穿界門を通って現世へと急行した一護たちは、空座町の光景を目の当たりにして絶句した。
空が割れ、虚圏や尸魂界の光景が映っているのだ。
「これは……霊王の楔がありながら三界がこれほど接近するなんて!」
浦原は冷や汗を流しながら声を絞り出した。
状況が理解できず、比較的冷静だった雨竜が問いかける。
「どういうことですか?」
「本来……本来の話ですが、現世、尸魂界、虚圏の三界は霊王という楔のお蔭で維持されています。滅却師が侵攻し、ユーハバッハが霊王宮を狙ったのはこの楔を解き放つことで三界を統一するためでした。一時的に霊王が不在となったものの、今は新たな霊王のお蔭で境界が復活したはずでした」
ジッと空の裂け目を眺める浦原は、自分の優秀な頭脳を呪う。
あれがなぜ、現世に出現したのかを理解してしまったからだった。
「恐れていた事態です。どうやら更木サンはアタシの想像以上だったようですね」
未知数の手段としてユーハバッハから警戒されたこの男から『想像以上』という言葉を引き出したのだ。更木剣八という死神の規格外さがよく分かる。
そうしている間に空の裂け目から大量の虚が出現した。一時的とはいえ、虚圏と直通の空間ができてしまったのだ。現世の魂を求めて虚が大侵攻を開始する。そればかりか次々と
「クソ! 行くぞ皆!」
「うん!」
「ああ」
「こんなの僕たちだけでどうにかなる数じゃないぞ……」
「ですがやるしかありません。アタシも微力ながらお手伝いいたします」
一護は背中の斬月を抜き、織姫は盾舜六花を発動し、
「皆さん、この杭を持って四方に向かってください。これはアタシが開発した道具で、簡易的な空間凍結を可能とします。可能な限り現世に影響を及ぼさないようにするための措置です」
「けど浦原さん! このままじゃ間に合わないよ!」
「砕蜂サンが隠密機動や鬼道衆を派遣してくれるまではまだかかかります。それまではアタシたちで持たせるしかありません」
「ああ! 浦原さんの言う通りだ。できるかじゃねぇ。やるしかねぇんだ!」
絶対切断の領域まで昇華した新しい斬月に霊力を食わせる。そうして一護が振るうと同時に巨大な霊圧の斬撃、月牙天衝が放たれた。空の裂け目、また無数の
それに続いて茶渡も重い霊圧の一撃を放ち、雨竜は
更には浦原の鬼道、破道の九十一番・
だが、それでも虚の群れは減らない。
「キリがねぇ!」
「黙ってろ黒崎! 一匹でも倒せ!」
「んなこと分かってんだよ!」
一護と雨竜は互いに言い合いながらも広範囲攻撃を続ける。
このままではとても空間凍結結界を構築する暇はない。少しでも手を止めれば無数の虚が空座町を襲い、人々が犠牲となる。
「く、そ……」
このままでは不味い。
そう考えた一護は卍解すら視野に入れる。速度に特化した一護の卍解ならば、これまでよりも効率的に戦うことができるだろう。性質上、燃費も良いので解放しない理由はない。
問題は一護の力が強すぎることだ。
護廷十三隊の隊長格が限定霊印により霊圧を制限しなければ現世へ向かうことを禁じられているように、強すぎる霊圧は霊なるものに悪影響を与える。これほど虚が密集している空間でそれをすれば、どんな変異をされるか分かったものではない。それだけならともかく、一般人が一護の霊圧にあてられて魂を損傷する場合も考えられる。
だからこそ簡単に卍解できなかった。
虚化などもっての外である。これに至っては一般人どころか、織姫や茶渡といった仲間さえも余波で傷つけかねないのだから。
「親父、遊子、夏梨……」
空座町で治療を受けているはずの家族を想う。
護りたかった平穏が、家族が、友が、この街の全てが消える。
「このままでは……っ!」
浦原ですら焦りを覚える。
確かに手段がないわけではないが、それは希望的観測に基づくもの。現世にいる
確実を取れる手札がなかった。
襲来する無数の虚を着実に減らしてはいるものの、増え続ける一方で一護たちだけではどうにもならない。
終わりだ……。
誰もがその考えを過らせた時、希望が聞こえた。
「やれ、
