Dolls Flont Line Nightmare Report   作:通りすがる傭兵

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Prologue 悪夢の始まり

 

 

 

 

 

「ダメね、エンジンがすっかり焼き付いてるわ」

「廃車よこしやがりましたか」

「ふざけるなっての!」

 

 怒りに任せてボンネットを叩くように締め、車の中に戻る黒髪にパンツスーツの女性。 警官服姿に金髪が似合いのもう1人は諦めたように帽子を被り直し、同様にして運転席に座りハンドルに身体を預けた。

 

「全く、ツイてませんねWA(ワルサー)。遅刻は確定です」

「おまけに電話網も発達してないときたから連絡もできないわ。技術が2000年台初頭とかレトロにも程があるでしょう! 着いたらまずはこの車寄越したクソ野郎に1発入れないと気が済まないわ」

「まあまあ落ち着いてください。誰か通りかかるかもしれないじゃないですか」

「こんなところ日に1本も2本も来ないわよウェル!」

 

 彼女らの目の前に広がるのは埃の被ったハイウェイ。昔からの交通に要所と言われていたが、今となっては近道用の裏道程度にしか活用されないくらいだ。そんなところに通りかかる車なんてのは、よほどのもの好きかよっぽど急ぎの用事がある人間だろう。

 

「あ、雨」

「......さいっ悪。悪夢みたいな初出勤日ね」

「夢はいつか覚めますよ。初日はこっぴどく叱られるかもしれませんが、事情を話せばわかってくれます。2人で乗り切っていきましょう」

「アンドロイドのくせに天気予報も見られないって罵倒されるのがオチよ」

 

 ぽつりぽつりと降る雨は激しさを増し、瞬く間に土砂降りへと変わってしまう。雨音が地面を叩きつける音とノイズばかりのラジオを聴きながら、WAはひとりごちた。

 

「暗い夜に大雨、届かない連絡に繋がらない電話、おまけにエンスト。まるでホラー映画の導入みたい。着いたらどうせシリアルキラーだとかフレディとかジェイソンがラクーンシティを闊歩してるのよ。鉄血の暴走アンドロイドでもターミネーターでもいいわよ」

「映画の見過ぎです。末期は随分と暇だったから映画漬けとは聞いてましたがこれ程ですか」

「やることないんだもの、仕方ないじゃない」

「確かにそうでしたが......」

 

 ぐでっ、とだらけるWA2000に眉を顰めるウェルロッドだったが、何か音を拾ったらしく顔を上げる。

 

「これはー」

「なに? どうしたの?」

「車の音です! 乗せてもらいましょう!」

「渡りに船、ますますホラー映画染みてきたわね」

 

 車外に出て雨に濡れるのも厭わずおーいおーいと手を振るウェルロッド。彼女の耳は正しかったのか、すぐに車のヘッドライトが視界に飛び込んできた。

 運転手も手を振る彼女に気がついたのか、古臭いカーキの軽トラックがエンストした車の路肩に寄せて止まった。ウェルロッドが運転席を覗き込めば、金髪の若い男がハンドルを握っている。ウェルロッドと同じ、警察の制服姿だ。

 

「どうしたんだ? 女1人でこんなところになんて」

「実はエンジンが止まってしまって......同じ警察官だとお見受けします。ラクーンシティまで乗せていってもらえますか?」

「その制服、君も同じか? 乗れよ。俺も丁度ラクーンシティに行くところだったんだ」

「ありがとうございます! ああ、待ってください、連れが居るんです。WA! 話が付きましたよ! 乗せてくれるそうです!」

「五月蝿いわね。怒鳴らなくても聞こえてるわよ」

 

 エンジンから煙を吐く車の後部座席から大きなハードケースを引っ張り出しながらボヤくWA。それをよこめに早々に助手席に乗り込んだウェルロッドは青年との会話に興じていた。

 

「彼女は同僚と言ったが、制服は?」

「堅苦しいのは嫌いと言っていました。それに胸のボタンを弾け飛ばしていたのでいつもの服ですよ」

「それは......災難、なのか?」

「近くで見ていれば目福でしたよ。ところで同じラクーン市警の警官とお見受けしますが」

「ああ。レオン・S・ケネディ。今日から配属なんだ、よろしく」

「ウェルロッドと言います。同じく今日から配属です。私達はSTARS配属ですが、そちらは市警のようですね」

「STARS! エリート集団じゃないか! 凄いな!」

「とはいえ配属日から半日も遅刻しているようではエリートとは言えません。近いうちに市警に左遷されるやも」

「ははは、そんなことがあったら歓迎するよ」

「ちょっと! この車後部座席が無いじゃない!」

 

