結局やることは何も変わらない。今代の御館の所に来た鬼の首魁の背中から抜手を打ち込んで波紋を流して終わり。本当に何の面白みも無い解決だった。
それまで色々と……本当に色々と準備をしてきていたようなのだが、それも殆ど使わないまま終わらせてしまった。
鬼の首魁から逃れた鬼と協力して作り上げた様々な薬。国から買い上げた大量の爆薬。復讐心と義憤からひたすらに鍛え上げてきた隊士の数々。爆破することも考えて別の場所に移った今代の御館の家族の覚悟。そういった物の悉くが俺の抜手一つで不要になった。被害は小さくなったから良しとして貰おう。
「……終わったわけだが、気分はどうだ?」
「……ふふ」
「ははは」
「っははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
「いい気分だ、とてもとてもいい気分だ!」
「目の前で鬼舞辻が死んだ!その瞬間に私の身体が一度に軽くなった!呪いが解けたことを私の勘が教えてくれる!」
「私の身体はここまで動くものだったのだとわかる!」
「いい気分だ!頗るいい気分だ!」
「っははは!ははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
人間が笑っていた。
傍にいる女も、その子供も、心の底から嬉しそうに、喜びと悦楽を隠そうともせずに笑い続けていた。それこそ、今死んだとしても何一つ心残りなど無いかのように。それどころか今この瞬間、幸福の絶頂だからこそ今死にたいとすら思っているのではないかと言うほどに。
「……ああ、うん、ごめんね、ちょっと耐えきれなくてね」
「気にすんな。千年煮詰めた呪詛と憎悪がぶちまけられてんだからそりゃやってる側は止まれねえだろうよ。むしろ止めれてるお前さんが異常だ」
「ふふふ……うん、じゃあ、何か欲しいものはあるかい? 私に用意できるものなら何でも用意してみせるよ?」
「ちなみに上限は?」
「私達一族のうち、輝利哉以外の命までなら差し出せるよ。輝利哉の生活のために多少の金銭くらいは残してあげたいけれど」
「いやあんたらの命とかいらんし……」
「ひなきとにちかもつけられるよ」
「あ、俺恋愛に夢見てる方なんで義務からくる付き合いはちょっと」
「地位ならそこそこの物を用意できるよ」
「俺権力を得て仕事の代わりに自由を得るより一切の権力を持たないでいいからあらゆる義務から解放されたい派なんで」
「それじゃあ君を産屋敷で雇おう。何もしないでもいいし、何かしていてもいい。一切の職務を与えないし何かを押し付けることもしないけれど、ただ私達に敵対しないでくれていることに対して食事と給料を支払う。これでどうかな?」
もちろん欲しいものがあるなら言ってくれれば適宜用意させよう。そんな風に締めくくる御館だったが、普通そこまでするかね? まあそんな風にやってくれるんだったらありがたいことこの上ないが。
……とりあえず、俺からも出すものは出しておこうか。
御館の頭を両手で包み、大きく息を吸う。身体に根を張るように伸ばされていた呪いの跡に波紋を流し込んで治していく。顔の爛れた痕も白く濁った眼も、恐らくそんなことになる前のそれに巻き戻る。ここでは波紋によって下地が多少できていたからこそできることだが、恐らくこれであと二十年くらいは生きれるんじゃないだろうか。確か平均の死亡年齢が五十ちょいだから、そんなもんだろう。
ちなみに今のを下地のない健康な奴にやった場合、多分肉体が溶ける。どろっと。そう考えれば、一応波紋を残しておいたことにも意味はあるのかね。
「それじゃ、契約成立ということで」
「……伝えられてはいたけれど、凄いね、君は」
「そりゃどうも」
さて、それじゃあ今後の憂いも無くなったし……屋敷に戻って寝るか。ようやく鬼がいなくなったわけだし。
「明日にでも柱から鬼殺隊全体に知らせを出すよ。今の私の状態を見れば柱の皆なら鬼舞辻が死んだことも納得してくれると思うからね」
「おう。……そういえば、あの鬼の医者はどうした?」
「……あ」
うん、まあ、あんまり嬉しいことがあると忘れても仕方ないわな。仕方ない仕方ない。
緊急の柱会議として呼び出され、集まった八人の柱達。
炎柱、煉獄杏寿郎。音柱、宇髄天元。水柱、冨岡義勇。風柱、不死川実弥。蛇柱、伊黒小芭内。花柱、胡蝶カナエ。恋柱、甘露寺蜜璃。岩柱、悲鳴嶼行冥。ここに常に欠席である星柱を加えて九人、これが鬼殺隊の柱である。
竈門炭治郎の妹である禰豆子が太陽を克服し、鬼の攻勢が止んでいる今だからこそ行っていた柱稽古を中断してでも集まるようにと御館様からの命があり、ここに八人が集まっていた。
「今回も星柱は欠席かァ? 柱稽古の時と言い結構なご身分だぜェ」
「かつて上弦を全て打倒した際の望みがそれだったそうだ!我々が同じことをできない以上、言っても仕方あるまい!」
「今日の話はその星柱についてでね」
!?
全員が慌てて声の聞こえた方に向き直れば、そこにはにこにこと笑顔を浮かべる産屋敷耀哉が座っていた。しかしその姿を認識してなお、柱たちは跪くことができないでいた。
呪いの痣が無いのだ。白濁していた目も健常なそれと変わらないように見えるし、どこを見るでもなく前だけを見ていた目は柱一人一人の目を見つめていた。
そこまで考えて、風柱は即座に膝をついた。それに続いて次々に跪き、頭を下げる。
「やあ、みんな元気そうで何よりだよ」
「御館様におきましてもご壮健で何よりです。ますますのご多幸を切にお祈り申し上げます」
「ふふ、ありがとう。……ああ、そうだね、多分聞きたいことはこれだろうから先に答えておくと、私の呪いは完治した。それはつまり、鬼舞辻無惨が死んだことを意味している」
「!?」
その場に居た全員が驚愕の表情を浮かべて顔を上げた。しかし耀哉の言葉は続く。
「昨日の夜、無惨がここに来てね。それを星柱が討伐したよ。私の目の前で起きたことだったけれど、その時はまだ見えていなかったからあまねに教えてもらったのだけれどね」
「これでもう、鬼に殺される人も鬼になってしまう人も現れない。波紋を扱える隠達にお願いして藤襲山の鬼も確認してもらった。全ての鬼が消え去っていたそうだ」
「だから、今日が最後の柱合会議で、今日が鬼殺隊の最後の日になる」
落ち着いた声がその場に響く。それは常のように聞くものを安心させるだけではなく、それが覆ることのない事実であると何より雄弁に語るものでもあった。
そしてにこやかな笑顔のまま、後ろに控えた子供たちと共に頭を下げる。
「長きに渡り身命を賭して、世の為人の為に戦い力を尽くして頂いたこと……産屋敷家一族一同、心より感謝申し上げます」
これにて、鬼殺隊の千年にわたる歴史は幕を閉じる。鬼舞辻無惨という怪物を産み出してからの長い長い時が、ようやく報われたのだった。
主人公の性格を考えるとどうしても終わり方がこんな風に……
次回作
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魔王城でおやすみ
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鋼の錬金術師
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なんか適当に止まってるの
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なんか適当にハマってるの