「ネルさん、死んじゃうっす」
「知るか死んでも良いよこんなゴミ。力量の差もわからず挙句の果てにこの指輪を売り払うだ?好き勝手言ってくれやがって。死すら生温い地獄見せてやろうか?あ?」
アテナは何度も何度も頭を持って床に打ち付ける。
もう相手は既に気絶しているがそれでも構わず続ける。
イフはそんなアテナが怖くてなかなか止めに入れなかった。
と、そこでとあることを思い出したのかアテナに向かって囁く。
「アテナ様アテナ様。パチュリー様からです。アテナ様の描いた小説、大衆の前で朗読する、と」
「(ピク)」
それを言った瞬間アテナは綺麗に止まった。そして我に戻ったかのように自分の掴んでいるものとイフを交互に見ていた。
その数瞬後に掴んでいたものをパッと離した。人間の顔がまた地面に落とされたが、イフはそれには目もくれずアテナをじっと見ていた。
「……大変申し訳ありませんでした」
そして周りに聞こえるように、しかしできる限り小さな声で謝罪をした。
「しまった。死んで……は無いみたいだね。うん、よしっ。んでだ、まだ私に文句あるやつは?」
床にめり込んだ男を放置して周りを見渡すと全員引いていた。
当たり前っちゃ当たり前か。
「そんじゃイフ、依頼受けてみようよ」
「わかったっす!」
私が通ろうとするとモーセの海割りの如く人が避けていく。
こりゃパーティを組むと言うのは期待できなさそうね。
「……私たちのランクって一番下、だっけか。えーと……薬草採集、集めれば集めるだけ報酬を、か。これにしようかな。イフは?」
「ネルさんと同じものを!」
「はいよ。受付は……」
「あ」
「あ」
受付に行こうとしたら、すっごい見覚えのある人?を側に控えさせてる全身甲冑の大剣を2本担いでる奴と目が合った。
「……イフ」
「はい?」
「撤退準備」
「え?」
「あの、申し訳ない。少しだけ時間をいただきたい!」
「え?あ、は、はい」
「ナーベ、ついて来い!」
「ハッ!」
「
「わかりましたっ!」
「あの付き人の相手をもしかしたら頼むかもしれないから、それだけ頭に置いてて」
「承知したっす!」
「あの!ちょ、待っ……」
「モモ……ンさん、私がライトニングであのゴミムシを撃ち落としましょうか」
「ダメだ!今はとにかく追いかけるぞ!」
街の外に出て辺りを見渡す。幸いにも今は冒険者達はいない。
「アテナさん!」
「……外でその名前で呼ばないでくれる?」
「えっ、あっ、すいません」
これ逃げれないな。さてはてどうしたものか。
「モモンガ……じゃなくて今はアインズだっけ」
「外では俺はモモンです。アテナさん……じゃなくて、えーと……」
「……まあいいか。君とは行動をする気はないし。私は外では『ミネルヴァ』。こっちの子がイフ。まさか入口で聞いていた漆黒の全身鎧が君とは」
「俺も騒がしかった理由がまさかネルさんだとは」
「って世間話をしたいんじゃない。モモン、私に何の用?反射的に逃げてしまった私も私だが、お前もお前で反射的に追った、とか言うなよ?」
「……」
「図星なのか」
「いえ、その。そりゃアテナさんいたからアテナさんと共に冒険者業やれたら、とは思いましたが」
「だろうとは思った。悪いけど私はまったりライフをしたいだけなんでね。君と共に動くといやでも目立ちそうだからお断り」
「目立つに関しては人のこと言えないでしょう⁉︎」
そりゃそうか。何はともあれこいつらと動く気にはなれん。
ピピッ
メッセージ?誰からだ。
「モモン、ちょっと連絡が来たから少しだけ時間くれ」
「ええ」
メッセージに出るとパチェなことがわかった。
『アテナ、今いい?』
「……?まあいいっちゃいいけど。緊急?」
『ええ』
「OK。ちょっと待ってて。すぐにメッセージし直す」
パチェとの通話が終わり、モモンに向き直る。
「モモン、少し事情が変わった」
「と言うと?」
「パチェが緊急事態らしくてね。いまから戻る」
「それなら俺も」
「ややこしくなるから却下。そら、お前仕事受けてたろ。さっさと戻ってやれ」
「‥‥わかりました。ただその前に一つだけ。最後にお聞きしたいことが」
「?」
「今日俺たちに話しかけてきた冒険者がつけていた指輪が明らかに魔法の効力のかかった指輪でした。マジックアイテムを持っている事自体が珍しいはずの銀級の冒険者が、です」
