川神はそんな貴方をほっとけない!   作:天間@緑茶

9 / 13
第9話

 先日のクリスと出かけた夜。ラインはマルギッテに報告ができずにいた。報告すべきかどうか迷っていたが最終的に明日話せばいいかと先延ばしにしていた。

 

 有言実行と言葉に出していなくとも、行動しなければ何も始まらない。マルギッテを尋ねるべく女性宿舎に何時ものように顔パスで通る。いい加減子供とは言えない風貌になっているものの、度々マルギッテにお呼び出しをくらう少年に七面倒臭い手続きなどはしていられない。歩き慣れた通路を進む。

 

 トントン、と静かに手の甲で扉をノックする。

 

「――――」

 

 返事は帰ってこない。マルギッテとは違いラインは合鍵など持ち合わせていないので、何度もノックを繰り返す。

 

「っていないのかよ」

 

 適当に気配を探っても居る様子は無い。いつもより早く起き、一人訓練に行った訳ではないだろう。そうであるならば、叩き起こされて朝から10キロ程走らされている。

 

 部屋の前で携帯を使い連絡しようとすると、隣部屋の女性が出てきてしまった。

 

「起こした?」

 

「そろそろ朝食でも取りに行こうと思っただけ……」

 

 まだ少しばかり眠たげな女性は気だるそうに返事をする。

 

「マルギッテ知らない」

 

 携帯で呼び出すのも億劫なので、今部屋から出てきたばかりの知ってもいなさそうな女性に聞いてみる。

 

「……少尉なら昨日親が来るとか何とか言ってたからそれじゃない?」

 

 まさか真面な回答がくると思ってなかったラインだが、それ以前に自分が知らされていない事実を知っている事に驚く。

 

「こんな朝早くから来るとか変わり者だな?」

 

 娘に会いに来るために早朝に訪れるとは考えられない。中将と会談するために来たと推測できる。

 

 会談にマルギッテも参加しているとなると、先程電話せずに良かった、と気をまわす。ラインは女性にお礼を言って、会議室に足を運んだ。

 

 会議室付近まで行くと、会議はもう終わったのか目上の勲章をつけた人々の波を見つける。その中にマルギッテと中将は見当たらなかった。その人だかりに会釈をし、過ぎ去るのを待つ。ようやく人だかりが過ぎ去り会議室へ向かうと、最中の廊下によく知る声が響き渡る。

 

 

 

 

 

「ですから、お願いしますお父様!」

 

 マルギッテが実の父に何かを懇願している。

 

「その話はもうするな! 私は聞き入れはせんぞ!」

 

 どうやらマルギッテの頼みを父親は怒り混じりに断った。

 

「ならば、ラインを私の養子に入れる許可を!」

 

「巫山戯るな! お前はまだ未成年だ! まだ嫁にも出ていないお前を子持ちにするなどして世間にどんな顔をすればいいのだ!」

 

「そう言うのであれば、あの子を我がエーベルバッハ家の養子に入れて下さい」

 

 マルギッテはラインを自身の家族として迎え入れたいのだった。何の取り柄もない不幸な子供を養子にしたいと酔狂なことを言ったいるのではない。実力と結果を残しているラインならばエーベルバッハの名を背負うことが許される、少なくともマルギッテはそう考えていた。しかしエーベルバッハ当主、グラン・エーベルバッハは違う見解であった。

 

「ふん! あの何処の馬の骨とも知らぬ小僧を、我が家に入れるなどありえんは!」

 

「でも、あの子ならば……」

 

 能力は十分にエーベルバッハの名に相応しい働きをする。でもそれは、古き血を重んじる旧家にとって、越える事を美としない大きな壁であった。

 

「時間をかければ私が折れると思っているのか? 残念ながら薄汚い血を我が家に組みとるつまりはない!」

 

 これ以上、耳にして心地の良いものでは無いラインはゆっくりとその場を後にした。

 

「!? ライン……」

 

 気配の乱れから誰かが聞き耳を立てていたのを察知する。誰がいたのかまで分かっていしまった。

 

「坊主が居たのか……悪い事をしたな」

 

「そう思うならば、あの子に謝ってください!」

 

