剣八無双、はじまるよ
朽木ルキアの処刑まで間もなく。
卍解を習得した阿散井恋次は彼女を助けるべく、双極の丘へと向かっていた。一護に砕かれた自身の弱さを強さに変えた。護廷十三隊への裏切りと分かっていても、彼は進んだ。
だが、彼を阻む霊圧が現れる。
「……っ!?」
特徴的な重圧。
すぐに恋次は見上げた。
「どこへ行く、恋次」
平坦な声で問われる。
まるで罪人に対する詰問であるかのように。
しかし恋次に弱さはない。あるのは魂に秘めた覚悟だけ。
「ルキアを……助けに行きます」
白哉は一瞬だけ眉をひそめた。
だがすぐに返答する。
「ならん」
「行きます!」
恋次は吼える。
しかし白哉の目は冷たいままであった。拒絶を言葉なく述べていた。
「……どうあっても通してくれませんか」
「二度は言わん」
その瞬間、白哉は背後に回っていた。
回転をかけた特殊な瞬歩によって相手の背後を取る、彼の得意とする歩法である。しかし恋次は見抜いていた。致死の一撃を防ぎ、反撃までしてみせる。
「もう、見えるぜ」
今の一回のやり取りで勝機を見出す。
これまでは頭で理解していても反応できなかった。しかし数々の修行を経て、遂に朽木白哉の領域へと踏み込んだのだ。それはつまり、勝負が成立することを意味していた。
「超えさせてもらうぜ――」
恋次の霊圧が急激に上昇する。
これには白哉も思わず目を見開いた。
「――卍・解!」
◆◆◆
斬魄刀の名を呼んだ更木剣八に呼応して、狛村と東仙も剣を抜いた。
「
「清虫弐式、
人体の何倍もの巨大さを持つ天譴が迫り、同時に無数の針が降り注ぐ。だがその攻撃は剣八の一振りによって全て薙ぎ払われた。大太刀が天譴を弾き、その剣圧によって無数の針を弾き飛ばす。
「化け物か……っ!」
「失礼ですね東仙隊長」
「ぐっ……」
剣八の追撃を防ぐべく、東仙は自身の斬魄刀の刃に手を添えて防ぐ。しかし振り下ろされた野晒による一撃は凄まじく、彼の清虫は折れてしまいそうである。またそれを支える両手すら震えていた。
「東仙!」
慌てて狛村が助けに入るも、彼の天譴は片手で掴み取られ防がれる。
「馬鹿、な!」
あまりにも衝撃的な光景を前に狛村は絶句する。
それは大きな隙となり、剣八は野晒を振り回した。その回転力から解き放たれる旋風は狛村の巨体を吹き飛ばし、東仙の清虫を弾き飛ばす。流石に隊長だけあって手放すことはなかったが、右手を大きく上へ持っていかれた。
「それでも隊長ですか。私の力を見誤りましたか?」
しかし剣八は酷く虚しい思いをしていた。
始解した二人の隊長格を相手に戦っても、そこに愉しみを見出すことができない。どうしても一護との戦いが脳裏を過る。敵わぬはずの剣八に挑み続けた一護が眩しかった。
あの輝ける魂と再び見えるように。
「あなたがたの目を覚ましてあげましょう」
その手を左目部分に触れさせる。
彼女の莫大すぎる霊力を封じるための眼帯が、外された。
「っ!」
「これは! 下がれ東仙!」
爆発的に上昇する剣八の霊圧に思わず気圧される。
先代剣八を一刀で切り伏せ、その座を継いだ最強。それが本当の意味で二人の前に現れた。化け物という表現は間違いではなかった。
こんなもの、始解で相手できるものか。
狛村の判断は早かった。
「卍解!
