〜スレイン法国への侵攻前夜〜
「や」
『……何の用だ』
「そう冷たい事言うなよ。私と君の仲じゃないか」
『ならさっさと死んでくれないか。それかボクを殺してくれないか。何でまだボクを生かす』
「自殺なんてまっぴらゴメンだし、君みたいな面白い存在、そう簡単に殺すわけないだろ。なぁ、紀野感無。それにだ、君にはもっと他の役割を押し付けにきた。いつまでも精神世界に閉じこもらせるのはいささか勿体無い」
『役割?』
「ああ、主にアインズと話をする時は君にお願いするつもりだ」
『断る。何でそんなことを』
「君は断れない。なぜなら、アインズと話すときは私が強引にお前の意識を引っ張り出すからだ」
『ならその時にお前の体を乗っ取って自殺してやるよ』
「もちろんさせないつもりだけど、出来るもんならやってみなよ。ああでも一度死んでみるのも悪くないかもね。死ぬ感覚を私は知らないから。一度味わってみたいな」
『……イカれてんな』
「今更何を。私は生まれてこの方、自分が狂っていないと思ったことは一度たりともないよ。じゃ、多分明日いきなりアインズと話す機会あるだろうから、頑張ってくれ。どうせならスレインを攻める時もやるかい?」
『それこそ願い下げだ。死んでも断る』
「だろうね。じゃあ安全圏からずっと憎い憎い仇の子孫達が鏖殺されていくのを眺めてることだ」
〜アテナがスレインを攻めてから一週間後〜
「準備できたわよアテナ」
「んー?なんか頼んでたっけ?」
「冒険者してみたいって言ってたでしょう」
「あーそういえば」
スレインの一件以来、グータラしすぎて忘れてた。
「はい、これつけて。中に一通りセットしてあるから」
「あい」
パチェから渡された指輪を右手人差し指につけ、中にあるセットに着替える。
金髪はエメラルドグリーンになり、紅い瞳は変わらず。服装はプリーストだかなんだかの、それっぽい鮮やかな赤い着物に。申し訳程度に固定するために腰に飾りがついてたり、手に白い甲冑がついてる、くらいか。
「…‥なんだっけ、これ。どっかで見た事ある気がする」
「私も本で見た程度だから詳しくはないわ。ステータス偽造効果もあるから、その姿ならプレイヤーに一発で貴女と見破られることは滅多にないと思う。アインズとかだと話は別だと思うけれどね」
「バレにくいだけでも助かる」
「で、これか貴女の偽造プロフィール」
「名前がミネルヴァ……世間知らずのお嬢様……
「何よ」
「二つ目、いや三つ目までは許す。四つ目は何」
「ノリよ。それに半分事実でしょうが」
「それで片付けられるとでも?」
「私に丸投げした挙句に、これでいいかって聞いた時に貴女、いいって返事したじゃないの」
「そんな……こ……と」
いや待て確かにした記憶がある。寝ぼけてたような気がするけど、確かにパチェから何か言われて適当にオッケーって言った気がする。
「はぁ…まあいいや。んで、クラスが聖騎士。アンデットに強く、槍捌きも一流……。魔法は第四位階まで使用できる。これなんで第四位階?」
「貴女が寝てる間コツコツと情報は集めてたのよ。第三位階が使えたら天才、第四位階が使えたら選ばれし者、第五位階が使えたら人智を超えた者、みたいな認識らしいわ。あまり過度に目立ちたくないのなら第四位階が無難でしょう?」
「確かに……」
「第四位階でも十分目立つ可能性は高いけどね。それとお供も勝手だけど決めたわ」
「パチェが来るんじゃなくて?」
「貴女が抜けたら誰がこの森の管理をするのよ。ただでさえ貴女の無茶振りをどうしようか考えてるのに」
「その節は誠に申し訳ございません」
「分かればよろしい」
とりあえずパチェには後で高級食材ありったけ使ったスイーツでも作るとしよう。
「それでそのお供は?」
「この子よ」
パチェが読んできたのは、見た目は人間。けれど中位精霊の……炎精霊かな。それに人化の指輪か何かを装備させていた。
私の眼よりも少し鮮やかな紅い目と紅いショートカット、白シャツと黒いズボンの上から紅いローブを着ている。ぱっと見は、魔導士のそれ。
「パチュリー様からアテナ様の警護を任されました、中位炎精霊のイフリートです。パチュリー様にはイフという名前を授かりました」
「そう。よろしくイフ」
「その子の設定は貴女のお目付役。警護兼ストッパー。イフ、その人が私の母親だから、言うことをちゃんと聞くこと。なんかトラブりそうだったらアテナじゃなくて私に連絡すること。いいわね?」
「失敬な。至極普通に過ごすよ。人間関係のトラブルは基本起こさないよ。多分」
