Dolls Flont Line Nightmare Report 作:通りすがる傭兵
「あいたたた......」
全身を苛む鈍い痛みにうめきつつ、あたりを警戒する。途切れていた意識がハッキリとしてくるにつれて周囲の状況が分かり始めたと同時に、何が起きたかをWA2000は思い出した。
バランスを崩したタンクローリーとパトカーが派手にぶつかった結果コマのようにパトカー側は弾け飛び、WA2000は自分で叩き割ったリアガラスから車外に放り出された。そのままタンクローリーも転倒、地面を擦ったか配線がショートしたかで散った火花に運んでいた燃料が引火し、目の前の地獄を作り出していた。
乗ってきたパトカーは引火したらしくキャンプファイアーのように燃え盛り、中に人間がいるとすればこんがり焼けてしまっていることだろう。
彼女は変わらなく痛む頭に手を当てぬるりとした感触が返ってきたことに悪態を内心で吐きつつ、声を張り上げる。幸い燃料が広範囲に飛び散っているおかげで人影は寄ってこれないはずだ。
「ウェル! レオン! クレア! くたばって無いようなら返事しなさい!」
「そんなに大声出さなくても聞こえてるさ......つつ」
WA2000が振り向けばすぐ後ろの車に身体を預けていたレオンが立ち上がる姿がみえた。五体満足であるがどこかを痛めたのかその足元は少しだけ頼りない。彼はWA2000の姿を認めるとニヒルな笑いを浮かべたが、彼女は皮肉っぽい口調でそれに答える。
「元気そうでよかった」
「そう見えるか?」
「死んでなきゃどれも同じよ。ウェルどこにいるの!」
相棒のウェルロッドに呼びかけようとするが、ノイズが走る鋭い痛みは破片で切った物による痛みだけでは無い。
「肝心な時に」
「クレアー! 無事かー!」
「ええ、なんとか。警察署で落ち合いましょう!」
燃え盛るパトカーの向こう側に必死に呼びかけるレオン。クレアから返事は帰ってくるが、ウェルロッドからの返答はない。
「ウェルロッドはいないの!?」
「見当たらないわ!」
「いこう。モタモタしてると囲まれる」
「ウェルが、ウェルロッドがいない」
「......行こう」
「置いて行けって言うの! 私の相棒なのよ! こんなところであいつが死ぬなんてありえな」
「ワルサー!」
捲し立てようとしたWA2000を、レオンの鋭い一言が押しとどめた。顔は彼女から見えないが、彼はハンドガンのグリップを壊れるくらいに握りしめていた。それは自分も同じだというように、置いていくなんて決断をしたくはないと言わんばかりに。
だが、WA2000もレオンも理性ではわかっている。この場に居続けることは、自分があの路肩の死体になりたいのと同じだ。お互いに、ここで死ぬのはごめんだ。
「行こう」
「......わかったわ。地図は頭の中に入ってる、裏口からになるから少しだけ遠回りになるわよ。だけど」
「なんだ?」
「市街地を通りぬけることになるわ、それに歓楽街も」
無言で積まれたバリケードの山と、それに衝突し炎上する車列を指し示すWA2000。
恐らく大通りはバリケードで通れないしアレも殺到している、なら細い通路を通ってバリケードの穴を抜けていくしかない。問題があるとすればその道は市街地のど真ん中で、さらにショップの集中する歓楽街に面しているということだ。
彼女はいつもの愛銃より数倍は頼りない小さなリボルバーを抜き、シリンダーの中に弾が入っているかを確認する。
「銃を用意して。何人も殺すことになるわ」
「市民を守る銃が、市民を殺すことになるとはね」
レオンがそう愚痴るが、互いに泣き言は言ってられない。WA2000はそこら辺に転がっている内臓や肉が欠けている警官の死体から銃を拾い上げ、マガジンごと9パラを借り受けウェストポーチに放り込む。さっきは散々恨み言を漏らしたが、マガジンを必要としないのは役に立つ時がある。
「ブローニング
「泣き言言ってても仕方ないさ」
「なによそっちはVP70なんて失敗作使ってるくせに」
「店主に押し付けられたんだ、新発売だって。とんだ詐欺だった」
「馬鹿なの?」
「......泣けるぜ」
◇◇◇
「......感想は?」
「最悪だな。ウジャウジャといる」
「でしょうね。登れる?」
「大丈夫さ」
それからしばらく。うめき声と炎の爆ぜる音、そしてどこからか聞こえる生存者らしきまともな悲鳴に耳を塞ぎ、肉が焼けるような腐るような悪臭に鼻をつまみながら先へ進んだ。
基本的に道はゾンビーーELID感染者と違って身体は柔らかいけれど外見は同じような物ーーによって塞がれている。此処を通ろうとするのは自殺行為だ。
