ごとに致命傷を与える。だが剣八は卍解の能力で自己再生を行い、
ある意味、特殊能力頼りだったユーハバッハよりも強いのかもしれない。
かつては『老い』の力を有するバラガンと張り合ったほどだ。それも当然なのかもしれないが。
『いっけー! そこだ! やっちゃえ剣ちゃん!』
理性を失った剣八に代わり、やちるが表に出てくる。彼女は卍解状態の剣八にとってストッパーであり、自分では止まれない剣八のために戦いを見守る。
しかし本質的には剣八の願いを叶える存在だ。
『正真正銘! 剣ちゃんの全力! あたしの全部を使って!』
だからこそ、やちるは認めた。
今こそ卍解に秘められた全ての力を解放するべき時なのだと。
『十割! 剣ちゃんに全部あげるね』
その瞬間、更木剣八という死神から放たれる霊圧が消失した。
何が起こったのか。
二次元の存在が三次元に干渉できないように、剣八の力が一つ上の領域へと突入したとは。
『まっ―――』
今更察しても少し遅い。
次に剣八の存在を認識した時、彼女は
そして
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
理性なき剣八が吼える。
鈴のような声音より放たれた絶叫は、落胆か、失望か、あるいは歓喜だったのか。ともかく正真正銘全力の卍解を披露した剣八は、たったの一度で世界を変貌させてしまった。
世界に、消えぬ傷跡を刻んだのだった。
◆◆◆
「なんだ、あれは……」
虚圏の統治者、ティア・ハリベルが空を見上げて呟く。永劫の夜に支配された砂漠の世界に、それは現われた。
◆◆◆
「ねぇ見て」
「おいおいおいおいおい。世界の終わりなのか? さっきから地震も止まらねぇしよぉ」
「なんか……気分悪……」
現世、空座町では多数の人間が空を見上げていた。
何の霊能力も持たない一般人ですら、空の異変に気付いていた。
◆◆◆
「恋次、あれを」
「わかってるルキア。ありゃ……やべぇな」
これから瀞霊廷の復興を。
そのために生き残った隊士を集め、指揮していた恋次とルキアも空に目を向けていた。当然ながら周りにいる隊士たちも同じように見上げ、あるいは指さしている。
「いったい……何が起こっているというのだ……」
彼らが見つめる先。
それは突如として空に生じた世界の裂け目であった。それだけではない。正真正銘、それは世界の裂け目なのである。事実、裂け目には夜の世界が特徴の虚圏、そして瀞霊廷とはかけ離れた現世の世界が重なって見えていた。
和尚「うわ、やりおった」
ifストーリーで「私と契約して天に立たないか?」ルートとか考えたんですけど、闇落ち剣ちゃんを見たい人っておる? ってアンケを流してます。ふと思いついただけやから気分ですけど、ifの需要ってあるんかね?
藍染「勝ったな。風呂行ってくる」
一護「終わりだ……」
卯ノ花「(目キラッキラ)」
みたいなお話。
if「私と契約して天に立たないか?」ルートの需要ある?
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闇落ち剣ちゃん見たい
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本編だけでいい