疑心暗鬼な親友と、たぶん呉牛喘月な私 作:美羽様可愛いヤッター!
「ふん、ふんぬ!」
間合いとか甘いけれど、そんなのは剣が何とかしてくれる。腕は二流、三流でも得物は名も無き超一流の名剣だ。
「そりゃそりゃそりゃ!」
相手に当たるギリギリを剣が通れば剣圧みたいなので鎧や武器ごと人体を両断していく。過去にふざけて墓石を両断したり、城の柱を斬った斬れ味は伊達じゃない。
我流剣術は隙が大きいから熟練の将には次の動きが分かるらしい。実際、紀霊にも訓練で何度も木剣を叩き落とされたりしている。しかし、それが木剣ではなく少し離れたところの物を簡単に両断する剣だったら?しかもそれが初見だったらどうだろう?
答えは今目の前で起きている。完全な初見殺しだ。
「良いですねぇ。敵は総崩れって感じですか?」
「どうも大将が逝ったみたいだしね。…追い討ちかける?」
「無しです。少し休憩したら冀州へ向けて再出発しますよ」
「あーい。負傷者の手当てと小休止が済んだら再出発するぞ!」
負傷者は出たものの死者は出なかったようだ。少し前までは腑抜けだった連中がここまで成長したと思うと涙腺が熱くなってくる。
「久し振りの戦はどうでした?」
「…今になって震えが来てるよ。終わったから良いけど脚ガックガクだわ」
ふぃー、と息を吐きながらへたり込むように座る。これが訓練ばっかりで実戦の機会が少なかった弊害か。剣を振ってる間は必死だったからそんなに意識してなかったけど、人を斬った感触だったり鉄臭い血の匂いだったりを今になって鮮明に思い出し、軽い吐き気を催していた。
「参ったね。これから冀州行ったらこんなのが何日も続くのか…」
「…そうですねぇ。ですから馴れて貰うしかないです。だから前哨戦を行えたのが非常に良かったと思ってますよ。向こうに着いたらこんなことしてる余裕はありませんからね」
少し落ち着いたからグルッと見回すと、私のようにへたり込んでいる兵が多く見られる。顔を真っ青にしてるのもいれば、訓練しか行っていない若い連中は木陰で吐いているのも見受けられた。
「…これで少しは楽になると良いけどね」
「終わって帰ったら退役届け出されるかもしれませんけどね…」
初めて人を斬ったのもいるから、その感触と血の匂いはかなりキツイものがあるだろう。弓なんかとは違って直接『自分が』剣で斬るのだから。
「ソコは仕方無いね。これが兵士って仕事なんだから乗り越えられるかはソイツ次第だ。まぁ、願うならソイツが堕ちて人斬りにならないことくらいだな」
兵士は上からの命令で人を殺す。そこに個人の私情は挟まれないし、兵士は人形のように無感情のまま命令を果たせば良い。理想を言えばだけど。
だけど人斬りはダメだ。連中は人を斬ることに取り憑かれている。女子供、親、親友そんなの関係無く、己の斬りたいと言う欲を満たすためだけに剣を振るう。それじゃ、人間じゃなくただの獣でしかない。
「七乃も気張ってないで休みな。顔真っ青だよ?」
「そう、ですねぇ。…不安でした。私の指揮が正しいのかどうか。陳紀さんも兵達も指示に従って動いてくれるのを見ていて、指示を間違えたら全滅してしまうんじゃないかって。いくら書を読んでても机上と実戦は別物ですねぇ」
馬から降りて私の横に座った七乃はポツリポツリと語った。…その不安を感じた責任は私にもあるか。私は頭良くないから陣形なんかは七乃に頼るしかない。そんで私の下にいる兵士は私の命令に従って動く。七乃の考えは軍全体の動きになって、勝つも負けるも七乃の采配次第になる訳だ。
…帰ったら私も最低限、指示をできるくらいには勉強しよう。
「だねぇ。私達の最大の失敗は経験が少なすぎた事か」
「この経験不足は冀州で取り返します。それに陳紀さんと紀霊さんには帰ったら用兵を学んで貰いますから。…よし、休憩終わり!弱音も終わりです」
そう言って立ち上がった七乃は、不安を溢していたさっきまでの表情とは違い、いつもの笑顔の仮面を被っていた。
「さぁ、冀州までもう一走り頑張りますよ~」
「あいあい軍師殿。んじゃ、出発だー!」
―――
討伐軍の天幕では軍議が難航していた。
敵の総数、本陣、地形と攻めるのに必要な情報は全て出揃っていたが、敵の本隊の練度は未だ不明のままであり、その為か先鋒を引き受ける軍が決まっていなかった。
自軍の消耗を恐れてか、援護や後詰めに立候補する者が多く、それは討伐軍で最大兵力でもある朱儁の軍も例外ではなかった。
未だ小勢力であり発言権の小さい曹操は全く進展の無い軍議に呆れ果て、袁術と同じ袁家である袁紹は自身の考えである『華麗に大胆に前進』を否定され怒りを露にし、朱儁に召集された孫堅は退屈な軍議に飽きてアクビをしていた。
「報告!袁術殿が到着されました!」
「正しくは名代ですけどね~」