「ふーん?イフ、万が一アテナが人を殺そうとしたらこう言いなさい。『---------』って」
「了解です」
「待って何を吹き込まれたの」
「ちなみにイフは魔法詠唱者っていう設定ね。けど本当は肉弾戦の方が得意、らしいわ。本人曰く」
「そうですね。魔法より殴ったり蹴ったりのほうが性に合ってます」
「ならイフが前衛でいいじゃん私やだよ槍とかあんまりやらないし」
「設定変えるのめんどくさいんだから諦めなさい」
まあいいか。適当に冒険者というか人間の世界でのんびりできたらそれでいいし。めんどくさくなったら森に篭ればいいし。
「で、いつから行く?」
「そうだね。ちょっと準備兼ねて二日後かな」
「どこの冒険者協会に?」
「一番近場でいいよ。エリンテルだっけ」
「エ・ランテルね」
「そうそれだ。他王国とか帝国とやらに行って国に目をつけられるのはごめんだからね。エ・ランテルでも同じだよ。変に目をつけれれそうなら直ぐやめる」
「その辺は好きになさいな」
それじゃゆっくり準備しますか。
その実は、ただぐーたらしながら森の賢王をモフッたりスイーツ作りしてたりしただけである。
〜三日後〜
「それじゃ、行ってくるよ」
「せめて厄介ごとは持ち込まないでよ」
「わかってるって」
パチェのくれた指輪で見た目一式を変え、イフを連れて森の外に向かう。
森の賢王もついてきたがっていたが、目立ちたくないから丁重にお断りした。
「アテナ様、冒険者とは一体何をするんですか?」
「イフ、外では私はミネルヴァ。ネルって呼んでくれたらいいから。あと様もいらない。硬っ苦しいのは苦手だからほんっとうにやめて」
「わかりました。でも、様がだめならなんて呼べば……」
「ネルさんとかネルでいいよ」
「ではネルさんで。それでネルさん。この後はどうするので?」
「普通に街に行って冒険者組合とやらに登録して適当に冒険者やっていくよ。読み書きは一通り教わってるから文字読めなくて困る、とはならない思う」
念のために教わっといてよかったと今になって思う。
学んだの私じゃないけどな。
「でも、お金はどうするんですか?」
「森の適当な魔物の部位を換金してからやる。足りなさそうなら私のガラクタコレクションからも適当に売り捌く。クッソしょうもない効果ついた金の指輪とかですら高値で売れるから、余程のことがない限り大丈夫だと思う」
「なるほど」
「ま、郷に入ってはなんとやら、門前払いされたら次の手を考えよう」
「はいはい。承知しました。ではこちらを。臨時の通行証になります。できる限り早く冒険者プレートを発行してくださいね」
「わかりました」
「それにしても今日は不思議な日です。まさか一日に二度もこんな方に出会うとは」
「二度?お兄さん、その話ちょっと詳しく教えてくれないかい?」
「いいが……そんなに詳しくないぞ?」
「構わないさ。あ、これはお礼だよ」
「?これは……」
「私の国で採れたものだ。保存もよく聞くお茶っ葉。飲むもよし、香りを楽しむもよし。ついでに種も同封してある。育てやすいものだから気が向いたら栽培してみるといい」
「そうか。ありがとう。最近こういう嗜好品に凝っているからね。他の国のものはとてもありがたいよ。んでさっきの話だが、俺がみた時は漆黒の全身鎧とでっかい剣を2本背負っていたな。アレは一眼でわかるがめちゃくちゃ高級品だな」
「ふむふむ」
「それでもう一人の付き添いがな、これがめちゃくちゃ美人だったんだ。アンタらに引けを取らないほどのな」
「やだなぁ、褒めてもなにも出ないぜ?口説いても私は既婚者だ」
「そうなのか⁉︎なんで冒険者に……」
「残念ながら未亡人でね。彼のくれた指輪に世界の広さを見せてやりたくてね。んで、その超美人な付き添いは他にどんな感じで?」
「確か全身鎧の人曰く、魔法詠唱者、だそうだ。俺が分かったのはこれくらいだな。背丈の大きい漆黒の全身鎧だから、一眼ですぐわかると思うぜ?冒険者組合に行けば多分すぐ見つかるぞ」
「なるほど。情報感謝する。ああ情報のついでなのだが、この辺で貴金属やら指輪やらを買い取ってくれる店はないだろうか。それがマジックアイテムに詳しい人間ならさらに好ましい。ひとまずの資金を得なきゃ行けなくてね」
「ああそれなら俺の知ってる限りだと、バレアレ薬品店というところに行ってみるといい。そこの婆さんがとても詳しいぞ」
「ふむふむ、再度情報感謝するよ。では門番さん、縁が合えばまた会おう」
「それでネルさん、結構細かく聞いてましたが、どうするんですか?」
