川神はそんな貴方をほっとけない!   作:天間@緑茶

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第7話

 太陽はは真上に昇り、乾燥した空気が喉を枯らす。岩場に身を潜めミラー式双眼鏡を覗く。

 

「あと二人」

 

 反政府運動を掲げるテロリスト集団。主に米国を標的としたイスラム原理主義アルカイーダ。その一部を一掃しようというのが今回の要請の理由である。確実に殲滅または捕獲したいと中将は思慮する。もし生きて捕獲できるなら情報を引き出せる可能性もある。近接戦闘を生業とする現マルギッテ少尉率いる猟犬部隊ならばそれも可能であろう。今猟犬部隊を主とする中隊はアルカイーダの潜む人気と交通網の無い地域に来ている。国に住民登録もされていない人が住むその場所には、有るはずのない住居と呼ぶべき建物が密集している。レンガとセメントで建てられた建物に小さなもの見櫓まで備えられている。

 

 この武装したテロリストが蔓延る村に猟犬部隊は突入しようと言うのだ。その猟犬部隊には大の大人の肩にも背が届かないであろう姿が見える。遠目から見れば小さめの女性士官と思われているだろうが、十代の前半の少年兵である。いくら子供に爆弾を持たせる発想を持つテロリストにも想像すらできないだろう。ひどい言い方をすれば非人道的と捉えられても可笑しくはない。

 

「水……」

 

 セミオート式のライフルを構える狙撃手が望遠レンズから目を離すことなく給水を要求する。

 

「はい」

 

 ラインよりも後に入隊した若い補給兵はプラスチック製のパックに入っている薄いスポーツドリンクのような飲料の口を開け、ストローを刺す。

 

「早く……」

 

 集中と炎天下から突き刺さる日差しから為る疲労に狙撃手も極限状態に陥る。

 

「は、はい」

 

 砂埃に塗れた軍服を岩の上で引きずりながら狙撃手の口元に運び入れる。

 

「左屋外」

 

 誰かがそう言った瞬間に狙撃手の銃口が僅かに傾き引き金が引かれる。

 

「撃破」

 

 肺から流れる血を確認し着弾したことを知らせる。その男は双眼鏡を片手にこの狙撃部隊に指示を出しているものだ。

 

「正面を固めてる兵はあと一人、行っていいよマルギッテ……」

 

 ウサギ狩りだ、と言う掛け声とともに猟犬部隊の主力が突撃する。しかしその突撃にまともに応じる者はいない。目立つところに立てば忽ち鉛を体に捩じ込む始末になるのだ。前線の後ろを守るライン達、その更に後方の部隊から報告が入る。

 

「後方以上ない」

 

 以上ないとは増援が来る事はない。ならばここはラインも前に上がっていいと言う意味だ。

 

「じゃ、おれは前に出るからバックアップよろしく」

 

「!?」

 

 そう言うとラインは最前線へと駆け抜ける。

 

「ま、待って下さい隊長!」

 

 急いで声をかける補給兵であるが、間に合うことは無かった。

 

「追いかけるか?」

 

 そんなに指示が欲しけりゃ態々もらいに行けと揶揄う狙撃手。粗方の仕事を終えた狙撃手はライフルを構えるがどこか安堵の色が伺える。

 

「行きませんよ! それよりいいんですか、持ち場を離れても?」

 

「いいんだよ、それが上の方針だ。 俺たち下っ端が意見することじゃない。 それにアイツがアサルトライフルを持つと負傷者がグッと減るんだぜ?」

 

 今の今までサポートに徹していたのはラインが未熟だからではない。これはほかの兵にも実践を経験させるという計らいと余裕の現れである。現実にはラインが狙撃するだけでほかの狙撃手がお払い箱になってしまう。一発一殺と言うべきか確実に獲物を捉える銃口は大変早く安い殺人兵器だ。たった一人で戦場の空気が変わってしい、上空からの爆撃でもなければ現状負ける心算はないのだ。

 

「噂では無かったんですか……」

 

「アイツが軍内で煙たがられるのが分かるだろ?」

 

 遠目に映る光景は人が出てきては倒れ出てきては倒れを繰り返す。その中を駆け抜ける少年の姿は不気味で何よりも畏怖を感じるのであった。

 

 

 

「何なんだよアイツは!」

 

 壁に背を向け銃だけを対面に向け放つ。十人は伏せていた筈の仲間が一掃されていく。本来ならば奥へ向かった敵を囲む作戦だったのだが、狙撃部隊とラインの御蔭でその包囲網さえ作れなかった。

 

「!?」

 

 迎撃したいたテロリストの男は突然自身の銃の発砲が止まった事に気がついた。

 

