疑心暗鬼な親友と、たぶん呉牛喘月な私 作:美羽様可愛いヤッター!
「漸く半分くらいですかね」
朝廷から正式な黄巾討伐の勅命が出たらしく、袁術軍も参戦することに決まった。とは言えど、前回の一件から袁術様と七乃の間は顔見せはするけど率先して話そうとはしないギクシャクして重苦しい仲のまま。
時間があれば何とかなる。と七乃が言うので特に関わりはしていないものの、ホントかよ?と日々思う。
「急いで飛ばしすぎないようにしてくださいね~」
そんな傷心中の袁術様を連れて行くのも憚れたので、みょーだいって言うので七乃が代わりに行くらしい。みょーだいって何?って聞いた時の七乃の顔は笑顔じゃなくて久しぶりに見る本気の困惑顔だった。
「馬持ってこなくて良かったんですか~?」
「…それさ、足届かないの分かって言ってない?」
テクテクと七乃の乗る馬に負けない速さで隣を歩いていると、珍しくニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた七乃が話し掛けてきた。いつもはよく分からない笑顔を貼り付けていたのに私や紀霊に対しては意外と素を見せ始めている気がする。
「なんか陳紀さんとこうして歩くの久し振りな気がしますね」
「確かに。何だかんだ互いに忙しいわ、袁術様と仲違いするわで機会が無かったっけ」
「…それ持ち出すのはズルくないですか?」
「なら早く仲直りして」
人の気にしてることをネタにするならコッチだってお返しするのが私流。そんなジト目で見てきても振って来た七乃が悪いのであって、私は絶対悪くない。
「…守備隊のついでに美羽様の話し相手も頼んじゃいましたけど紀霊さん大丈夫ですかねぇ。性格とか考えると前に出て戦うのが得意そうでしたし籠城戦出来ますかね?」
「攻めてきたら籠城しろって伝えてあるんでしょ?事前に言われてるならアイツは出来ると思うけどねぇ」
露骨な会話変更だったけど、気にせずそのまま会話を続ける。何だかんだ突撃思考の私と紀霊だけど、突撃が得意なだけであって籠城しろと言われれば人並みかそのくらいには出来ると思っている。実際は経験無いから想像でしかないけど。
「伝令!前方から黄色い布を巻いた1団が接近中!黄色い旗に程と鄧の文字!」
「…誰?」
「知りませんよ。聞いたこと無いですし黄巾賊じゃないですか?」
「なーるほど。数は?コッチより多そう?」
「…私が見た限りでは倍近くかと思います」
コッチが3000でそれより倍くらいで6000。最悪を考えて8000って可能性もある。森とかなら兎も角、平原で会いたくはなかったなぁ。
「出来るだけ被害が出ないように避けるか」
「陳紀さんと紀霊さんの成果を確認するのにちょうど良さそうですね。手始めにその分からない1団を潰しちゃいましょう」
「…それ本気?倍だよ?」
「今から行くのは敵の本隊ですよ?倍程度で怯んでたらダメじゃないですか」
「……そりゃそうかもしれないけどさ。分かったよ、前哨戦と行くか。お前ら!戦闘準備だ!訓練の成果を見せてやろうぜ!覚悟決めろ!」
さて、気合い入れたし私も弓の用意をしよう。本当は専用の道具があれば良いんだけど生憎、弦を張るので苦労するのは私の弓くらいだからか、使い途が無いって事で提案は却下された。
だから弦を張るのは手と足でやらなきゃ*1だけど、如何せん背が低いからかメチャクチャ苦労する。馴れるまでは弦が外れて跳ね返ったり、跳ね返ったのが顔にベチンと当たったりと痛い想いを良くしたものだ。
「準備完了!軍師七乃、どうすれば良い?指示をください!」
「あの立派な鎧着て馬に乗ってる人を射抜いてください。あとは適当にやっちゃいましょう」
「…え、それだけ?兵法書にあった鶴翼とか鏑矢とかの陣形は?」
「…その訓練ってしたことあります?私見た覚え無いんですけど。そもそも地形に適した陣形とか理解してます?」
「…了解しました、軍師殿。そんじゃ、いっくぞー!」
