「どうも……」
名前だけ入っていたアインズ・ウール・ゴウン(以下AOG)。その本拠地に今日初めて足を踏み入れた。
その理由は、AOG vs 1500人の人間プレイヤーが勃発するので、そのために出陣してほしいとのこと。
……めんどくさ。なんで私がそんなものに。
でもアイツにお願いされたからなぁ。それに「今日は空いてる」って言っちゃった手前止めるわけにもいかないし。
「それで、私は何をすればいいの?」
「特別なことは何も無いですよ。俺たちの予定としては、初手で例の戦術を披露してくれればそれで終わりです」
「……例の?」
「ほら、あの武器を大量に」
「ああ。ロマンだ!の一言で作る事になった……ゲートバビロン?だっけ。そんだけでいいの?」
「ええ。元々アテナさんはこのいざこざには巻き込まないようにすると考えていたので」
「……ならなんで私呼んだの」
「元々この戦争は口実です。俺は立場上アテナさんと会ったことありますが、他の皆さんは誰も会ったことないので。特に女性の方々が会いたいってごねちゃって。それで無理を承知で頼んだわけです」
「……」
「ちなみに、戦争なので勝ったら相手から戦利品を根こそぎ奪うので、その中から好きなものを持っていってもらって結構です。勿論みんなと話し合いして決めますが」
「とは言っても、私別にこのゲームに思い入れがあるわけじゃ無いからね。ただ一つ続けるとずっと続けてしまう
「はい。いますよ」
「なら私の報酬は無くていい。代わりに、そのメンバーに一つAIプログラムを組んでほしい。今アイツとNPCを作ってるんだけど、ガワと中身、装備は作れても私もアイツもプログラムは流石にできなくてね」
「わかりました。伝えておきます。皆さん優しいのできっと大丈夫ですよ」
この時のモモンガの印象は『お人好し』だった。というか、仲間に対しては異常に想い入れをしている。仲間にはとことん甘いけど敵となると話は別。
あと黒歴史の量がそこそこヤバい。
NPCお披露目会なるものでモモンガがトップクラスにやばかった。勿論設定が。中身はガチビルドだったけど。
よくあんなもの作ったな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
モモンガ達と出会ってから1週間ほど経った頃。
やけに森が騒がしい。低位のモンスターや精霊達の動きが忙しない。
「……森が騒がしいわね。どうしたの?」
「わからないでござる。森の中というより、森の外が騒がしいと思うでござる」
「どうやら人間の村が襲われてるらしいでござるよ」
「どこの村?」
森の賢王夫婦と精霊たちの情報を繋ぎ合わせ、森の周辺にある村が悉く襲われているらしい。今現在は、私が唯一気にかけている村。はっきりいって、気分は良くない。助ける為に動きましょう。
ちなみに、流石に100年もいると瓜二つな森の賢王夫婦の見分けもできるようになった。
「一番近いのは……あの村ね。みんなはアテナのそばにいてあげて」
「承知したでござる!」
「姫は我が命に変えても!でござる!」
エモットのいる村だと分かり、
「もしもの時はお願いね」
「「……」」
もしもの時は盾にする。犠牲にする。という事を告げたのに嫌がる素振りなく間髪入れずに頷いてくれる。
無論そのような状況にするつもりはない。けれど万が一がある。
それに私さえ生きていれば復活させてあげられる。
だからこその盾のお願い。
「見えてきたわね。無事だといいけれ……どっ⁉︎」
そこで見えたものは信じられないものだった。
「なんで
この世界では神話に語り継がれるほどのアンデットモンスターのデス・ナイトが暴れまわっていた。この世界では戦争の跡地が発生の条件だというのに。まさかここの村人が殺されたことで……?いやまさか。
自然発生するほど殺されてるっていうの?何が何だか分からないけど、とにかく止めないと。
急降下し魔法を撃つ準備をしたら中位精霊に肩を掴まれる。
疑問に思いながら精霊を見ると、デス・ナイトを指さされる。
「何?ちゃんと見ろって事?」
「……」
頷いたので、とりあえずは信じてもう一度デス・ナイト及びその周りを注意深く見る。
