Dolls Flont Line Nightmare Report   作:通りすがる傭兵

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メリークリスマス!(遅)




Report-4 First Survivor

 

 

 

 

 

「よう、新入り。それと、市民か?」

「こんなナリだけどSTARSよ、今日からね」

「そうか。ともかく、無事でよかった。マーヴィン。マーヴィン・ブラナー警部補だ」

「ありがとうございます。僕はレオン・スコット・ケネディ、彼女は」

「ワルサー。そう呼んで」

「こちらこそよろしく」

 

 レオン達に手を差し伸べた黒人警官はそう名乗り、待合室から引っ張り出されてきたであろうソファーに横たわる。先ほどから抑えているが、脇腹から流れる血はかなりのものであることをWA2000は見逃していなかった。

 

「こうなった原因は?」

「さあな。わかってることといえば、気を抜いた途端アイツらの仲間入りをするって事だけだ」

「先週から出勤かと思えば待機命令が出て。もう少し早くきていれば......」

「今いるだけで十分だ新入り。ともかく、ここから出る方法を探さないと。コイツを見ろ」

 

 血で汚れたメモ帳を見せるマーヴィン。そこにはこの警察署の簡単な見取り図と、隣接する地下駐車場を繋ぐ道が推測を交えて記載されていた。

 

「コレは?」

「俺の同僚が探してた隠し通路だ。なんでも、ここは昔は美術館でな、有事の時にモノを持ち出せるような秘密通路があったらしい」

「古い施設には良くある話ね」

「ああ、与太話を真に受ける日が来るとはな」

「ほかに生存者はいないのか?」

「民間人は逃した、生きてるといいが」

「その脱出方法はもう使えないの?」

「STARSの装甲車を持ってきて正面玄関から強行突破した。今は車もないしゾンビも多すぎる」

「......残った理由は?」

「まだ誰かが助けを求めているなら、応えるのが警官の仕事だ。それにこのザマだ。足手纏いにはなりたくはない」

 

 そう言って脇腹の傷をレオンに見せる。無線や防弾チョッキを装備していたレオンが慌ててマーヴィンに詰め寄った。

 

「今すぐ病院にいきましょう!」

「いい、俺のことは気にするな」

「ですが」

「いいから!」

 

 声を荒げるマーヴィンに驚くレオン。それに構わずマーヴィンは自分の腰から抜いたサバイバルナイフをレオンの手に握らせる。

 

「コレは命令だ。お前は自分の身を守れ。俺の二の舞にはなるなよ」

「......」

「もし奴らを見つけても、迷うな。それが警官であれ誰であれ、躊躇うなよ。殺すか、逃げるか、だ」

「......はい」

「すまないな新入り共。ろくに歓迎パーティーもしてやれない。プレゼントも用意してたんだが、渡しそびれたな」

「気持ちだけで充分よ。それに」

 

 WA2000は机の上に置いてあるマーヴィンのものであろうブローニングを一瞥する。レオンの角度からはちょうど見えないが、マガジンの入っていないガラクタ同然のソレを。

 

「いいのね?」

「ああ。それと良いことを教えてやる。2階の東に武器庫があるから、運が良ければ武器が残ってるかもしれん」

「あなたの分は?」

「必要ない。お前達が使え」

「......了解、警部補」

 

 WA2000は短く返事を返し、先行するレオンの背中をおいかけた。死ぬんじゃないぞ、という先輩の呟きにたいし心配するなと手を振りながら。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「まさかガス管が破れてガス漏れとは......けほっ。思慮が足りないですね。うっかり発砲したおかげで消し炭になるところでした」

 

 熱気でチリチリになってしまった頭をふりながら、煤まみれのウェルロッドは独り言を漏らした。

 当初の予定通りに地下通路を通ったはいいものの、通路のガス管から漏れたガスが発砲の跳弾で生じた火花に引火し大爆発。巻き込まれてはいけないと最寄りの出口に駆け出したは良いものの、おかげで今までの道は火に包まれて使い物にならなくなったというわけだ。

 

「必死に逃げたおかげで道が思い出せません。ここは一体」

 

 案内板に目を凝らしたところで、うげっ、と思わず声を漏らす。

 

「レイベンズ地区! 病院とは真反対の場所じゃあないですか!? これでは目的地にたどり着くのはいつになることやら......」

 

 ガックリと肩を落としたところで、かすかに遠くから聞こえるうめき声に銃を構えるウェルロッド。いくら町外れとはいえ、ここが地獄であることには変わりはない。

奴らは、もうどこにでもいる。

 

「確かこの地区には教会がありましたね。頑丈な建物ですし誰か生存者がいるやもしれません。宗教は嫌いですが、生存者は助けないと」

 

 建前とはいえ、まず警官としての義務は果たさねばならないと駆け出すウェルロッド。その影を、一台の監視カメラが追いかけていたことには気が付きもせずに。

 

「おや、空いているようですね。コレは幸か不幸か......」

 

 周りにはゾンビの気配もしないので、早く入ってしまおうと走るウェルロッド。古臭い年代物の木の扉は空いていて、そこからは言い争うような声が漏れ出ていた。生存者の声だ! そう確信して、自然に小走りが速くなる。

 