空に向かって無数の霊圧が弾丸となり飛んで行く。さきほど浦原も使った破道の九十一番・千手皎天汰炮だ。しかしその数と範囲は比較にならず、無限にも思えた虚が次々と消滅していく。
浦原は目を見開いた。
「あ、あなたは……痣城サン!」
「今の内だ浦原喜助。空間凍結を完成させろ」
「っ! 助かります」
決して虚に奪わせはしない。
かつての剣八、痣城双也がその思いを胸に参戦した。
◆◆◆
現世で大量の虚が出現したように、尸魂界でも同じような事態に陥っていた。
突如として開いた黒腔から無数の虚が出現し、
「くっ……どうなっておるのだ!」
「余計なこと言ってねぇで手ェ動かせルキア!」
「分かっておるわ馬鹿者!」
ルキアと恋次は副隊長として、近くにいた隊士たちを集め、迎撃にあたる。しかしあまりにも数が多く、戦力低下した現状では押される一方だ。そのせいで流魂街にまで手が回っていない。
「おおおおおおらああああああああああ!」
恋次が蛇尾丸を操り、次々と虚の群れを巻き込みながら倒していく。
しかしまるで減った気がしない。
「くそ……どうしろってんだ」
恋次はつい、本音を吐いてしまった。
◆◆◆
貴族たちの元へ向かっていた白哉と夜一もまた、出現した虚の対処にあたっていた。空より現れた数えきれない虚を見た瞬間、白哉は卍解・千本桜景義を発動したほどである。
「ちっ……キリがないのぉ」
瞬閧を発動した夜一は雷撃を放ちながら縦横無尽に駆け回る。接近戦による白打を得意としているため、必然的に動き回る必要がある。よって白哉の卍解で空を広域に攻撃し、それでも接近した虚を夜一が仕留めるという役割分担ができ上っていた。
そこに突如として黒腔が開き、白哉は手掌にて操った千本桜の刃を殺到させた。
「待て白哉坊!」
しかしそれを夜一が声で制止する。
それによって千本桜の刃が黒腔へ殺到する前に止まり、散った。白哉も黒腔の奥から現れた人物を霊圧により察知したのだ。
「卯ノ花隊長か」
「お騒がせしたようですね朽木隊長。それに四楓院夜一さん」
「その男は……」
「む? その家紋は」
黒腔より現れたのは卯ノ花烈であった。
どうしてそんなところから、というより彼女の抱えている男に目が向かう。四大貴族である二人は、男の服に刻まれた家紋から何者であるかを察した。
「綱彌代、時灘という男か」
「なんじゃ。元凶はもう捕まっておるのか」
「ええ、その通りです。捕縛しましたので連れてきたのですが、どうやらそれどころではないようですね」
卯ノ花も空を見上げ、世界の亀裂を目の当たりにする。
あれがなぜ出現したのか、彼女には分かっていた。
分かってはいたが、もはや完全に初代剣八など超えただろう。卯ノ花でさえ、アレを止められる自信は到底ない。疼くものはあるが、今すべきことは違うと理解していた。
「
「では儂が行こう。白哉坊一人に任せることになるが……構わんか?」
「私を誰だと思っている。さっさと行くがいい」
「かか。素直じゃない奴め」
瞬閧を解いた夜一は卯ノ花より時灘を受け取り、瞬歩で消える。
また直後に卯ノ花も四番隊救護棟へと急ぐため同様に瞬歩で移動してしまった。
一人残された白哉は数えるのも億劫な刃を操り、近づく虚を討伐していく。呑まれる虚は為す術もなく原形すら失い、決して貴族街へと近づくことができない。だが貴族街と一口に言っても非常に広く、卍解を使った白哉ですら一人で守り切れる範囲ではない。
「いつまで、持つか……」
誰も聞いていないところで、密かに弱音を漏らした。
◆◆◆
瀞霊廷に出現した無数の虚へと対処するため、技術開発局では大騒ぎとなっていた。世界を渡るための門は鬼道衆や技術開発局が共同で管理している。しかし先の滅却師侵攻によって技術開発局にある機器は多くが使い物にならなくなっており、復旧作業を急いでいた。
「
「くそ! 何度目だ!」
「だめです! 閉じれません!」
「なんで殺気石の範囲内で開くんだよ……」
とにかく人手が足りない。
