けど未だに私の景色は変わりはしない。
強引に出ようにも、超位魔法の力には抗えない。
さてはて、私を此処から出してくれる救世主は現れるのだろうか。
アイツは死んだ。多分。
だから、もう死ぬほどつまらないこの静止画をずっと見続けている。
苦痛でしかない。何も面白くない。
早く私を此処から出してくれ。
「あー!パチュリー様!こんにちは!」
「はいこんにちは」
「これこれ。申し訳ありませんパチュリー様」
「構わないわよ」
あれからもう何年経っただろうか。約100年ほどだと思う。正確な数字は数えてないけれど。今話しているのは、ひょんなことから助けた、私が住んでいる大森林の近くにある小さな村に住んでいる人間。
散歩をしている時に、たまたま見つけたのだけれど確か……ゴブリン?か何かの集団に襲われていたと思う。もう数十年前だから正確には覚えてないけれど。
それから何故かトブの大森林の守り女神だか守り神だかと言われる様になった。私が助けたのは本当に気まぐれなのに。
そんな事に思いを馳せながら見回っていると人間の年にして大体50歳くらいの女性に話しかけられる。
「パチュリー様。こちらをどうぞ。今日採れたての野菜達です。是非ともお召し上がりください」
「あらありがとう。アテナもきっと喜ぶわね」
「はい。今年できた物の中でも特に出来がいいんです。パチュリー様達のお口に合えばいいのですが……」
「大丈夫よ。アテナもここの野菜は美味しいって言っていたから」
「それはよかったです」
ちなみに余談だけれど、本当にここの野菜は美味しいのよね。本によると美味しい野菜は体にもいいらしい。
そんなこんなで、出会う村人全て(凡そ60人程度だろうか)に話しかけられながら村全体を見回り、異常がないと確認できた。
「それじゃ、私はそろそろ森へ戻るわね」
「いつも守ってくださりありがとうございますパチュリー様。お気をつけてお帰りください」
「ええ。それにお礼を言われるほどのことじゃないわ。私がしたいから勝手にしているだけだもの」
「それでも、村人一同、感謝しております。パチュリー様にアテナ様、森の賢王様達のおかげで私たちは安心して暮らせているのですから」
いつものヨイショしてくる物言いに妙に恥ずかしくなり、手を振りながら
「ご苦労様。今日はどう?」
『……』
「そう。それなら良かったわ。引き続きお願いね」
『……』
いつもの場所、私達の家(とはいっても森の中のほんのわずかに開けた場所だが)に戻ると辺りに潜ませていた智天使級の天使、根源の風精霊からいつも通りの報告をもらう。
今日も特に侵入者は無し、アテナの様子も変わりないとのこと。
つまりは、
「ただいまアテナ」
話しかけるも返事はない。
それもそうだ。彼女は100年前から
彼女の想い人と共に。
「それじゃ、起きたくなったらいつでも起きてよね。毎月野菜とかを貴女にもって貰ってるんだから。食べないと失礼でしょ?私は本読んでるから、何かあったら呼んでね」
植物で出来た椅子に座り、読みかけの本を手に取る。
ここ数十年はこれが日課。
やる事をやったら、アテナの側でずっと本を読み、語りかける。
いつでも、こっちに戻ってきたくなってもいい様に、私達の家を守り続ける。
法国とやらも、アテナがブチギレてからは殆ど手を出さなくなってきて、平和そのもの。たまーに頭の悪い人間が襲ってくる程度。けど、それらは基本天使や精霊、森の賢王があしらってくれるから、私のやる事の大半は、アテナのそばにいる事。
人間との交流は流石に私がやるが。
他のみんなも私の気持ちを汲み取ってくれているのか、皆もアテナのそばにいたいはずなのに私にその役目を任せてくれる。
寝るまで本を読み、寝る時間に近づいたら警護を精霊達に任せ眠りにつく。
今日もきっと変わりはない。
そう思っていた。
「……」
突然、何かを感じた。
明確な表現は思いつかないけど、何か悪い予感と言えばいいのだろうか。それを感じた。
「相当近いところに何か……転移かしら?とにかく何か現れたわね」
『……』
「そうね。でも無理はしない事。根源の風精霊に探知阻害をかけてもらった上で認識できるギリギリまで近づく事。何処かの組織なのがわかればそれでいいわ。気づかれたと感じた時は真っ先に私のところへ知らせる事。探知系魔法使われた時も同じね。それとこれ。ほんの少しでも危険を感じたら使って帰ってくる事。この森に侵入しようとした時も知らせて頂戴」
『……』
中位水精霊(レベル50程度)が偵察役を買って出てくれたのでそれに甘えてお願いする。
だけどあくまでも偵察。いざと言うときには私が出る。
「新しく仲間を生み出しておいた方が良さそうね。えーと……あった」
アイテムボックスの中から神器級アイテムを取り出して使う。
そして現れたのは根源の水精霊。その中でも防御に特化している。
