電に案内されて、廊下を歩く。
ふと出てきた扉を振り返ると、上部には「提督の私室」と小さく名札が振られていたのを見た。
学校のような、木材で出来た床板。
左側には窓が、右側にはいくつもの扉がある。自分の部屋はどうやら廊下の突き当りにあったようだ。位置的に、角部屋の、所謂「スイートルーム」の位置。
電の歩幅は小さいので、歩きながらでも後ろや左右を確認する余裕が優にあった。
窓の外に広がる蒼い海に目を奪われてしまいそうになるが、右側のいくつもの扉も気にはなる。
扉の名札には「空室」とあった。
建物は島の沿岸に建てられているようで、島の形に沿って廊下がいくつかに折れ曲がって続く。
突き当りまで進むと、外に出る扉。その一番近い位置の右側の扉には「電」と振られていた。
ここが電の部屋のようだ。だが、電の他にも3か所名札を入れる空欄がある。
「4人部屋なのです」
怪訝そうな自分を見てか、電が補足を入れてくれた。狭くないのだろうか…。
電が、外に続く扉を開いた。
コンクリート…にしては小石の多いが、舗装された道。
道の先に、プレハブのような小屋があった。
なんだか…嫌な予感がする。
もしかして。
「あれが『母港』?」
「はいなのです!」
元気よく返された声に、絶望を抱く。
どうみても…掘っ立て小屋のような見た目だ。
「どうぞ!」
扉を開けて、お先にどうぞと、電が扉を押さえてくれた。
「ありがとう…」
中へ入ると、まず目に入るのは、積み重ねられた段ボール箱。
部屋の窓からは艦の建造クレーンが見える。カーテンはドレープのたっぷりきいた重厚な赤い色で、そこだけが「本国から持ってきました」感を漂わせている。
それしかない、部屋だった。
「ああ…初期部屋…」
思わず出た自分の呟きに「?」を顔に浮かべつつ、電が部屋の中央に立つ。
そして、何も言わない。
指示を待っている顔つきだった。
「えっと…」
思い返してみれば、どうして電はすんなりと自分を受け入れているのだろう。
「前任の提督とかって…いたの?」
「いましたが、すぐいなくなられました。
入れ替わりが激しいのです。いつも新しい提督が部屋にいるのです。…慣れっこなのです」
困り顔のまま、淡々と語る電。
「新しい提督が、部屋に…?どうやって来てるか、電は知ってるの?」
「知らないのです。」
まるで興味がないと言いたげな口調だった。
普通、そこは気になる…というか、違和感を覚えるべき所なんじゃないだろうか。
そう思うのだが、彼女らは…「艦娘」だ。
通常の人間とは…考え方が少し違うのかもしれない、と思い直す。
これ以上聞いて、電を異質なものとして見てしまうような…藪を突っついて蛇を出すようなことはしたくなかった。
段ボールの上に、青い装丁で、「Tutorial」の文字がある。
パラパラとめくると、母港で出来ることの一覧が目次としてあり、各項目には詳細な説明が記載されていた。
…これがあれば、とりあえず「提督」として行動することに困ることはなさそうだ。
Tutorial1…工廠ね。
でもそもそも任務を受けてから建造したほうがいい。
えっと…任務…「詳細は大淀に。」
ってそれだけ!?
「電」
「はいなのです!」
初めての指令が来ると思い、電が背筋をピンと正した。
「…大淀さんのところに案内してくれる?」
「はい!…えっ?!…あ、はい、なのです…」
意気込みを空振りさせられてちょっとガッカリした電。
可愛いなあ。
次回、大淀さん。