袁術の名代を名乗る女性は背の低い将を側使えにして案内された席へと座った。
「主君である袁術の名代として参りました、張勲と申します。こちらは護衛の陳紀。これより参加させていただきますが、残る議題は何でしょうか?」
「私が教えるわ。そうね、あとは戦の先鋒を決めれば終わりよ」
飽きてきたのもあって隣に座る曹操がウンザリとした顔で残りの議題を伝えると、張勲も察したのか面倒臭そうな顔をした。そのまま側使えの将に2言3言話すと
「先鋒は私達がしますね~」
そう宣言した。
―――
「孫堅さんを借りますから先鋒で良いですか?」
小声でそう七乃に聞かれて、無い頭で考えていたら既に宣言をしていた件について。そんな猫じゃあるまいし借りるとか無理でしょ。一応、あの人の所属は朱儁のところなんだし。
「その代わりですけど、そこの赤い服の人をお借りしたいんですが朱儁殿良いですよね~?」
孫堅を指差しながら七乃は朱儁へと笑顔を向ける。でもその笑顔はアレだ。罪状告げて絞首刑を伝える時の酷く冷たい笑顔だ。
貸さなくても良いけど、後で覚えてろよ?言外にそう朱儁に伝えている。
「う、うむ。孫堅は張勲殿の軍に合流し先鋒を勤めよ…」
「承知いたしました」
借りる宣言をした途端から欠伸をしていた孫堅の眼は、私達と初めてあったあの日と同じように爛々と輝き、朱儁をジッと見つめている。肯定しか受け付けないと言わんばかりに。…板挟みとか可哀想。
「へぇ、なら後詰めは私と麗羽がしようかしら。良いわよね、麗羽?」
「も、勿論ですわ!この袁本初にお任せなさい!」
七乃の一声で止まっていた軍議が進みだし、呆れていた曹操が面白そうだと笑みを浮かべてそこに追従してきたことで誰の横槍も入れさせること無く軍議は解散になった。
「で、オレを借りるってのはどういう魂胆だ?」
天幕を出たところでニヤリと猛獣のような笑みを浮かべた孫堅に声を掛けられた。
「前に言ってたじゃないですか。受け入れてほしいって。なのでその前にどのくらい強いのか試験ですね~。弱い人を受け入れるほど私達も余裕ある訳じゃありませんから」
七乃が敢えて挑発するような言葉を孫堅へ投げ掛けると、その笑みがより凶暴なものへと変化した。
「おもしれぇ、どんだけ強いかだと?良いぜ、オレの力を見せてやるよ。ついでだ一緒に来てる祭も参加させるか」
「楽しみにしてますよ~。あ、先陣切るのと後陣のどっちが良いですか?可能なら先陣を任せたいんですけど」
「あぁ、それで良いぜ。そっちの陳紀は見たところ弓なんだろ?なら後ろから援護してる方が馴れてるハズだ。それに後ろならオレ達の力もちゃんと見れるだろ?」
「なら決定ですねぇ~。改めてお知らせしますのでそれまでは休んでてくださーい。陳紀さん、私達は曹操さんの所へ行きますよ~」
―――
曹操殿の陣営に来たけれど、私達と違って将が多い気がする。いや、私達が少なすぎるのか?猛将って訳じゃないけど普通に強い部類のがアチコチでチラホラ見受けられる。そこで料理してる小さい子も半端無く大きい鍋振ってるし、なんかキラキラした見たこと無い服着てる人もいるし、個性豊かな軍だな。
「来たわね」
「お邪魔しますね~」
一際大きい天幕へ入ると頬杖を付いて脚を組み、楽しそうな顔をした曹操殿が迎えてくれた。その両脇にはデコの広い人と片眼を隠している人がキッチリと警護していた。
「改めまして主君、袁術の名代として来た張勲です」
「その護衛の陳紀です」
「さっきも話したけど私が曹操よ」
「私は華琳様の剣である夏候惇だ!」
「姉者、もう少し静かにだな…。その妹の夏候淵だ」
何やら夏候惇さんの自己紹介の時に天幕が震えたような…。あんな声量を毎回近距離で聞いている曹操殿って見た目によらず丈夫なんだな。
「さっきは助かったわ。あの場でも言ったけれど後詰めはしっかりと務めるから安心して前に出て貰って構わないわ。人手が足りないようなら1部隊くらいなら貸すわよ?」
「いえいえ~、そこまでは不要ですよ。後詰めと袁紹さんの手綱を握ってさえ貰えればコチラとしては充分ですから」
やけに機嫌の良い曹操殿は将兵の貸し出しを申し出てきたけれど、七乃は恩を作りたくないのかそれを断った。
「あらそう?で、いつ頃仕掛けるのかしら?」
「そうですねぇ。明日中には仕掛けるとしか言えませんね。準備できたらコチラからお知らせしますよ~。さ、陳紀さん帰りますよ~。今日は挨拶に来ただけですから目的達成です」
「あ、そうなの?そんじゃ帰ろっか」
ボケーと成り行きを見ていたけれど、目的は達成したようだ。よく見れば夏候惇さんもボケーとしてる…。なんか同族の匂いがするし、あの人ももしかして頭弱い人なんじゃ…。
「それでは明日からよろしくお願いしますね~」
「失礼しました!」
でも書きたいと思っている間に書いていかないとモチベ落ちるかもしれないからね。