「これからよろしくね。早速で悪いのだけれど、東の方角に何かが現れたの。だからアナタは森の東の出口を警備して欲しいの。追い返せると判断できたら追い返す。けど、相手が強いと悟ったら戦闘はしないこと。すぐに私に連絡を頂戴。念のため向かう前に根源の風精霊に探知阻害の魔法をかけてもらっておいてね」
『……』
水精霊は風精霊と少しやりとりをした後に東へ向かってくれた。
これで暫くは安全だと思いたいわね。
「……まあ、私たちに害を加えないなら放置でいいのだけれどね」
対立する時は、その時はその時だ。
どうにかするとしましょう。
〜???〜
「モモンガ様。御報告が」
「うむ」
とある執務室で、スケルトンとサキュバスが話す。
「近くの森で、挙動のおかしい上位の水精霊を確認したと報告がありました。森の中にいるモンスターとは強さが別格とのことです。そしてその精霊は、ナザリックの方向を見ていたと思われるそうです。また、森の探索に赴いたアウラから侵入不可の場所があると確認も取れました。恐らくは、上位精霊の使役者がいると思われます」
「なに?」
「つきましては、モモンガ様の指示であるナザリックのダミー建設に支障をきたすと考えられます。如何なさいますか?」
「……少し時間をくれ。また後ほど連絡する。アウラに伝えておけ。使役者と思われる存在と出会った場合、必ず敵対する行動を取るな、と。相手は私の欲する情報を持っている可能性もあると、そう伝えておいてくれ」
「はっ」
「それと、もし手に負えないと感じた場合は即時撤退も付け加えておいてくれ」
「畏まりました」
〜トブの大森林〜
「そう。なら暫くは私の近くにいなさいな。アナタが死ぬところなんて見たくないもの。大丈夫。私に任せて」
予想通りだったけど、レベル50程度では手も足も出ないと感じたらしい。
それでもできうる限りの情報を持って帰ってくれた。
「森に入ろうとしたのはダークエルフか。レベルは?」
『……』
「レベル85の
にしてもなんで突然現れたのかしら。
「ふむ……次そのダークエルフが現れた時はすぐに私に知らせて。次からは私が対応するわ」
『……』
「いい?間違っても戦おうとしない事。アナタ達は私たちにとって家族なのだから、死ぬことは許さないわ」
『……』
「それじゃ、引き続き警護よろしくね」
周辺警護を任せ、軽い運動をしようとふと思う。
「じゃあアテナ。少し出かけてくるから、何かあったら
返事などあるわけがないが、それでも話しかけ続ける。いつか、返事をしてくれると信じて。
けどそんな事はないと言うのは、私が一番分かっているのだから、皮肉なものね。
でももしかしたら200年経ったら目覚めるかもしれない。
1000年後かもしれない。
その時にまた笑って過ごせることを夢見て、私はここを守り続ける。
平穏を壊す者は
「念のため、眷属を少し多めに増やしておくべきかしら。情報収集もやりやすいだろうし」
下位精霊と中位精霊をまた少しずつ召喚していくとしますか。
「……ダークエルフに地下墳墓、ねぇ。まさかとは思うけど。……そんなまさかね」
上位精霊からもらった情報を繋ぎ合わせて、一つ、一つだけ心当たりがある。最悪な心当たりが。。もしかしたら偶然かもしれない。でもその二つが繋がっていた場合、心当たりのものしか出てこないのも確か。
その相手だった場合は……逃げるか潔く降参するしかないわね。
逃げる先考えてべきかしらね。
「まさか、ね。そんな都合よく現れるわけ無いわよ。あんな化け物集団が」
「パチュリーじゃん。何してんのさこんな所で」
「はぁ……」
んなこた無かったわよコンチクショウ。
上位精霊から例のダークエルフと接触した連絡を受け、詳しく聞くと戦う意志は無いようで、『主人に会いたい』言われたらしい。それで精霊の元へ赴いたら見知った顔がいた。
金色の髪を肩口で切りそろえていて、瞳は緑と青のオッドアイ。
耳はエルフ特有の、長く尖ってやや上向きで、薄黒い肌
上下に革鎧を装備してて、さらに赤黒い竜王鱗を使ったぴっちりした軽装鎧をまとっている。その上から白地に金糸の入ったベストと長ズボン、その胸の部分にアインズ・ウール・ゴウンのギルドサイン。どんぐりの形の金色のネックレスを首から下げ、魔法金属のプレートが付けられた手袋をしている。腰と右肩に鞭を束ね、異様な装飾がある巨大な弓を背負っている。
うん、アテナとあの人から聞いていた通りのまんまの、アウラ・ベラ・フィオーラ……だったかしら?確か一度だけチラッと見かけたことだけどある様な。記憶が曖昧すぎて断言できないけど、ナザリック地下大墳墓の一員であるのは確か。
アテナの所属していた、DQNギルドの一員。
……正直あまり関わりたく無いのが本音だけど、前回嫌な予感を感じた時から、勘としか言えないが、いずれこうなるのは目に見えていた。
