小手先の事なら教えてやれると言った以上は小手先の事を教えてやるつもりでいたんだが、その小手先の事がどれだけ役に立つのかを連絡役としてつけられた隠の一人を使って実験してみることにした。
教える物は呼吸法、それも全集中の呼吸ではなく波紋の呼吸法だ。こいつにできるかどうかはわからないが、やる気はあるようだから教えられるだけ教えてみることにする。呼吸の才能は無かったそうだがこれは全集中の呼吸とは全くの別物だから多分全集中が覚えられなくとも何とかなることもあるだろう。多分。
とりあえず鳩尾に小指で抜き手を叩き込む。肺の空気を強制的に全部出して、それから自力で呼吸を戻させることできっかけは掴めるそうだ。俺はそんな事をした覚えはない……いや、あったか? いややっぱない気がする。多分無いが、それでできると何となく知っている。
できなかった時のために一応仕込みはしてあったが、できたようで何よりだ。
きっかけを掴めたらその呼吸に慣れることに集中させる。ここで気付いたのは俺はなんか初めからできていたが通常の全集中の呼吸とはそれなり以上に相性が悪いということと、全集中ができない奴でもこれはできることがあること。そして全集中と違って単体では常中ができないことだ。
……常中って基本慣れるだけだから全集中でできて波紋でできないってあり得るか? とも思ったが、試行回数が少なすぎてよくわからん。とりあえず弟子一号はできなかったが、もしかしたら単純に全集中の呼吸に適性が無いからできなかっただけかもしれないな。
波紋を覚えさせたら後はそれを鍛え上げていくだけなので基本は自習。ある程度使えるようになったらもう一度何らかの関門か試験でも用意してやろうか。使う機会があるか知らんけど。
それから俺個人でも技を鍛えていく。星の呼吸の技は基本的に型じゃなくしたから考えるのも一苦労。刀の届かない範囲を斬る技、刀の届く範囲の全てを斬る技、斬れないものを斬る技、斬りたいものを斬って斬りたくないものは斬らない技……後は他の物と組み合わせれば空間を斬って別の場所に移動したりもできそうな気がする。呪術との組み合わせだから誰かに見られたら血鬼術と間違えられて面倒なことになりそうだが。
それから波紋そのものを練り上げることも始めることにした。今までは全集中ばかり練り上げてきたからそろそろやってみてもいい頃合いだろう。
波紋は伝道しやすい物としにくい物がある。気体は密度が低すぎて連続性が足りないから伝えようとしても伝わらないことが多い。固体は伝わることは伝わるが材質と体積によって効率が大きく変わる。大きすぎる物だと必要な波紋が多くなるし、強度の高いものを波紋で振動させるにもまた大きな力が必要になる。
その点液体は非常に伝わりやすい。問題があるとするなら伝わりやすすぎて指向性を与えられないことくらいだ。個体の場合は刀くらいなら問題なく波紋を流せるし刀から刀より波紋の流れやすい人体や鬼の身体に流れていくので指向性や使い勝手については問題ないし、空気の場合はそもそもほぼ流れないから言及しないが、まあ普段使いするならあれだ、水かなにかで濡らした帯を使うのが一番だろうな。鞭のように使えれば波紋で遠隔攻撃ができなくもない。所詮は布だから自然物を使った斬撃や岩などによる攻撃は防げないが、鬼の身体から作られた武器や血鬼術による直接攻撃であればほぼ防げるだろう。波紋の強さにもよるだろうが。
だがそれでは鍛える意味があまりないので、目標は空気に波紋を流して呼吸しているだけで近くの鬼を滅殺できるようになることだ。空気に波紋が流れないのは空気を構成する分子の間に空間があり、それが固体や液体に比べて大きいからだ。個体の場合は狭すぎて振動させる際には全体を振動させる必要があるから疲れるが、本来は水くらいがちょうどいいんだろうな。個人的には水よりもう少し粘度が高いと理想的だが。
しかし、水と空気の違いは空間の中に存在する分子の距離だ。だったら減衰が激しくとも空気に波紋を流すこと自体は決して不可能ではないはず。理屈だけなら可能……と言うか、不可能ではないだろうが、実際にやるには結構な難問となるだろう。しかしやってみなければできるようにもならん。とりあえずやるだけやってみるとしようか。
次回作
-
魔王城でおやすみ
-
鋼の錬金術師
-
なんか適当に止まってるの
-
なんか適当にハマってるの