ドイツのリューベック市内にあるフリードリヒ邸に今少年はいる。マルギッテが推薦したため早くも中将に顔を出すことになった。
「名前はライン、8歳でクリスお嬢様と同学年であります」
「そうか――――」
「彼には才能があります、是非とも私と同じくドイツのために中将の元で訓練をしたいと思います」
「それはいいのだが、彼は了承しているのかね?」
「いえ、しかしあの才を施設に置き腐らせるのは勿体ないので……」
「ご両親は見つからないのかね?」
「どうやら孤児で1年以上一人で過ごしていたようで」
「怖いものだな。政府の目が届かぬ場所で生き続けるとは」
少年の異常さをある意味評価する中将であるが、マルギッテにとっては衝撃的な出来事であった。
「褒められるような生活ではないですが」
「しかし保護者はどうするのだい? 流石に孤児に我が家の名を与える訳にもいかない。君は成人もしていない。ではご両親はなんと?」
「まだ正式に許可はもらっていませんが、何とか軍の宿舎で暮らせる様にしていただけませんか?可能ならば内の養子に迎えたいのですが……」
希望が現実的でないことを理解しているマルギッテであるが、子供の人生には親は必要である。自身の親のプライドから名家でもない限り養子は取らないであろう。自身もフリードリヒ家に連なる者になる。すぐにではないが兵役次第自身が保護者の代わりとなれば問題ないと考える。
「本人も学校に行くぐらいならば訓練の方がマシというもので、見学を兼ねて体験させてください」
「そうか、では軍の方に席を用意しよう。少年の事はいいとして、君は本当にいいのかね? 君の年頃らならば、まだまだ遊んでいてもいいのだよ」
中将の言葉は若くして軍人とし生きるしかできないでいる少女に対する嘆きとも言えるものだ。マルギッテは若い。若いどころではなく、幼いとすら言えるだろう。成長期まっただ中の体は成人女性と比べても遜色なく。訓練からなる筋肉でか弱さも見て取ることはできない。加えて頭もいい既に中等部の過程を終えようとしている。
「その為に飛び級までしたのですから」
「学校を卒業すれば大人と呼べるものではないのだよ」
「理解しています。しかし実践は早くても訓練や演習には参加できるでしょう」
「能力の問題ではない、それだけならば君は凡人から遥かに抜きん出ている。寧ろ倫理や道徳的な問題だよ」
「承知しています。それでも尚、より大事な物があると私は思います」
「……ベルリンでの出来事……いや、責任感からか、君の想いはより強固な物となったのだな」
「はい!」
「いいだろう、仕方がないと言うべきか少年の教育も君に一任される事にする。大いに励みたまえ」
少年に合わせれば、多少は子供らしくいる事ができるだろう。
「無論です」
「しぬ?、しんじゃう?」
「ならば死になさいライン!死して尚足掻きなさい!」
あらから数週間、満足な食事と寝床を手に入れ日々の生活に費やしていた時間は訓練に当てていた。ランニングから始まり筋トレ、ほふく前進、無線、擬態での逃走、狙撃手の重音からの一特定など時間を掛け感覚で養うものを主にやらされる日々。銃や爆発物は反動や判断を子供にやらせるのは大変危険であると判断され触ることすら叶わない。しかし種類や名前、癖などは教えられる。色々な事柄に興味が示される年頃には毒以外のなんでもなかった。
「しんだら、お、おわりでしょ」
「死にながらも続けなさい!それがあなたの力になります。 さあ、後30です」
「腕が折れる」
幼い体をイジメる筋トレ。それがどんなに辛いことかマルギッテも理解している。それでも強くなり自身を守りこの国を守る力を付け、それを正しいことに使ってもらいたい。そんな想いは唯の親御心だ、伝わることもない。
「耐えなさい。今日はそれで終わりです」
「お、終わり? 何で? まだお昼だよ?」
現金なものでラストなどわかると明らかにペースが上がっている。その姿に頬笑みながらも理由を答える。
「お嬢様が遊びに来られるのです」
「198、199、200! っは?、あれでしょ中将閣下の娘の」
「そうです、クリスお嬢様です。最近は忙しいもので中々お会いする時間もなかったのですが」
「おれの性って言いたいの?」
半ば強制的にやらせといて酷いと感じるライン。
「そうではありませんが……」
少しバツの悪い顔つきになるマルギッテである。
「まあ、午後は自由時間でいいの? いいんだよね?」
グイグイと近寄るラインであるが身長差から見上げる形になる。
「ダメです。 あなたにも付いてきてもらいます」
ちょうど近づいてきたラインを羽交い絞めにして持ち上げる。
「離せ! 逃げないから離せ!」
「ダメです。 以前街に出たときの手癖忘れてはいませんからね」
「しない、絶対しないから! ね、反省してるから下ろして」
「高いところが怖いのですか? なら、肩車をしてあげましょう。 お嬢様のお墨付きです」
自信アリげに応えるが、そういう話ではない。
「違う恥ずい、しね! しね?!」
「さて、屋内に戻りましょう」
駆け出すマルギッテ、その速さは全力といっても過言ではなくいつ転んでもおかしくはない。
「危ないコケるから走んないで?」
「甘く見ないでください。 私はこの状態でも十人は相手にしも勝てます」
マルギッテならば可能であろうがその姿を悔しげに見ている少女の姿が見える。
「見てる! お嬢様見てる! やめて!」
逃げ道の見つかったラインは必死に抗議する。それに対しマルギッテは普段より遅い反応で応える。
「お、お嬢様!? いらしてたのですか」
「むぅ?」
余程夢中になっていたのであろう。マルギッテは基本的に面倒見がよく子供も好きである。ラインに注目していたので気づくのに遅れたのである。
「誰なんだ、その子」
「誰と言われましても……」
クリスの心情を感じ取ったマルギッテは真実を言うこともできず、かと言って性格的にクリス相手に嘘を言うこともできない。
「そ、その」
戸惑うマルギッテのかわり言うライン。
「保護者」
「ほごしゃ?とは何なのだ??」
使い慣れない言葉に理解が及ばないクリス。
「保護者はアレだ、お母さんの代わり」
「マルさんはお母さんになったのだな!? すごい!」
「いえ、そうとも言えますが……そうですね、なので今日はラインも連れて行ってもよろしいですか?」
「ラインと言うのか、いいぞ!マルさんの子供なら私のお友達だ!」
ものすごい信頼をマルギッテに寄せるクリスであるが、別にラインでなくとも誰とでも言いそうな事だ。
「何をして遊ぶのだ?」
「そうですね……買い物にでも行きましょうか。 ラインも行きたいようですし」
「いいけど、おれゲーセンで遊ぶよ」
「軟弱な、もっとテニスやバスケなどしなさい」
「毎日訓練するから疲れたくないの、それにゲーセンなら銃とか使えるし。はぁ?日本に行きたい」
まだ一回しか行ったことはないが、得意げに語る。
「日本?ドイツなのか?」
「ドイツじゃないよ外国」
「おお、そうだった」
「日本はゲームにすごく力入れてるからえアメリカンなのよりキャラがかっこいい」
「ライン、そんな事にパソコンを使っているのか」
「あ」
「はぁ、ほどほどにしなさい」
あまりキツくいうのも良くないと、賛成はできないが反対もできない。
「では、行きましょうか」
「は?い」「はーい」