ロックマンエグゼ~もしもワイリーが原作前に改心したら~(お試し版) 作:カイナ
「時々思うんだ……」
黒髭を蓄えた男性がポツリと呟く。隣に座るふくよかな男性が「どうしたんだ」と言葉少なく、相手の言葉の邪魔をしないように穏やかに続きを促した。
「今、ネットワークが普及する世界が出来上がろうとしている……ならば、ロボットが普及する世界もあったのではないかと」
ポツリと漏れるのは本音の発露。黒髭の男性──彼はロボット学の権威、隣に座るふくよかな男性はネットワーク学の権威。
この二人は優秀な科学者として共に切磋琢磨しながら社会の発展に取り組んでいた。だが国は科学の激しい国際競争に勝つため、この二つの学問が共倒れにならないように国としてどちらかの研究に予算を集中することが決定。
激しい議論の末に次代の科学技術として選ばれたのはネットワーク学。黒髭の男性が己の理想を見出したロボット学の研究は中止される運びとなったのだ。
「……気持ちは分からんでもない。私ももしロボット学の方が選ばれたら、今頃君のように悩み苦しんでいたかもしれん」
ふくよかな男性が呟く。ロボット学の権威とはいえその電子工学に関わる知識はネットワーク学においても有用であり、今もなおこの二人は共にネットワークの共同研究を行っている。
「フン、気休めはよせ。俺が科学省の連中に影でなんと言われてるか知ってるか? “時代に取り残された”、“専門外に見苦しくしがみついてる”、しまいには“光博士の腰巾着”だ」
皮肉るように言って、手に持っていたグラスに満たされていた液体──ビールをぐびりと煽り、グラスをガンと目の前に叩き付ける。横に置いていた皿が中身の料理ごと小さく揺れた。
「何故だ!? 俺の理論は最高だった! 何故それが認められなかったんだ!?」
「……だが、それが皆で決まった事なんだ……それ以上はただのワガママだよ、ワイリー」
黒髭の男性──ワイリーの怒号にふくよかな男性──光が小さく呟く。だがワイリーの心に納得など浮かばない。
これからこの先、この国──ニホンの社会はネットワーク学によって発展するだろう。その技術が世界に認められれば世界そのものが彼の隣の男──光正のネットワーク理論によって発展する。それは逆に彼の理想とするロボット社会が発展しない事を示す。
何故だ、何故だ、何故だ。何故自分のロボット理論が認められず、こいつのネットワーク理論が認められるのか。ワイリーの心にそんな疑問、そしてその描く未来への憎しみが募り始める。そんな事になるくらいならいっそのことその世界ごと
「やっと見つけた……」
そんな声が静かに夜道に響いた。聞き覚えのある声にワイリーが「む」と声を漏らすと、隣の光が自分達の後頭部に触れていた暖簾をまくって道を覗き込み、「おぉ!」と声を出した。
「君はたしかリーガル君じゃないか! ほらワイリー、君んとこの息子さんだぞ!」
「……分かっている」
何故かはしゃいでいる光にワイリーはぼやいて暖簾から顔を出す。その目の前にいるのはここ数年といえないレベルで会っていなかった彼の息子──リーガルだった。思わず彼の目も細くなる。
「久しぶりだな馬鹿息子。アメロッパでビッグになると言って家を出て行って以来だったか……何か用か?」
「ハッハッハ! 気にせんでくれ。こいつちょっと酔ってるようだからな! 君の名をニュースで聞けば息子が研究者として有名になったと大はしゃぎ、新聞に出ればそういう記事が載っている新聞をあちこちから取り寄せて全て切り抜いてスクラップを作っているんだぞ!」
「お前何故それを知っている!?」
光が絶対にばれないようにしていたはずの秘密を知っている事に驚愕の声を上げるワイリー。その顔が赤いのは酒に酔っているせいだけではないだろうが、ワイリーはゴホンゴホンと咳払いをして誤魔化した。
「ま、まあ、俺程じゃないがなかなかやっているようだな。そこは認めてやらんでもない……それで、わざわざニホンに来るなど、何か用でもあるのか?」
「ああ……父さん、あなたに紹介したい人がいるんだ」
リーガルが優しく微笑んでそう言うと、彼の後ろから一人の女性が現れる。美しい金髪を揺らし、顔立ちから見てもアメロッパ人だろうと想像するのは簡単だ。
「ほほう、リーガル君。君の父親の親友として、その先の言葉は期待してもいいのかな?」