「くそ!」

 

 銃の不調だと思っていた男だが良く見ると手の辺りが鮮血に染まったいる。

 

「何だよこれ! 何なんだよこれ!」

 

 唯の銃の不調なら引き金が弾ける。しかし引き金を引く人差し指が千切飛んでいた。狙って撃ったのかはたまた偶然か、偶然だと信じたい男だが血に染まる銃の口までもが歪んでいる。これではまともな射撃すら出来ない。

 

「っ!」

 

 銃を捨て胸の手榴弾を引きピンを引いた手に拳銃を持つ。壁向こうに腕を出しどこに居るのか分からない敵を目掛け投擲する。

 

 壁向こうに常に警戒していたラインは出てきた男の手に向けて引き金を引く。

 

「やば!」

 

 引き金を引く直前には気づいたものの的を射る手は止めるられない。手榴弾は男の手を離れることなくラインの弾丸により爆破した。

 

「気をつけなくちゃ……」

 

 まさか自分が反射的に撃った弾が手榴弾に当たってしまうと考えても見なかったラインはこれからは確認してから撃つと考えを改める。至近距離にいたら洒落にならない。

 

「粗方片付いたかな?」

 

 殺した男すら目に止めず、周囲の安全を確認する。物陰に隠れ無線を手に取る。

 

「あ、こちらライン一帯は抑えました、応援を頼む」

 

「――――」

 

 最後方からの応答がない。これは何か起こった事が推測できる。確認の為狙撃部隊にも無線を送る。

 

「……」

 

 今度は無線は点いているようだが。風の音と土を踏む靴の乾いた音のみが聞こえる。

 

「――――」

 

 耳を立て何か情報を得ようとするが直ぐに切れてしまった。すぐに切れたと言うことは、と考えると。 

 

「すぐ来るって事か!」

 

 気配を殺し死体の体から手榴弾を2つ取り物陰に隠れる。幸い住居はある程度密集していて射撃戦するには差し支えない。守るべき物のない防衛戦が展開できるので幾らかは対策が取れる。しかい相手は主力でないにしろこちらに連絡が来る前に後衛部隊を殲滅できる技量なのだ。さらに爆撃の様子も射撃音も聞こえないとなれば、マルギッテのような時代錯誤の近接戦を生業とする輩だ。ラインとしては厄介な相手だ、自身の間合いを保つには少し詰められる過ぎている。これはもう相手の間合いと捉えていいであろう。

 

 無線を取り出しマルギッテに、モールス信号で後方に敵影あり迎撃せよ、と連絡を入れ自身は挟撃の為待機する。持っているハンドガンにサイレンサーを取り付け不意打ちを狙う策を立てる。

 

 二つの気配を筆頭に幾つかの兵士が押し寄せる。末尾の兵士が過ぎ去るあたりでラインは少しばかり様子見をする。

 

「20弱ってところか……」

 

 通り過ぎた部隊と伏兵の事を考え検討を付けるが、その頭は疑問に悩まされる。ラインを悩ますのは相手は一体何者なのかという点だ。目視で確認したところ正規の軍の緊張感は見えないが、かと言ってテロリストとも違う統制された足取り。一体何が目的なのだろうか。

 

 手榴弾を手に取りピンを抜く。1,2,で何もない上空へ放り投げる。空中で爆発した轟音で傭兵もそちらに気取られずにはいられない。猛者がいる事を確信しているラインはもう一つの手榴弾を敵部隊上方へ高い放物線で投げピンを抜いた手榴弾が爆発すると同時にハンドガンで敵部隊めがけ投げた手榴弾を打ち抜き暴発させる。

 

 案の定投げられた手榴弾に反応するものが何名かいたが、ピンが抜かれていない事を見て態度が変わる。

 

「ドン」

 

 掛け声とともに撃ち抜かれた手榴弾は爆発し大量の砂埃が舞い上がる。撃ち抜いた瞬間は撃破を確信していたラインだが、煙の向こうに身が得ている敵兵がいるのを感じ取る。

 

「いきてる……」

 

 信じられない事態に気配をころしフラッシュグレネードを転がし距離を取る。物陰に隠れ移動する。

 

「ほう、中々いい動きをする」

 

 何故か執事服で戦場を闊歩するダンディな漢がラインの前に立ちはだかっていた。

 

「射撃一辺倒に見せかけ近距離での必殺を狙うその様、見事!」

 

 何だか殺しに合わない空気を醸し出す漢だが、その実一切合切隙を晒さない。直立不動を崩さない姿勢は、ラインが一歩たりとも動くことを許さない。

 

