「「「ごちそうさまでした」」」
3人で手を合わせ、声を合わせる。
電と大淀の満足そうな表情に、無条件に自分も嬉しくなる。が、何かに気付いたのか、大淀がはっと表情を曇らせた。
「どうした、大淀」
「良かったんでしょうか…こちらは提督用のお食事だったんじゃ」
「『規制』されなかったってことは、許可されたってこと。…そう思えばいいよ」
提督の私室に入れないのは艦娘にかけられた『規制』なのだろう。
彼女らについてはまだまだ謎な部分が多い…。例えば、どうやって現れるのだろう、とか。
「さて。この食器は…戻してこようか」
どこからともなく現れたのなら、きっと都合よくどこかに消してくれるに違いない。
電と大淀に無駄足を歩かせることになるので、空の食器を3人分1人で持って私室へと戻った。
窓辺のテーブルに、食器を置いて。
「えっ…と。ごちそうさま、でした」
声をかけると、一瞬プロジェクターの光が光って、瞬きのうちに食器は消えていた。
…これ、便利だけど、本当にいったいどういう仕組みなんだろう。
色々と謎は残る…が。
ここが「艦これ」の世界なら、自分がやるべきことは明白だった。
「お待たせー」
『母港』に戻ると、電が段ボールを整理して壁に片づけていた。大淀はというと、手元のフリップボードに目を落として白黒させている。
「あの…提督…」
「どうしたの、大淀」
「…任務が…任務が…!たくさんあります…!」
眼鏡の奥で目がグルグルになっているのではないかと思うほど憔悴した様子で、大淀は慌てふためく。
「提督のお役に立てるように、事前にある程度任務をチェックしておこうと思ったのですが…やることが多すぎて大淀は…大淀は…」
「あー、ちょっと見せて見て」
大淀のフリップを手に取ると、そこには、「単発」「本日中」「週間」「月間」「年間」項目ごとにタスクが踊っており、そのすべてに「未達成」が赤赤と光っていた。
「ん~…これは…まあ…やれるべきところからやるしかないねえ…」
自分が持っているフリップが気になったのだろう、電もつま先立ちで覗き見をし、困り顔を見せた。
「提督ぅ…」
きゅう…と音がしそうなほど小さくなった大淀の肩にぽんと手を乗せた。
「大丈夫。1個1個やっていこう。まずは…
建造、だ!」
「…建造、ですね!承知しました。」
大淀が頷くと同時、フリップのタスクが「遂行中」に切り替わった。
「…で、建造ってどこでするの?」
「ご案内します」
電が小さく手を挙げていた。
「じゃ、案内よろしく」
電に連れられてやってきたのは、『母港』の窓から見えたガントリークレーンの、根元。
ベッドとMRIのような機械が2つ、水面に浮かんでいる。
そして目の前には、かつて見慣れた「燃料/弾薬/鋼材/ボーキサイト」の文字と、その隣には文字盤。
『建造』するなんてかつてゲーム上でやって以来、久しぶりで、少し…いや、かなりわくわくする。
「大淀、ちゃんと建造は『遂行中』になってる、かな?」
「はい。提督」
「じゃあ…いくよ!」
まずは、すべて30…最低値だ。
「誰がくるかな~?」
まだこの鎮守府には電しか所属していないのだ。試しに大淀に「出撃できないの?」と訊いてみたら、自動化が進めばあるいは…という答えが返ってきた。少なくとも今は海に出ることはできないそうだ。
誰が来てもいい建造って、楽なもんだな…
大鳳狙いで大型にバカスカ資材を突っ込んでいた頃が懐かしい。
最初に表示された時間は、18:00。
「18分…てことは。睦月型かな?」
「提督…なぜ、お分かりに?」
「いやあ。勘だよ勘」
若干怪訝そうな大淀から目をそらす。電は「提督さんはすごいのです!」と称賛を向けてくれた。
電の頭をよしよしと撫でる。電はえへへ~と笑う。
ああ…女になってよかったな…男だったらアウトだよなぁ…
しみじみとしながら電をよしよししていると、大淀が「あ。任務が完了して褒賞が届いたみたいですよ」と声をかけてくれた。
「褒賞はあの…あの任務小屋?」
『バラック小屋』と言いかけて、言い直す。あそこもなんとか、もう少し見栄えのある建物にしたい。
家具コインでも突っ込めばいいのだろうか?