「……村人が襲われるわけじゃ無い?死んでるのは……全部兵士?まさか、自然発生したデス・ナイトがそんなピンポイントで殺す相手を選ぶわけが……」
そこまで考えようやく一つの答えに辿り着いた。
自然発生した単なるモンスターのデス・ナイトが起こす挙動じゃ無い。
ならば考えられることは一つ。
「誰かが召喚したってことかしら。……兵士を殺してるところを見ると、兵士が邪魔だと思って兵士を殺しているか、ここの村を助けようとして召喚して、殺してた兵士を殺させてる、の2択。……兵士が邪魔だというなら、村人を殺さない理由がない。目撃者を消すなら村人も殺すほうが都合がいいものね。つまり後者のほう。ここの村人を襲っていたのは兵士の方、それをみた誰かが助ける為に生み出した……ってあたりかしら」
「御名答。アレは私の生み出したものだ。パチュリー・ノーレッジ」
想像していない事というのは立て続けに起こるものらしい。
考え事をしていて後ろから近づいてくる気配に全く気づけなかった。
声からして、モモンガだということは分かった。
みんなが気づかなかったのも無理はない。私の探知に引っかかってないんだから。
2、3度深呼吸し、振り向かずに口を開く。
「そう。なら聞かせてくれない?何が目的よ」
「アインズ様。この無礼で愚かな下等生物は?精霊を従わせてるようですが。御許可さえ頂ければ私が処分致しますが」
「「……!」」
「やめろ。この人はパチュリー・ノーレッジ。人間ではなく精霊だ。アテナさんの作られた、な」
「やめなさいな。貴女達じゃとてもじゃないけど荷が重いわ。でもありがとう。私のために怒ってくれて」
「はっ。失礼しました」
「……」
「それで、そろそろ下の惨劇を終わらせてくれないかしら?私は村人を助けにきたのよ」
「ああ、そうするとしよう。君達はそこで待っていてくれ。アルベドは私と共にこい」
「はっ」
……いま、モモンガが降りる瞬間にチラッと顔見えたけど、なんか変な仮面つけてたわね。
何だったかしらアレ。
赤いお面…特に効果は感じない……。というか効果なんてものはない?そんなアイテム……
ああ。アレかしら。アテナが「人生の負け組の象徴。言い換えればクリボッチでユグドラシルで過ごした者の証。ユグドラシルの勝ち組と負け組はアレを持ってるかどうかで決まるのさ」って言ってたやつ。アレにそっくりね。
……つまりは、そういうことよね。
間違っても口走らないようにしないと。
「終わったようね。じゃあ行きましょう。貴女は念のため不可視化してここで待機しておいてね」
「……」
モモンガがデス・ナイトを止め、兵士達を脅し、あえて逃がしていた。
一人の精霊を上に残し、下に降りる途中でもう一人の精霊にお願いをする。
「ねえ、私の護衛はいいから、あの兵士を一人……いや、三人ほど捕らえておいて。バハルス帝国の兵士だとは思うけれど、一応、ね。こっちは任せて」
「……」
さて、と。村人達の元へいかないと。
「終わった?」
「ああ。この村の脅威はひとまずは去ったと言えるだろう」
「パチュリー……様」
村長は無事みたいね。
他は……無事とは言い難いわね。
前見た時は60人くらいだったけど今は……20人前後か。
「遅くなってしまってごめんなさい」
「いえ。アインズ様に助けていただいたので……」
「……アインズ?」
「それに関しては後ほど説明する。それで、この村が襲われることに心当たりは?」
「い、いえ。見ての通り辺境の村ですので、お金もありません。何故襲われたのか検討も……」
「少なくとも街に住んでいる人間達が襲う理由はないわ。襲うくらいなら働いた方がマシだもの。得られるものなんて、奴隷と土地くらいよ」
「ふむ……」
「それよりも、先に村人達の埋葬をさせて頂戴な。村長、手伝っても?」
「は、はい!もちろんでございます!森の守護神様に看取られるなんて、皆も喜びましょう…」
気丈に振る舞っているけど、無理をしているのは明らか。
……こう言う時、素直に責められた方が楽なのよね。本当に。
「無理しなくていいわよ。助けると言う約束を私は守れなかった。罵っていいのよ。これはせめてもの罪滅ぼしなんだから」
「い、いえ!そんな無礼なこと……」