見上げるほど巨大な鎧武者が具現化する。狛村の動きに連動して動くこの鎧武者こそ彼の卍解。そして発動と同時に剣を振り下ろし、剣八を叩き潰そうとする。
しかし剣八は迫りくる巨大な剣を前にしても表情を変えなかった。
「遅いですよ」
野晒が振るわれる。
黒縄天譴明王の巨大剣からすれば小枝のような野晒が、どういうわけかその一撃を受け止める。いや、それどころか弾き返した。凄まじい威力は殺しきれず、鎧武者はたたらを踏んで後ずさる。
更に剣八は跳び上がり、野晒を両手で握った。
普段は片手で扱っているが、それでも卍解を吹き飛ばす威力がある。それを両手で振るった場合はどれほどの威力になるのか。
「そして脆いです」
これがその答えである。
黒縄天譴明王も巨大な剣が砕け散り、その頑丈な鎧をも切り裂いた。
「がっ……馬鹿、な……」
狛村から大量の血が噴き出す。
この巨大な卍解は絶大な破壊力を有する上に操りやすいという特権がある。しかし一方でダメージすら狛村とリンクしており、卍解が破壊されると狛村自身も同じダメージを受ける。普通ならば絶大な攻撃力と防御力により敵を圧倒できるはずだが、剣八には意味がなかった。
よって彼の持つ斬魄刀は砕け散り、その胸元に斬撃が走る。
更には狛村の被る鉄傘すら破壊され、謎に包まれていた彼の顔が明らかとなった。
「おや。そのような顔だったのですね。これは驚きました」
「くっ……儂の醜さに、か?」
「醜いなどとは一言も。ただ顔を隠していた理由に得心がいったのです」
狛村左陣。
彼は人ではない。人型の犬であった。その顔は犬そのものであり、異形という言葉が似あう。それ故に彼は顔を隠していた。
ただ、彼も今は顔を隠す隠さないどころではなかった。
封じていた霊圧を解放し、両手で野晒を振るう。それだけで彼の結晶体たる卍解が破られた。ただの始解で卍解が破壊された。
恐るべき事態であった。
「下がれ狛村! 卍解!」
力では勝てない。
だからこそ、東仙要が搦め手によって始末する。
「――
重傷を負っていた狛村はすぐに下がった。親友である東仙の卍解はよく知っていた。巻き込まれるのは構わないが、少なくとも剣八の間合いからは大きく離れなければならない。
東仙の斬魄刀から複数のリングが飛翔する。それは八方に散らばり、そこを基点として結界が張られた。
「更木剣八。歴代最強の剣八よ」
卍解に捕らえた。
それによって東仙は勝利を確信する。
「貴様は確かに強い。その化け物じみた力をよくぞ理性によって抑え込んだ。しかし遂に本性を現したな……」
剣を構えたままじっとして動かない剣八へと歩み寄る。
「力は正義を成す。しかし力は理性によって制御されなければ正義たりえない。私は貴様に期待していたのだ。圧倒的な力によって正義を成すと信じていた」
そして目の前で立ち止まる。
盲目の彼には何が映っているのだろう。あるいは理想としていた剣八が浮かんでいるのかもしれない。
「過ぎたる力は邪悪である。故に……私が処断――」
「話が長いですよ」
「――がっ!?」
完全に油断していた東仙は崩れ落ちた。
信頼する相棒の力がまるで効いていなかった。そのショックからか立ちあがることすらできない。また傷も深い。しかし精神的なダメージはそれを遥かに上回る。
彼の卍解は砕け散った。
「何故……まさか見えて? そんな馬鹿な!?」
「なるほど。視覚を奪う卍解なのですね。それは申し訳ないことをしました」
剣八は自身の斬魄刀、野晒を見せつける。
「野晒は私に影響を及ぼす余計な霊圧を全て呑み干します。私が望むものは純粋な斬り合い。余計な能力など無粋ですよ」
「そんな無茶苦茶があってたまるか!」
「いいえ。無茶苦茶ではありません。これが私の望む在り方。この斬魄刀こそ私の鏡」
すなわち野晒は搦め手を得意とする相手の天敵である。
剣八の絶大な霊圧が許す限り、ありとあらゆる特殊な霊圧を飲み込み続ける。状態異常完全無効というラスボス仕様の剣八を前に
「さて……」
改めて剣八が口を開く。
だがその時、遥か遠くで巨大な霊力が巻き起こった。
思わず剣八、狛村、東仙が三人とも同じ方角を向く。
「……どうやら時間が来たようですね。遊び過ぎましたか」
始解を消し、鞘に納める。
「貴様! どこへ行く! まだ決着は……」
「待つのだ東仙」
「狛村!」
「落ち着くのだ。貴殿の卍解は分が悪い。ここは儂に任せて援軍を呼んで欲しい」
「しかしお前の卍解も……」
「分かっておる。だが貴殿にしか頼めぬのだ」
さっさと背を向け、双極へと向かって行く剣八を睨みつける。目が見えぬはずの東仙からは憎悪すら感じられるほどの眼光が発せられていた。
だが狛村の言葉で心を鎮める。
東仙はその場から離れた。
野晒を改変。
がっちがちの藍染メタ。
呑め、の解号からそんな能力だったらいいなって。状態異常無効の剣八とか誰が倒せるんだよ。
あくまでも並行世界なので、この辺は好きに改変してます。