「貴様に仕事をされても困るのだよ、あやつ等では貴様相手に何人命を落とすか分かった物ではない」

 

 ラインは殺しを推奨している訳ではないが、捕虜とするメリットと反撃されるデメリットを考えれば殺したほうが楽なのである。特に子供だからと舐められ弱点と見られる事が多いので其の辺の判断も難しい。危険を避けるには相手を完全に行動不能にするのが一番なのだ。銃弾ではそれが死に直結してしまうが、ゴム弾など生ぬるい物は戦場では使えないので仕方がない。

 

「何、貴様も大人しくしていれば危害は加えん」

 

 諭すように言われるのは見た目が子供故か、はたまた本当に交戦の意思はないのか。

 

「奥に行ったあいつ等は何をするのが目的なの?」

 

「むう、現状言うべきではないがどちらにしろ分かることか。 何ここにある情報をこちらが独占するのだ」

 

「それじゃ今回の作戦は何のために……」

 

 これでは自軍の損害ばかりで何も得るものがない。

 

「少し寝ていろ小僧」

 

「!?」

 

 絶対に隙を見せるつもりは無かったが、目の前以外に気を回した瞬間に後ろを取られ体崩れ落ちる。そのまま放置しないのは紳士としての優しやであろう、ラインは漢肩に担がれ奥へ運ばれる。

 

 

 

 

 ラインが交戦中にマルギッテ率いる猟犬部隊は幹部らしき男を捕らえ尋問していた。

 

「ラインから連絡がありました、敵がこちらに向かって来るようです。 迎撃の準備を」

 

 連続した爆音とともに、多くの気配はマルギッテ達に向かってくる。

 

「来ます!――――っ!?」

 

 反射的にトンファーで顔側面を打ち上げる。木製なれど金属の刃を通さない特注品である得物は小太刀を弾き飛ばした。

 

「へ?、意外だぜ、あたいの太刀をこんなガキが受け止めるたァ?な」

 

 心底、感嘆の意を表す的に違和感を覚える。何かが足りない、こんな血の匂いしかしない戦場に欠けるもの。そう、殺気が足りないのだ。

 

「何者です」

 

 問うのではなく言いなさいと命ずる。

 

「言う訳ねぇだろドあほ」

 

 だがマルギッテは会話の中周囲を見渡し纏う空気を見極める。

 

「傭兵……」

 

 確信は無いが今一番適当な言を出す。すると明らかに相手の表情に余裕が消える。

 

「あたりですか、存外顔に出ますね」

 

「っち!」

 

 完全に見破られ面白くないと態度にマルギッテは真に何が狙いか検討を付ける。おそらくテロリストの情報が目的、非殺人的ということからトロリストの仲間で口封じが目的でもない。となれば、軍内部に中将に情報を渡そうとしない者がいるということになる。

 

「悪いが時間がないんでね、急がせてもらうよ」

 

 二刀流の小太刀を構え臨戦態勢に移る。

 

「っし!」

 

 低い体制から潜り込む様に刃を切り込む女傭兵。流麗とした連撃に流石のマルギッテも関心を示す。

 

「その動き、その太刀筋、貴方――――女王蜂ですね」

 

 外見の特徴と二刀の小太刀から見て女王蜂であると思われる。

 

「そう言うてめぇは誰だよ! あたいがこんなに手こずるなんて」

 

「かの有名な女王蜂にそう言われるとは光栄ですね」

 

 トンファーでの堅牢な守りから放たれる蹴りは城壁と大砲を彷彿とさせる。女傭兵の女王蜂、忍足あずみも手をこまねく。

 

「あまり時間は掛けられないからな、とっとくたばれ!」

 

 正面から切り崩すだけのあまりに雑な初動にマルギッテはカウンターで蹴りを入れる。

 

 切り出す小太刀はそれを待っていたというばかりに伸びてきた脚の腱目掛け穿たれる。

 

 鈍い衝撃が肉を裂いてはいないと小太刀から伝わる。

 

「特注です」

 

 片足直立を維持しながら本命の武器はトンファーでなく安全靴と掲げる。

 

「獣みたいな目してるくせに随分と受身な筈だ」

 

 早さを重点に置いた自分とは逆に堅牢な守りから飛び出すカウンター、おまけに足並みも僅かにこちらが上まっているだけ。あずみは無傷での勝利は不可能と判断を下す。だが、正面から切り崩すだけの大技もあずみにはない。

 

「なら!」

 

 マルギッテの周囲を旋回すると攻撃すると見せかけ確実に死角から別の兵を奇襲する。

 

「待ちなさい!」

 