「ひっさしぶりー。相変わらずの仏頂面ね」
「元からよ。ほっといてちょうだい。貴女とは一回会った程度でしょうが。で、何の様よ。まさか自然観光とそんなわけ無いでしょう?大方、至高の御方とやらの差金かしら?」
「うん、正解!モモンガ様に上位精霊とコンタクトを取って使役者がいるなら対話を試みよ、って命令されてね。あの
「そうよ。まさかとは思うけどそんな事のためにわざわざ来たの?」
「まっさかー。モモンガ様には可能なら出来る限り情報を引き出せ、って言われたけどパチュリーなら大丈夫だね。ほら、パチュリー。モモンガ様のところに行こう!」
「断る」
まるで仲間を呼び戻すかの様に、勢いよく、景気の良い声で言われながら手を出されるが即答する。
途端に不貞腐れた様な顔になるが、それは予想済み。
あの連中は、良くも悪くも至高の御方を崇拝しすぎなのよ。
「なんでさ」
「私にとってナザリック地下大墳墓は帰るべき場所じゃないからよ。それに、アインズ・ウール・ゴウンの至高の御方とやらは、私の仕えるべき存在じゃ無い」
思った通りのことを告げると、怒りが徐々に表に出てきている。
「私が心の底から仕えて良いと思える存在は、後にも先にも私の創造主『アテナ』ただ一人。分かったら早く帰ってちょうだい。貴女のせいで森のみんなが怯えてんのよ」
「そうはいかないのよ。私も、モモンガ様からの命令で来てるんだから。なんの成果もなしに、はいそうですか、って帰るわけにはいかないのよ。何が何でも来てもらうわよパチュリー」
その返しも予想通り。さて、どうやってあしらうべきかしら。
「悪いけど、モモンガ様達のことを侮辱されて私も黙ってられないから。死なない様にはするけど、大怪我くらいは覚悟しといてよ」
「構わないわよ。ほら、さっさと来なさい。悪いけれど、私も貴女に手加減できるほどお人好しじゃ無いからね」
数十分耐えれば、上位精霊たちがアテナを安全な場所へ連れて行ってくれる手筈になっている。
だけれど、アウラは未だに私を攻撃するのを、何故か躊躇っている。
そんなアウラに右腕を向ける。
……何を躊躇うことがあるのよ。私は今、貴女の敵なのよ。
「何躊躇ってるのよ。来ないならこっちから行くわよ。
「ハウンド・オブ・ワイルドハント!ハウンド・オブ・エレメント!」
「待て!」
私でもアウラでもない、別の誰かの低い声がした。援軍?チッ、面倒ね。私だけでどうにかできる可能性が低くなった。
「誰」
「モモンガ様!」
空いている左手を声の聞こえた方へ向ける。
モモンガ……モモンガって、確かギルドマスターだったかしら?
横目でチラッと声の主を確認し、それが間違いではなかったことを確認して内心ゲソっとなる。
いくらなんでも、展開が早すぎんのよ。アンタに対する策なんて何も用意してないわよ。
「……アテナ、貴女の選択を責めるつもりはないわ。でも……今だけは、貴女が此処にいてほしかったわ」
そんなことを思いながら同時に
『みんな、アテナを……お願いね』
ええそうよ。多分私死ぬわよコレ。あーもう。
「で?部下を助けに来たの?」
モモンガにそう問うも、何か困った様な仕草をして頭をかいていた。
「まあ、そうとも言えるな。だが、私の部下の暴走で流れてしまっていたが、私の本来の目的は君と話し合い、もとい情報交換をしないか、ということだった」
「情報交換?」
「ああ。……ところで、アテナさんはいないのか?君がいるということは彼女もいると踏んでいたのだが」
「その質問に答える前に、一つ、約束をしなさい」
上からの物言いにまたアウラが怒っていたが構わず進める。
モモンガも止めていたから言っていいと言うことでしょう。
「アテナに会いたいのならば、望み通り会わせてあげる。けれど、アナタ達は、今後2度と、私たちへ手を出さないと誓いなさい。具体的な内容は後から使い魔の精霊に送らせるわ」
「ふむ。承知した。では、アテナさんの元へ案内してくれ」
「ええ」
【日記 2日目】
結論から言おう。
ユウという少年は、あの人の末裔だった。
信じられるだろうか。
あの人は、私よりも200年ほど前に来ていたのだ。
人間達の英雄となった『十三英雄』と共に。
だけれど、彼は力で以って英雄になるのでは無く、知識を生かして民の役に立つことを選んでいた。
彼らしい選択だ。
そして断腸の思いで、結婚し、子を成したという。
その事実に最初こそ驚いたが、それでも彼がこの世界で家庭を築き、幸せに暮らせていたと知り、心の底から嬉しくなった。
それでもあの人が残した手記には、今でもアテナのことが忘れられないと記されていたらしい。
……本当に腹立たしいことこの上ないけれど、彼とアテナの想いには、嫉妬で身を焦がしそうになる。
それほど、アテナが羨ましい。
でもこの世界はボクが生きる。だから……
ボクは、ボク自身のエゴで、ユウを守る。
そう、決めた。