―――
それは突然だった。官軍に連戦連勝を重ね、意気揚々と進軍していると前方から『袁』と書かれた大きな旗と張と陳の旗を掲げた軍がやってきた。
この辺りの軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ、1合も打ち合うことがなかった。だが前から来る軍は自分達を見ても逃げる素振りを見せない。
「ちょうど良い。久し振りに暴れるとしよう!身の程を分からせてやれ!」
馬の腹を蹴り、副将である鄧茂が真っ先に飛び出していく。腕が立つヤツが兵よりも早く敵陣へと切り込み撹乱させる。ソコへ兵が雪崩れ込み敵を蹂躙する。
このやり方で幾度も官軍を打ち破ってきた。だからこそ、ヤツが飛び出した時点で価値を確信していた。
「そんじゃ、いっくぞー!」
そんな声が微かに聞こえたような気がした時には鄧茂の頭を細い物が貫いていた。続けて腹に激痛が走ると馬がグラリと揺れ、地面へと投げ出された。
「いてぇぇぇぇ!?」
腹を見ると見たことの無い捻れた羽根の付いた鉄製の矢が俺を貫いていた。
―――
「あ、外した」
「…何してるんですか、当ててくださいよ」
「60間くらいあるし許して」
先頭に出てきたヤツとその脇にいたのを狙ったら片方は頭を射抜けたけど、もう片方が少し遠かったっぽいようで、乗ってた馬の頭を撃ち抜いたようだ。ただ、悶えてるようだから腹かどこかに当たったんだと思う。
「さて、向こうが慌てふためいているうちに私達も迎え撃つ準備をしましょうか。先頭には何を持たせますか?」
唐突な質問に少し悩んだけど、私や紀霊目線で考えたらアレしかない。
「…剣とか?」
「盾です」
違いました。
「盾兵前へ!おら、早く早く!…次は?」
「槍ですかねぇ」
「槍持ってるの盾持ちの後ろに付け!長いのでも短いのでも良いから槍持ってるのは早く!…で?」
「最後は弓兵ですかねぇ」
「弓兵はその後ろ!…あれ?弓より弩兵のが多い?…七乃、弩兵でも良いの?」
「どっちも変わらないですよね?2段くらいに構えて間断無く撃てるようにしてください。で、最後尾に剣兵を配置してください」
弩と弓って結構違うと思うんだけど…。いや、矢を飛ばして敵に当てるって点では一緒かな?
「弓と弩持ってるのは2列に並べ!えっと、弩兵は前で弓持ちはその後ろ!弩兵は撃ったら弓兵と交代!次の矢つがえて待機しておけ!その後ろに剣兵待機!…で良い?」
「それで良いですよ~。陳紀さんも弓兵のところに入ってください。合図出したら撃ってくださいね~。ある程度近付かれたら剣兵の人達と打って出て貰って構いませんので」
「りょーかい!」
七乃の指示通りに弓を持って隊列に並ぶ。だいぶ適当に並ばせたからかソワソワしてる連中も垣間見られる。
「それじゃ弩兵の皆さん構えてくださーい。合図するまでは撃っちゃダメですよ~?」
正面の奥からは大将を射抜かれた弔合戦のつもりなのか、撤退どころか砂埃を立てながら(恐らく)黄巾賊が突撃してくる。
「まだですよ、まだ。…今でーす!撃っちゃってくださーい!」
合図と共に振り下ろされた剣にあわせて弩兵が一斉に矢を放つ。撃って下がってくるのと交代し前に出て戦場を見るとバタバタと敵兵が倒れているのが見える。
「次、構え~。…撃て~!次の矢が撃ち終わったら剣兵さんと陳紀さん先頭に切り込みますよー!」
構えられていた盾が避けられ、私や剣兵の道が作られた。それぞれ緊張した面持ちだけど覚悟を決めた良い顔をしている。
「よーし!切り込むぞ!大丈夫、訓練を思い出せ!私や紀霊が仕込んだんだから賊なんかには負けやしないよ!」
檄(のつもり)を飛ばし、弦を外した弓を半分から分割させる。久し振りだけど陰ながら特訓はしてたし問題なく扱えるハズだ。
「いくぞー!私に続けー!」
イメージはHOYTのGMXのレッドフュージョン、リムはWINEXですね(作者の手持ち)