「誰が誰の親友だオイ腐れ縁」
腕組みをしながらニヤニヤする光に、ちょっと聞き捨てならない表現があったワイリーがツッコミを入れるが彼の方も心中若干穏やかじゃないのはその表情が物語っており、リーガルも光の言葉を肯定するように頷いた。
「彼女は俺の
「ハ、ハジメマシテ……」
まだニホン語を上手く喋れないのだろう。たどたどしく挨拶してぺこりと頭を下げる女性に何故か光の方が破顔してうんうんと頷いていた。というかワイリーは予想こそしていたがまさかの展開にフリーズ、口をあんぐり開いたまま動いていなかった。
「はっはっは。いやぁめでたい事だ! 祐一朗もはやくそういう浮いた話の一つでも持ってくればいいものを! よかったなワイリー!」
「叩くな……」
ハイテンションに背中をバンバン叩いてくる光にワイリーは毒づくが、光は何を思ったか「よし!」と立ち上がった。
「今日は祝いだ! 屋台のおでんで申し訳ないが私が奢ろうじゃないか!」
「おい何を勝手に!?」
突然とんでもない事を言い出した光にワイリーが抗議の声を上げるが、光はお構いなしにリーガルをワイリーの隣に座らせ、さらにその隣にリーガルの婚約者だという女性を「ディスイズジャパニーズフードオデン」などと説明しながら座らせてから自分も席に戻る。
ついつい屋台の大将に睨むような視線を向けるワイリーだが、馴染みの大将も苦笑しつつも「まあ、よかったじゃないですか」などと祝いの言葉を述べてきている辺り救援は望めなかった。
そして「よかったなぁよかったなぁ」と笑ってグラスにビールを注いでくる光を横目で見て、せっかく注がれたのだからとビールを飲みながら隣のリーガルを見る。
(全く、少し前まで生意気な子供だった奴が。いつの間にか大きくなりおって……)
アメロッパで研究者として名を馳せているのは新聞やニュースで見て知っている。だがこうして生で再会して改めて息子の成長ぶりをワイリーは実感。
その隣に座り、馴染みのない食べ物であるおでんを不思議そうに見ながらリーガルに質問しているアメロッパ人の女性と、彼女に優しく微笑みかけながらおでんを説明するリーガル、そして興味津々におでんを食べる彼女の仲睦まじい様子を眺めながら、グラスが空いたら光が楽しそうにビールを注いでくるからまた飲んでグラスを空け、そうしたらまたビールを注がれるからまた飲むを繰り返す。
(……ん? そういえば俺はさっき何を考えていたんだったか?)
そういえばリーガルが声をかけてくる前に何か考えていたような気がするとワイリーは思い出し、記憶を辿る。
そう、それは光のネットワーク理論が国に認められたのに彼のロボット理論が認められず、彼の理想であるロボット社会への道が閉ざされた怒り。それでこの世界が発展していくくらいならいっそこの世界を
(……バカバカしい)
さっきまで本気でそれをしてやろうかと思っていたが、今となってはバカバカしいと一笑に付す程度のものだった。
この世界の
そんな事を考えるくらいならばリーガル達の将来のために何か自分に出来る事がないかと考える方が合理的だとワイリーはさっきまで考えていた絵空事を忘却。
(……将来?)
その考えで何かを閃く。
(そういえば、俺は何故
ワイリーの中に一つの考えが浮かんだ。たしかにロボットと人間が共に生きる社会は彼の夢だ、だがそれは必ずしも彼が生きている間に実現しなければならないものではない。
たしかに今は国が総力を挙げてネットワーク社会を推し進めている。彼が生きている、もしくは現役の間にロボット社会を作り上げる夢は絶たれたと言っていいだろう。
だがそれは
(いや、ロボット社会……ではない)
だがワイリーはそこに新たな
既にこの国はネットワーク社会として発展しようとしている。光の理論ならばそれで世界を発展させることだって可能だろう、厳密には専門外とはいえ共に切磋琢磨していた身としてワイリーは確信している。というより自分のロボット理論よりも優れていると認められたのだからそれぐらいしてもらわないと困るという自負もあるのだが。
それを上回ってロボット社会を作るというのは難しいだろう。ならばネットワーク社会とロボット社会を融合・共存させればいいのだ。
(そうだ。ネットワーク社会とロボット社会が融合した新たな社会……見えたぞ、新たな目標が!)