「いや、どうもしないさ。向こうからアクションがあれば多少コミュニケーションは取るかもしれないが、私からは基本なにもしない」
「後なんで名前を聞かなかったんですか?」
「関わる気がないからだね。男女のペアの冒険者なら、そういうことだろうし」
「そういうこととは?」
「多分恋人同時だろう、ってこと。目の前でイチャラブ見せつけられたくないし、下手すりゃあ伴侶の女から嫉妬かいかねない。そんなのは面倒だし間違っても私がアイツ以外の男に目移りしたと思われたくない」
適当なエ・ランテルの食事処で食べながらイフと話し合う。主にこれからの方針。
「ひとまずの冒険者ランクとやらはゴールド、あわよくばプラチナあたりをゆっくり目指そう。その途中で気さくのいい奴らを見つけれたらそいつらとチームを組んでみるのもいいかもね」
「でもネルさんの実力なら……」
「別に目立ちたいってわけでもないし、縛られるのはごめんだからね。間違ってもアダマンタイトは目指さないよ。それ目指すくらいならパチェや君、他の私とパチェの眷属の精霊や森の賢王達と森とのんびり暮らすさ」
アダマンタイトとやらの最上位冒険者には件の漆黒全身鎧にでも任せるとしよう。
「ひとまずこの後は冒険者組合に登録、その後適当な依頼を受けてこなしてく。外での約束事、覚えてる?」
「人間を殺さない、ですよね?」
「別に殺してもいいんだけどね。要は私らがやったってバレなければよし。喧嘩売られたら適当にあしらって、ダメならぶちかませばいい。殴る蹴るの方が好きなんでしょ?」
「大好きっす!」
「肉弾戦得意な魔法詠唱者は流石に設定過剰だよパチェ…」
キラッキラした目のイフをよそ眼に召喚者のパチェは何してんだろと思う。あのスイーツで割と機嫌戻ってたと思うけど。
「ん、ごちそうさま。イフは食べなくて大丈夫だったの?」
「はい!大丈夫です!」
「それじゃいこうか。まずは先にバレアレ薬品店とやらで資金調達。その次に冒険者組合。今日の目標は登録と簡単な依頼を受ける。出来たら仲間も集めれたら最高」
「了解っす!」
〜バレアレ店〜
「どうも、失礼するよ」
教えられた場所は、昔で言う老舗のようなものだった。本でしか見たことないけど、本当にそんな感じ。
置いてあるものから見て、道具屋というよりは、ポーションのようなものを取り扱っているぽい。青いポーションとか見たことないけどその辺の価値を知りたいところではある。
「はいいらっしゃい。バレアレ店へようこそ。おや、見ない顔だね」
「今日来たばかりだからね。マジックアイテムに詳しい人でこちらを紹介されたんだけれど、見たところポーション屋なのかな?」
「ああそうさ。ワシ以上のポーションに詳しいやつはンフィーレアくらいさね。だがワシは鑑定魔法もあるから多少のマジックアイテムの価値はわかる。場合によっては買い取るのもやぶさかではないぞ」
「それはよかった。ちょっと資金調達するために売りたいものがあるんだが、構わないかな?」
「ええぞい、見せてみな」
パチェと予め決めておいた売る予定の指輪をいくつか婆さんに見せる。
中身は神聖属性の微強化だったり、第二位階の回復魔法を使えたりとか、第三位階以下の効力のものばかり。
「どうかな?」
「これはこれは!久々にお目にかかれたわい!この街の武具屋でもこんなものは中々買えんぞ!」
「そう。じゃあ買い取ってくれるってことでいいのかな?」
「もちろんじゃ!そうじゃな金貨100枚……いや150でどうじゃ?」
「それで構わないよ。仮におばあさんが本来の相場よりだいぶ安く買い叩いていても気にしないからそこは安心してくれ。ああ忘れてた。この店で一番いいポーションを3つほど買いたい。もしマジックアイテムの買取額を上回るならもう少し在庫があるから出せるけど」
「充分足りるわい。そうさな、相殺してそっちに渡す金貨は60枚ってとこかの。ついでに他のポーションもいくつかサービスしてやる」
「おっ、気前がいい人は好きだよ」
お婆さんが色々と準備している間に棚に置いてあるポーションらしき液体を順に眺めていく。
青のポーションが主流なのかな。てことは、ユグドラシルの赤ポーションは出すとめんどくさくなりそうね。
「そいや、パチェは今頃何してんだろうね」
「パチュリー様ですか?……多分、本読んでると思います。それか紅茶飲みながら本読んでるか」
「読書は変わらないんかい。こっちの食べ物で何か美味しいのあったら持って帰ろうか」
「了解っす!」