「しかし、先程の言を取り消すつもりはないぞ。 お前がいつまでも諦めないから真意を伝えたまでだ」

 

「父上!」

 

 マルギッテの怒りを顕にするとフリードリヒ中将が仲裁に入る。

 

「二人共落ち着き給え」

 

「失礼した」

 

「申し訳ありません……」 

 

 睨み合っていた二人も意気消沈する。

 

「君も君だぞ大佐、自身の発言を娘のせ所為にするなど情けない」

 

「ですな、だがフランク、君にも私の気持ちがわかるだろ」

 

「君の言う事はもっともだ、マルギッテ、君も其の辺を察してくれないか?」

 

 二人にそう言われたら頷かざる得ない。しかしラインには正式な家族が必要だ。自分と今での関係でも十分に後ろ盾は有ると言える。しかし公的な保証はない、それに(あかし)が必要なのだ。確かな絆が。

 

「ライン君を追いかけなくて良いのかね?」

 

 言われて気がつき、失礼しますと一言残しその場を後にする。

 

 残された二人は青いものを見る目で見送る。

 

「君も随分厳しいことを言うのだな」

 

「フランク中将の基準で言えばそうでしょうな」

 

 クリスへの甘やかし方と比べたら圧倒的なまでの差が二人の教育姿勢にはあるだろう。

 

「マルギッテは出来の良いペットでも買っている積もりなのでしょう、よく色々な芸を覚えると私に報告して来ますし」

 

 ほくそ笑みながら語るも中将に否定される。

 

「私にはそうは思えないがね」

 

「私にはあの娘が人一人育てる大変さを理解してるとは思えないな」

 

「彼女は聡明だよしっかり気づいているよ、間近で見てきた私が言うのだ安心したまえ」

 

 中将の保証なら確かであろうとグラン大佐は渋々納得した。

 

「坊主と距離を置かせる程私も鬼ではない、現状はあの娘に任せるさ」

 

 なんだかんだと言っても親は子供を見守る物だ。

 

 

 

 

 マルギッテは会議室前の廊下から離れラインを探す。猟犬の嗅覚と気配を汲み取る。ラインは離れてはいるが、逃げたり隠れたりせずゆっくりとした歩調で歩いていた。

 

「ライン」

 

「なに」

 

 予想より大分明るい事に感情で表せない程傷付けてしまったのではと思う。しかしそれは要らない杞憂であった。

 

「そんなに悲しそうな顔しないでよ。 おれ、今更あんな事言われてもどうにも思わないよ」

 

 ラインの悲しそうな声色にマルギッテもつられる。

 

「でもマルギッテのお父さん、グラン大佐だっけ? おれもあの人の子供に成りたいとは思わないし、別に気にしなくていいよ」

 

 マルギッテにとっては立派な父でもあるのに、その子供には成りたくないと宣言するのも褒められたことではない。

 

「そう言わないで下さい、あれでも私の父親です」

 

「そんな事より、マルギッテに言っておきたい事があるんだ」

 

 今までの陰鬱な空気はどこかに置いて置かれ、エーベルバッハの養子になる事よりも重大であるとラインは主張する。

 

「何か重大な事のようですね、歩きながらでは何ですから談話室にでも行きましょう」

 

「誰も居ない所が良いんだけどな?」

 

 決心は揺るがないので最悪誰かに聞かれ困る程の覚悟でもなかった。

 

 談話室でテレビを見ながら雑談を交え会話する。テレビの画面には星座占いが映り、12の星座がランキング表示される。

 

「山羊座最下位かよ……運ねぇーな、こんな日に」

 

 今日の山羊座の運勢は、大変運が無い例年見ない程悲惨なので外出はなるべく控えましょう。アナウンスサーもこれ放送していいの?っと言いそうな口調である。何やらクレームの電話が殺到していてテレビ局が大慌てしているのが、生放送のため視聴者にも丸分かり。早朝から放送事故とお騒がしい局であった。

 

「おいおい……これ大丈夫かよ……」

 

 映像には慌てるスタジオのパニック状態になっている音声が電波に乗り届く。一分経ってもアナウンサーが原稿を読み続け、現在も不運な連続であると述べ続けている。

 

「誰だよ! こんな原稿用意したのは!」

 

