ロックマンエグゼ~もしもワイリーが原作前に改心したら~(お試し版) 作:カイナ
才葉シティからスカイバスに乗ってメトロラインの駅に行きメトロラインに乗り換える、数時間ほどの移動を経てシエルはニホンのネットワーク社会における最重要施設と言っても過言ではない施設──科学省へとやってきていた。
先に秋原町で今日泊めてくれるという光家に行って荷物を置いてくるという手もあったが、それはそれで二度手間になりそうだしと科学省に直行したため荷物をそのままに、シエルは科学省の受付へと向かう。と、受付の女性がニコリとシエルに向けて微笑みかけた。
「こんにちは。今日はなんのご用でしょうか?」
「シエル・
「シエル様……少々お待ちください」
受付の女性に用件を伝えると、女性は少々お待ちくださいと答えて脇にあった電話を取り、恐らく祐一朗に確認を取るつもりなのか声を潜めて通話。「はい、はい」と電話相手──恐らく祐一朗──から指示を受けたのか何度か頷いて「失礼します」の一声かけて電話を切り、シエルに向き直した。
「お待たせいたしました。光博士が直接お届け物を受け取るという事ですので、こちらの入省許可証を持ってお進みください。通路は──」
「あ、何度か来てるので大丈夫です。ありがとうございます」
受付の女性から入省許可証を貰い、祐一朗のいる研究室への順路を教えようとするが何度か来ているから知っているとシエルはお礼を言って断り、後ろで荷物を手に待っているゼロに「行こう」と促して出発する。
とはいえ子供がいるのは目立つのか通路を歩いていると白衣姿の人達──科学省の職員からの視線がシエルに向いた。
「ん? 子供がいるなんて珍しいな」
「光博士の息子さんくらいだよな」
科学省に新しく入ったのだろうか、まだ白衣に着られている様子の若い職員が自販機でコーヒーや紅茶を買って飲みながら、シエルを見てぼそぼそと話す。と、彼らより少し年を取った様子の中年職員がそこに割り込んだ。
「お前達知らないのか? 彼女はDr.シエル。かつては光博士の父光正博士に匹敵すると謳われた天才Dr.ワイリーの孫娘で、若干12歳にしてアメロッパの有名大学を卒業した才女だ。既に科学省からも何度かスカウトがいっているという噂だぞ」
その割り込んでの話はシエルへの賞賛。祖父ワイリーの話も混ざってはいるが、どうにも大仰な話し方にエレベーターを待つシエルはうつむいており、その顔は若干赤面していた。
「言われているな。Dr.シエル」
「言わないでよ。私なんてまだまだ、パパの仕事やお爺ちゃんの研究の手伝いくらいでDr.なんて呼ばれるような人間じゃないのに……」
そもそも14歳でロボット工学については文字通り年季が違う天才と言われるワイリーの研究の手伝いが出来たり、研究所でもプロの中に戦力として混じって仕事をこなしてるだけでも大したものなのだが、シエルは未だに話している職員達から逃げるように、やっと来たエレベーターに飛び込んだ。
そして別の階に移動してエレベーターを降りると慣れた足取りで目的地に向かい、入り口横に設置されている呼び出しボタンを押す。
[はい?]
「光博士、シエルです」
[ああ、お疲れ様。今開けるよ]
カチャリと鍵の開いた音が聞こえたのでドアを開け、入室。その部屋の中にいた優しそうな雰囲気を漂わせる男性──光祐一朗にぺこりと一礼した。
「お久しぶりです、光博士」
「久しぶりだね。シエル君。ワイリー博士から届け物があると聞いているよ」
「はい、これです」
祐一朗の促しにシエルはそう言ってUSBを取り出して祐一朗に手渡す。
「確認するからちょっと待っててね」
そう言って祐一朗は部屋の奥にあるパソコンに移動、シエルがいつものように部屋の入り口近くの来客用の椅子に座って待っていると、少し間を置いて祐一朗が戻ってくる。
「たしかに確認したよ」
「よかった。アイリス、バックアップデータの消去をお願いね」
[う、うん……ふふ……]
PET内のアイリスに万一のために残しておいたバックアップの消去をお願いすると、アイリスは肩を震わせて微笑。それにシエルはきょとんとした様子で首を傾げた。
「ああ、そうそう。シエル君、君に見てほしいデータがあるんだ」
「あ、はい……?」
そこに祐一朗がそう言い、シエルは首を傾げながら祐一朗についていって彼のパソコンの前に移動。席に座った祐一朗が一件の動画ファイルを再生した。
[あー、あー……もう録画は開始しているかな?]
