どうぞよろしくお願いします。
起きたら、蒼い海が見えた。
…あれ?なんで?
最初に思ったのは、「旅行にでも来たんだっけ」という事。
その2、3秒後に、「いや違う」と思い直す。自分は今旅行には来ていないはずだ。自分の家は内陸にあり、シーサイドビューイングが臨めるような素敵な家ではない。
普通に会社に行って、疲れて帰ってきて寝て…
起きたら、海が見える。
どういう事…?
訳も分からず、茫然と蒼い海を見る。
混乱する自分に畳みかけるように、部屋の壁に唐突に光が照らされる。
寝起きの眼には眩しく、しばらく目を閉じた。5秒ほどゆっくり数えてから、目を開ける。
どうやら、プロジェクターで壁に画面を照らし出しているようだ。
だが、天井を見上げても機械らしきものは見当たらない。ただ、大きな画面だけが、壁に光っている。
異様さに、寝起きの頭も徐々に冷えていく。
画面には、こう映し出されていた。
「提督の名前を入力してください」
てい・・・とく・・・?
自分が?
訳が分からない。
でも、『名前』というワードに脳が勝手に反応して、自分の名前が脳裏に浮かぶ。
篠原 宏史(ひろし)
それが自分の名前。20数年間馴染んできた自分の名前だ。
すると、勝手に、画面に文字が打ち込まれていく。
しの・・・はら・・・篠原・・・ひろ・・・宏史。
そして、『決定』のボタンが自動的に光った。
え…?
いま、自動的に入力された…?
脳内の自分の思考が…?
混乱に混乱をきたす中、それでも、
徐々に、いや、否応なく、理解しだしていた。
ここは、『艦これ』の世界ではないのか、と。
この画面…「提督の名前を入力してください」の文字。数年ぶりに見る画面。
自分はかつて提督だった。ゲームの中で。ここ数年はログインすらしていない。最後に触れたのは…1年ほど前だろうか。久しぶりにイベントに参加した記憶が、ある。
5、6年前、そう、2014年の頃は、ランキング入りするほど熱中していたゲームだというのに。
大学生の頃は暇で良かったよな。社会人になったら、忙しくて、そして日常に疲れて、あれほど熱心にやっていた艦これから離れてしまった。
…って、そんなことを思い返している場合ではない。
気が付くと、画面はLoading表記から変わっていた。
「好きな艦娘を選んでください」の文字。
ああ、本当に、艦これだ。
懐かしい、という想いがこみ上げてくる。この新規着任のときの画面は、本当に久しぶりに見る。
えっと…
特Ⅰ型駆逐艦 吹雪
特Ⅰ型駆逐艦 叢雲
特Ⅱ型駆逐艦 漣
特Ⅲ型駆逐艦 電
艦隊型駆逐艦 五月雨
この5人が、数秒の間をおいて、順番に表示された。
ああ、みんなかわいいな。久しぶりに会う子たちだ。
以前の自分は、叢雲を選んだことを覚えている。ツンデレっ子が好きだからだ。
でも、実際にいたら、厳しいこと言われたりしたら、小心者の自分はすぐに凹んでしまうだろうな…
実際に会うなら、電ちゃんがいいな。優しくて。甘やかしてくれそうだし。
そんなことを考えていたら、数秒おきに切り替わっていた画面が、電の画面で止まり、
『決定』が光った。
!?
またしても…脳内の思考が、勝手に画面に反映された。
再度天井を見上げるが、壁に光を当てているはずのプロジェクターらしき機械はそこにない。
どういう原理でこの画面は壁に出てるんだ…???
なにより、自分の思考を勝手にトレースして動くなんて、そんなに科学は進んでいたはずがない。
すると、コンコン、と部屋の扉が淑やかにノックされた。
え…?誰…?
自分は一人暮らしで、こんな朝早くから誰かが訪れることなんて、ない。
扉に注意が行って、ようやくそこで自分は部屋全体を視野に入れた。
自分の部屋じゃない。
都内の、狭い、自室、ではない。
蒼い海が見える時点でなんとなく察していたが、ここは、自室ではない。
再度、コンコンと、ノックされる。先ほどよりは、少し強めに。
そして、控えめな声が聞こえた。
「あの…提督さん…おはようございます」
まぎれもなく、電の声だった。
電ちゃん初期艦娘にしたのは、やっぱり実際に仲良くするなら電かなと思ったので。