「ほーん。その辺は勉強してんのな。で、何が言いたいよ」
「詳しく話を聞いてみると『神話の名前をもじった森の精霊に渡された』。そうれだけ言われました」
「で?」
「それに関してはどういう意図があるのかお聞きしたいんです」
「意図も何も、始原の精霊による気まぐれ。それじゃダメなのかい?君だって気まぐれに殺し気まぐれに生かし気まぐれに協力する、そんな時だってあるだろう。それに、あの人間たちに渡した指輪は精々第2位階だか第3位階のバフ系統の魔法しか込められてない。そんな大事になるとは思えないけど?」
「……では、私がその冒険者たちを利用しても?」
「お好きにどうぞ。できれば生かして欲しいけれど絶対じゃない。私は外での君の活動に異を唱える気もなければ関わる気もないからね。所詮私は息抜き程度のお遊びなんだから。……それよりも、イフと君んとこの付き人がすごい喧嘩しそうなんだけど」
横を見ると今にも殺し合いしそう。
イフのレベルって60とかじゃなかったっけか。
相手も同じレベルくらいぽいし、いい勝負しそうだから眺めてみたいけど事後処理の方がめんどそうだ。
「ああ、うん。そうですね。ナーベ、その辺にしておけ」
「はいはいイフもステイステイ」
「ですがモモンさ……ん。このゴミムシが……」
「でもネルさん!こいつが……」
「私のために怒ろうとしてくれるのは嬉しいが、これ以上私の顔に泥を塗ろうとするんじゃない」
「何言われたか知らないけどステイ。それよりもイフ。パチェが何か緊急の用事があるぽいから先に帰ってて」
ここまでしてようやく2人が渋々喧嘩をやめた。
「……もしかしてだけど、ナザリックのNPCみんなあんな感じ?」
「……」
「了解わかった。私の子達にも注意喚起しとく。君らと争いになっても面倒だし。そっちも注意喚起しといてよ」
「わかりました」
〜トブの大森林〜
「ただまー」
「おかえり。早速だけど」
植物でできた椅子に座り、イフは見回りに向かった。
「用件っていうのは接触して来られたから」
「誰が?」
「まず1人はナザリックの守護者統括・アルベド」
「守護者統括……ああ、一回だけ見たことあるような。それで?」
「詳しい事は分からないけどね。アインズが悲しむから戻ってきてほしいと。他の守護者達もアテナ様と話したいと思ってるから帰ってきてほしいだって」
「うん待って。パチェ、今後間違っても私を様付けしないで。なんか、うまくいえないけどすっごい悪寒する」
「ぶっ飛ばすわよ?」
「よし戻った」
「はぁ……。まあ表向きの理由はそれらよ」
「表向き?」
「どっちかというと接触してきたのはこっちが主な理由、だと思う」
「というと?」
「確証はないけど、アイツ相当なメンヘラ女よ。しかも立場が相当上だから余計タチが悪いタイプの」
「うわぉ言い切った」
「アイツにとって大事なのはアインズとナザリックシモベ達であって、それ以外はどうでもいい。むしろアインズの元仲間達に関しては嫌悪すら抱いてる。そんな印象だったわ」
「じゃあ余計行きたくないわ」
「接触してきたのはアインズがあなたを娶る、もしくはあなたがアインズを奪うんじゃないかって気が気でならなかった、だから確認したかった。そんなところかしらね。直接聞き出せたわけじゃないから確証はないけど」
「んじゃあ次来たら言っといて。んな骸骨には微塵も興味ない。私の
「それを言ったら言ったで『アインズ様になんてことを!』って言いそうねぇ」
「それしてきたら私とアインズの仲が決裂する可能性あるからそんなことはしないでしょ。で、その守護者統括に関して他には?」
「これくらいね。で、2人目の接触者に関してだけど。リグリットって覚えてる?」
「ああ、レイ……じゃなくてユウを連れてきていた」
「リグリットがスレインのことで私たちに聞きにきたのよ」
「あっそう。で、なんて返したの?」
「詳しいことはアテナが帰ってきてから話すとだけ伝えたわ。で、場合によっては私たちとやり合わなきゃいけないかも、だってさ」
「ふーん……そりゃ御大層なことを。来たもんはしょーがない。次来た時は私が対処するよ。それ以外は?」
「特に無し。他侵入者もいないわよ」