 話が持ち上がっていたところに横槍が入る。土砂降りの中合羽をかぶって雨を除けたはいいものの、レオンの乗ってきたトラックには後部座席の代わりに荷台がついていた。それに気がついたレオンが後ろを向き、

 

「ああすまない、キミもこちらに」

「もう! こんな雨だったら荷台があるだけ有難いってものよ、ずぶ濡れなのは変わらないんだから!」

「......あ、ああ? 大丈夫なのかい?」

「慣れてるわよ。前の職場じゃよくあることだったもの」

「キミは一体どんな職場にいたんだ......?」

「いけすかない野郎をぶちのめす職場よ......早く出してちょうだい。あったかいコーヒーでも飲まないと風邪引くわよ」

「ああ、仰せのままに、お嬢様」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ガソリンスタンドに寄ってもいいかな」

「大丈夫ですよ。遅刻に30分も1時間も変わりません」

「ワルサーもそれでいいかい?」

「暖かいものをちょうだい」

「わかった」

 

 ラクーンシティまであと少しと言ったところで、小休止も兼ねてガソリンスタンドに寄ることを決めた一向。

 こんな夜でもげんきに煌々と照明を灯すガソリンスタンドに車を止めて、車外に出てガソリンのノズルを差し込もうとしていたレオンは周囲の不気味さに思わず呟く。

 OPENの筈なのに照明の落ちた、人気のないショップ。乗り捨てられたようで、まだエンジン音のするパトカー。

 

「気味が悪いな......」

「レオンさん、此方を」

「ウェルさん? これは」

 

 ウェルロッドが地面を指さすのと、店内からガラスが割れる音が響くのは同時だった。まだ黒ずんでいない鮮血は店内に続き、その店内からは不審な物音。

 

「行こう」

「ええ。何かよからぬことが起きている気がします」

「ちょっとー、私のコーヒーはー?」

 

 ひとり状況を理解しないWA2000の発言など耳に入らず、2人は慎重に店へと歩を進めた。

 

「誰か? いないか?」

「静かですね......」

 

 落ちていたライトを拾い上げ、あたりを見渡すが人の姿はない。そのまま店の中を探索しようとしたレオンに、ウェルロッドが声を上げた。

 

「いつでも銃を抜ける用意を、嫌な予感がします」

「......わかった」

 

 ライトを持つレオンの先導で店内の奥へ進むと、バックヤードの扉の前で首を抑える店員らしき男性が蹲っていた。傷口からは、尋常でないほどの血があふれている。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 傷が痛むのか顔を上げることはしなかったが、人が来たのがわかったのか。彼はバックヤードを無言で指さす。

 

「中にいる、ということですね」

「ありがとうございます。外の同僚が救護してくれます、ここで動かないで。WA! 救急キットを!」

「面倒ごとは嫌いだわ、まったく」

 

 短い返事が返ってきたのを確認してから、2人はバックヤード内へ足を踏み入れる。非常用照明だけの薄暗い通路内は何かが暴れたようにものが散らばっている。

 

「強盗か? 暴徒か?」

「熊とかだったらいいんですけど」

 

無言で歩を進めた先、レオンの懐中電灯の光に人影が映る。

 カーキに緑のワンポイント。ラクーン市警の軽装制服だ。警官と誰か、2人が揉み合っているように思える中、レオンが声をかける。

 

「大丈夫ですか、何かー」

「大丈夫だ、一般の人は下がってー」

 

 此方が客だと勘違いした警官が振り向き、手で下がるような仕草を見せる。

 

 それがいけなかったのか。

 

唸り声をあげ、警官が押さえ込んでいた人影が彼を押し倒す。

 

そして、彼の首筋に歯を突き立てた。

 

「なっ......」

「ぐあああああああああっ! た、助け」

 

 みちみちとグロテスクな音をあげ首筋の肉を引きちぎり、警官が絶命する。口元を赤く染め、肉片を咀嚼しながら人影が力無くゆらりと立ち上がる。

 明らかに正気のない、白く濁った目。乾いた皮膚。青白い肌に浮浪者のように汚れた服。

 