「ほら用意できたよ。これがポーション3つ。で、その値段と相殺したあまりのマジックアイテムの買取額じゃ」
「ああ。助かるよ。じゃあ、冒険者組合に行きますか。イフ、これ持っといて」
「わかりましたっ!」
「じゃあねお婆さん。安定して稼げるようになったらここの店を贔屓にさせてもらうよ」
「おお、その時はまた是非ともマジックアイテムを売ってくれてもええんじゃぞ?」
「気が向いたらねぇ」
〜冒険者組合〜
「ま、新参者で豪華な物を身につけてたら絡まれるわな。んでこうなるのも予想通りっちゃ予想通りだ」
「ネルさん、ぶっ飛ばしてもいいっすか?」
「ステイステイ。あんた一応魔法詠唱者でしょうが」
冒険者組合で登録はした。が、そのあとはお約束の展開すぎて笑えてくる。
柄の悪い数人の男に侵攻方向に足を投げ出されたので避けて通ったら何避けてんだと言われた。
だからその後に堂々と通ったイフが投げ出してた男の足を蹴ってへし折ったんだよ。
で、仲間がやられたと言いながら今五人くらいに囲まれてる。
治療はしてあげたんだけど余計にうるさくなっただけでした。
周りをチラリと一瞥してみたけど、誰も助ける気はなさそうだし、どうしたもんか。
「何に苛立ってるのか知らないけど、やめときなよ。私は気にしてないけど、イフが何するかわかったもんじゃないから。それにイフが蹴り砕いた足直してやったろ」
「あん!舐めてんのかお前!新参者のガキのくせしてよぉ!」
「話通じないなぁ…」
周りの音をよーく拾って聞いてみると、また絡んでるだの女だからいったなだの、懲りてねぇのかねぇなど色々聞こえてきた。
つまりは1回目失敗したから私らにイライラブッパするついでに身ぐるみ剥ごうって魂胆かね?きゃーやだー
「何すれば解放してくれるわけ?あんまり騒ぎ大きくして目立ちたくないんだけど。あとそろそろツレがキレるから早くして」
「決まってんだろ。俺らの相手すればいいんだよ」
「相手って何よ。酒飲めないよ私」
「はっは!女って言えば一つしかないだろうが!」
「ああ、体の関係を求めてるのかい?悪いが、私は決めた相手としかやらないと決めてるからね。その希望には添いかねる」
「ごちゃごちゃうるせえよ!」
もう半分何言ってるかわからんキレ方で胸ぐら掴もうとしてきたからちょっと一歩引いて避けたら、男の手が何かに引っかかって首がガクンと引っ張られた。
「あん?なんだこれ」
「……離せ」
それを確認した瞬間に発した声は、我ながら結構ドスが効いていたと思う。けれど男は掴んだものを汚い手で触り続ける。
「なんだよこれ指輪か?ダッセェ指輪だな。けど売ったらいい金に……」
その後、床の一部がちょびっとだけ陥没……じゃなくて貫かれたとか。
「まあ、なんとなーく予想はしてたわ。目立っても自業自得ってことで。殺してないだけマシだわ」
森の中で魔法を使ってアテナの様子を見ながら紅茶を飲む。うん、イフが止めたからいいけど。
「いつまで見てるの?そろそろ良いかしら」
「そろそろ良いも何も、アポ無しで来たの貴女でしょうが。何度も言ってるけど、私たちはナザリックにつく気はないわよ。もちろん人間側にもね」
「そうじゃ無いの。私は……」
急に訪れてきたアルベドが何を言いたいのか全くわからない。
アインズから引き込むように言われてるのかと思ってたけど違うみたいだし。
「もう良いわ。この際腹を割って話しましょう。で、そこまでして私たちに固執する意味って何よ」
「アインズ様は至高の御方々をとても大事になさっているわ。だからこそ、アテナ様にもいつか戻ってきて欲しいと願っているわ。私は悲しむアインズ様は見たく無いのよ。だから例え命令違反だとしても貴女達を説得しにきたの」
「アテナはともかく、私を大事にしようとする意味がわからないわ」
「貴女はアテナ様が創造された。だからアインズ様にとって貴女もナザリックの仲間よ」
その後しばらく話をしたけれど、頭がいいのかボロを出す気配はない。
もうこうなったら……。
「じゃあ最後に二つだけ質問に答えなさい」
「ええ」
「ナザリックの最終目標って何。それが仮に世界滅亡させるとかってなるとかなり話し変わってくるんだけど」
「そんな野蛮なことをするとでも?私たちの最終目標は世界征服よ」
「……それは貴女達が考えたの?それともアインズが?」
「アインズ様がおっしゃったのよ」
「あっそう。じゃあ最後の質問。----------」
「じゃあ、いい返事を待っているわ。パチュリー・ノーレッジ」
「二度と来ないで欲しいわ。いい返事は期待しないことね」