 とか。

 

「こんな原稿読むアナもアナだ! 何だよ、人生災厄の山羊座って! 読んでて可笑しいと思わないのか!」

 

 と息巻いてる男性の声が聞こえる。

 

「まだカメラ切ってないのか! 止めろ、このスカポンタン!」

 

 ここでやっとCMが流れる。

 

 新鮮な情報を提供してくれるのは大変ありがたい限りだ。だが、どこまで山羊座を貶める積もりか知らないが、全国の視聴者としては下らないけど面白いものが見れたと賑わった。

 

「すごい番組ですね……」

 

「この局はたまにドッキリとかやっちゃうから、誰か変な企画でも設けたんでしょ?」

 

「困ったテレビ局ですね、世間には鵜呑みにしてしまう人もいるのに」

 

 真面目に呆れた目をテレビに向ける。ラインはその様子にお巫山戯が通じないのも、それはそれで立ちが悪い。

 

「どうせ嘘なんだから本気にすんなよ。 あ、付いた」

 

 スタジオはまだ落ち着いてはいないようだが、何とか続行できる状態になったようだ。占いの原稿を読んでいたお姉さんは端の方に座っているが、化粧が少し乱れているので裏で怒られている事が想像できる。

 

 今度は貫禄のある男性アナウンサーが真剣な顔で原稿を読む。

 

「え?、先程の山羊座の星座占いはこちらの不手際では無く、事実であります。 占いなど信じない方も居るようですが、リューベック在住の方は特に注意してください! 尚、本日は赤いものを体に身に纏い、外出はお控えください。では引き続きNEWS ∞をお送りします」

 

 ここでまたもCMが流れる。

 

「なんなのこれ」

 

 何を急に態度を改めて本気にして何がしたいのかイマイチ分からない。まさか本気で信じろと言っているのではないかと正気を疑いたくなる。

 

「私は山羊座でもありませんし、髪も紅いので問題ないでしょう。 ラインは山羊座でしたよね? 私の髪を差し上げましょう」

 

 随分と心情的に重たい物を渡してくる。マルギッテとしたは、愛情と心配を込めて渡して来るのだろうが、常識的に気持ちの悪いと思われても可笑しくない。

 

 長く伸びた髪を一本切り、ラインの手首に結ぶ。

 

「……一応、ありがとうと言っておくよ……」

 

 全く嬉しくないプレゼントに苦笑いしかできない。感情を露骨に出すとマルギッテを傷つけてしまうので、話題転換で本題を切り出す。テロップで災厄の山羊座などと流れている結体なテレビを消す。

 

「消すのですか?」

 

 急にテレビをを消したラインを不思議に思う。

 

「大切な、は、話がしたいから、ちょと、邪魔」

 

 途切れ途切れの文脈で緊張を隠せない。本来は胸にしまって置いても、責められる言われは無い事情ではある。しかしこの軍に、世話になっているマルギッテに隠していては、ライン自身が納得しないのだ。

 

「おれ、多分クリスが好きになった」

 

 溜めの一つもなく、行き成り好きになったと言われても、マルギッテはどんな態度を示せば良いのか分からない。

 

「は、はぁ、昔から仲が良かったので好きなのは知っいましたが、それが?」

 

 どうにも不明瞭なラインの宣言に何が言いたいのか理解できない。

 

「だから、クリスが……好きなんだと思う」

 

「それは異性としてですか……、中将になんと言えばいいのやら……」

 

 マルギッテは困ったような反応を示し、仕えているフリードリヒ家を考え思案する。ラインの曖昧な宣言から、緊張と恥じらいが見られる。この年頃は色に過敏になるので、別段可笑くも無いが相手がクリスお嬢様では応援する事も出来ない。

 

「いけない、とは、思ってる……」

 

「はぁ?」

 

 遂に溜息まで出てしまう。ラインもマルギッテの反応は予想したものと違い、対処法が分からずにいた。

 

「本来は私が口に出す事では無いのですが、相手がお嬢様となると反対しなければなりません」

 

「うん」

 

「しかし! 貴方が人を、誰かを好きになるなど私個人としては嬉しい限りです。相手がお嬢様でなければですが」

 

