「シミュレータ?」
「はい!演習許可を下さい!」
マルギッテと自分の総合的監督役のアルミン大尉に戦闘機シュミレータの許可をもらいにいくラインは1年が経ち10歳近くになっていた。
「ラインはマルギッテにつられて中将の屋敷にいってるだろ?借りられないのか?」
「あるんだ、知らなかった」
そりゃ中将だもんね、何でもあるよな?と屋敷の風景を頭に浮かべる。人家族が住むには大きすぎるただ住まい、外観は城のようで中はシャンデリアの輝きが広間を照らす。ここ一年で何度か招かれクリスの友人として多少は信用されてはいるが、明らかに家長からの視線が鋭い。ラインは度々その眼光に萎縮してしまうが、自身の立場を顧みれば萎縮しない方が無理というもの。
「あんまり行きたくないな……」
それは本音である。マルギッテに連れられ強制的に行くことはあっても、わざわざ自分から訪ねるなど出来るはずもない。
「しかしな?自分の管轄からは外れるから後で部署の奴らに頼んでみるよ」
「ありがとうございます」
頭を下げるライン。結果として使えない事も無いのは別にラインが子供だから甘やかされているわけでも、マルギッテのおまけだからでもない。単にラインが優秀であるがためである。なぜならば現時点でラインの実力は新兵のそれを超えるほどで訓練ではまず遅れを取ることがない。しかしこれはこの世界の基準では異常と評されることはない。褒められこそすれ貶されることもないく、マルギッテと言う前例もあるため特に問題もなく済んでいる。
マルギッテ本人といえばここ最近は突出しすぎている。普段は生真面目で例意義正しい態度であるが、事戦闘になると豹変しまるで獰猛な狼のようだ。銃口を向けられても怯みもせずに身体を僅かに逸らすだけで射線から逃れ瞬く間にトンファーで蹂躙していく姿は、現代の戦争技術ではなく中世の戦争で野を駆ける戦士そのものだ。銃や爆弾が効くのかすら怪しいものである。
「――――これでいい成績が出れば陸軍ともオサラバだ!」
ラインはというと陸軍に所属しているマルギッテに付き一陸兵として訓練に励んでいるが、あの泥臭さと空軍の爽快さを比べると普段土に塗れる生活に明るい色が消える。射撃戦は楽しいし狙撃は楽だが、いかんせん何故か肉弾戦が重視されるこのフリードリヒ中将指揮下の下ではラインの体格は合わなかった。
「マルギッテには悪いけど俺は細剣やトンファーよりコントローラが握りたい」
自身の武器にコントローラを選ぶあたり現代っ子精神が垣間見える。しかしラインは気づいていないパイロットになるには多くの専門知識が必要不可欠なのだ。のちのち操作の複雑さよりも専門知識の習得に苦労するのは学業を収めていない少年にとって必然の事柄であった。
食事を撮り終えたあと自分より大人のむさ苦しいおっさん共に何時ものように誂われ半ば逃げるように部屋に戻る。PCの電源を入れオンラインゲームに行事る最中に部屋のドアが破られる。開けてもらえずに破られるドアは破った者の怒りを表していた。
「やはり居たのですか……あれほど鍵をかけるなと言ったものを……それにまたゲームですか!」
「せ、セーブさせて」
耳にヘッドホンをして呼び出しが聞こえなかったと推測したラインは大きな焦りを覚える。
「いえ、それはまぁいいでしょう何時もの事です。 しかし!アルミン大尉に言ったそうじゃないですか!戦闘機に乗りたいそうですね!」
アルミン大尉のバカ野郎と嘆くがそれだけでここまで怒りを顕にするマルギッテではない。それはアルミンの普段のラインの態度から陸軍が嫌なのだと分かってしまったからである。それは憶測としか言えないく、普段ラインといるマルギッテには感じ取れなかったものであるが、歳の分だけ多くの経験をしたアルミンの観察力は確かである。
その話を聞かされたマルギッテは自身がそれに気づけなく他人から知らされる事でラインに対する怒りと悲しみがこみ上げ一枚のドアに悲劇が訪れた。きっと怒りよりも悲しみの方が大きいであろう。それは責任感が強い少女にとって衝撃的なものである。
「軍に入って後悔していますか?」
途端にさっきまでの怒りが嘘のように消え去り小さな声で疑問を口にする。
「私はあなたに無理をさせていたのかもしれませんね」
「え、ああ、うん、そうだけど……」
言っている事は間違っていないのだが、どうにも的を得ない質問にどう答えたらいいかわからないライン。
「今まで辛かったですか?」
泣きそうに成りながら言うマルギッテにアルミンがどの様に伝えたのか疑問に思うラインに後であの男にお礼をしなければならないと決心する。
「ツライっちゃ、ツラいけど……何か勘違いしてる」
「……勘違い?」
ラインの態度に気がついたマルギッテは自身が早とちりしていたと気づく。
「いや、陸軍がやめたくなるのはホントだけど」
そう言うとまた悲しくなるマルギッテ。
「だいじょうぶだから! やめないから! ツラくないから!」
言ってる事があやふやなラインにマルギッテも冷静になる。
「つまりどういうことでしょう?」
「だから、マルギッテの思ってるほどおれはツラい思いなんてしてないの!ただ陸軍より空軍の方が楽そうなだけ!」
唯々本音をぶちまけるラインの物言いにいい加減マルギッテも気づく。
「ということは怠いから楽そうな空軍に行きたいだけと?」
「そうそう!」
訓練以外は優しいマルギッテを気遣うが怠けたいという軟弱な精神を曝け出しているだけの情けない話である。
「いい根性してますね、明日は一日中私の相手をしてもらいましょう」
今まで何度も経験してきた地獄が明日確実に来るという恐怖にラインは冷や汗をかく。
「か、かんべんして……」
「どうせなら、あなたが空軍に行くまで毎日にしましょう。 名案ですね」
勝手に決め勝手に納得する相手は手ごわい。ラインは自身の死を確信した。
「りょ、りょ」
「りょ?」
それは苦肉の策。しかし化物に付き合わされるより遥かにマシと言える回答を叩きだす。
「両方がんばります!」
軍人としてなめくさった意見であるが、このフリードリヒ中将の下では不可能ではない。なぜならどちらも混在する異形な軍なのだ。さらに中将はそれを私情で使う危険極まりない男。陸空両方に精通しても困るどころか助かる。
「それは立派なものです! いいでしょうならば明日だけで勘弁しましょう」
アルミンに復讐を誓うラインであった。
翌々日、地獄を生き残った者に別の地獄に送り込まれた者がいた。
「ち、畜生!だれだ俺が風俗いったのマリナに言った奴!」
女性官に白い目を向けられる男はどこかの大尉だった。