「じゃあこれから私はもう少しこの周辺の守りを強化するわ。あなた達はこれから何かあったらすぐに森の誰かへ伝えること。いい?」
「……はい」
下位の精霊を3体ほど召喚し、死んだ村人達の埋葬を手伝わせる。その間にモモンガ……アインズ?どっちで呼べばいいのかわからないけど、ソイツは村長から情報をもらっていた
私は怪我人の治療。死んだ者に関しては蘇生はできるけれど、そこまで面倒を見るつもりはないし、かなりの面倒ごとになるのは分かりきっているからやらないと決めている。
そもそもこの世界自体、蘇生魔法が使える者自体殆どいないみたいで、そんな世の中で蘇生魔法が使えると言うのが広がるとかなーーり面倒なことになるのはバカでもわかる。
村人達の埋葬も終わり、時間が夕方の5時ごろになろうかというときに、村長達は家から出てきた。
「あら、もう終わり?」
「半分ほどは既に君から聞いていたことだからな。それで、パチュリー殿はこれからどうする?」
「森に帰るわ。目的は達成したもの。元凶は潰してくれたし。他の襲われた村は生き残りは居ないらしいから。ここの村のケアを今後続けるくらいね」
「そうか。なら提案があるのだが……」
「村長!」
どうやら休息はないらしい。
生き残った村人の一人が慌てた様子で駆け込んできた。それと同時期に、あたりを警戒してもらっていた精霊から、武装した集団が迫ってきていると情報をもらった。
今度は私の番ね。
「わかったわ。あなた達は隠れてて。私がどうにかするわ」
「パチュリー殿だけでは危険かもしれない。私たちも同行しよう。村長もお願いしたい。よろしいかな?」
「……」
「なにかね?」
「いえ、貴方って面倒事が好きなわけ?」
「まさか。貴女と同じだよ。乗りかかった船だから最後まで乗ってやる。それだけだ」
「……そう。今はそれを信用するわ。けれど、お願いだから面倒事を起こさないで頂戴。今からの対話は私がするわ」
「勿論だ」
この場に残ったのは私、モモンガ(アインズ?)、アルベド、デス・ナイト、村長。
……モモンガかアルベドだけならまだしも、二人同時は、無理ね。
そんな馬鹿げたことするやつじゃないとは分かっているけれど、それでも最悪の事態を考えずにはいられない。
「考えても無駄ね。今は目の前のことに集中しないと」
先に対監視系魔法を使い、その上で下位精霊を10体ほど纏めて召喚する。それらに指示を出して上空にいる中位精霊を軸に円形に展開してもらう。
「来たわね」
現れたのは20人ほどの武装した集団。けれど装備は統一されていない。各自でアレンジをしている。どう見ても正規の部隊には見えないけれど先頭を走っていた人間には見覚えがあった。
全員の中で最も屈強な男は、デス・ナイトを見て、アルベドを見て、私を見て、最後にアインズを見た。ちなみにだけれど、モモンガはギルドの名『アインズ・ウール・ゴウン』を名乗るとのこと。それでアインズと呼んでくれと言われたのでそうする事にした。
「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐する為に王の御命令を受け、村々をまわっているものである」
やっぱり。アインズは知らないようで村長にどんな人間かを尋ねていた。
「この村の村長だな。横にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」
「それには及びません。はじめまして王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来た
それに対してガゼフは馬から飛び降り、礼儀正しく直角な礼をしていた。
しばらく放っておいた方が良さそう。
「アインズ殿のことはわかった。それで、そちらの女性についても伺っても?」
十分くらいのアインズの説明を聞き終わると次は私の方へ聞いてきた。
「私は……そうね。トブの大森林の守り神、と言えばわかるかしら?」
「……!貴女が⁉︎」
「ええ。意外かしら?」
「大変失礼……なのですが、それを証明することは?」
「そうねぇ。そもそもが人間たちが勝手にそう呼んでいるだけだもの。自分で何かしらの証明となると無いわね。……これならいいかしら?
