雷日・霹靂円舞
「おっと、危ないなぁ」
最も弱いだろう上弦の伍を狙ったが、地面から生えてきた氷に防がれて首を斬ることはできなかった。結構な速度で壺の中に潜り込んでいったが、その姿が壺に消えた途端に気配が全く別の場所に現れた。
こんな状況でも能天気な声がした方に視線を向けると、上弦の弐がへらへらと笑いながら扇を揺らしているのが目に入る。
「君、人間にしては速いね。それに見たことのない呼吸の技だ」
妙にイラつかせる相手だ。呼吸を落ち着かせ―――吸い込んだ空気が異様に冷たいことに気付き、呼吸を止める。そのまま距離を取れば、驚いたような顔をした。
「あれれ? もしかしてもう気付いたの? 俺の粉凍りに」
「一気にこれだけ冷えりゃあな」
破壊殺・空式!
月の呼吸・漆ノ型 厄鏡・月映え
霞日・幻日霞消
残像を残して回避し、粉凍りと呼ばれていた血鬼術らしきものを消し飛ばす。背後から奇妙な魚が飛んでくるのを感じるが、それは壱が飛ばしてきた斬撃が勝手に撃ち落としてくれた。
雑魚相手なら四対一どころか十対一もやったし普通に勝てたんだが、流石に上弦四体を一度に相手するのはあまりに面倒だ。それに鬼はどんな手を使ってくるかわかったものじゃないから攻撃もできる限り受けたくない。可能なら掠りたくもない。
敵と自分の位置関係を確認する。正面に壱と参、左前方やや離れた位置に弐、後方に伍、そして恐らく伍が作ったものだろう多数の雑魚の気配。
……仕方ないか。
日月炎水雷風岩・飛渦雷虎・天岩繊月
周囲に無数の斬撃をばら撒く型を七つ同時に使う。出た幻影はもはや何だかわからない怪物となり、しかしその姿に見合うだけの被害を周囲に振りまく。ちなみに具体的に出てきた幻影について説明すると、雷と炎でできた虎が岩石の鎧と風を纏ったものが何十も渦を描くような軌跡で周囲に飛び出し、爪を振るう度に触れてないのに斬れる月が飛んでいく、みたいな感じだ。初めて使った呼吸の技もあるから知らなくて当然なんだが、なんか凄いことになった。
この一撃で伍が出していた大量の雑魚は殲滅したし、ついでに日輪刀本体は使ってないとはいえ幻影で弐と伍の全身をバラバラにした。参と壱は流石と言うかなんと言うか一瞬で距離を取りながら迎撃したのでまだ立って動いているが、鬼の身でありながら冷や汗をかいている。
その間に弐は自身を再生させようと蠢いているが、どうやらこの幻影による攻撃にも赫い刀の効果は乗るようで上手く再生できていない。それでもじわじわと修復されているのは流石は上弦の弐ということだろうか。
だが、伍は殆ど再生できていない。このまま放置しておけば日光に当たって死ぬだろうが、それまでに血鬼術か何かでこっちの妨害をされちゃたまらないので何とか守っていた首を斬り落としておく。流石にこの状況で首を守れる余裕は無かったようで、結構簡単に殺すことができた。
既に会話は無くなっている。あちらとしてもこちらに対して話しかける余裕はあまり無いようで、俺を警戒している。
次は、弐だな。あれは呼吸の剣士には非常に厄介だ。
雷雷雷・雷霆
霹靂一閃の倍掛けに聚蚊成雷を組み合わせる。やってることは霹靂一閃のように最速で近付いて斬ることだが、直前に周囲に残像を残してどの方向からでも斬れるようにする。ここに月の呼吸の振らずに斬撃を出す技を混ぜれば実際に全部の残像あるいは幻影から斬撃を出すこともできそうだ。
あと、参について少しわかった。あれは自分に向けられた攻撃については凄まじい性能を発揮して感知してくるが、自分以外に向けた攻撃はそこまで感知できないらしい。壱は視界に入ってさえいれば察知できるようだから、あの察知能力については視覚に関わるものなのだろう。
しかし流石は上弦の弐、自分を映したような小さな氷の人形に自身の胴を運ばせて回避する。同時に粉凍りとやらも撒いていったようで、追撃できない。正確にはできないこともなさそうだが多分肺が痛くなる。