 他人との親密な交流が少ないラインを心配するのは数知れず。挙句、友達はネットに沢山居ると言い出すのだ。

 これは保護者として何とかせねばと、何度も外に行かせお嬢様の学友と交流を持たせたが、進展は見ない。仲良くはなるが、所詮は他人とラインが思っているのを潜在的に見透かされ、態々親密に成ろうと相手側も思わないのだ。

 

 そんなラインが好きになる異性は身近な者に限られ、結果歳の近い異性のクリスを思慕する。

 

 訓練、仕事、ゲーム。これの繰り返しを行っていた成長期。交流が事務的な者も多く、子供として見られるも弄ばれる対象としか見られない。

 加えて、実戦での姿を見れば、無邪気に接する者など皆無だ。進んでこの世界にいるマルギッテとは違い、ラインはこれしか道を見いだせなかった。一番に反省すべきは、この環境しか用意出来なかった自分だとマルギッテは内心叱咤するが、もう遅い。

 

 少年は恋を知った。やたらを責めてはその火に燃料を投下するようなものだ。ここはもう少し大人になるまで、胸に秘めてもらうのがベストだろうと考える。ただの先延ばしにほかならないが、鎮静を待つのも時には必要だ。

 

「ライン……お嬢様を好きになるのは構いません。しかし貴方をお嬢様に纏わり着く毒虫とは思いませんが、余計なことをすると虫と見なさなければなりません。 そこをよく考えてください」

 

 自信の立場を理解させる。ラインならば理解できるとマルギッテも知っている。

 

 少しはこれで自重してくれると思い、この件に区切りを付ける。

 

「え?、それって我慢しろって事でしょ?」

 

「直接的に言えばそうです」

 

「でも、おれもうデートに誘ちゃったよ?」

 

「それはいつです!?」

 

 意外にも決めたら行動が早いのがライン少年。マルギッテが言うまでもなく、ラインの中で自己完結している事を後から、ああだ、こうだ、言っても気持ちは変わらない。

 

「今日だよ?」

 

 あまりにも早すぎる展開にマルギッテは翻弄される。それにしても早い、早すぎる。この思い立ったらの行動力はマルギッテに出会う前、自分で何もかも成してきた時と同じだ。

 

 更にこのライン少年、マルギッテにはまだ言ってない重大な事がある。

 

「お嬢様にはデートとお伝えしているのですか?」

 

 あの初心なお嬢様がデートと承知の上で応じるとはとても思えない。だがn事実こうしてデートは成立している。ならば何か裏が有るとマルギッテはよむ。

 

「いってないよ」

 

 そう聞き、マルギッテはホっと一安心した。それならば、今までと変わらないお遊びと同じだ。ラインの気持ちが違う以上、全く同じとは言い(がた)いが、お遊びの延長線上であるに相違(そうい)ない。

 

「だけど、電話越しにそれとなく好きといった」

 

「!?」

 

 プレイボーイ顔負けのセリフを電話越しなれど言ったというラインに対して驚きを隠せない。マルギッテはあわあわと興奮し、ラインが何を考えているか想像できない。いつも恋愛事と皆無な生活を送っているので理解の範疇を越えているのだ。

 

「うそだけど……」

 

「ライン!」

 

 その言に自身がおちょくられているのに気がつき、怒りのため眼光が鋭利な刃物のようになる。

 

 ラインは両の手を広げ前に突き出し、マルギッテをなだめる。

 

「ごめんないさい、ごめんなさい。 でも可愛い格好で来てって言った」

 

 真剣味を帯びた声色にマルギッテも気を落ち着かせる。

 

「本気だよ、割と……。 最後に告白するつもり。 だから中将に知られたら困るんだ。 好きなだけなら兎も角、告白はでは許してくれないだろうし……。 もし知られたら護衛は勿論、二人で遊びに行くとか不可能になるだろうしね……」

 

「真剣なのですね?」

 

 マルギッテは矢張り止めなければと決意する。

 

「でもマルギッテには言って置かなきゃって思ったんだ」

 

「――――」

 

「だからさ、マルギッテ……

 ――――大人しくしてて!」

 

 身構えてすらいないマルギッテはラインの不意打ちに襲われる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。