レベル45の炎の中位精霊を召喚する。二メートル弱の炎を纏ったトカゲのような精霊。危ないので炎纏だけは消してもらい、私の横に居てもらう。
この場のどの人間よりも強い精霊を呼び出したことで兵士たちは一気に緊張していた。
あ、こら。ほっぺた舐めないのくすぐったいでしょ。
今回の子甘えん坊らしい。もうわかったってばあとで遊んであげるから。
「どう?信用してくれた?」
「……はい。王に伺っていた通りの規格外のお方だ。無礼を詫びさせて欲しい」
「別に気にして無いからいいわよ。誰でも私が強いなんて思わないからね。それにしても、時が経つのも早いものね。もう……何歳かしら?」
「私のことを知っているので?」
「ええ。貴方が子供の頃からね。御前試合とやらも見てたわよ。これでもたまに息抜きで王国には行くもの」
「これはこれは。かの森の守り神様に知って頂けているとは光栄だ」
「オホン」
話が少し弾んでいるとわざとらしい咳払いが聞こえて中断する。
「楽しく話しているところ申し訳ないが、これからのことを話さないかね?」
「そうだな。申し訳ない」
「別にもう終わってるでしょう。この人間たちは帝国の騎士を討伐にきた。けれどアインズが全て倒した。それで終わりじゃない」
「私としては、助けた報酬とやらをまだ受け取っていないんだがね」
「望む額全てとは言わないが、できる限りの誠意を示すつもりだ。それと、できるだけ詳しく説明してもらいたい」
「承知しました。では村長の家で話させてもらいたいが、よろしいかな?」
「私は構いません」
「隊長!周囲に複数の人影!村を囲うように接近しつつあります!」
悪いことは立て続けに起こるものらしく、その叫び声を聞いて内心げっそりしてしまう。
外を見張っていた兵士の一人が慌てて来た。
……やっと帰れると思ったのに。
「獲物は檻に入った。皆の者、信仰を神に捧げよ」
装備の統一された数十人の集団と数十体の天使を従えていた一個小隊がいた。
その隊長らしき男は、懐にある二つの水晶の存在を感じ、目標を達成する為、前進をしていた。
「確かにいますね」
「あらまぁ。何をもってあんなにマジック・キャスターを。帝国だか王国だか知らないけど、貴重な戦力をこんなところに大量に配置なんて何を考えているのかしら。戦士長、何か心当たりはあるかしら?森にしかいなかったから近隣の武力はあまり知らないのよ」
「あれだけのマジック・キャスターを集められるとなると『スレイン法国』で間違い無いでしょう。その中でも特殊部隊の六色聖典のどれかだろう」
「……スレイン法国?」
「ええ」
「……」
「どうかされたので?」
「いえ。なんでも、無いわ」
「ガゼフ殿。彼奴らの目的は予想できますか?」
「おそらく、俺だろうな」
「恨まれているのですね」
「全く困ったものだ」
アインズと戦士長の言葉はほとんど耳に入ってこなかった。
スレイン法国。
アテナの想い人を殺した、あの憎き国。
でも、互いに不可侵を結んだから、今私が手を出したら、アテナの苦悩を全て無に帰してしまうかもしれない。
……それでも。
「アインズ。戦士長」
「「?」」
「今回は、アイツらは私に譲りなさい」
「ほう?」
「いえ。そういうわけにはいきません。彼奴らの目的は私。貴女たちの手を煩わせるわけにはいきません。私が一点突破をし、奴らを一箇所へ集め、私たちが殲滅します。御二方は、もしもの時があったらこの村を守っていただきたいのです」
「……」
「よろしいですか?」
「私は構わないが、パチュリー殿。どうしたのだ?」
「……わかったわ。この村は必ず守るわ」
「感謝する」
「戦士長殿。これをお持ちください」
アインズは、木の彫り物らしきものを戦士長に渡していた。
「……アテナ。私、どうすればいいと思う?憎たらしいあの国を叩き潰してやりたい。けれど貴女の想いを無駄にしたく無い。……どうしたらいいのかしらね。何もわからないわ」
【日記 8日目】
どうやら、この精神は『人間○○』と始原の精霊が混じって来ているらしい。元々感じていたはずの嫌悪感、もとい他人を傷つけるという行為に何も思わなくなっていた。
人間○○というのは、私自身には名前がないから書けないだけだ。
それでも彼への想いは未来永劫変わらない。そう断言できる。
ああ。また逢いたい。
彼に会い、食事をし、他愛のない話をしたい。
私の願いは、それだけだ。