ドイツ北部、ドイツでも350万の人口を誇るベルリン。そこには過去の大戦の傷を残す人々が今なお暮らしている。そんな過去の傷跡を観るために一人の少女が訪れていた。
髪は紅く長い、片目に眼帯を付け猛犬の瞳をした少女マルギッテ・エーベルバッハ。12歳で国のために貢献することに生涯を誓った若き獅子である。その才はドイツ軍の英雄フリードリッヒ中将に認められるほどだ。
自分はドイツの力になるためにドイツの悲劇を自身の目で体で知らなければならない。そう思った少女はベルリンを見に行った。さらにマルギッテは一人である。これは四年後には入隊を決めている自分が自立しないで、これから先どの様して戦場に出るつもりであるのか。列車に乗り継ぎ、リューベックにあるフリードリヒ家から訪れた。
ベルリンの壁崩壊から既に十一年、市街の治安も安定し十二歳の天才にとって危険なことは余程の事件でもない限り何一つとしてなかった。ベルリン駐屯地司令部に挨拶し辺り一帯の散策する。
歩いた先で今はなき境界線にたどり着いた。境界線から外に一歩踏み出し壁の外から市内を覗く。
「このような些細なことすら叶わなかったのですね‥‥‥」
マルギッテは市内に戻りテラスのある喫茶店で食事をとる。
「‥‥‥」
咀嚼をしていると一つの視線を感じる。まるで獲物を物色するような視線だ。
この私を狩る?外見に惑わされ力もわからないか。いいでしょう、野ウサギめ狩ってやる。
「Hasen jagd!」
席を立ち上がり獲物のいる方向に視線を向ける。
しかし先ほど感じた獲物の気配をもう感じることができなかった。
「逃げた? この私から?」
相当の手練だったのか? もしくは軍からの監視か? いやそれはありえない既に軍の監視下に置かれている自分を更に監視する理由が見当たらない。もしくは誘拐か?
「わからない……」
結局マルギッテは観光と見学を兼ねた遠征を終え駐屯地に戻る。
しかしその時にまた視線を感じる。駐屯地に入る時だ。
「また――――」
しかし今度は一瞬で逃走に入る。
「っ! 速い!」
追跡に入る前に逃げられる。なかなかの早足であった。
それからマルギッテは周囲を警戒しいつでも戦闘態勢に入れるようにしたがそれ以降マルギッテを監視する視線はなかった。
翌々日、事件が起きた。事件といっても大きな物ではない。場所によっては少なく無い軽犯罪だ。
路地裏から響く声。
「泥棒だー!」
いち早く声の元へ駆けつける。そしてさらに盗まれた男性を抜き去り犯人を追う。
追いかける内に気がつく。こいつは最近逃げられた獲物であると。入り組んだ街で気配がする方へ駆ける。マルギッテの方が速いので捕まえるのも時間の問題であった。
追い詰められる前に犯人は気配を消し隠れる。
「気配が消えた……しかし、それだけで見逃すほど私は甘くない」
猛犬の嗅覚をつかう、と言っても戦士としての感であるが。
「そこだ!」
マルギッテは反撃の余地をなくす為に蹴りをいれる。攻撃を加えられた物は家庭で倉庫代はりに使われる木箱だ。とても中まで衝撃が通るものではないが、マルギッテの蹴りは木箱を弾き飛ばした。
「っぐ」
中からは犯人である少年が飛び出してきた。
「こ、子供」
マルギッテは動揺する。まさか中にいるのが自分よりも幼い子供だとは想像していなかったのだ。
その一瞬を見逃さず逃走をはかる少年。
「逃がすか!」
マルギッテは少年めがけて飛びかかり上乗りになる。体格差でもマルギッテの方が上であり力も勝る。少年が逃げられるはずもなかった。
「離せ!離せぇーー!」
藻掻く少年の力は通じずに固められる。
「暴れるな!」
諭すように言うが暴れるのをやめない。
「ええい!」