また空間の裂け目の影響か、次元が歪みが大量に出現している。そのせいで意図しない黒腔が大量に出現しており、技術開発局でもそれを止めることができない。本来ならば虚が瀞霊廷に直接乗り込めないよう、結界のようなものが張り巡らされている。しかしそれも破壊され、今の瀞霊廷には守りが存在しない状態なのだ。
「何をしているんだネ? さっさと復旧させるんだヨ! このウスノロ共が!」
「しかし涅隊長、我々だけでは手が足りません。鬼道衆に結界修繕を依頼していますが……」
「阿近。キサマはいつから私に意見できるほど偉くなったのかネ? 私がやれといったらやるんだヨ!」
とにかく理不尽な涅だが、彼もそれだけの男ではない。
「私が何のために
「しかしそれができるなら……」
「五月蠅いヨ。何も塞ぐだけが能じゃない。無秩序に見えるなら、そこから法則を導き出し、我々の秩序に乗せてしまえばいいのだヨ。それが科学者、というものだ」
涅マユリは正真正銘、心の底から科学者だ。
この世は全て数式によって理解できると信じており、分からないことがあればひと欠片もあまさず調べ尽くす男である。この恐ろしき事態においても即座に必要を見つけ、対処法を提案するだけの頭脳を持っていた。
「すぐにアレを塞ぐのは無理だヨ。なら、出現場所をこちらでコントロールしてしまえばいい。そうじゃないかネ?」
「っ! 確かにそれなら現状の護廷十三隊でも……」
「分かったらさっさと動くんだヨ!」
活気づいた技術開発局は涅に言われた通り、黒腔をコントロールするべく動きだす。かつて藍染の乱で涅が虚圏に閉じ込められた際、黒腔の解析は終わっているのだ。
「折角だ。私の
狂気的に表情を歪める彼は、地下深くに隠した資料保管庫へと急いだ。
◆◆◆
四番隊隊舎のある救護棟では数えきれないほどの患者が集められ、一挙に治療が行われていた。それを指揮するのは副隊長の虎徹勇音である。卯ノ花が外している現状、彼女以外に指示を出せる者がいない。普段はおどおどとしている彼女も、今だけは泣き言を言わなかった。
「急患を優先して奥へ! 軽傷者はその場で治療し、送り出してください!」
そう命じる彼女自身も回道を使い続けており、額からは汗が流れる。四番隊の霊力も無限ではないので、回道による治療は重傷者だけに絞り、軽傷者は薬や包帯による止血に留めて送り返すことしかできない始末だ。
また四番隊隊舎も安全というわけではない。
「うわあああああああ!
見上げるほどの巨大な虚が隊舎を壊しながら迫ってくる。四番隊は支援専門であるため戦える者は非常に少なく、誰もが逃げ惑うことしかできない。
吼える
だがそこに鎖付きの鎌が飛来し、
九番隊副隊長、檜佐木修兵である。
「ここは俺たちで守る! だから治療に専念してくれ!」
「あ、ありがとうございます檜佐木副隊長!」
「お願いします!」
「ああ、任せろ」
檜佐木だけではない。
同じく九番隊の
(だが、多すぎる……)
檜佐木は自身の斬魄刀、
せめて出現する方向が同じであれば、戦術的によって消耗を少なくできる。
それが歯がゆかった。
怪我人は刻一刻と増えていくばかりで、逆に戦闘員は減っていく。
このままでは不味い。
誰もがそう思っていたその時、頼もしい霊圧が現れた。
「みなさん。よく持ちこたえましたね」
『卯ノ花隊長!』
四番隊の隊士たちは歓喜する。
副隊長の勇音ですら安堵のためか、明らかにホッとしていた。
「た、隊長ぉ……は、早く奥へ! 鳳橋隊長と六車隊長が!」
「分かっています。案内してください」
圧倒的な回道の実力を持つ卯ノ花ならば、致命傷を負っている隊長二人も癒せる。そうなれば護廷の戦力は大幅に回復するのだ。
これには四番隊だけでなく、三番隊も九番隊も士気が上がった。
「俺たちも気合入れるぞ! 何としてでも隊長の復活まで持たせろ!」
檜佐木も自身を鼓舞するかのように叫び、突撃していく。
ただ、せっかく習得した卍解を使える機会ではなさそうなことに内心がっかりしていた檜佐木であった。
◆◆◆
太古の
それは無限の成長である。
バラガンが『老い』という絶対的な能力を有する一方、後に
また人型である
(我は……亡ぶのか?)