なら、それ以外の道を通るしかない。そう判断したレオンはWA2000の提案でその道沿い、隣接する建物の屋上やバルコニーを利用して先に進むことにした。
ショップの屋根から飛び移った先、煉瓦造りのアパートメント窓を叩き割り足を踏み入れる。
厚底のブーツがガラスを踏み割る音だけが響く屋内、整頓されたリビングらしい場所から何か音のする寝室へゆっくりと足を踏み入れようとして。
私は無言でレオンを制し、寝室の扉を閉めた。
「行きましょう」
「......生存者は」
「いないわ」
私は無言で近くの家具をドアの前に動かし、その場を後にした。それはこの中にいる人物がどうなっているか、レオンにもわかるはずだから。
「君はすごいな、僕はついていくだけで精一杯だ」
「口説いてるつもり?」
「まさか」
おどけて見せるレオンは私のことを励ましてくれているのか、オーバーなリアクションをして見せた。そんな事しなくても気落ちなんてしてないわよもう。
あるとすればこの状況を打破できる解決策が警察署にあるかということと、私の任務を達成できるかどうかだけ。この新米警官には悪いけれど利用させてもらいたいところね。
ゾンビが闊歩するバスケットコートを飛び越え、窓から飛び出すゾンビを蹴落とし、先へすすむ。
しばらくすると、他の建物とは異彩を放つ建築物が見えてきた。
「見えたわ」
「ああ、一度来たから覚えてるよ。裏口はあっちだ」
「頼りになるわね」
アパートメントのバルコニーから極力音を立てないように地面に降り、鉄柵と扉で施錠された裏口にたどり着いた。しかし扉には古めかしい南京錠がかけられている。周りに例のゾンビがいないことを確認し、鍵穴を覗き込んだ。
「......30秒頂戴」
「できるのか?」
「当然」
腰のポケットからピッキングツールを取り出してみせる。ハッキングツールピッキングツールの2種があり、電子ロックも物理ロックもこれさえあれば突破できる頼れる相棒。こんな古臭い鍵なんかほら......一瞬で。
「......」
私は鍵の中で折れてしまったピッキングツールを外して投げ捨て、無言で銃を抜き南京錠と扉を繋ぐ溶接部を撃ち抜いた。
「開いたわ。行きましょう」
「おい」
警戒していたのか、少しだけ遠くからする声を無視して私は鉄柵の扉を押し開く。
綺麗に生えそろった生垣と、時代を感じる石畳の並び。そして荘厳さを感じさせる大理石でできた外観。それらは照明と炎の仄かな光に照らされ、自分の存在感をハッキリと示していた。
「元々は美術館だった、てのも納得ね。それに」
開けた裏庭に数は少なくとも、いる。頑丈な鉄柵なのも知らずに頭を叩きつけ、生肉を求めて手をのばす哀れな怪物がうじゃうじゃと群がる姿もあった。
「......避難所には、もってこいだったのかもね」
「行こう。生存者はきっといる」
レオンの案内の元、私は裏口から警察署へ足を踏み入れた。
◇◇◇
「派手に、吹き飛ばされましたね」
口の中に溜まった鉄臭い液体を吐き出し、全身が痛みで悲鳴をあげているのを無視しながらウェルロッドは立ち上がった。見渡す限り焔に包まれ状況が把握はできないが、お陰で哀れな被害者は寄っては来れなかったらしい。
「さて......」
胸元の無線機を漁ろうとして、ウェルロッドが探り当てたのは何故かWA2000が住んでいる家ののテレビリモコンだった。
『早く行きますよ! 道が混んでるんですから!』
『予定より2時間は早いとかどういうことよ......って制服がー!』
『もういつもので良いじゃないですか羨ましい胸ですね!』
『好きで大きいわけじゃないのよ!』
たしかそう。渋滞で道が混んでいるからとWA2000の家に押しかけ彼女を急かし、机の上に置いてあった無線を掴んで胸ポケットに入れた、その筈だった。
「うっかりにも程があるでしょう」
経験を積めば積むほどそれ以外が疎かになるというのは本当らしい。昔のちんちくりんボディな上司が訓練資料とラジオ原稿を間違えた時に笑っていたが、まさか自分も同じことをやらかすとは。
役に立たないリモコンだが無くしたら無くしたで持ち主に怒らせそうになるのでしっかりと胸元にしまい、脳内に地図を思い浮かべる。
警察署は東、その裏口は北側の路地ルートが近い。しかし両方のルートはバリケードと焔で塞がれている。
その他のルートで警察署に1番近いのは、
「地下鉄を通るルートですね」
ラクーンシティの地下をぐるっと一周する様に通る地下鉄。主要機関を線路で繋ぐそれはおそらく地上より障害は多くはない。
「地下鉄が運行してるハズは無いですが広い地下通路を使うのは悪くないアイデアです」
もしかしたら生きている民間人とも合流が可能、そう呟きつつ彼女は炎の切れ目を縫って最寄りの地下鉄駅へと走った。