疑心暗鬼な親友と、たぶん呉牛喘月な私 作:美羽様可愛いヤッター!
「遅い」
「はい、スイマセン」
「弱っ!?」
七乃の愚痴とか駄弁りながら歩いていたら熱が入りすぎてしまい、冷ますのに余計な時間を食ってしまった。
なんか私が七乃を打ち倒す!とか、かの邪知謀逆の軍師を討たねばならぬとか色々口が滑って言ってた気もしますが、あれは若気の至りってヤツだ。
実際問題、立場的にも軍内部の権力とかでも七乃が上で私が下ですし、謀反なんざしようものなら間違いなく紀霊も七乃側に着く所までは予想できている。そもそも謀反に賛同して着いてくるヤツは大体、反袁術派の連中だけであって、嬉々として七乃が滅ぼしに来るのが見える見える…。
「で、そちらの2人が」
「ウチが李典で」
「沙和が于禁なの~」
今更ですけど、沙和ちゃん自分のことを真名で呼ぶのってどうなんですかね?親しくない人が真名で呼んだら殺されても文句は言えないってのが常識ですけど、初対面の相手は沙和なのか于禁なのか分からないですから半分の確率で殺されるのでは?
「そこの陳紀さん、アホな顔してないで現実に戻ってきてください。今から布陣について話すのでちゃんとしてもらわないと困ります」
「…アホな顔ってヒデェや。でも、やることって門破って中を制圧するって感じでしょ?布陣とか必要ある?」
「弓兵の配置は必要ですよ?衝車にしろ丸太にしろ城壁にいる弓兵が射ってきますから彼らを守らないといけません」
あー、確かに。
「なら提案あるんやけど」
スッと手を上げる真桜。若干不安そうな顔は私を言葉でボコボコにしている七乃に対する恐怖と見た。私の目は誤魔化せんぞ。
「投石車を改良して低めの弾道で飛ぶ様にしたらどうやろうか?それか衝車の走行速度上げるとか」
「言うは易し行うは難しって知ってますか?改良するのにどのくらいの時間を見積もってます?」
おぉ、今日の七乃は怖い。他所の軍とか関係無くバシバシいくねぇ。
「…2日やな。ザックリとしか計算しとらんけど」
「2日ですか…。城へ仕掛けるのは2日後なんですけどそれならやらない方が良いんじゃないですか?」
「仕方無いやろ。投石車は3台くらい衝車も2台予備も考えて3台は必要やろ?それを組んで改良してたらそんだけ掛けるわ」
「…それ本気で言ってます?作業工数と日数の計算おかしいですよね?盛られても困るんですけど?」
その一言に和気藹々としていた空気は重くなる。手を挙げたままの真桜はユックリと手を降ろし、ダァン!と机を思いっきり叩いた。背後に阿修羅が見えてきそうな程、怒り狂っているのが分かってしまった。
「あんな?ウチは確かに不真面目に見えるかもしれへん。せやけど、ウチにも職人として工兵としての矜持ってモンがあんねん。ソイツを張勲さんは盛るだの言いおったな?…エエで、信じられん言うなら2日で終わらせたるわ」
「あ、ちょっと!」
それだけ言って真桜は陣幕を出ていった。沙和ちゃんや私の声にも反応しなかったので相当お怒りらしい。もう止めるのも無理だろうし、好きなようにやってもらうのが吉かな?
「あ~あ、ありゃ大分キレてたぞ?」
「私は工数と日数が合わないことを指摘しただけだったんですけどね。…何ですかその目は、私が悪いんですか?」
「いーや、何も言ってないよ軍師殿。ねー、沙和ちゃん。私達も細部詰めるために真桜の所に行こっか」
「りょ、了解なの」
出る時にチラッと見たけど、スゴいムッスゥとした顔の七乃が私を恨みがましそうに見ていた。
───
「何やねん、何やねん、何やねん!やったるわ見ときぃや!」
「…おおう」
鬼気迫る顔した真桜が工兵隊と共に投石車を組み立てている。そんな隊長の気迫に圧されている工兵隊員たちは時折チラチラとトンカチを振り下ろす真桜と作業の見学をする私達を交互に見てきた。
「真桜ちゃん、スゴい気合いなの…」
「七乃の言葉、かなり頭に来たんだね…」
「おらぁ!2番隊早よせぇや!手ぇ止まってんで!」
『は、はいぃ!』
荒々しい怒鳴り声、ガンガンガン!と真桜の怒りを表すようなトンカチの打音が工兵達を急かす。慌てて作業速度を上げるが雑な作業になら無いよう丁寧に素早く組み立てていく。
沙和ちゃん曰く、早さばかりで雑な作業をすると真桜による説教と鉄拳制裁が入るらしい。
「ああやって真桜ちゃんが爆発するのは希によくある事なの」
希なのか、よくあるのか分からないけどチョクチョクああやって爆発しているらしい。特に真桜自身の技術力に関する事が原因なんだとか。…今回は七乃が原因なのでは?
