Dolls Flont Line Nightmare Report   作:通りすがる傭兵

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スマホ投稿だと誤字が多くて困る......


Report-3 Raccoon Police Station

 

 

 

 

 薄暗い中庭には真新しい掘り返された後が無数にあり、そのほぼ全てに十字に組まれた鉄パイプが刺さっていた。

 掘りかけの穴の周りには破れた遺体袋や、運搬に使われたであろう運搬車、スコップなどが散乱している。

簡素な十字架の下に何が埋まっているのは言うまでもないことだろう。何故そのいくつかが、中から掘り返された様に穴が開いていることも。

 

「ひどい有様ね」

「......急ごう」

 

 土砂降りの中ではあるが、死者を悼むことすら許されてはくれない。ここは、そんな地獄(ばしょ)だ。レオン達がしばらく進むと下りる階段があり、その階下を覗き込んだ先には扉の近くで蹲る人影と黒い扉を見つけた。

 

「......死んでるわ」

「ああ、わかってる」

 

 人影は、かろうじて人だったということしかわからない。顔の肉を食い荒らされ、首の肉を千切られ、腕の肉も腹の肉も欠けている。普段であれば正視すらままならないであろう姿だが、彼が何故扉の前で死んでいるのかはわかる。

 

「外から鍵を閉めたってわけね」

「チェーンカッターを探そう」

 

  WA2000が彼を退かせば、そこにはチェーンと南京錠で鍵がかけられていた。鍵穴は壊れたのか、新しくチェーンを通せる様溶接加工を施してある。本来ならば応急処置なのだろうが、間に合わなかったらしい。

だからこの扉は外からしか鍵をかけられない。つまり誰かが外に出てこの鍵を掛ける必要があった。

 彼の血で黒く染まった制服を見ながら、WA2000はひとりごちる。

 

 「自己犠牲なんて馬鹿馬鹿しい。けど、それで誰かを救えたと思うなら、それは救いになるのかしら」

 

 ゾンビによって踏み荒らされ泥と水と血に汚れた帽子を拾い上げ軽く汚れを払い、彼の頭の上へ乗せた。

 

「頼りない後輩が来てあげたわ。これで誰かを助けられたら、それはきっと、救いになるはずよね」

「あったぞ!」

 

 レオンが持ってきたチェーンカッターは問題なく鎖を断ち切り、扉を開く。銃を構えたWA2000は死体を一瞥してから、屋内へと足を踏み入れた。

 

 室内の電気が通っていないのか廊下は薄暗い。目に入るところにゾンビはいないと「敵影なし」のハンドサインを送るWA2000だったが、

 

「なにしてるんだ?」

「ゾンビは見当たらないけれど、警戒はして」

 

 WA2000は新米警官には伝わるわけないかと姿勢を崩し小声で用件を伝え、レオンはそれに対し銃を下ろすことで応えた。

 

「あとバリケードを積んでおきましょう」

「自分から退路を断つのは不味くないか?」

「私たちが入ってきたところから入ってくる方が不味いわよ。出口なんてどうとでもなるわ」

「そうだと良いが」

「いいから手伝いなさい」

 

 手近な掃除具のロッカーや書類棚を2人がかりで持ち上げ、入ってきたドアの前に積み上げる。知能なく体当たりを繰り返すだけのゾンビ程度なら、これだけで十分だろう。

 

「にしても、酷いな」

「何か?」

「肉が腐った匂いと、血の匂いだ。鼻がおかしくなったのか?」

「意図的に無視してたのに思い出させないでよ」

 

 レオンが言う通り、警察署の内部は通例通りのかび臭さとは違う死臭を放っていた。足元の血と食い散らされた肉片から見るに、怪物の侵入を許したてしまったことだろう。それも数日かは前の話だ。

 WA2000は近くの壁にもたれかかり死んでいる警官の死体の手をおもむろに取る。

 雨を浴びて冷えきっているはずの彼女の身体より冷たい、冷たい死体。死後硬直は既に溶け、血溜まりは乾いている。傷口はどす黒く変色し、一部は腐った様にブヨブヨとした手触りを彼女の手に伝えてきた。

 

「死後2、3日ってところね。.にしては腐りすぎだとは思うけれど」

「おい! 危ないぞ」

「これだけやって起き上がらないならもう大丈夫でしょう。なんでもいいから情報が欲しいの」

「死体検分ってヤツか? 食われても助けられないぞ」

「知ってるわよ」

 