まあ関係無いわな。
月・月魄災禍
俺からでなく相手の背後から放ってみれば、簡単に首を落とすことができた。これで一番面倒な粉凍りとかいう妨害技と数を増やし続ける上弦の弐は落とした。前に肆は殺したし、陸も二体まとめて落とした。ここで弐と伍を落としたから残っているのは壱と参のみ。
可能なら壱を殺す前に月の呼吸の型を全部見せてもらいたいところだが、無理なら仕方ない、諦めるとしよう。
それに月の呼吸の型は恐らく自分より弱いか同格程度の相手が複数いる時により効果を発揮するものと見た。雑魚散らしには非常に便利だろうが、同時に俺一人を相手にそういった雑魚散らしの技は使わないことが予想できるので全てを見ることはどうにもできなさそうだ。残念ながら。
と言うか、なんで呼吸の剣士が型を使うと名前がなんとなくわかるんだろうな? あれか? 刀の幻影みたいな感じで技名も見えたり聞こえたりする感じなのか? よっしゃ俺の呼吸にはそういうの出ないように改造しよ。
月月月月月月月月・月魄災禍・八重
さっきから使ってるこの型、本当に便利だ。振らずに出せるから普通なら刀じゃ届かないような角度や場所でも問題なく出せる。更には出し続けることも不可能じゃない。問題があるとするなら、あまり一度に出しすぎると月の幻影で一部見えない場所ができるくらいか。
月の呼吸・捌ノ型 月龍輪尾
破壊殺・鬼芯八重芯!
日月・烈日厄鏡
月魄災禍の連撃を上弦の壱が巨大な刀の一振りで掻き消し、そこに上弦の参が特攻する。それを渦巻く五つの斬撃で対応し、腕を斬り落とそうとして刀の横腹を打たれて防がれる。
月の呼吸・拾肆ノ型 天満繊月
そこに無数の斬撃が襲い掛かる。鬼であるがゆえに鬼の攻撃では死なないのをいいことに、巻き込む形で技を放ってきたのはある意味英断と言える。
だがそれでも。そう、だがそれでも、俺には届かない。
水花・渦花衣
俺の身体を覆うように斬撃を繰り出すことで上弦の壱の斬撃を弾き落とす。しかしここに止まって上弦の参の打撃を受けるのは願い下げなので後ろ向きに跳ね飛ぶ。まったく、ある程度以上の実力のある奴を複数相手取るのは本当に面倒臭い。一対一ならいくらか楽だろうに、二対一になるだけでここまで面倒になるのか。これで本格的に協力されたら厄介極まりない。
ちなみに一番協力されたら面倒臭そうなのは弐と参だ。呼吸を使わない武術家の参と、こちらの呼吸を妨害する弐。上弦の壱は呼吸を使うから弐の妨害にかかってしまう。だからこそ厄介なのは参だと思われる。
しかし弐はどうやら他人と協力して戦うということは不得手のようだし、あまり気にしなくても大丈夫そうな気もする。もう殺したから意味はないが。
細切れになった参の再生が終わる前に霹靂歩法で上弦の壱の背後に回る。上弦の壱の感知は視界に頼るもののようだし、視界から外れればそこまで恐ろしくはない。
だが、自身の弱点は理解していたらしい。上弦の壱の背中から生えた刃から斬撃が放たれ、視界の外側と思われる範囲を斬撃が埋め尽くす。刀を振らずに技を出せるのだから、背中から生えた刀から型を放ってもおかしなことはないか。そもそも身体から刀を生やしている時点で間違いなく異形で異様で異常だが。
それを躱している間に上弦の参が再生を終わらせた。鬼は本当に面倒な生態をしているよな。
次回作
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魔王城でおやすみ
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鋼の錬金術師
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なんか適当に止まってるの
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なんか適当にハマってるの