ワイリーは天啓を得たかのように瞳を輝かせ、突然ガタンッと立ち上がる。
「ぬお、どうしたんだワイリー!」
「光ィ!!!」
「お、おう……」
突然立ち上がったワイリーに驚く光だが、さらに突然大声を向けられてさらに怯む。
「お前のネットワーク理論がこれからこの国を、いやこの世界を引っ張っていく事は認めよう! だが俺は諦めん! お前のネットワーク理論によって作られる社会、それに俺のロボット理論を融合させた新たな社会!! どれほど時間がかかっても、例え俺が道半ばで死んでも俺の志を受け継ぐ後継者を見出し、いずれ必ずそれを実現させてみせる!!! ふ、ははははは! ハーッハッハッハッハッハ!!」
「……なんかよく分からんが。元気になったようで何よりだ」
突然大笑いをし始めたワイリーに光も微笑んで答え、リーガルとその婚約者は自分達の存在がワイリーが新たな目標を見出すきっかけになったとは露も知らずにきょとんとして顔を見合わせる。
「ぐぶっ」
だがそこでワイリーの口から変な声が漏れる。気のせいか顔が青くなっていき、ワイリーは口を片手で押さえるともう片手で光を突き飛ばし、道を作って屋台から離れると道路へと走り出る。
「ぼろろろろろろろ……」
そして道路脇にある排水用の溝へおう吐し始めた。どうやら飲み過ぎたようだったが、道を汚さないように、せめて被害を最小限にするだけの根性はあったようだ。
「と、父さん!?」
「おいアルバート! 大丈夫か!?」
リーガルが叫び、突き飛ばされた光もワイリーが吐き始めたと見て慌てて起き上がると彼に駆け寄って背中をさすり始めた。
「う、うぶ、飲み過ぎたか……」
「父さん、もう若くないんだからあまり無理しないでください……」
「ああ。お前もこれからの社会に、そしてリーガル君達の将来のために必要な人間なんだ、年を弁えろ」
「黙れ同い年……」
青い顔をして
「そういえばリーガル君、君達今日の宿はどうしてるんだい?」
「デンサンシティにホテルを取ってますが、こんな状態の父さんを放っとく訳にも……」
「アルバートは独身寮に入っているからな……よし」
酔っている父親を放っとくにも不安だと語るリーガルに光が一つ頷いた。
「今日はアルバートは俺の家に泊めよう。君達も泊まっていくといい」
「なに!? ぐぶ……」
光の言葉にワイリーが声を上げるも吐き気がして即刻沈黙。
「なぁに心配はいらん。妻と祐一朗にも君達を紹介したいしな、ついでに祐一朗にもそろそろ良い人見つけろと発破もかけられる」
祐一朗の困り顔といういい酒の肴が見つかりそうだと笑う光に「まだ飲む気か」とツッコみたいが気分の悪さによってツッコめずにワイリーは吐き気と戦いながら肩を借りてよろよろと光家へと運ばれるように歩いていく。
ある平行世界では悪の科学者Dr.ワイリーと呼ばれるようになる彼。
だがこの世界では彼──アルバート・W・ワイリーがそう呼ばれる運命は今ここに閉ざされたのだった。
初めましての方は初めまして、こんにちはの方はこんにちは。カイナと申します。
本作はタイトル通り「もしもワイリーが原作前に改心したら」というIFをテーマに書かせていただきました。ちなみにワイリー自身は主人公ではありません。(断言)
真の主人公は次回登場の予定です。あ、でも先に言っておきます。自分、ロックマンシリーズはロックマンエグゼ2以降のエグゼ本編シリーズ&トランスミッションしか知りません。(つまりエグゼ以外&エグゼについても無印については知識ゼロ)
あとはまあアニメをどうにかこうにかくらいで……。(それに関しても昔過ぎて記憶曖昧)
あ、鷹岬諒先生のロックマンエグゼ漫画は名作だと思います。フォルテサイトスタイルとかブルースムラマサスタイルとか今思い出しても超刺さる。
さて話を元に戻しまして、今話のイメージは「ワイリーがネット社会への復讐を目論みそうになるも、幸せな家族の姿を見て思いとどまる」です。光博士こと熱斗の祖父光正さんは賑やかしとして登場してもらいました……なお性格はめっちゃテキトーです。ワイリーが途中まで闇堕ち直前だったせいか、完全にお茶目でひょうきんなノリになりました。
なんかもう時系列めっちゃくちゃな気もしますが気にしないでください。そもそもエグゼ作中における大人メンバーの年齢すら知らないもの俺……。(全力で目逸らし)
まだ思いついているネタはあるので多分あと一、二話くらいは書けると思いますので、短いとは思いますがお付き合いいただければ幸いです。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。