始原の精霊は隠居していたい   作:アテナ(紀野感無)

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決まっている

何も成さない

観測者に徹するのみ

本当に、本当に大変な時だけは関わりを持とう。
それ以外は基本、他人の人生を観測/謳歌する




決まっている

死に場所を。
誰一人として巻き込まない死に方を。

誰一人として悲しませないのはできない。

ならば、だれもが納得のする死に方を。




生きる意味を見出せないのだから、ボクの終着点は死のみだ


私/ボクはこの世界で何を成す

「……本当に来たのか」

「うむ、ツアーはもちろんおいてきた。それと使い魔に運ばせてきた甘味じゃ。どこか落ち着ける場所はあるかの?」

「はぁ……わかったよ。作る。召喚(サモン)・中位精霊。守護精霊」

 

レベル45の中位精霊、防御系特化……とはいってもたかが知れているが。似たような性能のモンスターでデス・ナイトがいる。

 

レベル80後半の上位精霊を出してもいいが、それだとこの世界にとっても私にとっても悪影響になりかねない。強すぎるから。

だから精々森の賢王よりちょい強い程度のこいつ。これならまあ、大丈夫だろう。

 

「命令、この周辺一帯を守れ。そうだな。私たちを中心に半径100メートルくらい。だが基本こちらから手を出すな。出す基準はこちらに悪意を持っている相手にのみ。それ以外は基本見逃すこと。不可視化かけておくからこっちに近づく輩は無視で大丈夫」

 

「……」

 

精霊は頷いてどこかへ消えた。

 

「驚いた。まさか()()()()()()を生み出すとは」

 

「「は?」」

 

ボクとパチェはリグリットの言った言葉に思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「伝説級?何言ってんの?」

 

「何も阿呆なことは言うとらん。文献でしか見たことはないがまさしく伝説級の精霊じゃ。ワシ等にとっては、じゃが」

 

「……似たような強さのモンスターは知ってる?」

 

「そうじゃな、ワシの知るところだとデス・ナイトとかかの」

 

「なるほど。ちなみに、その伝説級モンスターに勝てる人間はこの周辺には?」

 

「一握りじゃな。冒険者の最上位の者たちと儂含め極わずかといって良いの」

 

「なるほど。この世界の基準はそれで何となくわかった。……じゃあ、こっちに。パチェ、防壁魔法は任せた」

「任されたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何が聞きたい。私に何か聞きたいことがあるから来たんだろ?そこの隠れてる人間も」

 

「おや、気づいていたのか。だがそれでいてここまで入れてくれるということは容認しているんだろう?」

 

「私たちに害を成す存在ならば殺していたかもしれないが、そんな存在ではないことは分かっている」

 

「ありがたい。殺されてしまっては預けてくれた者に面目が立たんからの。ほれ、ユウよ。こやつが話した精霊じゃ。一目でいいから見たいといっておったが、感想はどうかの?」

「いやぁ、すごいの一言です。なんというか、気迫、っていうんですかね。それがもうヒシヒシと」

「嘘つけ。見惚れておったろうが」

「あ、バレました?それはそうと、こんな形で初対面になってしまい申し訳ありませんアテナ様。私はユウと申します。しがない、冒険者なり立てです。リグリット様には目をつけていただいており、ちょくちょく訓練をさせていただいております」

 

「ああ、そうか。だが私は……」

 

 

 

 

今後お前とかかわる気は一切ない、とか、会うのは今回限りだ、とかいろいろ考えていたはずなのに

 

すべてが吹き飛んだ。何回も、何回も見た、忘れるはずのない顔だったから

 

 

 

 

「…………」

「嘘……」

 

 

 

「どうしました?」

「どうかしたかの?」

 

 

 

心臓がうるさい。呼吸が苦しい。

 

頭が真っ白だ。

 

意味が分からない。

 

だって、アイツは……

 

 

 

何度も何度も瞬きをし頭が正常なのか確かめた。

想うあまりの幻覚を見ているのだと。

 

きっとそうだ、嘘に決まっている。

 

 

