疑心暗鬼な親友と、たぶん呉牛喘月な私 作:美羽様可愛いヤッター!
「走れ走れ!あと一周!」
『はい!』
練兵場に響く陳紀さんの声。その声に応えるのは陳紀さんと私の兵士達。今日は私が陳紀さんに頼んで訓練内容の勉強をさせて貰っている。
ほんの数日前までは今走っている兵と一緒に走っていた私は、唐突な昇格で走らせる側へと代わってしまった。突然すぎて右も左も分からないから真っ先に陳紀さんに泣きつ…相談したら、場所と武具の使用手続き、訓練日時と内容の通達など事前に行う手続きを手取り足取り教えて貰った。
「いや、将軍って大変すね。副将やってましたけど一般に毛生えた程度だからダラダラ出来てたんですね。これじゃ化粧直す余裕も無いっすわ」
「バカ言ってないで覚えれた?」
覚えたか?と言われるとどうだろう。手順なんかはその都度、携帯してる竹簡に書き込んではいたけれど頭には入りきってない。見ながらなら多分、手続きなんかは出来るハズ…。
「コレ見ながらなら手続きは何とかなるんじゃないかな~って思います。多分ですけど。内容を考えろって言われたら無理ですけど」
「内容ねぇ。私だって内容なんか余り考えてないけど?走り続ける体力と攻めを捌く守りの技術。戦で生き残るのに大切な術を高めさせてるだけだし。…よし!次は盾と木剣持って2人組になれ」
生き残らせる術、か。余り考えたこと無かったな。敵は斬って陳紀さんの指示に通りに動く、ただそれだけだった気がする。
『前々から思ってたんですけど、陳紀さんと紀霊さんってちゃんと考えて発言してます?その首に乗ってる頭は飾りじゃないですよね?』
先日の七乃様が言った言葉を思い出した。言われた時はムカッてしたけどよくよく考えたら言い返せない。だって、私は指示に従っているだけでソコに私自身の考えは無かったから。
「守る側は抜かれないように、攻める側は防がれないように色々考えながら打ち合うように。んじゃ、開始!…ほら紀霊、私らもやるから準備準備」
「…あ、はい!」
気落ちしてないで気持ちを入れ替えよう。気付くことが出来たんだったら今から変えていくことだって出来るハズ。
「うし!行きます!」
「おお?気合い十分じゃん。かかってこいや!」
―――
「…暑苦しいですねぇ」
吹っ切れた紀霊さんと、陳紀さんの打ち合いを見ていましたけど、本当に暑苦しいですねぇ。あれで友情とか絆が深まるってんだから頭の中まで筋肉の人達は楽で良いですよ。
「…小さい頃は私がいたハズだったんですけどね」
私の隣にはいつも彼女がいて、彼女の隣にはいつも私がいて毎日一緒に遊んでいました。ちょうど今の陳紀さんと紀霊さんの様に気兼ね無く…。気が付けば彼女の隣には紀霊さんがいて、私の隣には美羽様がいました。
「あの人が変わらなすぎなのか、私が変わりすぎたのか…。いつも近くにいるハズなのにスゴく遠い所へ行ってしまった気もしますね」
だからと言って今さら昔のように戻りたいとは思いません。戻ってしまったら私がやってきた事、その全てが無駄になってしまう気がします。
「本人に言ったらそんなこと無いって言われそうですけどね」
『一緒に頑張りましょうねぇ陳紀さん』
『もちろん!七乃に負けないように頑張るさ』
「…また一緒に笑いあえたりしたら…。ダメですね、切り替えなきゃ。先ずは美羽様を何とかするのと」
今朝届いた竹簡を懐から取り出して中を見ますが、あの孫堅が言っていた通り治まる気配がしないじゃないですか。それどころか範囲が広がってますし…。
『黄巾征伐に参戦されたし』
お2人が一生懸命訓練してる軍の力試しにちょうど良いと思うんですけど、冀州というのが難点ですね。かなり遠いですし、何と言っても
「美羽様と袁紹さんを会わせたくないんですよねぇ。それに陳紀さん連れてくと、また消さないといけない余計なのが釣れそうですし」
ただ、参戦しないと周りからの心象は間違い無く悪いでしょう。それこそ孫堅が不参戦なのを良いことに『朝廷への反逆』なんて言って攻め込んでくるなんて事もあるかもしれません。
「名代として私が出て、お2人のどっちかを守備に当てれば良いですかね。今の美羽様にはお気持ちの整理をして頂きたいですし、その為にも遠征させる訳にも行きませんからね」