 WA2000は死体の顔を見ようと、帽子で隠れる彼の顔を持ち上げた。

 それを彼女は後悔することになる。

 

 ぐしゃ、と肉片が落ちる音が廊下に響く。

 

「最っ悪」

 

 彼女の目の前にあったのは、口元から首にかけて鋭く切り裂かれた傷口だ。先程の音は持ち上げたことによって腱が切れ顎が地面に落ちた音。そして彼女の制服、そのお腹の部分にべったりと血と腐った肉片がついた音でもある。 

 

「ねえ」

「なんだ?」

「これ、どう思う?」

 

 レオンを呼び寄せ、腐臭に鼻を摘みつつも死体の傷口を見せる。彼も同じ様に腐臭と凄惨な傷口に顔を顰めてはだが答えた。

 

「酷いな」

「ええ、ナイフか斧か、鋭利な何かで切り裂かれたみたいね」

「人がやったってか?」

「怪物が振り回した方が説得力があるわ。骨まで切れている以上、このパワーは人じゃない。何かいるわよ、この廊下には」

 

 2人とも暗い廊下の奥を見た。

 雷鳴に照らされ朧げに影が映る外廊下。ゾンビが窓のバリケードの窓から手を突き出すその奥には、何かがいる。

 

「音を立てずに、無用な発砲は厳禁よ」

「ちょっと待て。これは、ノイズか?」

「だとしたら」

 

 ジジジ、と何かを擦るような特有の音。これが自分の聞き間違いでないことをレオンの反応から察したWA2000は手近の無線機、つまりは目の前の死体の警官であれば持っているであろうソレを探した。ウェストポーチ付近に手を伸ばしたところで、硬質な何かに行き着く。WA2000は手の感触からそれを決めつけ、応答スイッチらしいところを押し込みながら引っ張り出した。

 

『こち……ブラ......補、誰か......が』

「誰かいるんだ!」

「朗報ね。生存者がいるってこと」

 

 砂塵まじりではあるが、声がする。ちょうどレオンよりかは一回りくらい年上の成人男性の声。つまりは生存者の存在の確定に、ふたりの心が躍った。

 

「こちらレオン・S・ケネディ、聞こえますか?」

『そ......、新入りか。よか......た、メイ......ールだ。ごう......』

「メインホールなら分かります。そこで合流しましょう」

『助か......、死......よ』

 

 そこで無線は途切れた。顔を上げたレオンは、銃を構え直す。その顔は心なしか嬉しそうに柔らかくなっていた。

それをWA2000は厳しい声で咎める。

 

「気を抜かないで、死にたくないのなら」

「わかってるさ。でも、生存者がいるってだけで」

「気持ちはわかるわよ、でも忘れないで」

 

 WA2000は厳しい声で、悔しそうに続ける。

 

「生存者だとしても、一緒に脱出できるわけじゃないのよ?」

「おいおい民間人を助けるのが警官の務めってもんだろう?」

「瀕死の人間を救う理由なんて持ってないわ」

 

 続けた答えが意外だったのか押し黙るレオン。膝の汚れを払い立ち上がった彼女はレオンを見下ろして続けた。

 

「生存者が全員五体満足なはずがない。もし怪我をしているのなら、もし、ゾンビになるようなことがあれば。

私は切り捨てて先に進む。貴方には、その覚悟がある?」

「俺は......」

 

 その先の言葉は出なかった。

 果たして俺は撃つ事ができるのか。見ず知らずの他人の死体ではなく、今の今まで生きていた人間のなれはてを。殺人とさしてかわらないような行為を、許容する勇気があるのか。自問自答してもまだ答えは出ない。

 

WA2000は言い淀む彼に背を向け、先に歩き出す。

 覚悟がないのなら、自分がそれを持てばいい。そう胸に決め、リボルバーのグリップを一段と強く握りしめた。

 

「これだから人間ってのは......」

 

漏らした言葉はレオンへの失望か、それとも別の感情か。

それは、彼女自身にもわからない。

 

 

◇◇◇

 

 

「メインホールに行くにはこのオフィスを抜けなくちゃならない」

「冗談きついでしょ.?」

 

 暗がりの中、懐中電灯の光に照らされる血塗れの案内図を見てWA2000は舌打ちをせざるを得なかった。

 

「避難民を受けいられれそうな空き会議室があるルートを通って? よりにもよって最後には警官の休憩所、そしてまたオフィス? 何体いると思ってんのよ」

「他のルートは上の階を回っていくしかない。でも鍵がかかってるんだ、この道しかない」

「最悪。で、妙案か何かはあるのかしら?」

「こいつを使おう」

 