頭ではきっとわかっている。

ただ、奇跡的に、まったく姿形が同じだけだと。

 

 

それでも、思わずにはいられなかった。

 

きっと、これは、神からのほんの僅かな、この上なく素晴らしい慈悲だと。

 

 

「本当にどうしたんだい。何かこちらに不手際でもあったかい?」

 

「い、いや、そ、う、じゃな、い。違う、違う。あの人じゃない。わかっている。でも、あの人にしか……。いや、違う、違う。違う違う違う」

「アテナ、落ち着いて。気持ちは分かるわ。でもあの人はもう」

 

パチェの言葉すら、ボクには一切届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

かつて失った想い人が、急に目の前に現れた。瓜二つの姿で。

 

 

勿論困惑した。

 

 

だって、私の目の前で息を引き取ったのを他ならぬボク自身が看取ったのだから。

 

それでもあの人以外には見えなかった。

 

ゆっくりと、おぼつかない、けれど重い足取りで目の前の人間の子に近づく。

 

思わず引き寄せ、思い切り抱きしめた。

 

「え?え?ちょ」

 

勿論相手は困惑している。それが腕の中からよく伝わる。

 

それもそうだ。

 

この人からしたら私は初対面。どこの誰かもわからない。

 

たまたまついてきたこの森へ来たら出会っただけの存在。

それでも想わずにはいられなかった。

 

 

 

曽て伝えれなかったことを

 

 

 

曽て一度もできなかったことを

 

 

 

今でも鮮明に覚えている最後の、見ているしかできなかった刻を。

 

さまざまな思いが交錯し思わず涙した。

 

「……」

 

このとき彼が背中にやさしく回してくれた手の温もりを。

 

優しさを。

 

 

きっと一生忘れることはない

 

 

 

 

 

「すまない。取り乱した。もうこれからは無いようにする」

 

「ふむ。詳しい事情は聞かないでおこうかの。改めて紹介させてもらうぞ。こちらはユウ。ワシの弟子、といったところかの。出来は悪いがな」

 

名前こそ違うが、姿形、声から細かな仕草まであの人にそっくりだった。

あの人のクローンだといわれても信用すると思う。

 

「それで、何を聞きたい?今なら気分がいいから大概のことには答えてやる。……君も、気になった事は何でも聞いてくれ。全てを答えれるわけじゃないが、できる限り答えよう」

 

まずは昨日使った魔法について聞かれた。そこから神人なのか、とかぷれいやーとかギルドとか様々な言葉が出てきた。

 

どうやらこの世界は多少なりともユグドラシルの知識も通用しそうだ。

 

してきた質問のすべてに正直に答えた。だが一環として「この世界に敵対はしない」ということは念を込めて伝えた。よほどのことがない限り世界に影響を与えかねないものは使わないと。

 

「お主のその喋り方、実はそっちが素じゃろ?昨日会ったときはむりしておったじゃろ」

 

「当たり前だ。あんな喋り方する方が珍しい。お前達みたいな侵入者が来たときくらいだ。ただでさえ他人と会話するのは嫌いなんだ」

 

「ほうほう。ほれ、お前も何か質問などないのか?」

 

「そうですね。では、お姉さんには彼氏は……」

 

その瞬間に殴られていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

互いに聞きたいこともなくなって少し落ち着き、話をしようと言うと快く了承してくれた。

さまざまな事が聞けた。

 

中でも驚いたのが私をどこかで見た事があると言う。

 

「正確には似たような姿形が……確か先祖様の手記か何かに……」

 

また分かったら教えに来てくれると約束をしてくれ今日は別れた。強い孤独感を感じるが、それでも胸中は孤独感以上の強い想いで満たされた。

 

 

 

曽て何もできなかった、してあげられなかったことができるかもしれない。そんな喜びが。

 

 

 

たとえ今の命が人間と精霊で寿命の長さが天と地ほどあろうとも、末裔まであの人を守ろうと、密かに決めた。誰にも邪魔はさせない。

 

それくらいの勝手は、この世界は許してくれるだろう。

 

ボクが唯一抱いた恋心なのだから。

 