「お爺ちゃん!?」
その動画ファイルにはシエルの祖父──ワイリーが映っていた。
[祐一朗、シエルは連れてきておるな? それ前提で話し始めるぞ?]
「え? え?」
困惑するシエルをよそにワイリーは話し始める。
[シエルよ、お前は少々無茶をしすぎるきらいがある。いくらお前が大学を卒業して既に社会人に等しい立場だとしても、お前はまだ14歳だ。だというのに毎日毎日暇があれば仕事はないかと研究所を歩き回ったり儂の研究を手伝うと申し出たり……まあ、それ自体は儂らも助かっておるんだがな……ともかく──]
ワイリーはそう言って画面からこちらに向けるように指を差した。
[──このファイルを祐一朗君に持って行く時には一泊と説明しているはずだが、一週間お前を預かってもらえるように祐一朗君とはる香さんには話を通している。長期休暇だと思って、仕事を忘れて羽を伸ばしなさい。追加の着替えや他に必要なものは家から送るように手配している。以上。あとは頼んだぞ、祐一朗]
その言葉を最後にぶつんと映像が切れ、動画が終了。シエルは状況についていけずにフリーズしている。
[ふ、うふふ……あはははは!]
[あ、あは、あはは、あっはははははは!]
直後彼女の持つ二つのPETから大爆笑が聞こえ始め、シエルはまさかと二つのPETを取り出すと中のネットナビを睨んだ。
「あ、アイリス! 知ってたの!?」
[ご、ごめんなさいシエル……ワイリーさんに口止めされてて……うふふ……]
[私も知ってたわよ。重要なデータだって騙されてた貴女を見てると笑いを堪えるのが大変だった……あっははははは!!]
「ゼロ! まさか!?」
「……すまん」
シエルに睨まれて控えめに笑うアイリスと一緒にペンギンパーカーの少女ネットナビも爆笑。シエルが今度はゼロを睨むと、ゼロは彼女から顔を逸らして一言謝る。しかしよく見ると肩が震えており、人間のように噴き出す真似こそしないが(そもそもレプリロイドに呼吸の必要がないから噴き出すという行動自体しない)笑いを堪えている様子なのは明らか。
さらに言うとシエルは気づいていないものの、祐一朗も肩を震わせて口に手を当てて笑いを堪えるのに必死になっている。
「お爺ちゃんもー!!!」
そしてシエルの怒号が研究室内に響くのだった。
それから来客用のテーブルに案内されて席についたシエルはぶっすーと言わんばかりに頬を膨らませて唇を尖らせ、分かりやすいくらいに拗ねてますなポーズを見せている。
普段は大人びているのにこういうところは子供らしいなと祐一朗も苦笑しつつ、息子──熱斗がメイル達友人を連れて遊びに来た時用に用意していたジュースを彼女に差し出した。
「まあ、ワイリーさんも君が身体を壊したりしないか心配だったんだよ」
「それならそうと言ってくれれば私だって……」
「聞かないから強硬手段に出たんじゃないかい?」
「うっ……」
祐一朗の諭すような言葉にシエルは居心地悪そうに目を逸らす。たしかに地元の学校──才葉学園の警備ロボットのメンテナンスにシーサイドエリアやスカイエリアの案内ロボットが同時に故障したからそれの修理、グリーンエリアの環境整備ロボットの定期機材点検、他にもロボットだけではやっていきにくいからと始めたネットワーク関係の仕事が重なって、それぞれの納期の問題もあって皆忙しかったから自分もそこに入って二徹して仕事を終わらせたのはつい昨日のことだ。
