……仕方ない。少々喰らうが必ず殺そう。痛いのは好きじゃないんだが、早めに終わらせておかないと更に面倒なことになりそうだ。
上弦の壱の放つ斬撃を撃ち落としながら、上弦の参の拳を斬り落とさずに片手で受け止める。次の瞬間、上弦の参の拳が太陽の光を浴びたように灰となり、一切再生しなくなる。
「!?」
それどころか、腕が侵食されるようにじりじりと灰になっていく。波紋が流れ続けている肉体に直接触れば、まあこんな風になるわな。
上弦の参は即座に飛び退こうとするが、波紋は全身に既に流れている。がくりと力を失い地に伏せる上弦の参の首を波紋を纏った刀で斬り落とす。
月の呼吸・拾ノ型 穿面斬・籮月
その場に居た俺に平面の斬撃が襲い掛かるが、それを飛び越えながら上弦の参の身体と頭が崩れ落ちていくのを確認する。
月の呼吸・弐ノ型 珠華ノ弄月
風水・韋駄天滝壺
上弦の弐、参、伍をこの場で殺し、肆と陸も既に無く、上弦の月は既に最上の一角を残すのみ。しかしここでほぼ時間切れだ。
朝日が昇る前兆、東の空が薄ら明るい群青に染まる。周囲は今回の戦闘によって切り開かれ、逃げ隠れする森林や物陰も無い。ここからこいつが逃げられるとすれば―――
べべんっ!
「それしかないよな」
ここに現れる時の、恐らく血鬼術。上弦の壱は背後に開かれた襖に背中から飛び込みながら撤退の邪魔をされないように全身からせり出した刃で面制圧を仕掛けてきているが、俺はそもそもここから動く気はない。
それに……ちょうど、必要な物が全部そろったところなんだ。
星の呼吸 一の太刀
型じゃない。身体の動かし方ではなく、単純な技術によって空間そのものに刃を入れ、割る。
結果として、俺の振るった刃から対象までの間に存在するものは全て、強度も硬度も状態も無視して両断される。
上弦の壱が放った斬撃の全てが両断され、ずれる。上弦の壱の首と同じようにずれて、砕けて消える。
上弦の壱の身体は襖の奥に消えていったが、首から上だけがここに残された。
ちょうどよかった。水・風・雷・炎・岩の五つに加えてもう一つ、日の呼吸から直接分かれた呼吸の型を見ておきたかったんだ。
お陰で俺の呼吸は完成された。今まで作ってきた型は全部廃棄だ。と言うか、刀で斬るからには全て必殺であるべきなんだよ本来は。それを態々型に嵌める必要とは? あったとしてもそれは精々後世に伝えていくために要訣を纏めるくらいだろう?
何となく転げた上弦の壱の頭を踏み砕き、零れた血を集める。前々からあった何となくこうした方が良いと言う直感に従っていた結果、偶然にも懐には日の光を通さない入れ物があった。
血を集め終わったら次は戦いを見守らせていた烏を呼び、御館に報告するよう頼む。自分は暫くこのあたりから動かないし、起きたら適当に近場の街にでも移動しているからと伝え、烏を放す。
……ああ、流石に夜通し動くのは疲れた。本当は新しい任務をこなしている予定だったんだが、今日はもう嫌だ。もうこのあたりでいいから寝ようか。
刀を鞘ごと抱え、少し歩いた先にあった樹に寄り掛かる。目が覚めたら、そうだな……ゆっくり風呂にでも浸かれる宿を探して、丸一日はだらけよう。
産屋敷晃羅哉の元にその報が飛び込んできたのは、太陽が中天に鎮座したころだった。
星柱による上弦の討滅。それも壱、弐、参、伍、残りの全ての上弦を一夜にして壊滅させたとの報告に、晃羅哉の背筋にぞわぞわとした異様な、喜びでもあり驚愕でもあり、そして直感からくる確信でもあるその感覚。
晃羅哉は確信していた。全ての上弦を狩り終えた。しかし、自分の代ではここまでだと。
鬼舞辻無惨は狡猾だ。自分を殺しうる存在がいると分かれば決して表舞台に立とうとはしないだろう。それどころか今以上に身を隠し、捕捉は困難を極めるようになるだろう。
しかし同時にこれは兆しであるという確信もあった。自分の代でこれ以上に状況が進むことは無いだろう。だがそれでも鬼舞辻討伐に一気に近付いたことは間違いない。
残された自分の仕事は、後継を育てることと、思いを繋げること。それだけだと告げられている。
―――否。それだけでは決してない。できることなど無数にある。
晃羅哉は前を向く。自身の子に、自身の知るあらゆることを教えようと。そして特に、星柱については決して廃れさせぬように。
直感が働く。星柱は、恐らく一旦鬼殺隊を離れるだろう。しかし完全にいなくなるわけではなく、距離を取る程度。そして鬼舞辻無惨が出てくるのを待つのだろう。
鬼舞辻無惨が再び動き出した時、彼の動きを邪魔してしまうことのないようにするのも、私の仕事かな。
晃羅哉はくすりと笑いを浮かべ、呪いのせいか少しずつ霞んできた視界で太陽を眺めた。
次回作
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魔王城でおやすみ
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鋼の錬金術師
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なんか適当に止まってるの
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なんか適当にハマってるの