更木剣八の卍解、
かつて虚圏にて『意志ある災害』とまで語られ、相性の悪さからあのバラガンとすら不可侵を結ぶことになった存在が
(否。そのようなこと、認められぬ)
無限に成長し、無限に強くなり、無限の高みへと昇る。
それが■■■■■という存在だ。この本質は
一撃で両断され、その野望を砕かれるなど有ってはならない。
だからこそ
願う。
望む。
このままでは終わらぬ、と。
『我、は……』
剣八によって横一文字に切断され、吹き飛ばされた仮面に亀裂が走る。
それは虚という存在にとっての進化。
かつて藍染惣右介によって量産されてしまったが、本来ならば希少な条件が重なって発生する奇跡のような進化が引き起こされる。それを自然に引き起こした虚は数えるほどしかいない。
『我は……我こそ、が……』
今こそ力を取り戻し、更なる力にすら目覚め、バラガンとの決着をつける。
そして真に
『我こそが虚圏の支配者だああああああああああああ!』
崩壊していく叫谷より霊子を取り込み、超速再生を行う。七割ほど吹き飛ばされていた頭部が再生し、霊圧が更に上昇していく。
無限の成長に偽りなし。
折角再生した仮面がボロボロと崩れ落ちていき、目元より上を残して消えてしまう。剥き出しになった口は無数の牙が並んでおり、大きく裂けていた。また全体的に少し縮み、力が圧縮される。化け物のままでありたいと願った■■■■■の願い通り、
背中には刺々しい突起が無数に生え、細長い腕には装甲と鋭い爪が現れる。また全身に黒い斑点が生じ、仮面の額部分には産絹彦禰が下半身まで埋まっており、ぐったりとしていた。
強すぎる力が斬魄刀として封じられて、それが彦禰の手に握られる。
『死神ぃぃいいいいいいいいいっ!』
吼える
つまり
踏みつけられそうになった剣八はそれを斬撃で消し飛ばす。全開の
いや、これこそが更木剣八の持つ真の力なのである。
そんな圧倒的破壊の力は、かつて
既にバラガン・ルイゼンバーンが藍染惣右介という死神に屈したばかりか、滅ぼされているということすら知らない哀れな子である。
「ぁぁぁぁぁ……」
一方で剣八は
相対する剣八と
常識的な動体視力では捉えきれないほどの速度で打ち合い始めたのだ。剣八が
破壊と無限の成長。
その二つが正面からぶつかり合う。
まさに世界の終わりだ。
常人の入り込める余地は僅かたりともなく、世界の上位者ですら介入は難しい。
涅の開いた
「まさか、これほどとはのう……」
一番に口を開いた兵主部が苦い表情を浮かべる。
かつて剣八を戒め、世界の害となるなら殺すと宣言した男だ。その時のセリフを思い出しているのだろう。とてもではないがアレはどうにもならない。ましてユーハバッハに一度は殺害され、弱体化している現状は猶更だ。
「藍染が可愛く見えるぜ……」
「単純に強いって、下手な特殊能力より断然厄介だねぇ」
冬獅郎も京楽も口調が弱々しい。
「じゃが、止めねばならん。アレが暴走したのは儂の責じゃ」
中央四十六室に命じられていた更木剣八の封を解き、始解どころか卍解まで許可したのは元柳斎だ。その結果として世界の滅びが招かれようとしているのなら、責任は取らなければならない。
故に斬魄刀を抜く。
「万象一切、灰燼と為せ――」
「――流刃若火」
決死の覚悟が眼光に宿った。
【速報】剣ちゃん、ラスボスだった
【速報】四十六室さんマジ賢者
【速報】
破面化した已己巳己巴ですが、暴走エヴァ初号機をイメージしてます。フレームパージして暴走しているシーンを思い浮かべてくだされ。
いや、ほんとはね? 彦禰を倒して終わりにするつもりだったんですよ。でもそれだと全開の剣ちゃんを書けないからさ。仕方なかったんだよ。
まぁ2次ですし?
これくらい無茶苦茶でもいいよね。
次回
if「私と契約して天に立たないか?」ルートの需要ある?
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闇落ち剣ちゃん見たい
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本編だけでいい