もしあの人を殺すと言うならボクはこの世界に牙を向く。

 

 

 

 

 

 

「精霊の血?」

 

「ええ、本に書いてあったのだけれど、効能とか知ってる?」

 

「さあ?」

 

私がとった始原の精霊も、興味はそんなにない。

アイテムコレクターとして集めてもいたけれど、集めていただけだ。

使い道とか大半は分からない。

 

「実はね、これ。摂取した別種族は精霊種を得るらしいのよ」

 

「ふうん、それで?」

 

「自分が精霊種の場合、自分の眷属にできるらしいわよ。でもそれはおまけ。どちらかというと『精霊種を得る』ほうが重要よ」

 

「……?」

 

いまいちパチェの言いたいことが理解できない。ボクが……というより私があいつを眷属にして従わせるなんてことは望まないことくらいわかるだろうに。

 

「パチェ、回りくどいことは無しだ。本題を言って」

 

「そう?じゃあ言うわね。寿()()()()()()()()()()()ってことよ」

 

「……それが?」

 

「貴女、この世界であの子と結ばれることができる、ってことよ鈍いわね。貴女もわかってるでしょう。あの子は、まさにあの人の生まれ変わりよ。もう一つの世界でできなかったことを、あの子にしてあげなさいよ」

 

パチェの言葉が心に刺さる。

できなかったこと。

 

そんなこと、腐るほどある。

 

あいつと違い、僕は見ている事しかできなかったのだから。

 

できることならばアテナなどではなくボクが、その人との人生を過ごしたかった。

 

「ああ、そうだね。でも、だ。あの子がそれを望むと思う?私は、望まないことを強要してまで、共に在りたいとは思わない。……できる限り、あの子の望むことをしてあげる、それだけ。もしあの子が精霊になることを望むなら喜んでするさ」

 

ありえないと、思うけれどね。

 

「あの子の命は保証はするさ。でも人生に過度にかかわる気はない。私は、会えればそれで、いいんだから」

 

「……嘘つき」

 

「ん?」

 

「なんでもないわ。ああ、もうすぐ周辺の地図ができるそうよ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、定期的にあの子とは会っていた。わざわざ来てくれた。

ボクは、他の全てを後回しにしあの子と会った。

 

法国とかいう、よくわからないところから使者が来たりしたが全て、無視した。

途中実力行使もされかけたが、適当にあしらった。

 

この世界はどうやらプレイヤーという存在は、ごくわずかな人間にだが認知されているらしい。

だが大半は神などと揶揄されているが。一番わかりやすいところだと六大神だとか八欲王だとか。

 

ギルド武器もこの世界にあるらしい。確認だけできなかったのは世界級アイテムと超位魔法の存在だけだが、神具だかなんだかの呼び方のものが怪しい、といったところか。

 

 

 

 

 

だがそのすべてが私にとってはどうでもいい。

 

生きる意味が、この世にできたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

~三日後~

 

「は?」

 

「貴様が法国の人間に手を出したという疑惑があるといっているんだ。来てもらおうか?」

 

「雑種が……。誰に口をきいているのか理解しているのか?」

 

「ああ理解しているとも。崇高な人間様へ手を出した無粋な精霊だ」

 

「なあパチェ。私か?私の頭がやばいのか?私はこいつがバカにしか見えないんだが」

「私も一緒よ。人間の中でも救えない部類の馬鹿ね。蛮勇と勇気の違いも分からない馬鹿よ」

 

確かに法国とやらを名乗る人間は20人くらい追い返して、小規模のパーティ組んできたやつらは適当に薙ぎ払ったが。そもそもが、その全てから喧嘩を売られたからだ。特に下衆な目を、下心しかない目を向けてきたから目を潰したくらいか。

法国とやらはバカしかいないらしい。なんだ?人間以外を見下さなきゃ死ぬのかお前ら。

 

「まあそこはどうでも良い。で?我に何をしろと?」

 

「決まっている。我が国の奴隷および実験体となってもらう」

 