 あずみを追いかけるが、軽足のあずみは十人ものドイツ兵を背後から刀背打ちしていく。明らかに殺しを選択に入れていない。何とも戦いづらい相手だ。

 

 そこで巨大な気配が登場する。

 

「存外手こずっているな」

 

「大佐! 遅いです早く手伝ってくれ!」

 

「これぐらいの相手一人で何とかしろと言いたいものだが……ほう、この坊主よりも出来るものが居たとは」

 

 肩に背負ったラインと見比べる大佐と呼ばれた漢。

 

「ライン!」

 

「そう睨むでない」

 

 死体を態々運んで来るほど敵も暇ではない。

 

「大佐! そいつは任せた!」

 

 勝算の薄いマルギッテの対峙を大佐に任せせっせと物の回収に移行する。

 

「呆れて物も言えんな」

 

「させません」

 

 捕らえられたラインを放置し任務の最重要課題を優先する。

 

「そうはいかん」

 

 マルギッテの進路を遮るように大佐は立ちはだかる。

 

「邪魔です退きなさい!」

 

 立ちはだかっても尚構えを取らない大佐のがら空きのボディに足刀を入れる。

 

 鈍い衝撃、受けたものを尽く吹き飛ばす剛脚、大佐はそれを直撃するも顔に苦痛の色すら見られない。

 

「中々の蹴り、実にエレガントだ。 しかし坊主を気にする余り精神が乱れている」

 

「何を!」

 

 足刀を引き足を入れ替えその遠心力から上段回し蹴りを放つ。

 

「っ!?」

 

 終始余裕を見せていた大佐も腕を上げ受け止める。

 

「その年でそこまで気を使いこなすとは」

 

 受け流さずに受け止める大佐に実力差を隠しきれないが、他隊員たちが倒され自分だけが最後の砦なのだ。ここで屈する訳にはいかない。

 

「Hasen jagd」

 

「獣に身を委ねるとは……まだまだ甘い」

 

 全力を出すために本能で攻撃を繰り出し大量のアドレナリンを分泌させる。

 

「沈んでもらおう」

 

 四肢から繰り出される多量の乱舞を受け流し確実に止めを刺す機会を伺う。攻撃をやめると反撃が待っていると分かるマルギッテは手を緩めはしない。右手を振り、左手を振り、状態を揺らし足払いを躱す。デンプシーロールで猛攻を繰り出すも相手の防御は一向に崩れない。

 

 大佐がマルギッテの披露を見逃さず、手刀で首を狙う。

 

 プスンと言う空気の抜けたような音。それが鳴り響くと大佐の手に風穴が空いていた。

 

「起きたか小僧」

 

 肩に乗せられたまま戦っていた為だろうか、マルギッテの攻撃の余波で目が覚めたのだ。

 

 大佐の顳かみに銃口を突きつけ、優位性を示す。

 

「この至近距離ならくらうよね?」

 

 先ほど銃弾が貫いた大佐の手を想像させる。

 

「まさか銃弾で私の手を貫くとは……貴様も多少は気の心得があるようだな――――が、まだまだ」

 

「うわ!?」

 

 脅しでしかない銃を向けられたところで一切怯みもしない大佐は、銃の持つ手を取るとマルギッテに向かい投げ捨てる。

 

「ライン!」

 

 投げられたラインを受け止め、無事を確かめる。大佐との交戦に手間取ったマルギッテ達を他所にあずみ達は一仕事終えて戻ってきた。

 

「大佐、ずらかるぞ!」

 

 車から逃走を促す呼び声がした。

 

「どうやら時間のようだ」

 

 目的は達したのか一言残すと去るのは早い。

 

「待て!」

 

 ラインをおろし追い掛けようとするが、金髪の女傭兵が荷台から身を乗り出し興奮した調子で牽制にでる。

 

「ロックンロール!」

 

 金髪の女傭兵がランボーの如く片手でアサルトライフルを乱射するため前に出ることができない。猟犬部隊は死者なく壊滅状態、苦渋を飲まされ撤退を余儀なくされた。

 

 

 

「捕虜も無し……成果を全て持って行かれましたか……」

 

 帰還の準備を整え現状を振り返る。

 

「誰も死んでないだけマシだよ……」

 

 初の敗北を知った猟犬部隊、死者がいないというのは手加減されたという事。

 

「上からのお叱りもこないとなれば俺たちも何も言えないな」

 

「こうも強引となると余程知られたくないことがあるといいうことか」

 

 狙撃手達兵士が苛立ちを隠さず愚痴る。

 

 マルギッテはそんな部下たちの言葉を聞き流し一人決意する。

 

「もっと強くならねば成りません」

 

 ラインもお嬢様も、自国ドイツも守れるほどに。 

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