「そりゃよかった。……あ、そうそう。冒険者になりに行くのしばらくやめる」
「全部見てたから知ってるわよ。とんだ偶然もあったものね」
「全くだよ」
「それはそれとして、目立つまで早かったわね」
「うぐっ……。そ、それはそうと他何かある?ないなら私はゆっくりするよ」
「そうねぇ。最近新しい茶葉を育て始めたから出来たらまたお茶会しましょう」
「いいねぇ。じゃあ期待して待ってるよ」
〜数日後〜
「ふぁあ……おはよう」
「おはよう。先に水浴び?それともご飯食べる?」
「水浴び……」
「そう。じゃあタオルとかまた運ばせておくわね」
「まかせた……」
日が昇ってはや5時間ほど経った頃、ようやくアテナが起きてきた。
そのまま綺麗な金色の煌びやかな髪がかわいそうなくらいボッサボサの髪をかきながらアテナは水辺へ向かった。
これは炎精霊も行ってもらうべきかしら。
それが終わった頃に根源の風精霊が近づいてきた。
「……」
「え?また誰か来たの?」
「……」
「ナザリックの?誰が来たの?」
「……」
「ダークエルフ。となるとアウラかマーレのどっちか。要件は聞いてる?」
「……」
「森の賢王に用事?何のために」
「……」
「そう。なら直接聞くまでよ。そのダークエルフにここまでくるよう伝えて」
風精霊が来た方へ戻っていく。さて……と。
「森の賢王家族の誰か、できれば親のどっちかを呼んできてちょうだい。できる限り急いでね」
中位精霊達にお願いし森の賢王を呼びに行ってもらう。
さてどうなることやら……。
「パチュリー殿!お待たせしたでござる!」
「パチュリー、きたよー」
ちょうど森の賢王家族の母親(初めから森にいた方)とダークエルフ……アウラが来た。
「で、何の用?くだらないことだったらすぐ帰ってもらうわよ。ナザリックにも私はいかない」
「違うっての。今日はちゃんとしたお仕事。森の賢王っていうのに用事があってね」
「わ、我輩でござるか⁉︎」
「だからその用件を聞いてんのよ」
「アインズ様が冒険者として名声を得るために森の賢王に喧嘩売りたいってこと。でも森の管理ってアテナ様やパチュリーがしてるじゃん?それにもし仮にこれでアテナ様を怒らせたらって思ってのことだと思うよ」
「わ、我輩と喧嘩でござるか⁉︎」
「……」
んなこと死ぬほどどうでもいいんだけど。
「ただい……なんでナザリックが来てんの」
「アテナ様!」
そこへちょうどよくアテナが水精霊と炎精霊を連れて帰ってきた。
てか上半身シャツ一枚はやめなさいよ。はしたない。
アウラを見るや否や嫌そーな顔を浮かべていた。
「たっく、最近訪問者が多いことで。で、何事?」
「アインズが冒険者として名を馳せたいから手始めに森の賢王とドンパチしたいって」
「ふーん……で、賢王さんはどする?」
「わ、我輩は姫達を守り共に在ると決めてる故……。あ、でも我輩の
「……。それって負けたらどうすんの」
「我輩達は負けたら相手に従うと決めてる故。今もやることがないからと我輩のやることに付き合ってもらってるんでござるよ。それに、パチュリー殿には家族一同とても良くしてくれた故……」
「だそうです」
「森の賢王がいいなら好きにさせたら?」
森の賢王のツガイに好きにさせると決まり、アテナ共々アウラへ向き直る。
「と、いうわけで。やるならこいつのツガイになる。前パッと見たけど強さ的には遜色はないはず。いつどうするのかアインズに聞いてそれからまた戻ってきて」
「わかりました!……あ、あの、それとアテナ様」
「なに」
「そ、その……マーレや他の守護者やメイド達もアテナ様に会いたがってて……」
「一回でいいからナザリックに来てくれって?」
「は、はい……」
「じゃあ伝えといて。暑っ苦しいから嫌だ。会いたいなら一人で来いって」
「……っ!はい!」
会いに来る分は良いのね。それをアウラも感じ取ったのか嬉しそうな顔をして勢いの良い返事をしていた。
「それではアインズ様へ御報告をするので失礼します!」
アウルが消えた後にアテナが大きなあくびをする。
「ふぁぁ……それじゃあ私は、寝るよ。何かあれば起こして」
「ニートじゃないの。冒険者業はどうしたのよ」
「引退」
「早すぎるわよバカ」
そりゃ外だとアインズと会う可能性高いからわからなくもないけども。