その時だって研究所の所長であり祖父のワイリー、副所長で父のリーガル、他にもたくさんの作業員に「シエル(お嬢様)はもう帰って休め」と口酸っぱくして言われていたのを「平気だから」と押し通してたのは記憶に新しいし、実はそういうのは割と珍しい事ではない。
「たしかに君は素晴らしい技術者だ。流石はDr.ワイリーの孫娘と言っていいロボット工学に対する知識と技術、ネットワーク工学についても大人と遜色ない知識と技術がある。アイリス君の手助けもあれば充分に仕事は可能だ」
祐一朗がシエルの前の席に座り、静かに話す。
「だが君はまだ14歳、いくら頭脳が優れていても身体はまだ子供なんだ。そんな無理を続けていたら身体を壊してしまう……私としても、熱斗とたった三つくらいしか変わらない君がそんなする必要のない無茶を続けていると聞いたら、同じ親として黙ってはいられない。だから今回、君が少し無理にでも仕事から離れられる環境を作るのに協力させてもらったよ」
「う……」
心のどこかに無茶してるという自覚はあったのか、シエルは祐一朗の注意に言い返せずに目を逸らしてしまう。
「まあ、そういう事だよ。だから今日からしばらくはゆっくり休みなさい。はる香も君が泊まりに来るとワイリーさんから聞いて楽しみにしているんだ」
「……じゃ、じゃあ、しばらくお世話になります」
祐一朗の朗らかに微笑みながらの言葉に、シエルはどこか気恥ずかしそうにぺこりと頭を下げる。
「……というか、じゃあゼロが来たのって護衛とかじゃなくって……」
「事情を知ったシエルが無理にでも帰ろうとしたらとっ捕まえるためだ」
「しないよ流石に……」
つまり護衛の必要なんてない今回の仕事にわざわざゼロがついてきた理由を尋ねると要は見張りだと言われ、シエルは信用ないなぁとがくりと項垂れつつもそこまでされても仕方ないかと反省した。
「それじゃあ、はる香が今日はご馳走を用意すると言っていたからね。私もなるべく早く帰ると伝えておいてくれ」
「はい。失礼します」
まさかのドッキリも終了し、秋原町に向かうために研究室を出るシエルを見送る祐一朗が伝言を頼むと、シエルもこくりと頷いた後ぺこりと一礼する。
「さ、行こう。ゼロ」
「ああ」
そしてシエルは研究室を出て行くと入省許可証を受付で返却して科学省を後にする。その近くのメトロラインの駅で秋原町行きの切符を買い、彼女はメトロラインに乗り込んだのだった。
今回はシエルの身の上紹介と前回のUSBのネタバラシやこの後シエルがどうするかを説明して秋原町でまたちょっとどたばた起こして話を締める……予定だったんですが。
説明回だけで予想以上に文字数稼げて、ここから本来の最終話の流れに持っていこうとするとどうにもキリや流れが悪いので、急遽ここで一話使いたいと思います……というか、ギャグ的なネタが思いついたからまたそこで一話使うかもで、下手したら最終話はさらにその次になるかもしれません。無計画で申し訳ありません。
というわけでワイリーの頼んだ用事はフェイク。実は結構無理しちゃう系女子のシエルを心配して「こいつ家で休ませてても目を離せば無理するし、ちょっとお前んとこで休ませてやってくれ」と友人の息子である祐一朗にしばし押し付けた感じです。
なおワイリーやリーガル達家族は当然、ゼロやアイリス達も知ってて知らなかったのはシエルのみです。(笑)
さて次回は秋原町。原作主人公の彼らも勿論登場を予定しております。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。