Dolls Flont Line Nightmare Report 作:通りすがる傭兵
「ねえ貴女、どうして警官になろうと思ったの? そんなに若いのに。まだ子供じゃない」
「私ですか?」
ラクーン市内に向かう車中、クレアは徐に振り向き、ウェルロッドに声をかけーーもう片方が銃を置いてきぼりにしカフェインの中毒症状で苛立つWA2000しかいないので当然とも言えるのだがーーそんな質問をした。
「見てくれはハイティーンですが、勘違いはしないでください。これでも立派な成人ですし、働いていたこともあります」
「へぇ、どんなことをしていたの?」
「カフェの店員だとか、ラジオ局のお手伝いだとか......傭兵稼業の人と関わりを持つこともありました」
「便利屋みたいなことでもしていたってわけ?」
「んー、まあ、そんなところですかね。詳しくは守秘義務もあるので控えさせてもらえると」
「守秘義務」
「誰しも言いたくない過去はありますので。例えばまあ、
「私じゃないわよ」
WA2000の不機嫌な態度をいつもの事だと聞き流しながら、ウェルロッドは言葉を続けた。
「と、まあ。今度はこちら側の質問のターンですかね。
身綺麗ですし見たところ大学生。安全圏から......開拓が進む片田舎の街に、そんな貴女こそ、何のようですか」
彼女は少し黙ると、ポケットから写真を取り出す。
そこに写っているのは痩身の男性や妙齢の女性、ガッチリした体の男性と、今より少しだけ若く見える彼女の姿。
彼女はこちらに笑顔を向ける、かなりガタイの良いがっちりとした肉体の男性を指さして、
「貴女達、STARSに所属する、て言っていたっけ? なら、彼の顔に見覚えは?」
「ん、いえ、ありませんね」
「そう......直近の作戦については?」
「守秘義務もありますので民間人には。少なくとも私は知りませんが」
「クリス。クリス・レッドフィールドね」
「知っているの?!」
「書類と名前は」
億劫だと言わんばかりの態度で窓際に頬杖をつきながら、ではあるがWA2000は自分の知ることを語る。
「彼はSTARSの中でもとびきり優秀な人材の1人。α、β、ςと分隊番号が振られるけど、彼は確かβだったわね。番号が若ければ若いほど優秀ってものだし、まして選りすぐりの特殊部隊。相当できるわ。
私たちに目をつけたのも彼よ。しらなかったの?」
「どこからそんな情報抜いてきたんです? クラッキングですか?」
「正規ルートよ! 全く、就職先の情報くらい調べなさいよ」
「こっちは戦後処理担当だったんですよ!」
「ならしょうがないわね、それで? 兄がどうしたの?」
「半年前から連絡が取れなくて。電話してもわからないの一点張りだから自分で調べに来たってわけ」
「行動力だけは褒めてあげたいわね。それに特殊部隊なんて連絡不通なんて日常茶飯事よ? たかが半年くらいの作戦行動で騒ぐ事でもないでしょう」
「WA。普通の街で特殊部隊は編成されませんし、
「......そう、そうなのよ。おかしいのよ、この街は」
雨の勢いがおさまりつつある外の風景。一瞬だけ流れるラクーンシティまであと3kmの標識の下には、傘をモチーフにした製薬会社の名前が刻まれている。
「戦争という名の鉄血の反乱も、崩壊液のゴタゴタも片付いて1年は経つ。戦後復興が盛んとは言えここは交通的にも経済的にも要所とは言えない。そんな街に特殊部隊なんて配備されるのは釣り合わない」
「不安だからって予算を多く下ろしただけじゃないか? この街の周囲は治安は良くないって聞いてる」
「
WA2000の言葉は、車内によく響いた。
「多すぎる......?」
「全自動ライフルにショットガンとスラグ弾と散弾をたっぷり。少数配備とは言えグレネードランチャーは殺傷用の炸裂弾に対生物用硫酸弾。拳銃は特注のカスタム品に、十分な防弾装備と軽装甲車両まで。どうして警察署に物資がこんなに集まるのよおかしいでしょう」
「市長が数年前に設立したって話だろ? その時はまだ戦争も続いてたんだからそれくらいあって然るべきだろ」
「じゃあなんで選抜警官の
「そんな事ない! クリスはそんなことしないわ!」
「わかってるわよ。でも、そう見えるだけって話。
それにシティと協力体制にある製薬会社アンブレラ社もきな臭いわ。いち薬事企業がどうして制圧用の私設軍隊作ってんのよ、私は後ろめたい事をしていますって言っているようにしか思えないのだけれど」
「不審な点が多いが、万が一に備えてるだけだろ」
「本当にそうなのかしら......?」
レオンの一言で片付けててしまってはいい事ではないのだがこのままではゴシップ誌が語るただの陰謀論に過ぎない。確たる証拠がない以上その理由を判明させることは難しい。
「取り越し苦労だといいのだけど」
「見えたぞ、ラクーンシティだ」
WA2000のつぶやきに被せるようなレオンの発言。各々が顔を上げ、車内の空気が張り詰める。
ラクーンシティの夜は、重く暗く。
◇◇◇
「酷い有様だ」
「ええ、まるで暴動の跡みたい」
道路に散乱するバリケードの跡。操作を誤ったか乗り捨てられた車の列。あちこちで途切れた照明と、反比例するように燃え盛る建築物。
「......まいったな。ここからは歩こう」
警官隊と市民が協力して作ったのか、車や鉄柵、家具で作られたバリケードで道が塞がれていたため、車でこれ以上先へ進む事はできない。
「警察署まではすぐです。だからこそこのようなバリケードができたのかと」
「もしかしたら生存者も」
「ええ、期待できます」
「っ! レオン。早く降りた方が良さそうよ」
「早く、それは一体?」
「みればわかるわ......」
WA2000が指し示した方先にあったのは。
倒れ伏した民間人にまたがる二つの影。燃える車の光に照らされたそれは、暗い街中によく映えた。獣のような四足でまたがり、ニチニチと粘着質な音を立てて人肉を噛みちぎる。
こちらの気配に気が付いたか、ゆっくりと振り向き、口元からだらしなく涎と血液を滴らせ腐って濁った目をこちらに向ける姿は。
「ここはもう、奴らの
「そういう事。死にたくなかったら即断即け」
「ゔぁああああああ......」
「ひっ!?」
後部座席の扉を開けようとしたWA2000の目の前にソレが纏わりつく。もとい、こちらの肉を喰らわんと手を伸ばしてくる。それは車の周囲全てで起こった。ベタベタと窓という窓、扉という扉にまとわりつき、生きた人間を貪り喰らわんと渇き腐った手を伸ばし、頭を叩きつける。
「出られない!」
「このっ」
「ヤバイわよ! このままじゃ!」
「っーーータンクローリーが来ます! このままじゃバリケードに挟まれてサンドイッチになりますよ!」
「ベーコンになるのは勘弁被る!」
「レオン早く車をだして!」
「だめだ! 何かが挟まってる!」
「ああもう、最悪っ。無茶を通すわよ!」
リアガラスを叩き割り、先程貰い受けたリボルバーを構えるWA2000。血塗れの腕が視界を遮る中、彼女の双眼は目標を捉えて離さない。
「ーーーーーっ!」
銃弾はトラックの右タイヤだけを正確に射抜きパンクさせ、足元が狂った車体が揺らぐ。
「みんな捕まって! 弾き飛ばされるわよ!」