明らかに常人ではない。

 

 

「止まれ! 止まらないと......!」

「っ!」

 

 そうレオンが警告する前に、ウェルロッドが引き金を引く。

 

 隠密ように仕立てられた彼女の愛銃からは音の抑えられた短い発射音がし、人影の頭に銃弾の穴が開く。その人影はゆらり、と糸が切れた人形のように倒れ伏した。

 

「おい君! 警告もなしにそんな」

「あれがまともな人間のやることですが! 早く外に出て本部に報告しましょう!」

「......そうだな」

 

    「ちょっと! あんたどういうつもり!」

 

「WAの声です、急がないと!」

「わかってる」

 

 元来たバックヤードの入り口はどいうわけか閉まっていた。なのでもう一つの出口の鍵を開け、店内に戻る。

 

 その目の前には、失血死してるほどの血溜まりと、青白い肌でありながらも立ち上がる先程の店員。

 野獣のような唸り声をあげ、此方へと幽鬼のように手を伸ばそうとするのをレオンが撃ち怯ませたところを通り抜け、商品棚を倒して現れた男は無視して外へ。

 

 ドアを開けようとしたところで、レザージャケットを着た女性が扉を開けて拳銃を構えるこちらに声を張り上げた。

 

「やめて撃たないで!」

「しゃがめ!」

「邪魔よ!」

 

 女性がしゃがむと同時にレオンが彼女の背後にいた人影のを撃ち抜き、よろけた所にWA2000の蹴りが炸裂し頭を砕いた。

 妙に少ない返り血を気に留めることもなくWA2000がレオンに声を張り上げる。

 

「どうなってるのよこれは!」

「こっちが知りたいですよ。とにかくラクーンシティまで急ぐべきかと。もしかすると、街の方にも」

「大丈夫か?」

「ええ、なんとかね。それでー」

 

 女性が何かを言いかけたところで、後ろで閉めた店の扉に口を血まみれにしたい男性がぶつかり唸り声をあげ、前方の照明の影から何人もの人影が姿を表す。

 

 全員一様に口元が赤く染まり、死人のよう。

 

「とにかく逃げるわよ!」

 

 WA2000の掛け声に弾かれるように、全員が1番近い車両である乗り捨てたパトカーに殺到した。

 襲ってくる人らしきものを押しのけ、蹴り倒して道を作る。

 

 運転席と助手席にはレオンと女性、後部座席にウェルロッドとWA2000がそれぞれ乗り込んで、レオンがアクセルを目一杯踏み込みガソリンスタンドから逃げ出した。

 

「......君の名前は? どうしてこんなところに」

「クレア。クレア・レッドフィールド。警官の兄を探しに来たの、ここにいるって」

「そうなのか。とにかく無事でよかった。ボクの名前はレオン。このままだとどうなるかーー」

「あーーーーっ!」

「どうした」

 

 後部座席のWA2000が突然声を張り上げ、思わずレオンまでもが振り返る。

 その当の本人はというと頭を抱え小さな声で呟いた。

 

「銃を車に置きっぱなしにした」

「お気に入りだったのか?」

「それどころじゃないわよ! アレじゃないと私は調子が出ないってのに、しかもガンスミスにチューンしてもらった一点物の......」

「気持ちはわかるけど銃を選ばないのが一流ってクリスは言ってたわよ」

「違うわよ! そうじゃなくて、ああもう!」

「まあまあ、銃器店のひとつや二つあるでしょうし」

「アレが置いてあるわけ無いじゃない!」

「..................とりあえず、これを使え。あの警官の予備の銃だと思うが」

「ふざけるんじゃないわよ! 38口径のリボルバーなんて私はスナイパーなのにこんな安物で満足しろってこと!」

「わがままお嬢様だなキミの相棒は!」

「......コーヒーが飲めないといつもこうなんです」

「それは立派なカフェイン中毒者だな」

「前の職場のコーヒーが美味いのが悪いのよ!」

 

 

 本来ならばもう少し静かだったはずの道行は騒がしく、姦しい。果たしてこれは悪夢を切り払う希望となるか、新たな絶望を運ぶきっかけなのか。

 

それはまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 




拙作「ドールズフロントライン 銃器紹介ラジオ」のあの2人を主人公に据えたスピンオフ? 作品。

戦争も終わり、少しだけ人間らしくなった彼女達をよろしくお願いします。
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