ブレハブ建物のような『母港』の扉をそっ閉じして…小石コンクリートで舗装された道を、寄宿舎(目覚めた建物をそう呼ぶことにした)に沿って内陸に少し進む。
すると、プレハブの建物より酷い…「バラック小屋」とでも呼ぶべき建物が現れた。
その異様な様相に、自分は「まるで戦時中のようだな」と思う。
戦中のアジアの島で止む無く作った仮司令所のようだ…と考えたところで、ふと閃いてしまった。
現在が、『戦中』である可能性を。
「電、いまって…何年…?」
「1941年なのです」
やっぱり…。そしてこの温かい気候、春だな!?
「5月なのです。皐月です」
皐月ちゃん…可愛いよね…
逃避しそうになる頭を「1941年」の事実が急冷させる。
太平洋戦争の開始は12月8日…つまり、あと7か月後。
ん?太平洋戦争する前?
それなのに、我々『提督』側は「フィリピン タウイタウイ泊地をすでに占領済み」なのだ。
いったいどういうことなのだろう。
「…着きました」
考え事をしながら電の後をついていったせいか、何度か道の小石に躓きそうになった。
そして、ふと目をあげると、遠目から見ても「バラック小屋」だった「それ」は、
遭難者の仮住まいのような…「木やそのへんの植物で作りました」感が満載だった。
いつものように、電が扉を開けてくれるのを待って中に入ろうとする…のだが。
なぜか今回に限って電は動こうとはしなかった。
「電…?」
「あ。あの。初めて来たのです。緊張してしまいました。…失礼しました!」
電は恐縮し慌てて頭を下げた後、ノックをして、その小屋の扉をキィィィと音を立てて開いた。
中に入ると、意外にも中の空間は先の『母港』と同じくらいの快適性・居住性。
雨風は凌げそうな雰囲気で、でも、家具や調度品などは一切ない、本当に「倉庫」といった部屋だ。
部屋の大きさは、先の『母港』の執務室よりも狭い。かつての都内の自分の1人部屋と同じくらいだ。
その部屋の真ん中に、一人、書類と羽ペンを持った、電と同じような制服に身を包んだ、電よりは年上な少女。
「どうされますか?提督」
突然知らない大人が…見た目は女だが…訪れてきたというのに、反応は薄い。
さも当然の日課だといわんばかりだ。
どうされますか?の前に。えっと。
「初めまして…大淀」
「初めまして。提督。任務のことについてでしたら、大淀にお尋ねください」
笑顔は浮かべているが、なんというか、事務的な笑顔だ。営業職が貼り付けているヤツと同じ。…あんまり好きなタイプの笑顔じゃない。
「大淀」
「はい。なんでしょう」
「…君は、いつからここに?」
「…さぁ。気が付いたら、ここにいました。私の職務は提督を補助するためにありますので、おそらく提督が着任されたと同時に、大淀も着任したのだと、推察されます」
推察…ね。確信はないと。
「この部屋は?」
「提督が、任務を受諾し、そして任務が達成されたら褒賞が用意される場所です」
「この部屋じゃないと、任務って受諾できないの?」
「いえ。任務は大淀が管理していますので。仰っていただければ」
なるほど。
「とりあえず、ここを出よう、大淀」
「…えっと、それは」
「ここは、寂しくない?」
「さみしい…?さみしいか、といったような、個人的な感情より、暁の勝利の方が必要です」
なんというか。すごく、公式見解だ。
大淀はまるで「私は3番目だから」とでも言い出しそうな雰囲気だった。
「…決めたよ」
「はい」
「君から…その営業スマイルをなくして。本当の笑顔にしてみせる」
大淀の、手を取る。
「えっ…!?」
「行こう。ここに1人でいる意味はない。さっき大淀も言っただろう?『任務は大淀が管理している』と。
つまり、大淀がこの部屋にいる必要はない。
『母港』に、おいで。まだ、電と自分しか、いないけど。
これから、仲間がたくさん、増えるから」
行こう、と大淀の手を取った。
自分の手が女性で良かった、とこの時思った。
「行こう、電」
「はいなのです」
「でも…ここが大淀の…」
尚も言い募る大淀に、「優先順位の問題だよ」と告げる。
「優先順位…ですか?」
「そう。まずは、善くするべきは、寝食だ。
補給を疎にするものは暗愚だと歴史も教えている。
だから。まずは補給。
つまりみんなで一緒に朝食だ!」
大淀の手を引いて、バラック小屋から出る。
意気揚々と外に出たものの。
「…朝ごはんって、どこで食べるの…?」
電に訊くと、「提督さんは自室で食べてました」と。
そして「艦娘に食事は要りません」という回答…。
いや。みんなで一緒に補給する、と宣言した以上、なんとかしなくては。
電と大淀を母港に待たせて、自室へ戻る。
電は、「提督さんにはご飯が用意されるはずです。皆さん、困った様子ではなかったですから」とのことなのだ。
キーは、きっとあの『画面』に違いない。
…何もない壁に向かって、何と声を掛ければいいのだろう。
OK、Google。と合言葉が決まっている、というのは、必要なことだったんだなあ。と今更ながら文明の利器に思いを馳せつつ。
…いや、あの機器は、脳裏にある情報を汲み取って「決定」ボタンを押していた。
だから、きっと、必要なときには応えがあるはずなのだ。
「あの」
パッ、と、壁に灯りが付く。キター!!!
「食事がしたいんだけど。3名分!」
すると、がちゃっと音がして。
海が見える窓の方に、3人分の朝食が用意されていた。
!?!?!?!?
どういう仕組みなのか分からないが…今は、ただ成功を祝おう。
電と大淀に報告すべく、母港へと駆け足で戻った。
妖精さんが用意しているのですが、提督には見えないようです。
艦娘には見えます。