「ソコ!沙和に陳紀さん、見とるだけなら手伝えや!」
こそこそ話をしてたら気に触ったのかビシィ!とトンカチで差されてしまった。
沙和ちゃんもうげぇ…。って顔をしている。
「諦めるしかないの…。目を付けられたら春蘭様や凪ちゃんでも逃げられないの」
全てを諦めたような顔で沙和ちゃんが近くで作業している工兵達に近付いていく。そして妙に手際よくトンカチを振るい始めた。
「陳紀ちゃんも手伝うのー!」
そんな手際の良さを見ていたら、真桜と同じように沙和ちゃんもガンガンとトンカチで叩きながら急かしてくる。
「でも私、やったこと無いから足手まといになると思うよ?」
腕捲りをして置いてあったトンカチを手に沙和ちゃんの隣に立つ。
「あ、トンカチは必要無いと思うの。陳紀ちゃんは凪ちゃんや春蘭様の役目になると思うの。つまり」
「陳紀さん!コッチ来てや!」
「重い物持って支える係なの」
───
「ふんぬー!」
「陳紀さん、も少し上に上げて!…ソコで少し保っといてや!」
ヒュゴー!と真桜の持つ道具から火が噴き出すと、鉄材が熱せられて徐々に赤く発光していき、赤くなった鉄材に真桜の持っている細長い棒と道具を近付けていく。噴き出していた火を止めると私が持っていた鉄材と真桜が押さえていた鉄材がピッタリと固定されていた。白く輝く服を着ている北郷って人が真桜に教えた『溶接』って技術らしい。
「おー、スゴい」
「やろ?隊長から聞いたのをウチが形にしたんよ」
隊長、色々教えてくれるけど仕組みについては何も分からんからなぁ。と呆れる様に言っているけれど、スゴく嬉しそうなのを感じる。これは…その北郷に惚れてるな。惚れてなくても気はあるんだろう。そんな気がする。
「次はコイツやな。薄肉同士は結構難しいんよ。熱し過ぎると簡単に穴開いてまうし、やからって足りないと母材が溶けんくて全然固定出来んし」
「で、真桜は出来るの?」
「ま、見ときや」
真っ黒の眼鏡に皮で出来た厚手の手袋、前掛けを身に付けた真桜が道具と棒を持つと鉄板の溶接を始めた。側で見てる私でも暑く感じてるのに、間近で作業してる真桜はどんだけ暑いんだろうか。
難しいとか言ってたのに余裕でもあるのか鼻歌交じりで作業を進めていく。火を止め、眼鏡を外した真桜が溶接の終わった鉄板を見せてくる。
「どや?ウチにかかればこんなモンやな。溶接はコイツで終わりやから、後は他の隊がやっとるのと組み合わせるで」
前掛けと手袋を外して作業台に置いた真桜はトンカチを持って沙和が作業している隊の元へと向かっていく。
「陳紀さんも早よぅ来てや!今日中に組めるだけ組んでまうで!」
「うぃー、…気合い入れるかぁ」
元気な真桜の背中を眺めつつ、部材を長時間支えてたからかバキバキに凝り固まった肩を解す。父さんとかの肩がよく凝ってたから揉んであげると喜んでたけど、まだ若いうちから肩こりの気持ち良さを体感するとは思わなかった。
「…まだ若いのになぁ」
「…私は、若いんだよ」
───
「完成や!」
「…おお、出来たねぇ」
「…なのー」
組めるだけ組むとか言っていたけれど、夜通しやるなんて聞いてない。途中から意識が飛び始めるし、軽く落ちれば肩叩かれて無理矢理起こされるから疲労がドンドン積み重なっていった。
「ほなら、少し休もか。そっから改良を始めるで」
「おー」
「なのー」
フラフラと休憩用の陣幕へ入り、寝床へ飛び込む。服とかそのままだけど、飛び込んだら疲れが一気にやってきて直ぐに意識が無くなった。
「少しやで?」
意識が戻った。
寝た途端に体揺するの止めろって、ホントにさ…。
「すいません休ませてください、何でもしますから!」
「ん?今、何でもする言うたよね?じゃあ、ウチと一緒に改良作業しよっか?」
「えっ…。それは」
おい、休む話はどこへ行った?ニコニコ笑顔の真桜が私の肩を抱き陣幕の外へと歩き始める。ならばと、一緒に休憩をとっているハズの沙和ちゃんを探すと、彼女は真桜から死角になる位置で息を潜めていた。
「沙和は陳紀ちゃんの味方だゾ!(小声)」
スゴい良い笑顔で親指を立てていた。あの野郎、私を囮にしやがったな?
「すいません、すいません!ちょっと止めてもらって良いですか?」
「ダメやで」
私の主張は聞き入れてもらえなかった。陣幕から外へ出るとき見えたのは、アクビをしながら床へと潜り込み始める沙和の姿だった。
「よっしゃ、昼前には試作機作り終えてまうで!」
「休ませて~」
張り切る真桜に私の嘆きが届くことは無かった。