このままだと関節が外れかけないと思ったマルギッテは少年を絞め落とす。
「ぐ、ぅ…」
「警察に突き出すしかないか」
少年を背に乗せ荷物を持つ。盗まれたものを男性に返さねばならない。
通りに戻ると男性が警官と話していた。
「すまない」
マルギッテが警官と被害者の男性の会話に割り込む。
「荷物を取り返したのでお返ししたい」
「あ、犯人追っかけた嬢ちゃん! 荷物取り返してくれたのか」
「はい、お返しします」
荷物を受け取ると中身を確認する男性。
「よかった中身は無事か。 こいつが盗んだガキか?」
「はい、まだ子供ですがすごい足でした」
「は?ん」
見定めるように少年を見つめると男性は腕を振り上げる。
「こいつめェ!」
マルギッテの背にいる少年の頭部を目掛け腕を振り下ろす。
「何をする!」
マルギッテは体を旋回させ拳を交わさせる。
「やめなさい!」
警察も急にとった男の行動に反応できなかったが、男性が明らかに興奮すしているのに気づき抑えに入る。
「ふざけんな! こいつのおかげで全財産がパーになるところだったんだぞ!」
「後は我々に任せてください。 暴力をふるってしまったら我々も黙って見るわけにはいけません!」
抑えながら諭す警察官。
「さぁ、少年をこっちに」
言いながら背に乗っている少年を抱える。
「よろしくお願いします」
受け渡したマルギッテはその場を後にする。
「しかし速かったな、それになかなか良い反射神経をしていた。 鍛えれば将来立派な軍人になれるだろう」
翌日、昨日の件で少年を気になったマルギッテは警察署に訪れる。
「何? 留置所にいるんですか?」
「ああ、親御さんと連絡が取れない上に逃げようと暴れるのでね。 大の大人四人がかりでやっと抑えたよ」
「ああ、あれは中々手ごわかったですね」
「手ごわいなんてもんじゃないよ、聞けば一年以上あんな生活を続けてるそうじゃないですか」
「本人がそう言ったんですか」
「いや、しかし他の物が言うには未解決になっている盗難事件がほとんど彼の仕業らしので」
「私が捕まえるまで一度も捕まらなかったのですか……」
警察のレベルの低さに危機感を覚える。
「面会してもいいですか?」
「そうだね、大人はあまり信用されてないようだし君ぐらいの子供が聞いてくれるのは助かるんだけど」
「自分はフリードリヒ家と繋がりがある人間です。確認さえ取れれば問題ないでしょう」
「そうんですか! あの中将閣下の…」
「はい、彼はこんな暮らしをせず軍に入れるような才能があります! 私が説得しましょう!」
「ではすぐ案内します」
そう言うと留置所に案内された。
マルギッテが牢の中を覗くとその年の子供ができない鋭い目をしていた。
「どうしたそんな目をして?」
「出せ死ねクソ」
「貴様、親はどうした?」
「知るか、死んだんだろどうせ」
「いないのか」
「居なくなった」
「なら軍人を目指さないか、この国を守るために」
「やだ、他人は嫌いだ」
「やだではない、やるんだ。この世界を平和にするために戦うんだ」
「……意味わかんね」
「私も頼んでみる。貴様がこんな暮らしをせずに済むように」
「誰に頼むんだよ」
「父上と中将閣下にだ」
「中将ってあの?」
「そうだ貴様が自身の有能さを見せつければ将来立派な軍人になれる」
「なりたくない」
「なるのだ!いつまでもこのような暮らしをする訳にはいけないだろう」
「……関係ないだろ」
「関係ある!今の貴様はこのドイツを脅かす犯罪者だ!そしてそれを正すのが私の夢だ!」
「……知らないよ」
「明日には釈放されるだろう。気持ちを入れ替えておけ」
言いたいことだけ言うとマルギッテは牢を後にする。
「何なんだよ」