とりあえず、3人で並んで任務小屋へと引き返す。
中には、燃料、弾薬、鋼材、ボーキと書かれた箱が5つ、あと見慣れないトンカチが1つ並んでいた。箱の側面には「10入り」とご丁寧に記されている。トンカチの用途を大淀に訊いたら、開発資材ですとのことだった。さっき建造を回したときも、このトンカチを1つ入れる必要があるらしい。が、着任後は最初から5つ分はストックがあるようだ。
「はじめての『建造』の任務の褒賞結果なんて、さすがに覚えてないけど、確かこんなもんだったよな…」
独りごちて、大淀と電の?顔になんでもないと返す。
「これ、誰が持ってきてるの?」
「妖精さんなのです!」
電が元気よく答えた。
「ありがとなのです!」と窓(?)から声を掛けていた。
「そこに…いるの?」
「はい!」
続けて、提督さんは見えないのですか?と電に問われる。
うん。見えない。
そっか、妖精さんが用意してくれるのか…。
急にファンタジーになったが、まあ「艦これ」の世界だし。と思い直す。
そもそも、目覚めたら急にこんな島にして、急に女になっていたことからして、ファンタジーだ。
いちいち気にしてたら気が持たない。
「じゃあ…そろそろ、建造も終わってる頃、かな?」
3人で元来た道を戻る。
うーん。自動車が欲しい。やっぱり妖精さんに頼もう。
歩きながら、もしかしたら、自室のハイテクノロジーなオブジェクター的なアレも、妖精さんが反応しているのかもしれない。
次に自室に戻ったら色々試してみよう。
また考えながら歩いたせいでなんどか小石に躓きながら建造ドックに帰り着く。(この道も整備してもらおう!)
建造ドックの水面には相変わらず謎のMRIがあり…見に来たタイミングでプシューと音が開き、むくりと誰かが起き上がった。
「睦月型駆逐艦の9番艦、菊月だ」
腰まで届こうかというサラサラとした銀色の髪。吊り目の勝気な瞳。腰の兵装を留めるベルトには三日月マーク。
間違いない、菊月だ。
かわいい。
「私が菊月だ…共にゆこう。提督」
「うん。よろしくね!」
菊月も推しの艦娘なので、好きなのだ。
抱きしめたい…けど、さすがに我慢。頭をなでなでするにとどめておく。
「うぅぅ…なんなのさ、一体…」
「初めましての挨拶ってやつだよ菊月。これからよろしくね!」
菊月と友好を温めあっている(?)と、隣の建造ドックがプシューと音を立てて開いた。
あれ?建造回してないけど?
「特型駆逐艦、2番艦、白雪です」
もしかして…アレか!2隻編成になったから来てくれる報酬艦娘か!
「提督、任務達成おめでとうございます」
大淀が手元のフリップにチェックをつけながら解答を告げてくれた。
おお…!急に3隻になったぞ!
「大淀!デイリー任務の『建造』の方にチェックよろしく!」
「かしこまりました」
どんどん仲間が増えていく楽しみ。
これだから艦これはやめらんないね。
「もっかい最低値で…っと。回すよ~」
電、白雪、菊月が興味深そうに見守るなか、出てきた表示は1時間。
「軽巡キタコレ!」
電は「提督さん、すごいのです!」と褒めてくれる。菊月と白雪とはまだあまり仲良くなっていないせいか、「本当に軽巡なのか…?」と言いたげな顔をしている。白雪は菊月よりは若干無表情だが。
1時間の間に、任務小屋へと戻り報酬を確認したり、任務小屋の荷物を建造ドック横の倉庫にみんなで移動したりなどした。まだ駆逐艦が多いので、1人あたり持てる量が少ない。
これは…早めに空母レシピ回して加賀さんあたりの力持ちを呼んだ方が良さそうだな…。
あっという間に1時間が過ぎ、みんなが若干疲れながら建造ドックで見守っていると。
「五十鈴です。水雷戦隊の指揮ならお任せ。全力で提督を勝利に導くわ。よろしくね!」
元気な声が響いた。
五十鈴も来てくれたことだし。そろそろ偵察を兼ねて近海に出撃してみようかな!
艦娘との絡みは書いてて楽しい。よしよししたい。