「……これツッコミした方がいいかな?」

「しなくていいんじゃない?」

「そうする。でだ、貴様らに従わなかった場合我にどうすると?」

 

「ふん、その場合は実力行使をするだけよ」

 

「とのことです」

「わからせてやりなさいよ」

「やだよ。厄介ごとしか来ない」

「もうすでに来てるじゃないの」

「確かに?」

 

「何をぐちぐち言っているんだ?作戦会議か?よかろうよかろう。我らから逃げるための策を張り巡らせるといい。その全てを潰してやろう」

 

「だそうな」

「わかりやすい小物ね。三流小説のモブにも劣るわ」

「手厳しいお言葉だ」

「事実よ」

「それじゃあ……わからせますか。この国に、私たちに手を出すとどうなるか」

 

戦いは好きじゃないが……ボクたちの安寧を脅かすならば話は別だ。

 

「作戦会議は終了か?」

 

「口を閉じろ下郎。貴様の耳障りな音を響かせるな。不快だ。さて、うまくいくか不安だが、リハビリに付き合ってもらうとしよう。パチェは下がってて」

「ええ」

 

さて、法国のお偉いさんには武力でもっておかえり願おう。殺しはしない。殺したら面倒になるだけだし。

 

見た目だけ派手で同格以上にはそんなに効果なく、初見殺しにしかならない戦法。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)だっけか。

 

なんてことはない。ただただ武器を大量に投げつけるだけだ。コレクターとして集めた各人の神器級の武器を、性能の差はあれど、その辺の伝説級よりは段違いに強い……はず。

 

殺しはしないが、腕の一本や足の一本はご愛敬だ。

そこまで手加減できるほどボクは優しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「採点のほどは?」

「65点。相変わらず見事だけれど貴女、インチキしてたでしょ」

「げ」

「放った武具が着弾する直前に地面に再度空間魔法を配置して、射出先を空に固定まではいいわ。でもそのあとしれッと別の魔法使ってたでしょ。ちゃんとは見えなかったけど斬属性のものを」

「正解。第4位階のものをね。けど『王の財宝』だけで戦うとは一言も言ってないよ」

「それ含めてよ。やるならもう少し隠しなさいよ。武器が当たる直前に発動させるとか」

「んな精密機械みたいなことできるわけないでしょうが」

 

さてさて、それはそうとしてだ。

法国の自称お偉いさんは気絶しているし。転移させて放置かな。

他の部下の方々もかわいそうに。

 

私にかかわらなければもう少し平穏な人生を送れたかもしれないのに。

 

 

 

ちなみに、パチェにめちゃくちゃ念を押されたので森の被害はゼロですボク頑張った。

多分一番神経使った。あんな見た目だけくそド派手なもの使って被害をゼロにするとかもうやりたくない。

 

次やるときは平原でぶっ放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、いいことばかりこの世の中は続かないと、ボクは思い知った。

この世の人間は、もう、信用しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界は、私の敵だ




『日記をつけようと思う

これを読むものにとっては何を書いているのか意味が分からないかもしれない

でも、ボクはボクの存在を記しておきたくなった。




私はアテナでありアテナではない。
正確にいうと、アテナの体であり意識はアテナではない。

アテナの中に芽生えたもう一つの人格、といったところか。


日記をつけようと思ったのは、あのことであってからだ。確か、ユウ、といったか。

ボクの初恋の人に瓜二つな、まるで生き写しのような子。

そのこと出会って急に、己の存在が不安に思えた。

ボクという存在を皆は知らず、皆ボクのことを、本来のほうのアテナだと思っている。

ボクという人格を知っているのはボクだけだ。


だから、書き記そうと思う。

ボクがボクでなくなる前に。





ボクは、おそらく精霊という種族に、心が引っ張られているのだから。

感じたことを記し、ボクという()()()()()が居たことを、この世に証明するために、書いていこうと思う。

もちろんパチェ……私の付き人には内緒だ。だからこれが世界に広まるときは、ボクが死んだ時だ。

だから気楽に見てほしい。

これを見たからと言って殺される、なんてことはたぶん無いはずだから。

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