 通路の警官の腰から拝借してきたフラッシュバンを見せるレオン。本来なら特殊部隊が使うような強烈な光と音を発する兵器は、どういう訳か多くの警官が持っていた。

 おそらくSTARSの兵装なのだろうがそれに対してますますWA2000としては過剰な武力に対し疑念を深めるほかはない。とはいえ、今の状況は猫の手も借りたいほど。いちいち使う武器に文句を付けないのがプロフェッショナルだ、とWA2000はピンを抜く。

 磨りガラス越しではあるが何人もの人影が歩くオフィス。一枚扉を開ければ、その音で何体かはこちらに気がつくだろう。あいつらは変に耳が敏いのだというのは、今までの経験からわかっていることだ。

 

「耳と目を塞いで走り抜けるわよ。最悪、こんな単純な手しか取れないだなんて」

「派手に撃ち合いするよりはマシだろう?」

「いえてる」

 

 3カウント。WA2000は無言で指を立て、レオンはそれに応えるように扉に手をかける。

 

「3、2......今」

「行くぞっ」

 

 レオンが扉を開け放つと同時にコンパクトな下手投げで閃光手榴弾を投げる。それはちょうど部屋の中央にゆっくりと到達し、炸裂した。

 

「Go!Go!」

 

 WA2000の声に背中を押されるように飛び出したレオンは開け放ったドアに滑り込むように身体を捻じ込み、目を抑えて唸るゾンビを押し除け道を作る。そのの背中にピッタリと張り付きながら、こちらに向かってきそうなゾンビには銃弾を的確に叩き込むWA2000。

 

「2つ目、早く!」

「開けて!」

 

 レオンが廊下の扉に取りついた瞬間には、WA2000は閃光手榴弾を振りかぶっていた。

 光に照らされて浮かび上がるのは、災害の後のようにメチャクチャになった廊下とヌルヌルとした何かで濡れた石の廊下。そして、人影がたくさん。

 

「クソ、棚が倒れて道が」

「だったら退ければいいでしょう?!」

 

 乱暴に薬莢を振り落とし、使い終わったクイックローダーを投げ捨てながら罵声を浴びせるWA2000に対しレオンは苦い顔をしながらもスチールラックに取り付き、踏ん張る。

 

「いけ、そうだ!」

「これでもくらっときなさい!」

 

 レオンが棚を退かしたのを見計らって、リボルバーでゾンビではなく側の消火器を撃ち抜く。内封された炭酸ガスと消化剤が舞い上がり煙幕を作っているうちに彼女も棚の隙間を強引に通り抜けた。

 

「最後だっ!」

「言われなくても」

 

 そして最後、こじんまりとした室内に手榴弾を投げ込み、その中へ身を躍らせる。

 

 この角を曲がればメインホール、というところでレオンは障害に当たってしまった。

 希望を塞ぐように立ち塞がる、鈍色のシャッター。

 

「防火シャッターだって!? ここまできて!」

「こじ開けるわよ、ここが終わりなんて認めない!」

 

 下部の僅かな隙間に指をかけ暗闇の中でもお互いに息を合わせて力を込める。最初はピクリとも動かないそれが、ジリジリと持ち上がってゆく。

 数センチの隙間が人がかろうじて通れるくらいの幅になったところでレオンがWA2000を急かした。

 

「君が先だ、行け!」

 

 泥まみれ血塗れの床で匍匐前進なんて誰もやりたくは無いだろうが、この事態に文句は言わない。

 

「抜け、た! レオンも早く! 追いつかれる!」

「わかってるさ!」

 

 WA2000が支え役を交代し、レオンもまたうつ伏せになって素早く通り抜けようとする。しかし後は足だけとなったところで、聞きたくなかった呻き声とレオンの焦る声が響く。

 

「この、離れろっ!?」

「早く......! 長くは持たないわよ......!」

 

レオンの足にまとわりつき迫る腐乱死体、その口が脇腹を噛みちぎらんと伸びて......

 

「捕まれ、もう大丈夫だぞ!」

 

 誰かがレオンの首元を掴み、ホール側へと引っ張り出す。そしてWA2000の肩に手を置き、ゾンビの頭を踏み潰した。

 

「立てるか、新入り」

 

 その誰かーー黒人警官は手を差し伸べ、皮肉っぽくではあるが新人に対し歓迎の挨拶を告げた。

 

「ようこそ、ラクーン市警へ」

 

 

 

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