「ここは俺が見つけたんだ、良いからさっさと出て行け!」

「ケチくさいこと言わないでよ!」

「なんだとこのクソ女!」

「もういいやめるんだ!」

「......あのー」

「誰だ!」

「生存者です!」

 

 扉の隙間から覗き込んだ先にはワイシャツ姿の男性が構えるリボルバーの銃口がピッタリと合わせられていた。反射的に手を挙げつつ、こっそりと室内に体を滑り込ませ扉を閉める。

 

「銃を下ろせ! いいから、銃を、下ろせ!」

「......チッ」

「ここじゃあいつ死んでもおかしくないわね」

 

 同じくハンドガンを構える男性がもううんざりだと大声を張り上げれば、渋々と銃を下ろし座席にどっかりと座り込む。

 皮肉を漏らすタンクトップ姿の女性と、オリーブ色の防弾ベストを着た軍属だろう大型な男性。そしてワイシャツ姿の男性と、白いパンツスーツを着たいかにもニュースキャスターと言わんばかりの計4人。

 ウェルロッドの姿を認めた軍装の男性が驚いたと言わんばかりに声を張り上げる。

 

「市警の制服じゃないか! どこにいたんだ、仲間は!?」

「今日から配属だったのでなんとも。ウェルロッドです、よろしく」

「こちらこそよろしく! いやあ、同じ仲間がいれば百人力だ。俺はペイトンだ。こっちはジル」

「ジル・バレンタインよ」

「やっぱり! どうりで見覚えがある顔だと思った。取材に行ったの覚えてない?」

「どちら様?」

 

小さなビデオカメラを構えるスーツの女性が嬉しそうに声を上げて、ジルが困惑の声を漏らすのもお構いなしに捲し立てる。

 

「テリ・モラレスよ、覚えてない? 事件で何度か取材したのをもう忘れたの? ラクーン7の」

「あなたの出ているニュースは全部見たわよ」

「まさか私のファン?」

「今はお天気お姉さんでしょう?」

「で、そいつは一体何に使うつもりだ?」

 

 そう言いながらタバコに火をつけ、皮肉っぽく返すジルに対しつまらないと言わんばかりの表情のテリ。彼女が構えるハンディタイプのビデオカメラを誇らしげに構えて胸を張る。

 

「エミー賞を取るための道具。無事に生還できたらの話だけれど」

「では生還できたらの賞金の1割譲ってくださいよ」

「守ってくれたらね。

では、ラクーン警察はこのような事態をどのように捉えているのでしょうか?」

「これだからジャーナリストというのは......」

 

ジルに対しインタビューを始めるテリに対しこの非常時でも自分の職務を忘れないことは良いことだが、どうにもと呆れ顔を隠せないウェルロッド。周りを得体の知れない生物に囲まれてしまっているのだから、多少なりとも危機感を持ってほしいところだ。

 

「それで、ここからどう脱出しますか?」

「脱出?」

「ええ。この街から脱出しないことには明日はありません。皆さん銃の残弾はどれほどでしょう」

「ワンマガジンが精一杯ってところね」

「中にあるやつで全部だ」

「口径は?」

「9mm。余ってるなら譲ってほしいけれど」

「32口径なんで使えません......ごめんなさい」

 

 ジルとペイトンの言葉を聞きため息をつくしかないウェルロッド。その発射音の小ささと取り回しの良さで重宝してきた自分の愛銃(ウェルロッドMk-Ⅱ)を初めて恨んだ。9mm仕様の試作品にすればよかったと思うがもうどうにもならない話。

 

「で、そのリボルバー、残弾は幾つです?」

「なんだよ、聞いてりゃ勝手に仕切りやがって。大体なんでここから出なきゃいけないんだ、安全なのに」

「危険を冒さないとニュースはゲットできないわ」

「お前には聞いてねえ!」

 

 余裕がないのか、怒鳴るような口調で捲し立てる男性の言葉に対しウェルロッドは冷静に答えを返す。

 

「物資が不足するからです」

「物資ぃ?」

「食料、服、日用品、銃弾に武器。必要なもの全てが足りません。どこからか救援が来ると知って、それが1週間後だったらそれまでどう耐え忍べばいいんですか」

「なんとかなるだろ」

「なんとかなる前に死にます。いいですか、いつ救援もくるかわからない今、食料もないこの場所にとどまり続けるのは悪手です。早いところ移動するべきです!」

「これもまた神の試練だ。あるがままを受け入れよう」

 

 教会の中に厳かな低い声が響く。全員が一斉に振り向くと、カソック服姿の老人が蝋燭の光に照らされて姿を表した。

 

「今頃教戒でも垂れるつもり?」

「それが私の使命だからだ。これは黙示録の始まりに過ぎない」

「やっぱり理解できない概念です。ともかく、入り口にバリケードを設置。生存者ようにひとつは残して全部封鎖します! 作業には私とペイトンさんに、それと」

「ジャクソン」

「ジャクソンさんも手伝ってください。テリさんはカメラ回してて結構です」

「やった!」

「私は?」

「ジルさんは武器でもなんでも、使えるものを探してください。神父さん、教会内を案内してくれますね?」

「困っている人に手を差し伸べることこそ」

「そういうのは結構です!」

 

 

 


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